都市・まちづくり学入門
内容紹介
パワーとマネーにより「大きくつくる」都市計画は終わった。これからは個々人が自分の周囲にある環境の特性や周りにいる他者との関係性を意識し、小さな自律的な変化を積み重ねながら「自ずと成らしめる」まちづくりの時代だ。そこで必要となる環境を読み取る知識や技法、協働・共生のしくみづくりに向けた基本知識を示した。
体 裁 A5・224頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2520-0
発行日 2011/11/01
装 丁 コシダアート/上原
序章 ポスト近代の都市・まちづくり
(久 隆浩)
~「つくる」から「なる」へ
0‐1 都市計画の変化を捉える
0‐2 ネットワーク社会のまちづくり
0‐3 多様な主体が未来を紡ぐ
0‐4 都市・まちづくりのパラダイムシフト
1 都市の空間構成を読み解く
1章 農から学ぶ空間秩序
(柴田 祐)
1‐1 空間秩序を読み取ることの重要性
1‐2 集落の空間秩序を読む
1‐3 空間を総合し理解する
1‐4 現代の我々が学ぶべき点
2章 都市空間の秩序とその諸相
(嘉名 光市)
2‐1 都市はどのようにつくられたのか
2‐2 都市空間に根ざしたさまざまな秩序
2‐3 都市空間の秩序を紡ぐ
3章 人びとの生活から都市空間を読み解く
(林田 大作)
3‐1 都市における人びとの生活
3‐2 人びとの『居心地』から都市空間を読み解く
3‐3 人びとは都市空間に『場所』をつくる
3‐4 人びとの生活と『まちづくり』
2 協働・共生のしくみづくり
協働のまちづくりのしくみ
4章 協働のまちづくりのあり方
(久 隆浩)
4‐1 協働の必要性
4‐2 協働の効用
4‐3 新しい公共と行政の役割
4‐4 協議型まちづくり
4‐5 ネットワーク型まちづくり
5章 コミュニティと地域自治
(坂井 信行)
5‐1 生活・コミュニティ・まちづくり
5‐2 生活の中のコミュニティ
5‐3 コミュニティと生活空間
5‐4 都市計画におけるコミュニティの考え方
5‐5 まちづくりを支えるコミュニティと地域自治
6章 都市のマネジメント
(篠原 祥)
6‐1 「都市のマネジメント」を取り巻く状況
6‐2 これからの都市のマネジメント
6‐3 都市のマネジメントの実践
6‐4 実践例から導き出される今後の方向
協働のまちづくりを担う人材
7章 まちづくりを支える専門家
(坂井 信行)
7‐1 まちづくりは誰が担っているのか
7‐2 まちづくりにおける専門家の関わり方
7‐3 まちづくりにおける専門家の役割
7‐4 これからの専門家に求められるもの
8章 まちづくりを担う市民
(松村 暢彦)
8‐1 まちづくりに市民が期待されている理由
8‐2 市民まちづくり活動とは
8‐3 市民まちづくり活動の基盤づくり
8‐4 よき市民をめざして
9章 自律的まちづくりのきっかけをつくる職能
(永田 宏和)
9‐1 住民参加型まちづくりの現状
9‐2 住民参加型まちづくりにおける新たなアプローチ手法
9‐3 「+arts」による現代版「祭り」プログラムの実施
9‐4 不完全プランニングのすすめ
共生のための都市・まちづくり
10章 自然の摂理を活かしたまちづくり
(宮崎 ひろ志)
10‐1 ひとと自然
10‐2 風土と計画
11章 都市と自然の共生
(下村 泰彦)
11‐1 「都市の自然」と「都市と自然」
11‐2 都市の自然
11‐3 都市と自然
11‐4 マネジメントの仕組みづくりに向けて
12章 人と人との共生のまちづくり
(室﨑 千重)
12‐1 すべての人びとのためのまちづくり
12‐2 目指すのはカタチではなくアクティビティ
12‐3 人と人との共生のまちづくりの方法
12‐4 福祉課題に地域で取り組む
索 引
本書は、日本都市計画学会関西支部20周年を記念して出版されたものである。
関西支部では、平成16年度~19年度に、鳴海邦碩大阪大学名誉教授を委員長として「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する研究特別委員会」を立ち上げ検討を重ねてきた。これは、近年、都市計画を巡る状況が急激に変化し、それに対応した新たな都市計画教育や人材育成について議論するためであった。都市計画という概念からまちづくり概念に社会的関心が移行し、そのなかで都市計画分野の専門家に要請される内容に変化が生じつつある。また、こうした変化を受け、都市計画学会に所属する大学教員の所属する学科や専攻も多様化している。
