NPOのためのマーケティング講座
内容紹介
NPOが増加し、新寄付税制など活動を支援する法制度が整うにつれて、NPO自身の事業目的を遂行する実力が問われる時代になってきた。組織のポジションを見究め、ターゲットのニーズに基づいた事業を企画・実施し、成果を測定しながら改善サイクルを確立する…など、NPOマーケティングの基本と実務を豊富な事例をもとに解説。
体 裁 A5・200頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2576-7
発行日 2014/10/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史
まえがき
1 入門篇
第1講 NPOのマーケティング
1 NPOマーケティングの定義
2 NPOの活動タイプの分類
3 NPOにマーケティングが必要な理由
4 NPOマーケティングの対象
5 NPOセクターにおけるマーケティングの独自性
6 NPOマーケティングの“5C”
7 NPOマーケティングの実施プロセス
column 1 『Giving USA 2014』にみる米国の寄付実態
2 事前準備篇
第2講 環境分析
1 情報収集
2 環境分析の構造
3 ステークホルダーの見極め
4 環境分析を行う際の留意点
第3講 ターゲット設定
1 ターゲットを設定する理由
2 ターゲットを設定する対象
3 セグメンテーション
4 ターゲティング
5 ペルソナの設定
6 顧客情報の収集
第4講 ポジショニング
1 ポジショニング戦略の構築
2 差別化
column 2 ファンドレイザーの報酬ランキング
3 企画・立案篇
第5講 価値(Customer Value)
1 受益者にとっての価値
2 支援者にとっての価値
第6講 コスト(Cost)
1 受益者・支援者に対するコストの全体像
2 価格設定の考え方
第7講 利便性(Convenience)
1 製品提供における流通チャネルの構築
2 サービス提供における利便性の拡大
3 問い合わせ・申し込み・支払い方法の拡充
4 支援の場所とタイミング
第8講 コミュニケーション(Communication)
1 コミュニケーションの目的
2 コミュニケーション・ミックス
3 メディアの選定
4 制作物の開発
5 支援者に対するコミュニケーション戦略
第9講 快適さ(Comfort)
1 サービス提供における人のマネジメント
2 サービス提供における物的環境の整備
3 サービス提供プロセスの設計
column 3 支援者基盤強化サイト「GrowYourBase」
4 実行・管理篇
第10講 マーケティング管理
1 マーケティングの目的・目標・指標の設定
2 マーケティングの評価
3 マーケティング施策の実績管理
4 マーケティング計画
第11講 マーケティング実行・改善
1 PDCAサイクルの重要性
2 事例:エイズ孤児支援NGO・PLAS「個人寄付の拡大」
column 4 米国における子どもの寄付
あとがき
NPOマーケティングで社会を変える!『草莽塾』
1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立・施行されてから早15年。今ではテレビや新聞、インターネットなどでNPOの活動を見たり聞いたりしない日はないくらい、NPOの存在は日本社会に浸透してきたといえるでしょう。実際に、NPOの認証数も2014年4月30日現在で4万9042法人となり、学生の就職先や社会人の転職先としてNPOが候補に挙げられたり、行政とNPOとの協働や企業によるCSRとNPOの連携が一般的になるなど、NPOの存在は私たちの生活の中で身近なものになってきました。
特に近年では、2010年、民主党政権による「新しい公共」とその派生事業では、バラマキという批判はあれど、予算額87.5億円が投じられることになりました。また、2011年6月には新寄付税制と改正NPO法も成立。寄付税制については、欧米諸国と比較しても遜色ない税制優遇が実現するなど、NPOの活動を支える法制度面は充実したものになっています。
その一方で、社会課題解決の担い手として期待されたNPO自身はどのように変わってきたのでしょうか? 法制度は整備されたものの、肝心のNPOに社会課題を解決できるような力はついてきているのでしょうか?
