地域ブランドと魅力あるまちづくり
内容紹介
大流行の地域ブランドづくり。成功の鍵は「地域づくりと産業振興の相乗効果」にある。「特産物(サービス)ブランド」構築に留まらず、地域のイメージ、すなわち歴史や文化、自然環境や景観と一体となった統合ブランドこそ大切だ。「まちづくり」「産業振興」といった垣根を超えた地域ぐるみでの統合ブランド強化を提唱する。
体 裁 A5変・256頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2502-6
発行日 2011/02/10
装 丁 上野 かおる
はじめに/本書で取り上げる主な地域
序章 地域ブランドとは何か
1積極化する地域ブランドへの取り組み
2地域ブランドとは何か
3地域ブランドの典型的事例
4地域ブランド確立に必要な多面的取り組み
第1章 いま、なぜ地域ブランドなのか
第1節 地域経済の再生・活性化
1避けられない地域経済の構造転換
2地域を襲う人口減・高齢化と財政難
3事例「綾部市」(京都府)
4事例「夕張市」(北海道)
5地域再生は地域ブランドの活用から
コラム ご当地水道水のブランド化
第2節 地方分権、市町村合併の進展
1地域主権の時代へ
2進む市町村合併の動き
3地域振興のキーワードは「多様性」と「個性」
4事例「篠山市」(兵庫県)
5事例「川上村」(長野県)
6地域経営の鍵となる地域ブランド
第3節 成熟化する消費者行動
1「消費の二極化」とは
2社会の成熟化と消費者の価値志向
3「生活の質」を求め始めた消費者
4事例「通販オンラインショップ まち楽」
5事例「自治体アンテナショップ」
第4節 観光立国、地域ツーリズムへの対応
1観光振興は地域の魅力づくり
2大きく変化する旅行市場
3「発地型観光」から「着地型観光」へ
4事例「ワインツーリズムと近代化産業遺産」(山梨県甲州市勝沼町)
5事例「ロケ誘致とフィルムツーリズム」(山形県庄内地方)
6事例「ヘルスツーリズムとフラオンパク」(福島県いわき湯本温泉郷)
7地域ツーリズムによる観光ブランド構築
コラム「ももいちご」にみる地域性(徳島県佐那河内村)
第2章「特産物(サービス)ブランド」への取り組み
第1節 地域団体商標
1地域団体商標制度とは
2地域団体商標制度の特徴
3出願と登録査定状況
4事例「関あじ」「関さば」(大分市)
5事例「紀州備長炭」(和歌山県)
6事例「静岡茶」(静岡県)
7地域ブランドにおける商標権の役割
第2節 地域食品ブランド表示基準「本場の本物」
1「本場の本物」とは
2認定のプロセス
3認定の状況
4事例「小豆島ブランド」(香川県小豆島町、土庄町)
5事例「鹿児島の壺造り黒酢」(鹿児島県霧島市福山町)
6品質を重視し訴求する「本場の本物」
第3節 酒類の産地ブランド保護
1地理的表示制度とは
2保護の内容
3事例「白山菊酒」(石川県白山市)
4地理的表示制度の今後(清酒を中心に)
5事例「佐賀県原産地呼称管理制度」
6清酒復興に必要な文化・環境ブランド
第4節 「食」のブランド化
1ご当地グルメによる町おこし
2「食」による観光まちづくり
3事例「芋煮」(山形県)
4事例「出石皿そば」(兵庫県豊岡市出石町)
5事例「北の屋台」(北海道帯広市)
6必要な空間構成と物語性
コラム 増える緑提灯~国産食材を増やす運動~/ご当地プレート
第3章「文化・環境ブランド」への取り組み
第1節 創造都市
1創造都市とは
2日本における創造都市
3事例「金沢市」(石川県)
4事例「萩市」(山口県)
5事例「沖縄市」(沖縄県)
6文化・芸術資源の活用とブランド化
第2節 アートによる地域づくり
1アートは地域を再生する
2事例「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟県十日町市、津南町)3事例「三河・佐久島アートプラン21」(愛知県一色町)
4事例「写真による町おこし」(北海道東川町)
5アートとブランド形成
コラム ヘブンアーティスト(東京都の大道芸人公認制度)
第3節 景観形成
1失われた景観
2事例「門司港レトロ地区」(福岡県北九州市門司区)
3景観法の制定
4事例「近江八幡市」(滋賀県)
5重視され始めた文化的景観
6事例「小鹿田焼の里」(大分県日田市)
7事例「法善寺横丁」(大阪市中央区)
8景観形成と文化・環境ブランド
コラム 鞆の浦訴訟と景観利益
第4節 歴史まちづくり
1魅力ある歴史的町並み
2歴史的町並みの保存事業
3歴史まちづくり法
4事例「亀山市」(三重県)
5事例「佐川町」(高知県)
6文化財の総合的把握と歴史文化基本構想
7事例「日南市」(宮崎県)
8歴史まちづくりによるブランド力の向上