そこで、学会支部では、建築系、土木系、造園系など都市計画を担う既存分野の変化の実態を把握し、これからの都市計画がめざすべき方向を検討すること、また、大学教育を中心として都市計画分野の若手育成の方向や卒業生の新たな仕事分野の開拓の方向を考察することをめざして、特別委員会を組織したものである。
その後、さらに検討を進めるために、平成20年度~22年度に「新しい都市計画教程研究会」を立ち上げ、これからの都市計画のあり方にふさわしい都市計画教程のあり方について検討を重ねた。この研究会の初代委員長は榊原和彦大阪産業大学教授であり、その後、私が委員長を引き継ぎこの出版に至っている。
こうした都市計画の変化について、広原盛明京都府立大学名誉教授は、2004年の京都市職労のインタビューで次のように述べている。「今までの都市計画のようにまったく新しい大きなハコモノを造るときは予算も権限も技術も必要ですが、これからは(略)都市そのものはもはや大きくする必要がない、すでに出来た街をどうやって改善していくかということになると、これは役人とか専門家は脇役でいいようになります。そこに住んでいる人たちがまちづくりの主役にならないとうまくいきません」「このような運動に対して行政のとるべき態度は、役所はどうやって住民をサポートしていくべきかということでしょう」「地域に蓄積されてきた高度な生活文化を学ぶという謙虚な姿勢で入ってきて欲しいと思います。このような考え方は、従来のハコモノ中心の都市計画論、都市開発論とはまったく違います。むしろ社会学に近いまちづくり論かも知れません」。
人口減少時代に入り、成長・拡大を前提とした都市計画を根本から問い直すとともに、都市・まちづくりに関わる専門家の職能も大きく転換していく必要がある。工学技術を主体とした都市計画から、都市の文化を理解し、住民主体のまちづくりを支援していく新たな専門家像を検討していくことが求められている。都市・まちづくりを担う人材を養成する学部・学科が多様化していることは、こうした変化に呼応したものだといえる。政策学や社会学をはじめとした社会科学系の分野にも、都市・まちづくりを学ぶコースが増加している。本書は、こうした新たな枠組みで「都市・まちづくり学」を教える教科書としての役割も担っている。
本著では、都市計画の構造転換を「大きくつくる」都市計画から、自然な小さな変化を自律的に積み重ねる「結果自然成(けっかじねんになる)」の都市・まちづくりへの転換と捉え、論を展開する。これは先述の「今までの都市計画のようにまったく新しい大きなハコモノを造るときは予算も権限も技術も必要ですが、これからは都市そのものはもはや大きくする必要がない」という広原先生の指摘とも符合するものである。ハーバーマスが考察しているように、近代という時代は、経済システムと国家・行政システムで社会を動かしてきたが、近代都市計画も「金」や「権力」を使って都市を造ってきた。これには一定のパワーが必要であった。
しかし、人口減少時代を迎えるこれからは、省資源・省エネルギーで都市・まちづくりを進めていくことが求められる。地域に存在する資源を活用し、資源の関係性を紡いでいくことで「自ずと成らしめる」まちづくり、へと舵を切っていくことが大切である。そこでは、地域特性を読み解く技術、多様な主体の連携による協働のまちづくりのシステムづくり、そして、環境や社会・人と人との共生を指向した都市・まちづくり、が重要となる。こうした都市計画のパラダイムシフトの意味を理解し、これからの都市・まちづくりを担う人材養成に資することが、本著のねらいである。
以上の内容を受け展開する本書の各章の位置づけと意味を整理する。
序章は、本書がめざす都市・まちづくりの方向性を位置づける章であり、従来の都市計画の概念や手法をどのように転換していけばいいかについて概観する。
本論は、2部構成となっている。まず、Ⅰ部「都市の空間構成を読み解く」では、環境特性や空間秩序を読み取り、都市・まちづくりに活かすための基礎知識や技法について述べる。1章「農から学ぶ空間秩序」では農村空間を構成する空間秩序を、2章「都市空間の秩序とその諸相」では都市空間を構成する空間秩序を、そして、3章「人びとの生活から都市空間を読み解く」では生活行為と都市空間の関係性を読み解くための基礎知識を学ぶ。
