不動産リノベーションの企画術

中谷ノボル・アートアンドクラフト 著

内容紹介

建物の価値を高める企画・設計・販売のツボを開拓者である著者が伝授する。今や都市のアツいスポットはリノベーション物件でできている。時間に培われた土地・建物の魅力は、物件の差別化に欠かせない個性そのものだ。新築では簡単に創り出せない。物件の個性を見極め、勘の良い入居者を惹きつけ、場の価値を高めるノウハウ

体 裁 A5・232頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2688-7
発行日 2018/09/20
装 丁 UMA/design farm


目次著者紹介はじめにおわりに
はじめに
プロローグ

1章 見極め術 ──不動産の魅力・価値を知る

1 古い建物をリノベーションし、収益物件に変える面白さとは
2 テーマを発見し、貫くことで物件の価値は上がる
3 見極め術〈住宅編〉① ──引き継いだ不動産の見極め方
4 見極め術〈住宅編〉② ──”ふつうの戸建”を収益物件に変えるには
5 見極め術〈集合住宅・ビル編〉 ──オーナーの心を動かす建物と街の魅力の見つけ方
オフィスリノベーションのレシピ

2章 商品企画術 ──誰にめがけてつくるかで9割が決まる

1 企画の軸はターゲット設定にある
2 企画術〈住宅編〉 ──オトナのひとり住まい
3 企画術〈オフィス編〉 ──居心地のよいオフィス
4 企画術〈職住一体型〉 ──長屋や町家は職/住の比率に注目しよう
5 企画術〈応用編〉① ──DIY希望者をターゲットにする
6 企画術〈応用編〉② ──テナントのイメージを明確に持つ
オーナーインタビュー:鶴見印刷所/鶴見知子
印刷所の建物を引き継いだ私が、大家族について考えたこと

3章 設計術 ──デザインにもテーマを一貫させる

1 テーマを貫きつつ隅々まで居心地よく設計する
2 設計術〈基本チェック〉 ──インフラや構造・法規は企画前に情報収集
3 設計術〈住宅編〉 ──間取りにこだわらない居心地の設計
4 設計術〈職住一体型〉 ──「暮らし」と「住まい」を両立させる設計術
5 設計術〈オフィス編〉 ──素材とディテールがオフィスの質を向上させる
6 設計術〈応用編〉 ──DIY可能物件の設計術
住宅リノベーションのレシピ ──間取りにとらわれない「居心地」の設計
コラム:「外国人向けのホテル、したいんですけど」という方へ
対談:スピーク・吉里裕也×アートアンドクラフト・土中萌
企画から販売までやるからわかる、不動産リノベーションの最新ニーズ

4章 集客術 ──ネーミングと写真が決定率を左右する

1 リノベ物件の集客戦略とは何か
2 集客術〈集合住宅・ホテル編〉 ──不動産の価値はネーミングとロゴで変わる
3 集客術〈住宅編〉 ──ライフスタイルをイメージさせるモデルルームと写真のつくり方
4 集客術〈ビル・オフィス編〉 ──物件案内では、シーンをイメージさせよう

おわりに

中谷ノボル(なかたに のぼる)

アートアンドクラフト代表。一級建築士。宅地建物取引士。1964 年、大阪市生まれ。国立京都工芸繊維大学建築学科を卒業後、マンションデベロッパーやハウスメーカーで、建築設計・不動産営業・現場監督を務め、1994 年にアートアンドクラフトを設立。本業の他、まちづくりNPO を設立し、街や公共空間のリノベーションにも携わってきた。2012 年に同社沖縄事務所を設立以降は、大阪と沖縄を往き来して各地のプロジェクトに関わっている。著書に『みんなのリノベーション―中古住宅の見方、買い方、暮らし方』(学芸出版社)。

アートアンドクラフト

1994 年設立。大阪を中心に阪神間や沖縄などで活動している、建築の設計施工・不動産の仲介およびコンサルティングを手がける事務所。住まいやオフィス、宿泊施設など、都市に暮らす人々が長時間滞在する空間をリノベーションで魅力的に再生させることを得意とし、あたらしい都市居住スタイルを提案しつづけている。

日本でリノベーションが広がり始め、20年は経ったでしょうか。僕は1998年にリノベーションを事業化しました。当時、国内の建築不動産業界ではリノベーションを専業にする会社を他に見つけられなかったので、かなり早かったんだと思います。当初は流行に敏感な30代の人たちを中心に中古住宅、特にマンションをリノベーションして暮らすライフスタイルが流行り、その後は賃貸マンションのリノベーションや、リノベーション済み住宅の販売など、リノベーションが不動産オーナーやデベロッパーへと伝播、普及していきました。

