コミュニティビジネス入門
内容紹介
地域の活力と雇用を生み出すビジネスモデル
近年、地域のスモールビジネスや社会的貢献を目指すビジネスが注目されている。コミュニティビジネスとは何か、これまでの発展過程を俯瞰しながら、非営利活動主体や社会起業家の活動、経営課題、協同組合や中間支援組織の役割などを解説。さらに、多様な連携によるまちづくりへの新たな展開を探る。事例・用語集も掲載した。
体 裁 A5・208.0頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2473-9
発行日 2009-10-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
第1講 持続可能な社会を築くコミュニティビジネスの可能性
風見正三
1・1 地域社会の変貌とコミュニティの再構築
1 地域問題の複雑化とコミュニティの衰退
2 コミュニティの概念定義と多様な展開
3 コミュニティの連鎖による新たなまちづくり
1・2 持続可能な社会を築くコミュニティビジネス
1 コミュニティビジネスの社会的背景
2 コミュニティビジネスの概念定義
3 日本におけるコミュニティビジネスの展開
1・3 コミュニティビジネスによる地域再生
1 コミュニティビジネスの社会的意義
2 持続可能な地域づくりとコミュニティビジネス
3 コミュニティビジネスによる地域経営の展開
第2講 コミュニティビジネスの機能と基盤整備─協働型社会形成のパートナーとして
山口浩平
2・1 協働型社会への助走 なぜコミュニティビジネスが今必要なのか?
1 コミュニティビジネスを位置づける前提となる「協働型社会」
2 協働型社会とコミュニティビジネス
2・2 欧州における社会的企業論と「協働型社会」
1 社会的企業とは何か
2 協働型社会の担い手としての政策化
2・3 「協働型社会」における課題
1 概念の多様化
2 支援を行う根拠
2・4 「協働型社会」を支えるコミュニティビジネスの基盤整備
1 人の流れ─人材の流動化を進めるしくみづくり
2 お金の流れ
3 ネットワーク形成─生協など既存の非営利組織との協働、社会的経済
4 法・政策・制度
2・5 「協働型社会」におけるコミュニティビジネスの発展のために
第3講 コミュニティビジネスセクターの特徴と社会起業家の役割
木下 斉
3・1 事業による社会問題解決
1 コミュニティビジネスに期待される役割
2 民間企業セクターの特徴と制約
3 社会的要請を経営的に解決する
4 コミュニティビジネスセクターの経営規模
3・2 社会起業家の役割
1 コミュニティビジネスにおける社会起業家の役割
2 社会起業家に求められる成果
3 社会起業家を支えるプラットフォーム
4 自らコミュニティビジネスに取り組む
第4講 コミュニティビジネスのガバナンス
松本典子
4・1 コミュニティビジネスとガバナンス
1 コミュニティビジネスの定義と課題
2 コミュニティビジネスにおけるガバナンス
4・2 コミュニティビジネスの経営課題
1 コミュニティビジネスの分類
2 福祉分野におけるコミュニティビジネスの事例と特徴
3 コミュニティビジネスの経営課題とガバナンス
4・3 コミュニティビジネス・ガバナンスのあり方
1 コミュニティビジネス・ガバナンスの課題
2 コミュニティビジネスの発展に向けて
第5講 コミュニティビジネスにおける協同組合の可能性
志波早苗
5・1 協同組合とは何か? 歴史と今日的価値
1 協同組合が現代的に求められている
2 協同組合の歴史
3 協同組合の特徴
5・2 運動を事業に、事業を運動に
1 地域生協づくりと消費者運動
2 オルタナティブな働き方
5・3 コミュニティビジネスと協同組合
1 生協の規模とインフラ
2 生協のインフラ・システムをコミュニティビジネスにどう活かすのか
第6講 コミュニティビジネスに対する支援機能の必要性と課題
藤木千草
6・1 コミュニティビジネスに対する支援とは何か?