個々のNPOに目を向けると、解決するべき社会課題の実態把握、明確な目的や目標の設定、課題解決に向けた事業の企画立案、事業展開のマイルストーンの策定、実施した事業の効果測定と改善サイクルの確立など、組織運営に必要な基本的実務が実践できていない状況が多々見られます。NPOの活動自体は尊く、社会にとって悪いものではないため、誰からもこういう状況を咎められることのないままNPOセクターは存在し続けてきたように感じます。見方を変えれば、NPO自ら成長の機会を閉ざしてきたということです。
結果としてこの15年間、もちろんNPOだけの責任ではありませんが、メディアでは毎日のように新たな社会課題が報じられ、社会課題は解決に向かうどころかこれまで以上に増加していると感じている人も多くいるのではないでしょうか。
社会課題の解決において、NPOを取り巻く法制度の整備は必要条件であって十分条件ではありません。活動の主体であるNPOが真に社会を変革するだけの力を身につけない限り、社会の課題は未解決のまま残り続けていくどころか、今後ますます増えていくことになります。NPOは社会から期待されている成果を出さないと社会的な信頼を失いかねない状況にあるといっても過言ではないでしょう。
本書は、NPOが身につけるべき力の1つである「マーケティング」について取り上げています。企業セクターで実践されているマーケティングの手法や事例を踏まえ、社会変革の担い手であるNPOが知識として身に付け、実行するべきマーケティングの基本的な考え方や実務について、具体的なNPOの事例を紹介しながら分かりやすく解説しています。
主たる対象となる読者はNPOやNGOに関わる方々ですが、社会起業家やソーシャル・エンタープライズ、地域の市民活動センターやNPOサポートセンターなどの中間支援組織、助成財団や行政関係者など広く非営利セクターに従事する方々に加え、NPOでのマーケティングに興味のある企業セクターの方々も対象とした内容となっています。
社会を変えるために、自らを変える。
社会を変えるためには、まず、その担い手であるNPO自身が変わらなければなりません。本書が、社会変革を目指すNPOをはじめ、広く非営利セクターで活躍する方々の一助になれば幸いです。
評:工藤啓
(認定NPO法人育て上げネット理事長)
早く、遠くへ、みんなで行くために。
本書は、地域や社会の課題を解決していくために立ち上がったNPOが、活動をともにしていく素晴らしい仲間たちと、数々の難題を乗り越えながら目的地に到達するために必要な「マーケティング」という道具を授けてくれる。
これから活動を始めるNPOも、10年以上の歴史を持つNPOもマーケティングをやっていないわけではない。創設者の原体験や団体が蓄積した経験から「感覚」や「勘」をベースにマーケティングを実施しているはずだ。しかし、航海図もコンパスも持たず、航路も告げられないままに大海へ漕ぎ出す船に乗り込みたいひとはどれだけいるだろうか。不安であり、恐怖ですらある。
課題を解決していくには多くの仲間が必要だ。NPOという船にかかわる一人ひとりの仲間が、安心と共感、居場所と出番を持って、ともに苦難を乗り越えながら目的地に向かうことができるよう、「旅のしおり」を作成しなければならない。
本書では、企業マーケティングでおなじみの4Pや4Cに触れつつ、ボランティアという人的資源を持つNPOに新たなフレームワークとしての5C-価値(Customer Value)、コスト(Cost)、コミュニケーション(Communication)、利便性(Convenience)、快適さ(Comfort)-という新たなマーケティング概念を提示する。
また、NPOの先行事例を豊富に掲載することで、読者にNPOならではの「旅のしおり」作成を指南していく。私も社員とともに、長浜氏が主宰する「草莽塾」でNPOマーケティングの薫陶を受けた。まさに本書は「草莽塾」で学んだエッセンスが詰まっている。
営利と非営利の境界線を越えていかなければならない現代社会において、NPO関係者はもとより、企業マーケティングに精通する人々にとっても新たな学びと発見に出会える一冊である。
担当編集者より
『NPOのためのIT活用講座』とともに、「新しいNPOの本」として企画しました。NPOマーケティングに関する初めての体系的な手引きとして、全国の非営利セクターに従事する方々や、NPOでのマーケティングに関心のある企業セクターの方々にお読みいただければと思います。
(岩崎)