第5節 生物多様性の保全
1生物多様性と地域の役割
2事例「コウノトリ舞う里づくり」(兵庫県豊岡市)
3事例「銀座ミツバチプロジェクト」(東京都中央区)
4事例「棚田を守る取り組み」(千葉県鴨川市ほか)
5生物多様性と地域のブランド化
コラム クラゲ展示で世界一の加茂水族館
第6節 「日本で最も美しい村」連合
1「日本で最も美しい村」連合とは
2事例「美瑛町」(北海道)
3事例「小値賀町」(長崎県)
4事例「小坂町」(秋田県)
5連合の取り組みについて
終章 ブランドの統合化と創造
第1節 京都ブランドはなぜ強い(優れた統合ブランドとは)
1京都という地域性
2厚みのある特産物(サービス)ブランド
3景観規制と文化・環境ブランド
4良質で魅力に富む観光ブランド
5京都ブランドと水
6京都ブランドの強みと課題
コラム 魅力づくりで巻き返す奈良ブランド
第2節 優れた地域ブランドを創造するには
1いかに統合ブランドを確立するか
2重要な「文化・環境ブランド」への取り組み
3多くの地域で構築可能な統合ブランド
4地域ブランドの確立に向けて
5地域ブランドのもう一つの課題(歴史的地名の消滅と復活)
おわりに/主な参考文献/重要用語索引
ここ数年、地域ブランドの事例調査のため全国各地を訪れている。先般も、日本の最北端にある北海道稚内市(人口3万9千人)に出かけた。同市にある二つの「北海道遺産」(「宗谷丘陵の周氷河地形」「稚内港北防波堤ドーム」)を見学するためだ。なかでも「宗谷丘陵」は、フットパス(歩行者用の小径)が整備され、広大な波状丘陵や牛の放牧、五七基の風車群(風力発電)などを間近にみることができる。北海道を代表する景観資源の一つである。
「北海道遺産」とは、自然、歴史・文化、地場産業などの地域資源から選ばれた、次世代へと引き継ぎたい有形・無形の財産群のことだ。道民全体の宝物として、公募により52件が選定されている。
選ばれたのは、「摩周湖」(弟子屈(てしかが)町)や「ジンギスカン」(道内各地)等の有名な資源だけではない。地域が熱心に保全・活用に努めているものや、今後の取り組みに期待できるものなどが多分野から選定されている。例えば螺湾(らわん)ブキ」(足寄(あしょろ)町)、「モール温泉」(音更(おとふけ)町など)、「ピアソン記念館」(北見市)、「アイヌ語地名」(道内各地)などで、その顔ぶれは実に多彩だ。
「北海道遺産構想」は、この「北海道遺産」を地域で守り、育て、活用するなかから、新しい魅力を持った北海道を創造していく道民運動である。狙いは、地域づくり・人づくり、地域への愛着と誇りの醸成、地域経済の活性化にある。こうした地道な活動が、北海道ブランドの多様性や厚みを増し、基盤の強化に役立っている。
いま全国各地で、このような地域ブランド形成への取り組みが始まっている。その背景には、人口減少や高齢化、財政難などで地域の活力低下に悩む自治体の姿がある。また、地方分権化の進展のもと、市町村合併後の産業振興を模索する地域の動きがある。疲弊した地域を再生し、活性化していくためには、持てる地域資源(自然、歴史・文化、地場産業等)を存分に活かして独自の魅力を創りだすことが必要だ。そして、その切り札となるのが地域ブランドである。
一方で各地の取り組みをみると、農林水産物や、その加工品、温泉などの「特産物(サービス)ブランド」の構築のみにとどまっているケースが多い。しかし、今後は地域資源を最大限に活用しつつ、幅広く個別ブランド構築へと取り組み、総合的にブランド力を高めていくことが必要である。優れた地域ブランドとは、多様性と個性に溢れた個別ブランド群によって構成される統合ブランドであるからだ。そのためにも、「特産物(サービス)ブランド」だけでなく、「文化・環境ブランド」への積極的な取り組みが求められる。そして、これらにより「観光ブランド」の構築も容易となってくる。
これから我が国では、地域の持つ歴史・文化、景観、自然環境などを主要資源とする「文化・環境ブランド」の構築が重要となるだろう。さらには、それらの多様な個別ブランド群を統合ブランド確立へと、いかに収斂させていくか。地域のブランド戦略が問われるところだ。
本書は、2008年に出版した『観光振興と魅力あるまちづくり~地域ツーリズムの展望』の姉妹書といえるものである。前著を上梓してから、地域の魅力創造と地域ブランドについて考え続けてきた。また、実際にいろいろな地域を訪ねて、地域の人たちと一緒に考え、議論を重ねる機会を作ってきた。それらの思考過程や活動のなかから生まれたのが本書である。執筆にあたっては、できるだけ幅広い視点から地域ブランドを捉えるように努めた。また、各地の事例をふんだんに盛り込み、具体的かつ実践的な内容となるように心がけた。