1 支援組織の形成過程と現状
2 日本における支援組織の運営と事業展開
6・2 支援組織の事例紹介
1 地域のニーズ・諸活動から発足
2 専門家による設立
3 当事者が自分たちで組織したもの
6・3 今後構築すべき支援機能
1 課題の整理
2 暮らしに役立つコミュニティビジネスの案内人─「地域コーディネーター」養成
3 社会的な基盤整備に向けて
第7講 コミュニティビジネスとまちづくりの新たなる展開
木下 斉
7・1 従来型まちづくりの終焉と新たな胎動
1 補助金依存のまちづくり
2 新たなまちづくりの胎動
7・2 まちを変えるコミュニティビジネス
1 コミュニティビジネスによる、経営からのまちづくり
2 成長が期待される事業型まちづくり会社
3 コミュニティビジネスとの戦略的提携
4 まちづくりにおけるコミュニティビジネスの展望
近年、地域経済の衰退や地域環境の悪化など、我々をめぐる社会では様々な問題が山積しています。これらは、20世紀における、自然を尊重しない環境開発、利益重視の経済活動、人間性を軽視した社会制度などによって生じたものであり、これらの問題を解決するためには、経済・社会・環境の多元的な視点からのアプローチが必要となっています。そして、現在、このような複雑な諸問題を解決し、21世紀における持続可能な社会を実現するためのキーワードとして注目されているものが、「コミュニティ」の概念です。持続可能な社会の実現のためには、地域が主体となり、地域の歴史的な蓄積や生活文化等の豊かさを守り育てていくことが求められています。こうした地域の豊かな歴史や風土、生活や産業を将来に継承していくためには、地域資源を主体的に管理していく社会基盤としての「コミュニティ」の再構築が必要となっています。
本書は、このような、20世紀の負の遺産を解消し、21世紀にふさわしい持続可能な社会を築いていく基礎となるコミュニティの重要性や地域の持続的な発展を支える新たなビジネスとしての「コミュニティビジネス」を学ぶ教科書として書かれました。現在、コミュニティビジネスに関する講義は、全国の様々な大学で設けられています。本書では、こうした注目を集めているコミュニティビジネスの基本概念を踏まえ、コミュニティビジネスの魅力や可能性について理解できる入門書となっています。特に、コミュニティビジネスを初めて学ぶ学生や市民の方々にも、コミュニティビジネスの基本的な知識や具体的なビジネスモデルを理解できるよう、多くの事例を盛り込むとともに、各講には、推薦図書や簡単な設問を設けています。巻末には用語集をまとめ、基本的な用語を踏まえながら、コミュニティビジネスの総合的な理解ができるよう配慮しました。
また本書は、現在、様々な大学でコミュニティビジネスの講義を受け持っている教員及び実践の場でコミュニティビジネスに携わっている実務者との協働によって生まれた「理論と実践」をつなぐ教科書であり、「コミュニティビジネス」「社会的企業論」「非営利経営論」等の講義で広く使われるための教科書となっています。コミュニティビジネスという新たな分野が定着してきた今日、基本概念を踏まえつつ、まちづくりや医療福祉、子育て、生協活動やワーカーズコレクティブなど、新たな領域に広がる「コミュニティビジネス」の全体像をつかみながら、その発展性を示す教科書を書き記したいという著者の使命感から生まれたものです。
本書の主な構成としましては、まず、第1講では、持続可能な社会の基盤となる「コミュニティ」の役割やそれらの連携によって育まれる「コモンズ社会」の重要性を理解するとともに、その実現の鍵となる「コミュニティビジネス」の発展過程や今後の可能性について学んでいきます。
続いて、第2講では、コミュニティビジネスが発展を遂げてきた背景となる「協働型社会」について、コミュニティビジネスの先進国であるヨーロッパの動向も理解しながら学んでいきます。
