市民・地域が進める地球温暖化防止


和田 武・田浦健朗 編著

内容紹介

脱温暖化社会への活路を拓く創意溢れる挑戦

地球温暖化を防ぐには大幅な温室効果ガスを早急に削減する必要があり、市民主導・地域発の取り組みが鍵となる。本書は、省エネ、自然エネルギー、温暖化防止教育、環境マネジメント等への、自治体、企業、地球温暖化防止活動推進センター、市民らの創意溢れる実践を多数紹介。脱温暖化社会への活路をいかに切り拓くかを解説。

体 裁 A5・240頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2407-4
発行日 2007-06-30
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめにあとがき読者レビュー

はじめに

1章 今なぜ地球温暖化防止なのか

地球温暖化は進みつつあり、さまざまな影響が現れ始めている
地球温暖化・気候変動は人間活動に原因がある
このままでは今後、重大な影響がもたらされる
事態は切迫しており、ただちに真剣な対応が求められる

2章 地球温暖化防止は市民・地域の取り組みが鍵

地球温暖化防止活動を推進してきた市民
市民や地域が取り組む意義
温暖化対策推進に不可欠な市民参加
パートナーシップの重要性
市民・地域の取り組みを阻む壁
脱温暖化社会に向けて

3章 市民参加による自治体の地球温暖化対策・政策

自治体の温暖化対策分野・政策手法
自治体の温暖化対策に関連する条例・計画
自治体の温暖化対策の実施状況
市民参加による条例・計画づくり
市民参加・パートナーシップ型の対策推進の体制づくり
温暖化対策を着実に実施するために

4章 省エネルギーの取り組み

省エネの考え方
環境家計簿
家電製品の「省エネラベル」
公立学校のフィフティ・フィフティ
事例報告 東京都杉並区における50/50
地域全体で取り組む省エネ活動
事例報告 川口市のエコライフDAY

5章 自然エネルギーの普及

自然エネルギー普及の担い手は市民・地域
市民共同発電所
事例報告 廃品回収収益による太陽光発電所の設置
事例報告 市民風車の設置と地域活性化の取り組み
事例報告 ミニ水力発電による地域おこし
廃食油回収・BDF利用による温暖化対策
事例報告 わが家から始めた廃食油回収の歩み
自然エネルギー100%コミュニティ
事例報告 葛巻町におけるエネルギー自給のまちづくり
自治体の自然エネルギー政策

6章 温暖化防止教育

子ども向け温暖化防止教育
事例報告 お手紙ワークショップ
事例報告 兵庫県センターの温暖化防止教育
社会人向け温暖化防止教育
事例報告 自然エネルギー学校・京都

7章 中小企業や自治体の環境マネジメントシステム

環境マネジメントシステムを構築する規格
中小企業のための環境マネジメントシステムKES
自治体のための環境マネジメントシステムLAS-E
事例報告 八幡市におけるLAS-E
環境マネジメントシステムの取得効果と社会的役割

8章 都道府県地球温暖化防止活動推進センターの取り組み

都道府県センターの概要
都道府県センターの組織体制、活動内容
都道府県センターが抱える問題点、課題
京都府地球温暖化防止活動推進センター
脱温暖化センターひろしま
取り組みの強化に求められるパートナーシップの構築

9章 市民参加・パートナーシップに基づく温暖化対策の展開

市民参加・パートナーシップの重要性
滋賀県野洲市の取り組み
事例報告 環境と経済を両立させる野洲市の地産地消のまちづくり
大阪府豊中市の取り組み
京のアジェンダ21フォーラム(京都市)の取り組み
取り組みを推進するための基盤整備の重要性

10章 持続可能な社会の実現を目指して

持続不可能な現代社会と持続可能な社会
利潤優先の生産から市民・社会の意向を反映する生産へ
持続可能な社会への発展

おわりに

[編著者]

和田武(わだ・たけし)

[1、2、5、7、10章執筆・編集]

立命館大学産業社会学部特別招聘教授。同大学環境保全論研究会主宰。自然エネルギー市民の会代表など。工学博士。1941年和歌山市生まれ。65年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、その後、住友化学工業㈱中央研究所、愛知大学などを経て1996~2006年立命館大学産業社会学部教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。単著に『地球環境論』(創元社、韓国でも翻訳出版)、『新・地球環境論』(創元社)、『地球環境問題入門』(実教出版)。編著に『環境問題を学ぶ人のために』(世界思想社)。監修に『21世紀子ども百科・地球環境館』(小学館)。共著に『地球温暖化を防止するエネルギー戦略』(実教出版)、『環境問題を哲学する』(文理閣)、『地球温暖化防止とエネルギーの課題』(水曜社)、『21世紀の日本を見つめる』(晃洋書房)、『環境展望』シリーズ(実教出版)など多数。