続いてⅡ部「協働・共生のしくみづくり」では、新たな都市・まちづくりを展開するためのしくみづくりについて言及している。「協働のまちづくりのしくみ」を述べる部分では、4章「協働のまちづくりのあり方」でネットワーク社会にふさわしい都市・まちづくりシステムの方向性を概観し、5章「コミュニティと地域自治」で住宅地を中心とする居住空間を住民自らがマネジメントする方法論を、6章「都市のマネジメント」で都心部における自発型マネジメントの方法論について述べる。
続いて「協働のまちづくりを担う人材」を述べる部分では、7章「まちづくりを支える専門家」で都市・まちづくりを担う新たな専門家像について、8章「まちづくりを担う市民」で都市・まちづくりの主体者としての市民像について、9章「自律的まちづくりのきっかけをつくる職能」で住民の自律的なまちづくりを促進させる専門家の役割について言及する。
最後の「共生のための都市・まちづくり」を述べる部分では、10章「自然の摂理を活かしたまちづくり」で風土を活かした都市・まちづくりの方法論について、11章「都市と自然の共生」で都市と自然の共生のあり方について、12章「人と人との共生のまちづくり」ですべての人が幸せに暮らせるまちづくりのあり方について述べる。
時代の転換期、これといった確かなことが言えない状況での論考としては、まだまだ不十分なところ、試論的な部分もあるが、研究グループとしての現時点での合意点として本書の内容を受け止めて頂きたいとともに、読者自らが考えていく問題提起として読んで頂ければと願っている。
執筆者を代表して
久 隆浩(近畿大学総合社会学部教授・新しい都市計画教程研究会委員長)
2011年3月11日、本書の執筆に入ろうとするちょうどそのとき、東日本大震災に見舞われた。未曾有の災害、想定外、という言葉が飛び交ったが、防潮堤という近代技術で押さえこもうとした津波は、やすやすと防潮堤を乗り越え、東北地方を中心に甚大な被害をもたらした。また、福島では津波によって原子力発電所が大事故を起こしてしまった。技術力によって快適な居住環境を創造しようとしてきた近代の都市計画のあり方を根本から見直す時期にきたといえるのではないだろうか。本書の編集会議でも、この震災を受けて執筆内容の再考が必要かどうかを議論した。結果、大幅な見直しは必要ないとの結論に至った。これは、本著がすでに未来志向の内容になっていたことを意味している。
これから時代は大きな転換期を迎えるだろう。そして、それに呼応して、都市・まちづくりも大きく転換を図る必要があるだろう。じつは、本著の内容検討の進め方自体も、新たな都市・まちづくりと同じ過程を踏んだのではないかと思っている。従来のやり方であれば、委員長のリーダーシップのもと目次案が練られ、それにもとづいて研究会を進めていく方法がとられたと思う。一方、今回は、執筆候補者それぞれがみずからの問題意識を発表し合い、対話を通して意識や目標の共有を図っていった。当初はメンバーのなかにこうした新たな方法論に戸惑いがあったことは事実である。しかし、対話を重ねることによってやがて方向性が共有されていく実感がわき上がってきた。
こうした状況を、物理学者のD.ボームは、対話によってコヒーレントな状況が生まれると説明している。物理現象におけるcoherentとは、レーザー光のように複数の波動がお互いに干渉しあうことによって強力なパワーを持つ状態を意味するが、同じように対話によって生まれる共感・共有が社会を動かす大きな力となるということである。本書の編集もこうした過程をたどったのだが、これは21世紀のネットワーク社会に求められる社会システムであるともいえる。本書そのものが「結果自然成(けっかじねんになる)」であった。
協働作業で進められた本書の執筆は、多くの方々の尽力の賜である。本書のさきがけとなった「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する研究特別委員会」の委員長であった大阪大学名誉教授鳴海邦碩先生をはじめとする委員の先生方、「新しい都市計画教程研究会」を立ち上げて頂いた初代委員長の大阪産業大学教授榊原和彦先生、研究委員会の運営から本著の出版の時期に日本都市計画学会関西支部長として支援頂いた上原正裕氏、大阪府立大学教授増田昇先生、そして、研究委員会への助成を頂いた日本都市計画学会本部のみなさまに感謝を申し上げたい。最後に、編集者として適切な助言を頂き、叱咤激励を頂いた学芸出版社の前田裕資氏、編集作業にご尽力頂いた村田譲氏に心からお礼を申し上げたいと思う。
2011年10月
日本都市計画学会関西支部20周年を記念して
執筆者一同
※終了しました
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