マンション管理評価読本
内容紹介
生活の質を高め、中古価格を上げる方法
マンションは管理を買えと言われているが、流通ではいまだに管理の情報がほとんど示されていない。そこで著者らは既存のマンションの管理の善し悪しを「見える化」し、公表する仕組みをつくり、評価の公開を進めている。その仕組みを解説するとともに、そこから見えてきた管理運営のポイント、流通上の課題と解決策を示す。
体 裁 A5・240頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2528-6
発行日 2012-02-15
装 丁 上野 かおる
1部 マンションは管理を買え!
1章 管理状態を知らずに買って良いか、売って良いか 西村孝平
1 管理を知らずに買って訴えられた
2 管理実態を公開したがらない管理組合
3 管理を知らずに買って良いか、売って良いか
2章 意外に低い中古の価格リスク…ただし管理次第 天野 博
1 築年数が古いマンションの価格は安定している
2 管理費が安くて買いやすいというリスク
3 管理は変えることができる
3章 管理を見ないとわからない、2つの大リスク 赤木進美
1 マンション管理の現状
2 あなたのマンションにもある2つのリスク
4章 マンショントラブルの実態 浅井 亮
1 マンション管理の現状
2 トラブルを未然に防ぐ
5章 建替えか、延命か、更地売却は可能か? 高木伸人
1 住宅を所有するリスク
2 分譲マンションは楽じゃない
3 備えあれば憂いなし
6章 マンションは管理を売れ! 西村孝平
1 世の中が変化している
2 変化していないもの
3 これからのマンションに求められるもの
2部 マンション管理の見える化
1章 ストック活用時代に必要なマンション管理の見える化 大島祥子
1 ストック政策への流れ
2 中古住宅流通に向けて
3 進みつつある、様々な政策
4 分譲マンションとストック政策
5 ストック社会に向けて、マンションが抱える課題
2章 マンション管理を取り巻く課題の処方箋 谷口浩司・大島祥子
1 市民的流通市場の醸成
2 選ばれるマンションとなるために
3 管理情報が発信されることで得られるメリット
4 マンション管理の評価情報の発信
3章 NPO京都マンション管理評価機構の挑戦 大島祥子
1 マンションに関わるネットワークの発足
2 マンションデータバンクの課題から生じた「わかりやすい情報」の必要性
3 NPO法人としてのスタート
4 マンション管理評価の内容と方法
4章 建物を長持ちさせるための「基礎評価」 和田輝章
1 基礎評価を実施する方針と内容
2 基礎評価項目と指標
3 指標等の具体的調査要領
5章 マンションのマネジメントを評価する「優良管理評価」 大島祥子・赤木進美
1 自治による管理・運営
2 管理組合員の豊かな交流
3 災害に備えた管理
4 多様な世帯が暮らせる工夫
5 地域との共存・共栄(地域組織との関係)
6章 管理評価はどこまで信用・期待できるか 大島祥子
1 管理評価方法の妥当性について
2 情報発信の方法について
3 取り組みの効果について
7章 管理情報の市場価格への影響 嶋嵜 敦・辻本尚子・岩崎 陽
1 マンションの価格を形成する要因
2 マンションの鑑定評価
3 マンション管理と中古価格との調査分析
4 今後期待されること
3部 アイデアと工夫で素晴らしいマンションに―マンション管理の事例に学ぶ
1章 マンション管理の事例に学ぶ 安枝英俊
2章 衣笠グリーンハイツ 沼田弘子
3章 西京極大門ハイツ 中濱良二
4章 マンハイム五条 瀬川保
5章 ルピエ四条 安枝英俊・天野 博・田原陽子
6章 グランシティ京都I番館 和田輝章
7章 ローレルコート室町 安枝英俊・田原陽子
8章 事例から見えてくるもの 安枝英俊
1 管理組合の初動期に発生した課題への対応
2 管理活動の発展プロセス
3 管理組合から学ぶこと
4 マンション管理評価機構の役割について
4部 マンション管理の新しい地平に向けて
1章 開かれたマンションに向けて 折田泰宏
1 個人情報保護法がマンション管理をダメにする
2 マンションに関する情報とプライバシー
3 消費者保護の観点からの情報公開
4 情報公開は管理の質を高める
2章 管理評価と市場の機能―マンションの自治的管理能力が地域を変える 谷口浩司
1 「マンションは管理を買え」の本当の意味
―管理会社ではなく、管理組合を買う
2 時代の変化が求める長期優良住宅としてのマンション
―市民が主役のマンションへ
3 マンション管理を評価する仕組みの必要性
―持続可能な社会の実現に向けて
4 マンション管理からよみがえる都市の自治
―京都の事例を通して
補論 京都市のマンションストックと現状の課題
付録 京都マンション管理評価機構 アセッサー研修について
おわりに
少子高齢化時代の到来とともに社会は縮小へと歩み出し、日本は大きな転換期を迎えている。住宅は過剰になり、郊外の団地では空き住戸が目立ちはじめ、その対策が急がれる。住宅の流通は、売り手市場から買い手市場へと転換を強いられており、都心のマンションが、こうした時代の変化にいっそう晒されることは疑う余地がない。
「マンションは管理を買え」といわれてきた。都市居住の新たな器としてマンションが普及して半世紀、流通においてマンションがそのような扱われ方をしてきたのかと問われれば、答えは否である。管理への関心度は今でもあまり高いとはいえないし、管理会社に委託して、管理を任せきりのマンションが少なくない。