想定する読者は、地域ブランドの研究者や学生はもちろんのこと、ブランド構築や活性化事業等に携わる行政マン・実務家である。また、観光に関連する人たちにも、是非読んで頂ければと思っている。従来とは違った視点から、観光振興を捉え直すことができるだろう。本書が、わが国の地域ブランド形成や魅力あるまちづくりに、少しでも貢献できれば幸いである。
本書は、全体を5章で構成している。序章は「地域ブランドとは何か」として、地域ブランドの基本概念等を紹介した。特に地域ブランドの定義では、筆者独自の理論展開を試みている。第1章「いま、なぜ地域ブランドなのか」では、地域ブランドが求められる背景について詳しく説明した。第2章は「特産物(サービス)ブランドへの取り組み」として、地域団体商標や本場の本物など四つの分野を解説した。第3章「文化・環境ブランドへの取り組み」では、地域ブランドの新領域として創造都市、アート、景観など六分野を分析している。特に生物多様性は、これまでにない地域ブランドの視点として興味を持って読んで頂けるだろう。終章の「ブランドの統合化と創造」は、京都ブランドを分析したうえで、優れた統合ブランドの創造について論じた。併せて歴史的地名の重要性についても触れている。また、幾つかのトピックスを、肩の凝らないコラムとして掲載した。
岡山県真庭市(人口5万人)の勝山地区は、古くからの城下町で、かつて出雲街道の宿場町として栄えたところだ。白壁の土蔵や連子格子の家々が連なる町並みが残り、伝統的な風情を醸しだしている。この歴史的町並みで特徴的なことは、家々の軒先を飾る色鮮やかな暖簾の存在である。
「ひのき草木染織工房」の店主が、町に何か特徴をと考え、自らの店の軒先に暖簾をかけ始めたのがきっかけである。今から15年ほど前のことだ。その美しさに惹かれて次々と賛同者が増え、現在では約100軒もの家々に暖簾がかかっている。商店や工房はもとより一般の民家にも、その店や家を象徴するセンスある暖簾が飾られている。
今では「暖簾のある風景」が、勝山の町を表す代名詞となり、それを見に訪れる旅行者も増えてきた。自分の町に対する愛情と誇りが住民の一体感を呼び、旅行者へのもてなしの心と重なったものだ。勝山の試みは、住民の自主的な行動から成り立っている。それが結果として、歴史的町並みに付加価値をつけることとなった。
ブランドとは顧客からの評価である。地域ブランドにおいても全く同じである。歴史的町並みのような文化資源では、そこに居住する地域住民が暮らしに満足しているかどうかがブランド化の大きな鍵となる。勝山の事例からも理解されるように、地域住民の町に対する良好な評価が「文化・環境ブランド」を創りだす。そして、その良好な評価が外部へと伝わり「特産物(サービス)ブランド」「観光ブランド」の形成を助け、さらには統合ブランドの確立へと結びついていくのだ。
急速に成熟化しつつある日本では、人々の抱く興味や関心が個性化し多様化している。このため、地域性を活かした商品開発や個性あるまちづくりが、これまで以上に人々から受け入れられる可能性が高まってきた。
また、今後の日本は、地方分権化が進むなかで、否応なく地域間競争の荒波にさらされるだろう。これらに対応していくためには、各地域が個性を磨き、独自の魅力を備えておかなければならない。そのためには、持てる地域資源(自然、歴史・文化、地場産業等)を存分に活用することで、地域のブランド力を高めておくことが不可欠である。
本書では、現在、全国各地で取り組まれている地域ブランドの事例を、数多く取り上げた。これらを参考に、読者が今まで以上に地域ブランドと魅力あるまちづくりに関心を持って頂けるならば幸いである。
本書の執筆に際しては、各地で地域ブランド構築やまちづくりの第一線で活躍される多くの人たちから協力を頂いた。特に、事例研究に当たっては、現地調査や資料収集、写真提供などで多大なお世話になった。記して感謝したい。
学芸出版社の前田裕資氏には、本書の企画段階から的確なアドバイスを頂いた。また、私事により脱稿が大幅に遅れたが、その間辛抱強く待って下さった。心よりお礼申し上げたい。編集は、前著に続き小丸和恵さんに担当して頂き大変お世話になった。
最後に、今年94歳を迎えた父・茂と、八八歳を迎えた母・姫子に本書を捧げることとしたい。
2010年12月
佐々木 一成
- 出版記念講演会開催! (3月4日/京都)
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- インタビュー『地域ブランドと魅力あるまちづくり』を語る
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