第3講では、コミュニティビジネスの事業的な特徴やその基盤となる「志」のビジネスや「社会起業家」といった概念について学んでいきます。特に一般的なビジネス、行政サービスとの共通点、相違点などを整理して、コミュニティビジネス特有の性質について理解していきます。
さらに、第4講では、コミュニティビジネスの経営面に焦点を当てながら、コミュニティビジネスの組織の在り方や特徴について学んでいきます。その中では地域のニーズに応えていくための組織としてのガバナンスの重要性についても触れていきます。
第5講では、以上の基本概念を踏まえて、具体的な事例をあげながら、コミュニティビジネスの実態や可能性について学んでいきます。特に、ここでは、消費生活協同組合を中心とした協同組合の特性やその事業規模などに注目し、コミュニティビジネスを行う上での生活協同組合の可能性について触れています。
そして、第6講では、地域の細かなニーズや課題の解決を目的としているコミュニティビジネスに注目し、このような組織が、経営に関する知識や事業分野の専門性をどのように克服していったのか、その様々なアプローチやそれらに対する支援制度など、様々な法制度や行政施策などについて学んでいきます。
最後に、第7講では、これからの展開が期待されるコミュニティビジネスによる新たなまちづくり事業の可能性について学んでいきます。これまでのまちづくりは、行政中心で進められることが多く、コミュニティビジネスの登場は、まちづくりの新たな可能性を提示しています。
今日、地域の課題を解決する地域密着型の「コミュニティビジネス」や社会問題の解決を目指した「ソーシャルビジネス」など、新たな働き方が注目を集めています。こうした「コミュニティビジネス」やその担い手としての「社会起業家」の潮流は、疲弊した日本経済や衰退した地域に元気を吹き込む新たな希望となっていくでしょう。本書は、混迷する現代社会の中で、こうした社会改革、地域再生の担い手として新たなチャレンジに挑もうとする「志」を持った人々の将来に向けた羅針盤として寄与するものとなれば著者として望外の喜びであります。
2009年10月
著者を代表して
風見正三
本書は、近年、社会的な注目が高まるコミュニティビジネスの基礎理念や実践手法を理解するための入門書として書かれていますが、その底流にあるものは、持続可能な社会の実現という本質的な命題です。地球環境問題は深刻さを増し、国内の経済状況も容易には改善されない現状ではありますが、その中で一筋の光を見出すことができるのは、本書で取り上げたような地域への愛や志から発する「地域市民の社会的事業」の潮流です。地方都市は、経済的には疲弊していますが、まだまだ豊かな自然環境が残り、地域を愛する人々が元気に頑張っています。大都市でも、巨大なオフィスビル群に囲まれながらも、江戸時代から続く老舗を守る後継者や人情味あふれる元気な商店街が残っています。
「地域に生きる市民:地域市民」という存在が、まちの主役であり、地域再生に向けた最後の希望になることは間違いないことでしょう。持続可能な社会の基盤となるものは、その土地の自然や歴史であり、それを主体的に守ろうとする市民の存在です。かつては、産業も地域の歴史や文化、自然環境に深く結びついて発展してきました。地域の産業が地域の人々と共に育ち、地域で支えられてきた時代には、持続可能な社会という命題自体が不必要だったのです。かつて、日本経済を牽引してきた重厚長大型の産業は、国家的な経済成長をもたらしましたが、地域で生きる人々の「真の豊かさ」を実現するには至りませんでした。急激な近代化は、地域と共に生きてきた伝統芸能や職人技を消滅に追いやってきました。大都市への一極集中は、地方都市の人口減少や大都市の環境悪化を同時に進行させてきました。我々消費者も生活の利便性を追い求めるあまり、ものづくりへの敬意や日本の伝統的な生活文化を失ってきたのです。
しかし、日本は、未だ、自然に恵まれた豊かな文化を持つ国であり、自然環境や社会経済の循環システムを再構築していくことにより、持続可能な社会を実現できる大きな可能性を持った国です。21世紀は、これまでの「大量生産」「大量消費」「大量破棄」のライフスタイルを変革し、「地域主体」「地域連携」を基にした「持続可能な社会」を実現しなければなりません。そのためには、企業や行政も変わらねばなりません。そして、市民も本気で変わらねばなりません。