いまやリノベーションは、廃校が決まった地域の小学校など公共施設や公共空間の再生にまで広がり、リノベーションという言葉が、単体建物の再生手法というよりも、街づくりにまで拡張できる「都市再生の切り札」のようになってきています。以前なら既存の建物をさっさと解体して新たな土地活用を考えれば良かったんでしょうが、安易な新築や再開発では、持続可能な成功はない時代だと人々は気付いています。

だからといって、なんでもかんでもリノベーションすれば成功するわけでもありません。人口減少が続くのに新築住宅が大量に供給されるため、2040年には空き家率が43%にも上ると予測されています(2013年時点では13.5%)。これから先は、その他多くの建物に埋没しない「個性」が問われる時代なのです。特に昨今のリノベーションでは、従前の用途から別の種類の建物に転用(コンバージョン)するプロジェクトなど、今まで以上に知恵と技術が求められるケースが増えてきています。
本書では、小規模な賃貸戸建のリノベーションから、マンション、オフィスビルやホテルの再生まで、実例を元に「不動産リノベーション」における一連の流れを、実際のプロセスに沿って解説していきます。

1章 見極め術 ──不動産の魅力・価値を知る
2章 商品企画術 ──誰にめがけてつくるかで9割が決まる
3章 設計術 ──デザインにもテーマを一貫させる
4章 集客術 ──ネーミングと写真が決定率を左右する

そして、このような方を読者として念頭においています。

  • 先代が建てたビルやアパートを引き継いだ不動産オーナーさん
  • 企業が所有する不動産活用を任された総務部などの担当者さん
  • 新築は分かるが、ストック活用は初めてというデベロッパーの企画マン
  • 設計は分かるが、企画や集客など一連の流れを知りたい建築士

僕たちが知る「不動産リノベーション」の実務を包み隠さず、そして正直に書き進めたいと思います。ご自身のプロジェクトで何か一つでも「参考になった、応用できたよ」、最後にそう言ってもらえたなら光栄です。しばらくの間、お付き合いください。

2018年8月
アートアンドクラフト代表 中谷ノボル

不動産事業や不動産経営における「成功」って何なのでしょうか。ビジネスなのだから「売上・収入」が大切なことに疑いはありません。他に、その不動産の将来性や資産価値が見込めること。空室期間が少ないなど事業に安定性があること。万一のときに売却して現金化できる換金性が高いこと。節税効果が大きいことを重視する人もあるでしょう。いずれにせよ成功とオカネは密接です。

しかし、ビジネスであると同時に「ビジョン」もあっていいはずです。「留学生が集まるアパートホテルをつくり、世界の人々と文化交流したい」「一人親家庭が入居するアパートを経営し、子どもの一時預かりなどもして支援したい」「才能に惚れ込んだ建築家に依頼して後世に残るデザイン物件をつくりたい」などのビジョンがあり、さらにそれがビジネスとしても成功するのが理想。他の業種、例えば飲食業や物販を始める人も、きっとそのようなビジョンから事業を始めていると思うのです。

単にオカネだけ追いかけるよりカッコいいと思うし、「えっ、あの建物のオーナーさんなんですね!」と、人々から尊敬されるかもしれません。もし今はビジョンが曖昧でも、私たちプロが法律面や技術面を固めて、世に通用する「企画」にしていくので、想いがある事業主が増えてほしいなと思います。人と違う個性的な道を進むには勇気が要るかもしれません。しかし本書の冒頭で述べたとおり、この先の不動産事業は個性がなければやっていけない時代です。ビジョンとビジネスを両立する。そして自分の建物に誇りが持てる。それが不動産ビジネスの「成功」だと考えています。

さて、リノベーションに関する書籍を学芸出版社から発行するのは本書が二冊目です。2007年に個人向け住まいづくりの指南書として『みんなのリノベーション』を著しました。おかげで第4刷まで発行するロングセラーとなりましたが、当時の編集者、井口夏実さんに今回も担当いただきました。そして、本書の構成で参加いただいたのが平塚桂さん(ぽむ企画)。お二人のおかげで、僕たちの雑多な知識と経験が秩序立った書籍になりました。そして、事例の不動産オーナーのみなさんに掲載協力いただけたからこそ、具体的で濃密な内容になりました。本当にありがとうございます。

最後に、いま僕たちが携わっているこの不動産リノベーションに関する職業について書きたいと思います。リノベーションという言葉はすっかり普及しましたが、事業用の不動産再生を、コンサルティングから企画・設計・工事、そして販売・賃貸募集・広告デザインまで一社でトータルに請負える会社って、まだまだ少ないと思います。というか、その職種を表す言葉さえないと思うのです。プロとして獲得すべき知識や技術は山ほどありますが、その分やりがいのある仕事です。この不動産リノベーションという分野で夢を追いかける人が、建築・不動産を学んだ人たちの間で増えることを切に願っています。

2018年8月
アートアンドクラフト代表 中谷ノボル