欠陥住宅事件 ここが危ない! 事例と教訓

平野憲司 著

内容紹介

700件を超える欠陥住宅事件の鑑定書、調査報告書、意見書作成に関わった一級建築士が、代表的な50事例を取り上げ紛争や裁判の顛末を記した。どのような不具合事象や欠陥、法令違反があり、どう決着したかを詳らかにし、そこから見落としがちな落とし穴がどこにあるのか、欠陥発生の防止につながる事件の教訓を明らかにした。

体 裁 A5・200頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2543-9
発行日 2012/12/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はしがきあとがき

1章 裁判の流れと建築士の役割

1 裁判手続きの流れ
2 建築士の役割

2章 建築関係法令の整備動向

1 建築関係法令の整備動向
2 欠陥住宅に関連する法令整備の到達点

3章 建築瑕疵損害賠償請求事件の動向

1 建築瑕疵損害賠償請求事件の動向
2 特筆すべき最高裁判決

4章 欠陥住宅事件 50事例と教訓

〈1〉設計の欠陥事例

1 コの字形プランの欠陥構造事件
2 建物配置の欠陥事件
3 曲面壁の欠陥構造事件
4 著名建築家の欠陥住宅事件

〈2〉敷地の欠陥事例

5 敷地排水及び建物配置の欠陥事件
6 古い石積擁壁による建物の不同沈下事件
7 L型擁壁の欠陥及び柱状改良杭の長さ不足による建物の不同沈下事件
8 建築敷地の未接道及び越境事件
9 廃棄物投棄の欠陥敷地事件

〈3〉基礎の欠陥事例

10 大手ハウスメーカー住宅の基礎ひび割れ事件
11 地盤調査不足による建物の不同沈下事件
12 べた基礎の鉄筋かぶり厚さ不足事件
13 布基礎の未設置及び土台アンカーボルト位置の施工不良事件
14 基礎パッキング工法の施工不良事件
15 基礎パッキング工法の床下換気不良事件

〈4〉木構造の欠陥事例

16 鋼製束の緊結不良事件
17 緊結金物の施工不良事件
18 大断面梁の乾燥収縮による床の不同沈下事件
19 床梁の断面不足による床の不同沈下事件
20 筋かいの接合不良事件
21 瓦葺屋根工事に伴う柱傾斜事件
22 振れ止め、けた行筋かいの未設置事件
23 火打材の未設置事件
24 防腐・防蟻措置の未施工事件
25 長屋切離し後の欠陥構造事件

〈5〉鉄骨構造の欠陥事例

26 鉄骨造3階建て住宅の欠陥溶接事件
27 鉄骨部材接合部の欠陥事件

〈6〉鉄筋コンクリート構造の欠陥事例

28 マンション地階の漏水事件
29 マンションの構造スリット未施工事件
30 マンション外壁のひび割れ事件
31 マンション最上階戸界壁の八の字ひび割れ事件
32 マンションコンクリートの品質・施工不良による建替え事件

〈7〉耐火性能の欠陥事例

33 準防火地域3階建て住宅の耐火性能欠陥事件

〈8〉雨漏りの欠陥事例

34 木造2階建て住宅の雨漏り事件
35 鉄骨造3階建て住宅の雨漏り事件
36 鉄骨造5階建て併用住宅の雨漏り事件

〈9〉床下漏水の欠陥事例

37 木造住宅の床下漏水事件
38 マンションの地中埋設排水管破断事件

〈10〉遮音性能の欠陥事例

39 マンションの床遮音性能欠陥事件
40 木造住宅の雨音騒音事件
41 木造外壁通気工法の騒音事件

〈11〉保全改修工事の欠陥事例

42 外壁修繕工事の未施工事件
43 マンション大規模修繕工事の施工不良事件

〈12〉住宅リフォームの欠陥事例

44 10㎡を超える増築リフォームの欠陥構造事件
45 住宅リフォームの詐欺商法事件
46 構造補強の詐欺商法事件

〈13〉隣接敷地の工事に伴う被害事例

47 山留め工事に伴う隣接建物の不同沈下事件
48 高層マンション建設に伴う風害事件
49 商業地域の建築工事による住環境悪化事件
50 社宅建替えの計画変更を求めた事件

5章 勝訴に到らなかった事件

1 高度な専門知識が求められた事件
2 調停不成立後の判決
3 鑑定人が採用された事件

6章 欠陥住宅の発生メカニズム

1 不具合事象の特徴
2 欠陥住宅の発生メカニズム

平野憲司(ひらの・けんじ)

1944年 山口市生まれ。神戸大学工学部建築学科卒業。
現在、一級建築士事務所 be going所長
近畿大学理工学部建築学科非常勤講師(1988~1995)、美作大学生活科学部特任教授(2001~2010)等。
著書『3階建て住宅が危ない!!』、『よみがえれ!フェニックス土居川』(共著)他。
「北方領土復帰啓発塔」設計競技優秀賞、「居住新時代の木造住宅」設計競技優秀賞、和歌山県ふるさと建築景観賞、毎日新聞郷土提言賞(論文の部)で大阪府優秀賞、等を受賞。
720余件の建築関連の調査・鑑定等に携わる。

一級建築士事務所 be going

〒530‐0047 大阪市北区西天満4‐9‐2 西天満ビル
TEL 06‐6361‐5891 FAX 06‐6361‐1885
ホームページ
http://www.begoing.jp/

