リノベーションの新潮流
内容紹介
リノベーションと、それを起爆剤としたまちづくりのリーダーである筆者が、調査してきた米、英、仏、独、そしてオランダ、スペイン、中国、タイから、日本への示唆に富む事例を選び、その魅力と戦略、支える仕組み、効果を紹介。豊富な写真や地図とともに、グーグルのマイマップ、ストリートビューなどにつながるHPも用意。
体 裁 A5変・224頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2597-2
発行日 2015/05/20
装 丁 上野 かおる
はしがき
序章 リノベーションのまちづくり
0・1 近代都市理論と近代建築様式
0・2 近代主義の破綻と修正
0・3 リノベーション・リジェネレーション・コンバージョン
0・4 破綻都市の再生と救済
0・5 歴史都市の保存と再生
1章 アメリカの動きⅠ──ニューヨーク
1・1 鎮魂から再生へ──ワールド・トレード・センター
1・2 廃線公園で奇跡の化学変化──ハイライン
1・3 対照的な二つのターミナル──ミッドタウン
1・4 マンハッタンの港町──サウス・ストリート・シーポート
1・5 負のイメージ大逆転──ウィリアムズバーグ
1・6 高級住宅地のブランドを守るBID──ブルックリン・ハイツ
2章 アメリカの動きⅡ──ウエストコースト
2・1 ノース・ウエスト・キュイジーンのメッカ──パイク・マーケット・プレイス〔シアトル〕
2・2 全米一住みたいまち──パール・ディストリクト〔ポートランド〕
2・3 元祖リノベーション──フィッシャーマンズ・ワーフ〔サンフランシスコ〕
2・4 港のグルメ街──フェリー・ビルディング・マーケット・プレイス〔サンフランシスコ〕
2・5 住宅地のリノベーション──バークレイのグルメ街〔サンフランシスコ〕
3章 イギリスの動き
3・1 ユーロスター直結の巨大複合駅──キングス・クロス/セント・パンクラス〔ロンドン〕
3・2 ヨーロッパがターゲット──キングス・クロス・プロジェクト〔ロンドン〕
3・3 サッカー場を高級コンドミニアムへ──アーセナル・スタジアム〔ロンドン〕
3・4 新しいビジネスの胎動──ホクストン・スクエア〔ロンドン〕
3・5 デザイン主導の再開発──キャッスル・フィールドとニュー・イズリントン〔マンチェスター〕
3・6 瀕死のまちを救うリノベーション団地──パークヒル住宅団地開発〔シェフィールド〕
3・7 戦後集合住宅団地再生の新しい流れ──オルトン住宅団地開発〔ロンドン〕
4章 パリの動き
4・1 高層市営住宅のリノベーション──トゥール・ボワ・ル・プレートル
4・2 オーダー・メイドの街づくり──モンマルトルなど
4・3 巨大葬儀場をアートセンターへ──104
4・4 パリ最大の環境共生プロジェクト──アル・パジョル
4・5 パリの新名所──キャロー・デュ・タンプルとグルメ街
4・6 鉄道遺構の活用──プティット・サンチュールとヴィアデュック・デ・ザール
5章 ドイツの動き
5・1 世界遺産の集合住宅──ベルリン・ジートルンク〔ベルリン〕
5・2 連帯のこころざし──ライプチッヒ〔ライプチッヒ〕
6章 オランダの動き
6・1 大使館としてのホテル──ロイドホテル〔アムステルダム〕
6・2 アーティストを「大使」に──元チューインガム工場複合施設〔アムステルダム〕
6・3 伝説のクラブ──トロウ〔アムステルダム〕
6・4 埠頭のリノベーション──ロイドクォーター〔ロッテルダム〕
6・5 世界遺産のデザインファクトリー──ファン・ネレ工場とユストゥス団地〔ロッテルダム〕
6・6 都市としての大学──デルフト工科大学BKシティ〔デルフト〕
6・7 タバコ工場からインキュベーションセンターへ──カブファブ〔ハーグ〕
7章 バルセロナの動き
7・1 バルセロナモデル発祥の地──ラバル地区
7・2 カタロニアの心──ボルン・カルチャー・センター
7・3 産業衰退地区の再生──ポブレノウ地区
7・4 伝統と革新──バルセロナ郊外
8章 アジアの動き──上海・杭州・北京・バンコク
8・1 郷土の価値の再発見──周庄〔上海〕
8・2 庶民のまちをアートスペースに──田子坊〔上海〕
8・3 国家発祥の聖地──新天地〔上海〕
8・4 紡績工場跡をアートスペースに──M50〔上海〕
8・5 まちづくりの廃材利用でプリツカー賞──杭州中国美術学院〔杭州〕
8・6 軍需工場をアートのメッカへ──798芸術区〔北京〕
8・7 バンコクのニューウエーブ──ラチャダムヌン現代アートセンターなど〔バンコク〕
終章 レガシー・レジェンド・ストーリー
あとがき
参考図書・ホームページ情報(巻末)
グーグルマップの使い方