本書は、このような時代を背景に書かれました。本書の発端となったものは、こうした持続可能な社会を実現するために、コミュニティビジネスやワーカーズといった新たな働き方の社会的な意義や可能性を研究するための「コミュニティビジネス・パートナーシップ」という研究会の存在です。ここでは、コミュニティビジネスの研究者や実務者が、その専門領域を超えて、コミュニティビジネスやワーカーズの現状と課題について議論を進めていました。その後、2008年には、(財)生協総合研究所内に、「市民ファンド研究会」が設置され、研究所のご支援を受けながら、研究活動を継続できることになり、今回、それらの成果を踏まえながら、本書を取りまとめることができました。
「市民ファンド研究会」では、コミュニティビジネスや社会的企業に関する講義を担当する教育者の視点や、コミュニティビジネスに携わる事業家やそれらを支援する専門家としての視点からの多元的な議論を繰り返してきました。特に、本研究会は、まちづくりや生協活動などの学際的な研究者、実践者が集う会であったため、これまで注目されることが少なかった地域づくりと協同組合の関係性やコミュニティビジネスとまちづくりの連携についても十分な議論を行いながら、本書を取りまとめることができました。
本書は、まちづくり、社会的経済、協同組合、地域経営などの様々な学問領域や実務領域を超えたパートナーシップを目指した入門書であり、その目指すところは、本書をもとに、地域市民が実際に事業を創造し、すでに活躍している社会起業家とのパートナーシップを形成していくことにあります。そのためには、今後、本研究会を基盤にした中間支援機能を強化していく必要もあると考えています。
本書が発刊準備を迎えた2009年9月は、「政権交代」という歴史的な出来事が起きた時期となりました。国民は、この閉塞化した日本社会の変革を新たな政権に託しました。2009年1月には、バラク・オバマ氏が第44代アメリカ合衆国大統領に就任し、「We can Change!」というメッセージが世界的に広がりました。まさに、市民と政治、市民と経済、市民と行政、市民と環境、様々なフィールドで「市民の市民による市民のための変革」が起きようとしているのです。
本書は、こうした「市民の力」を地域づくりに活かしていくための入門書として企画されました。現在、日本の各地で、地域を愛し、地域の将来を築くために数多くの実践者が日々活動を続けています。本書では、このような地域発の様々な事例を盛り込むことができました。多忙な業務が続く中、快く取材に応じて頂きましたNPO法人や企業、自治体、関係機関の皆様に、この場を借りて御礼を申し上げたいと思います。そして、今、このような「地域発」「市民発」の様々なチャレンジが地域に地殻変動を起こそうとしています。
「コミュニティビジネス」という新たなビジネス領域や働き方は、持続可能な社会の構築や人間性の回復のための大きな原動力となるでしょう。これからは、地域課題に取り組み、地域再生の主体となる「地域市民」の存在がさらに重要な鍵となっていきます。本書が、こうしたコミュニティビジネス分野への参入の機会となり、持続可能な社会の構築に向けた研究や実践が進むことになれば、執筆者として、これ以上の喜びはありません。そして、本書が、21世紀の日本社会を担う社会起業家を目指す方々の羅針盤としての役割を持つ実践的な入門書となることを願っております。
最後になりましたが、コミュニティビジネスという新たな分野に学際的な視点から取り組んだ本書を世に送り出す機会を頂きました学芸出版社、そして、本書の企画段階から様々なご尽力を頂きました編集部の前田裕資氏、最後の編集作業に多大なるご助力を頂きました中木保代氏に心から御礼の言葉を申し上げます。
2009年10月
著者を代表して
風見正三