なぜ僕らは今、リノベーションを考えるのか

大島芳彦+ブルースタジオ 著

内容紹介

リノベーション界の開拓者が初めて語る設計手法、待望の単著。資本主義に積み重ねられた物件の山に宝を探し、街とのつながりをとり戻すことで資産の再生・価値の最大化を実現してきた。シェアハウス、SOHO、木賃アパート・団地再生など、数々のプロジェクトから、人と地域と時間を物語としてつなぎ直す手法を解き明かす

体 裁 四六・184頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2680-1
発行日 2019/08/20
装 丁 土屋勇太


目次著者紹介まえがきあとがき

まえがき─その環境に物語を

第1章 僕らとリノベーション

不動産のクリエイティブディレクション
父の貸しビル、社会の貸しビル
リノベーションは問題解決の手段
2000 年とリノベーション
縛られたくない世代の縛られない暮らし
米軍ハウスでの共同生活

第2章 社会とリノベーション

あえての「中古」、あえての「賃貸」
暮らしを「編集」
手段の「リフォーム」と考え方の「リノベーション」
空き家時代の「物語」
共感の輪
あなたでなければ、ここでなければ、いまでなければ
リノベーションで生まれかわる街
リノベーションになにができるのか

第3章 ブルースタジオとリノベーション

ブルースタジオの仕事− 「モノ」「コト」「時間」のデザイン

renovation case 1
その場にあるべき働き方を発明する―「ラティス青山」

renovation case 2
歴史といとなみを場の価値にする―「うめこみち」

renovation case 3
人と人をつなぐハワイアンの調べ―「テラス・コナ・サーフ」

renovation case 4
公園のようにひらかれた団地―「たまむすびテラス」

renovation case 5
プライドを街の価値にする―「田中衡機ビル」

renovation case 6
隠れた資源を見つけて活かす―うおまちのにわ「三木屋」

renovation case 7
モクミツを住みこなす―「nana」「pinos」

mokuchin column
参加する、育てる、続ける―「木賃アパート再生ワークショップ」

renovation case 8
蓄積された暮らしの価値を次世代につなぐ―「わの家 千峰」

renovation case 9
人と街を食でつなげるシェアダイニング―「スタイリオウィズ上池台」

renovation case 10
成長する住まい―「青豆ハウス」

第4章 建築家とリノベーション

建築家の職能の拡張
リノベーションアーキテクト
マルチリンガルな建築家
リノベーションの「作品」
すれ違う「物件」たち

interview 建築への能動性を喚起する
聞き手:田中元子

マイノリティからマジョリティへ
特殊解だけでなく、一般解にもしなければならない
ここまでやらないと建物がかわいそう
ともにプレイヤーであるという自覚
開かないと答えがでない
気付いていないものを提供する
自発的にコミットしたくなるほうへ

あとがき

大島芳彦

株式会社ブルースタジオ専務取締役、クリエイティブディレクター。
家業である不動産管理会社、大島土地建設株式会社の3 代目代表取締役。

東京生まれ。2000 年より株式会社ブルースタジオにて「Re*innovation リノベーション」を旗印に、遊休資産の再生・価値最大化をテーマとした建築企画・設計、コンサルティング事業を開始。近年では団地再生、中心市街地再生など都市スケールの再生プロジェクトなどにも取り組む。

一般社団法人リノベーション協議会理事、副会長。
2016 年「ホシノタニ団地」グッドデザイン金賞(経産大臣賞)受賞。

その環境に物語を

「足るを知るものは富む」。老子の言葉だ。

僕らが日常接している建築的環境。そのなかでも住環境、仕事環境に対して多くの人が求めているものは何だろう。

利便性、快適性、安全性。その類の要望を挙げる人は多いはずだ。でも実は、利便性や環境性能はいつになっても人を完全に満足させることはないし、テクノロジーは常に更新され続けて、人はよりハイスペックなものに憧れる。日本のプロダクトの安全性は世界的にもトップレベルであることは、誰もが疑う余地のない事実で、日本人の災害や犯罪に対する危機意識も「それなりに」高く、数々のテクノロジーや先進的なサービスが、日々しのぎを削りあって、これに応えようとしている。全てにおいて満たされたかのような現代日本の社会。消費文化においては、わずかに満たされない不足感と、淡い危機感が常に刺激されることによって、経済活動が維持されているかのようだ。