平成7年1月17日、震度7の阪神・淡路大震災が発生し、6,400人を超える人命が奪われた。死亡者の9割近くは倒壊による圧死である。倒壊した建物は瓦礫と化し、倒壊原因が究明されることなく廃棄処分された。
私は震災直後、被災建物の安全診断、復旧等の依頼を受け、震災現場に駆け付けた。半壊した建物の被災調査から、構造に欠陥がある建物が壊れるべくして壊れたと確信した。

私の建築士としての業務は阪神・淡路大震災後、一変した。平成8年に欠陥住宅の相談窓口であり、欠陥住宅の撲滅を願う欠陥住宅被害全国連絡協議会が神戸で設立されて以来16年間、建築士の業務として欠陥住宅事件に関与してきた。今日までに作成した欠陥住宅事件の鑑定書、調査報告書、意見書は700件を超える。

私は様々な欠陥住宅事件から多くの教訓を得た。500件を超えた頃から、欠陥住宅の講師依頼を受けることが多くなり、欠陥住宅の事例と教訓をまとめる必要性を自覚するようになった。

平成23年3月11日、東日本大震災が発生し、死者・行方不明者は18,649人(平成24年10月24日警察庁発表)である。震災後の5月の連休に、被害が大きい石巻市に行った。津波による沿岸部の絶叫と死の空気感に、今も包まれている。

東日本大震災は津波による被害が甚大なあまり、地震による建物被害がクローズアップされていない。しかし、東日本大震災では多くの建物が地震により損壊した。その事実が、欠陥住宅の事例と教訓をまとめることを後押しした。

本書は以下のように編集した。

1章は、欠陥住宅事件における建築士の役割について記述した。

2章は、阪神・淡路大震災後、中間検査制度、指定確認検査機関制度等の建築基準法の改正、住宅の品質確保の促進等に関する法律、建築士法の改正、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律等の建築関係法令が整備されたが、これらの法令を概観し、欠陥住宅に関連する法令整備の到達点を考察した。

3章は、建築関係法令整備後の建築瑕疵損害賠償請求事件の動向を概観した。

4章は、私が関与した欠陥住宅事件の50事例と教訓を紹介した。住宅の欠陥事例は、設計の欠陥、敷地の欠陥、基礎の欠陥、構造の欠陥、耐火性能の欠陥等多岐にわたるが、事件の教訓が欠陥住宅の防止に生かされることを期待する。

5章は、私が関与した欠陥住宅事件のなかには勝訴に到らなかった事例が数件あるが、その要因を考察した。

6章は、欠陥住宅に関連する法律は概ね整備されたと考えるが、現在も多くの欠陥住宅が生じていることから、欠陥住宅の発生メカニズムを考察した。

本書が以下の人々のお役に立てば幸いである。

①これから住宅を建築する人、あるいは購入する人は、住宅のチェックポイントとして活用していただきたい。

②現在の住まいが欠陥住宅ではないかと懸念している人は、その判断資料として活用していただきたい。

③既に欠陥住宅にお住まいの人は、解決方法の検討資料として活用していただきたい。

④住宅の建築に携わる発注者、設計監理者、工事請負者、検査機関の人は、欠陥住宅紛争を未然に防ぐために活用していただきたい。

⑤消費者保護に携わる人は、欠陥住宅の相談活動に活用していただきたい。

⑥弁護士は欠陥住宅被害者の弁護活動に活用していただきたい。

⑦建築指導行政あるいは建築関係法令の整備に携わる公務員は、欠陥住宅の実情を理解する資料として活用していただきたい。
本書が欠陥住宅の防止と欠陥住宅紛争の解決につながる一石になれば幸いである。

平成24年10月 平野憲司

本書は、裁判の流れと建築士の役割、建築関係法令の整備動向及び建築瑕疵損害賠償請求事件の動向を記したうえで、欠陥住宅事件の50事例と勝訴に到らなかった事件を紹介し、終章で欠陥住宅の発生メカニズムを考察した。

本書を振り返ってみると、欠陥住宅に関連する建築関係法令は概ね整備されたと考えられるが、現在も多くの欠陥住宅が生じており、以下の課題も見逃せない。

  1. 建築基準法は、山留め工事の技術的基準、斜面地擁壁地盤の地耐力の確認、木造2階建ての構造計算、床の遮音性能、高層建築物のビル風に対する風速・風向計の設置等に関する法令整備が望まれる。
  2. 住宅品質確保法は、構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分について10年間の瑕疵担保責任を義務付けたが、他の部位(地中埋設配管等)の瑕疵についても、瑕疵担保責任を義務付けることが望まれる。
  3. 住宅瑕疵担保履行法は、新築住宅に対する保証金または保険への加入を義務付けたが、住宅リフォームについても適用を広げることが望まれる。
  4. 新築住宅を建築あるいは購入した欠陥住宅被害者が提訴する場合、住宅ローン等の返済があり、訴訟費用の負担が大きい。訴訟費用が住宅瑕疵担保履行法の保証金あるいは保険に含まれることが望まれる。
  5. 建築士、工事請負者、指定確認検査機関は、欠陥住宅の防止対策を組織的に共有するとともに、実務能力と職業倫理を高めて、欠陥住宅の防止に努めることが一層望まれる。

欠陥住宅は、人間が生み出す人災である。欠陥住宅がない成熟した社会を目指す地道な努力が必要である。

本書の発行にあたり、拙稿に目を留め出版までお世話いただいた学芸出版社の村田譲氏に心からお礼を申しあげる。そして、私の事務所で10年間欠陥住宅事件に携わってきた一級建築士平野太郎(長男)の尽力に対しても謝意を表したい。

平成24年10月 著 者

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