人生で最も高額な、暮らしの器としての住まいに、果たして私たちは無関心でいられるのだろうか。決して安くはない管理費をさらに月々負担しているのだから、むしろ委託した管理会社が適正な管理業務を行うのは当たり前で、マンションはきちんと管理されているはずと組合員が思い込んできたとしても無理はない。しかし、この「委託・依存・無関心」にこそマンション管理の落とし穴がある。
マンション管理のコンサルティング会社によれば、管理会社は管理組合を密かに格付けしているという。管理組合役員の意識が低く、管理会社に丸投げしている格付けの低い管理組合は「格好のカモとなってしまう」というのである。管理組合は「委託・依存・無関心」のままに、管理会社の「格好のカモ」にされるようでは、こうしたマンションに希望を見出すことは難しい。
マンションの管理について書かれた手引書は多い。しかし、本書はこれまでの手引書とは幾分異なっている。ただ単に管理とは何かではなく、第三者の評価に値する管理を目指している。そのための優良な管理の指標を掲げ、評価の基準と評価の仕組みを示して、それぞれのマンションが資格を有した評価員による管理評価を受ける。そしてさらに、その管理評価の成績情報を地域社会に公開していくことの重要性を取り上げている。築年数を重ねたマンションが増えていくなかで、自らの健康診断として管理評価の点検を受けて、管理のレベルを上げ、この管理情報を広く開示することに、本書の狙いと意義がある。文字通り「マンションは管理を買え」のための手引書である。
本書は、1部「マンションは管理を買え!」、2部「マンション管理の見える化」、3部「アイデアと工夫で素晴らしいマンションに―マンション管理の事例に学ぶ」、4部「マンション管理の新しい地平に向けて」の4部で構成されている。マンション建設は京都の歴史的な街区において、ともすれば抵抗を受けてきた。しかし、本書で取り上げられている事例は、成熟した管理のもとに地域にしっかりと根づいているマンションが現に存在していることを語っており、管理レベルの向上が都市再生の一つの可能性をも秘めていることが示唆されている。
マンションは一つの地域社会でもあり、本書では「地域社会の技法」としてのマンション管理が提案されている。したがって、本書がマンションに現在居住している人やこれからマンションを買おうと考えている人に求めてほしいことはいうまでもないが、マンションに直接に関わっているわけではないが、まちづくりや地域社会の運営に携わっている方々にもこうした技法が役立つことを期待したい。
本書は、京都の地においてマンション管理をキーワードに集まった、管理組合理事、建築、法律、不動産の実務家の方々や研究者によって立ち上げた「NPO法人京都マンション管理評価機構」の活動の到達点をまとめたものである。本書の刊行にあたって、マンションの管理組合も定かではなかった1980年代の初頭よりマンション問題に関わってきたものの一人として、マンション自らが自己の評価に立ち上がった管理と自治の力に、深い感慨を禁じえない。
昨年の春、私は東京近郊のある大学で行われた学会で、地域社会の再生といった観点から京都でのこの管理評価の取り組みについて報告を行った。その折、東京の建築関係の方であったと思うが、「こうした取り組みに参加している不動産会社は、参加していない不動産会社とどのような点で違いがあるのか」という質問を受けた。私はいささか戸惑ったが、「マンションを良くしたいという志だと思います」と応じた。「一体不可分の土地・建物を区分して所有する」マンションは、幾分わかりにくい区分所有法の規定を受けるものである。こうしたマンションに対して現場の最前線に立っている不動産事業者の方々にあっても、より健全で開かれた市民的市場の醸成が欠かせないという問題意識が私たちと共有されていたように思う。
京都マンション管理評価機構の設立に先立って、2006年4月に私たちは「京都マンションデータバンク」を稼動させ、京都市内全域を網羅したマンションの基礎的データを集積し、ウェブサイトで公開した。これは労力と費用が何かとかかる作業であったが、情報の収集だけでなく、費用の点においても支えられたのが、市内で不動産会社を経営してこらた方々の力であった。こうした事業家の方たちの理解と支えがなければ、辿り着くことのできなかった試みである。
第2ステップの、京都のマンションとしてのビジョンと管理評価の基準づくりには、京都市の住宅政策課の伴走を得ながら、オール京都で取り組むことができた。さらに組織づくりにおいては、国の「長期優良住宅先導的モデル事業」の採択を請け、カタチを整えた。
そして今、私たちの活動が目指してきたところを出版物にまとめて、この活動をより広げたいという思いを、厳しい出版事情のなかで理解いただいた学芸出版社の支えで実現できることに、心からお礼を申したい。とりわけ編集部の前田裕資さん、森國洋行さんの丁寧な編集作業とスケジュール管理がなければ、出版に漕ぎつけることはできなかった。改めてお二人に感謝申し上げたい。
なお、本書は「一般財団法人住総研2010年度出版助成」を受けたことを最後に記しておく。
2011年12月
NPO京都マンション管理評価機構理事長 谷口浩司
メディア掲載情報
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