しかし今、多くの人々がテクノロジーや物質的な量や新しさより、むしろ体験やコミュニケーション、あるいはオンリーワンの自分らしさのようなものに、興味を持ち始めている。住環境や仕事環境も同じこと。建築的な環境ニーズは徐々に従来とは違う方向に成長している。街の景観を一変させてしまうような巨大構築物や、似たような街を全国に量産する大型再開発計画に、人々は半ば食傷気味だし、その話題性もかつてのように長続きはしない。一方、裏通りの小さなカフェや立ち飲み屋が話題をさらい、理想の空間はカリスマデザイナーや著名建築家がつくるものではなく、DIY のように自分の意思で、オンリーワンをつくり上げるもの。このような感覚が、急速に一般化しつつある。マイホームの夢も、かつての建てる、買うことを前提とした物質的なことより、中古住宅や賃貸住宅のように、リーズナブルで気軽な環境を利用した「楽しい暮らし」を実現する方向へ、その本質が置き換えられようとしている。
「足るを知る者は富む」。やっと、その言葉に実感を持てる時代がやってきた。経済成長期以降の先人達のおかげで、すでに僕らは十分な物や生活環境を手に入れてきた。有難いことに、生きぬくために足りないものはない。もうこれ以上の物を欲しなくとも造らずとも、僕らはその活用の仕方にあれやこれや想いを巡らせ、使いこなすことで理想の環境を手に入れることができるようになったのだ。造り方を考えるよりも、使い方を考えることは、何倍も楽しい。想像力さえあれば、生活を楽しめる。老子の言葉も、かつては悟りの境地に達しなければ、実感を持ち得なかったはず。でも今は、読みかえれば「想像力豊かな者は富む」と理解できる。

そんな「足るを知る豊かさ」を味わえる時代に、実は足りないことがある。それは肝心の想像力を育むための「物語」。物と物、物と人をつなぐ切っ掛けとなる「物語」だ。僕らは建築的、都市的な環境に「物語」を与えたい。

物質主義の時代に積み重ねられた「物件」の山。既存の「物」や「仕組み」の山の中に宝探しをし、断片化している状況を編集して、物語を紡ぎあげたい。供給側の一方的な押し売りではなく、生活者の想像力を喚起して、成長と変化をもたらす物語。僕らにとって「リノベーション」とは、そんな物語を紡ぎあげるための行為だと思っている。

僕らがリノベーションという旗印で仕事を始めて約20年。今では建築だけでなく、さまざまな文脈でこの言葉は使われ、身近な存在になっている。中古住宅を手に入れてDIY で自分らしい暮らしを作ることはもはや当たり前の住環境の選択肢だし、賃貸住宅やシェアハウスなどで住民同士が一緒になって住まいや暮らしを楽しくする工夫をし、素敵なコミュニティを醸成していることも珍しくない。与えられた環境をいかに楽しく住みこなすか、使いこなすか。その精神そのものがリノベーションだ。使いこなすのは空間や建築だけでなく、お金や制度や人間関係や。知恵やセンスやアイデアで、いくらでもオンリーワンの価値や可能性を広げられるのが、現代の暮らしのデザインだ。

賃貸マンションの一室からスタートしたぼくらの仕事も時代の流れの中で少しずつ、確実にシフトチェンジしてきた。暮らしこなし方、使いこなし方について考える対象も、今ではまち再生や団地再生のように規模の大きな案件のご相談に広がりを見せている。日本の家もまちも人々が暮らす環境として同じ社会課題が問われているのだろう。先人から与えられた社会環境のストックを、これからの時代にどう活かしていくか。活かし方に定石は無い。この本にご紹介したプロジェクトには、一つ一つに個性的なオーナーさんがいて、それぞれの置かれた環境に唯一の物語があり、それらが自然の成り行きのようにいきいきと次の世代のために、滑らかに住み継がれて行く道を、ぼくらもオーナーさんも、一緒になって模索してきた。その蓄積は、ブルースタジオがより応用的な解答を迫られるときにも軸をブラさずにいられる、まさに今もって伴走してくれる礎のように感じられる。

「善く行く者は轍迹(てっせき)なし」という。これも老子の言葉だ。建築の仕事は僕らの手が離れてからが本当のスタートであり、真価はその後の蓄積に問われるものだ。僕らはきっかけをデザインしているに過ぎない。竣工以降、素晴らしい状態で、当事者として空間を使いこなし、更にその環境を熟成させているオーナーの皆さんには本当に頭が下がる。そしてまた、この本を制作するにあたって多大なご協力を頂いたことに感謝したい。

書籍を出すきっかけを与えてくれた金沢工業大学の宮下智裕先生、学芸出版社の知念靖廣さん、中木保代さん、井口夏実さん、僕のサポートをしてくれた尾形比呂美さん、大堂麻里香さん、そして筆不精な僕をいつも激励してくれた田中元子さん。心から感謝します。また、今日まで共に歩んでくれた最大の理解者でありパートナー大地山博、そしてブルースタジオのスタッフたちにも、この場を借りて御礼します。
この本がお読みくださった方々にとって、何らかのお力添えになれることを願いつつ。

大島 芳彦

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