20世紀末以降世界中で、急速にさまざまな分野で従来の価値観が変革を余儀なくされ、まちづくりの方法論もまた劇的な変化を遂げつつある。この状況に危機感を抱いた私は鹿児島大学に1997年赴任して、国の科学研究費や地元財団法人の補助のもと10年間世界を回りつつ調査を続け、その成果を『まちづくりの新潮流』と『地域づくりの新潮流』という2冊の書物にまとめて発表した。これらは幸い好評で、版を重ねつつ中国や韓国においても翻訳され、教科書としても使われている。その後、大学を定年退職してからは、幅広い人材に呼びかけて建築・まちづくり・不動産を総合的に研究するグループとして、2010年に一般社団法人HEAD研究会という組織を立ち上げ、活動を続けてきた。この研究会は、タスクフォースという分科会に分かれて研究者・実務者・学生たちがテーマを定めて活発に議論をたたかわせ、公開シンポジウムやセミナーを開催してきた。法人会員にはわが国を代表する大企業から意欲的な中小企業までが名を連ね、次の時代のビジネスのあり方も議論している。一方行政機関とも密接な意見交換を行い広く社会に貢献してきた。とりわけ活発な活動を見せているのが、社会に積み上がった膨大な社会ストックの活用を目指すリノベーション・タスクフォースで、この活動のなかからリノベーションにより疲弊する地域を再生する手法をシャレット方式で学べるリノベーション・スクールがスピンアウトして、全国から招請が絶えない状況になっている。
そのような活動のなかで、HEAD研究会では、2013年春にリノベーション・タスクフォースと不動産管理タスクフォースの発案で、ストック活用の先進国であるドイツとオランダをリノベーション視察先と定めてツアーを行い、帰国後その成果の発表セミナーを公開で開催したところ、大きな反響呼ぶことになった。このツアーには、関連する分野の研究・実務のエキスパートに学生を交えて20名以上の多彩なメンバーが参加し、現地で活躍されている方々の協力もあって、多大な成果を上げることができたのである。本書はそのことを知った学芸出版社の前田裕資氏の呼びかけによりまとめられたものである。私自身はすでに述べたとおり世界各地の調査を長年行ってきたのであるが、本書にはできるだけ最新の情報を盛り込みたく、多くの都市を2014年中に再訪し、現地在住の人々とともに調査してきた。そのなかでイギリス在住の建築家漆原弘氏は、私の主宰する設計事務所出身であるが、その後イギリスのヨーク大学に留学し、まちづくりの権威イアン・コフーン教授の指導のもとで博士号を獲得している。とりわけ公営住宅などのコンバージョンに詳しく、私の研究室の博士課程の学生にもアドバイスをもらってきたので共著者になってもらった。
リノベーションは小さな住宅改装からまちづくりにまでつながる広範な分野に適用される用語であるが、本書は基本的にまちづくりスケールのリノベーションを扱い、対象は類書との重複を避けて海外に限定した。
本書は前掲2書と同様、リノベーションの最新例を見て歩く旅のガイドブックになることを意図しているので、ぜひリノベーション街歩きの参考に供していただきたい。また、巻末に参照できるホームページのアドレスをできるだけ所収したので、出かける際は最新情報を確認してほしい。
松永安光
「はしがき」にも書いたとおり、本書は松永が主宰する一般社団法人HEAD研究会の活動の一環として2013年に行ったドイツ・オランダ・リノベーションツアーの成果をもとに、2014年松永自身が行ったフランス・スペイン・イギリス調査を加え、それ以前に滞在した中国の事例をまとめたものである。そして最後に、現在進行中の東アジア調査の最初の事例としてバンコクを取り上げている。この調査は今後継続する予定である。漆原はイギリスの調査と執筆を担当した。
これら調査には現地の協力者が不可欠である。ドイツではライプチッヒの「日本の家」の主宰者ミンクス典子さんと大谷悠さん、オランダではアムステルダムの建築家吉良森子さんと当時ロッテルダムにおられた建築家の渡邊英里子さん、パリでは建築家のフレデリック・ドルオーさんの事務所、同じく建築家の高松千織さん、バルセロナでは建築家の鈴木裕一さん、イギリスではアーバン・スプラッシュ社、キンググス・クロス開発会社の協力を得た。ニューヨークではハーバード同級生アレックス・チューさん、シアトルでは松永の事務所の元パートナー高俊民さん、中国では同済大学の周静敏教授、バンコクではハーバードの同級生ヴィチャイ・タントラティブドゥさんと建築家のポーンパット・シリクルラタナさんのお世話になった。むろんこれ以外にも現地で取材に応じてくださった方々も無数にあるが、ここでそれを網羅することはできない。
HEADツアーについては、コーディネーションを会員の村島正彦さんと新堀学さんが中心となって行い、長屋博常任理事、リノベーション・タスクフォースの大島芳彦委員長、不動産管理タスクフォースの西島昭委員長、この分野の専門家深尾精一首都大学東京名誉教授、倉方俊輔大阪市立大学准教授ほかのメンバーが加わり、検討の結果実施にいたった。また、学生事務局から工学院大学の石井千歳さんが随行した。法人メンバーとしては株式会社リビタと株式会社市萬の社員が参加した。
文中の写真その他は、特記のない場合は著者たちの提供である。出版に当たっては学芸出版社の前田裕資社長の絶大なる協力を得た。深く感謝します。
著者代表 松永安光