田浦健朗(たうら・けんろう)

[2、3、4、6章執筆・編集]

特定非営利活動法人気候ネットワーク事務局長。神戸大学大学院国際協力研究科修士課程修了。1997年に気候フォーラムに参加、98年から現職として、温暖化防止に関する調査・研究、政策提言、セミナー・シンポジウムの開催、講演等に携わる。2003年から立命館大学非常勤講師。京のアジェンダ21フォーラム常任幹事。京都省エネラベル協議会代表など。

平岡俊一(ひらおか・しゅんいち)

[3、8、9章執筆・編集]

特定非営利活動法人気候ネットワーク研究員。1978年愛媛県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科博士課程後期課程修了。社会学博士。地域での温暖化対策、環境政策における市民参加などが専門。立命館大学非常勤講師。立命館大学環境保全論研究会メンバー。論文「地方自治体での温暖化対策における市民参加に関する研究」『環境情報科学論文集』19など。

豊田陽介(とよた・ようすけ)

[5章執筆・編集]

特定非営利活動法人気候ネットワーク研究員。1977年広島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程修了。社会学修士。京都市環境保全活動推進センターを経て現職。市民による自然エネルギー事業推進のための調査、研究、政策提言、セミナー・シンポジウムの企画・運営、講演、各地の自然エネルギー事業(市民共同発電所や自然エネルギー学校)へのアドバイス・サポート、市民共同発電所の計画・建設等の活動を行う。特定非営利活動法人きょうとグリーンファンド理事。自然エネルギー市民の会運営委員・風力発電部会長。立命館大学環境保全論研究会メンバー。

[執筆者]

鈴木靖文 有限会社ひのでやエコライフ研究所[4章2節2、3項]
伊東真吾 京都府地球温暖化防止活動推進センター[4章3節]
染谷有美子 国際環境NGO FoE Japan[4章4節、事例報告]
浅羽理恵 特定非営利活動法人川口市民環境会議 代表[4章 事例報告]
清水玄太 パルシステム生活協同組合連合会。立命館大学環境保全論研究会メンバー[5章2節]
松下修 特定非営利活動法人エコロジーアクション桜が丘の会 理事長[5章 事例報告]
三上亨 特定非営利活動法人グリーンエネルギー青森 常務理事・事務局長[5章 事例報告]
傘木宏夫 NPO地域づくり工房 代表理事[5章 事例報告]
佐藤嶺太 独立行政法人水資源機構。立命館大学環境保全論研究会メンバー[5章3節]
蒲田充弘 特定非営利活動法人丹後の自然を守る会 理事長[5章 事例報告]
下天广浩 葛巻町企画財政課(前・環境エネルギー政策課)[5章 事例報告]
木村啓二 立命館大学大学院国際関係研究科研究生。有限会社ひのでやエコライフ研究所[5章5節]
前田昌宏 立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程在籍。同大学環境保全論研究会メンバー[5章5節]
吉川春菜 京都府地球温暖化防止活動推進センター。立命館大学環境保全論研究会メンバー[6章 事例報告]
竹垣内加奈 立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程在籍。同大学環境保全論研究会メンバー[6章 事例報告]
岡優子 特定非営利活動法人再生可能エネルギー推進市民フォーラム西日本(前・特定非営利活動法人気候ネットワーク)[6章 事例報告]
佐々木明穂 特定非営利活動法人KES環境機構 主幹審査員。立命館大学環境保全論研究会メンバー[7章]
中口毅博 特定非営利活動法人環境自治体会議環境政策研究所 所長。芝浦工業大学システム工学部教授[7章3節]
西脇居則 八幡市市民自治・安全課長(前・環境保全課長)[7章 事例報告]
木原浩貴 京都府地球温暖化防止活動推進センター[8章4節]
薦田直紀 脱温暖化センターひろしま 事務局長[8章5節]
遠藤由隆 野洲市政策推進課[9章 事例報告]
中村義世 特定非営利活動法人とよなか市民環境会議アジェンダ21。花と緑のネットワークとよなか。立命館大学環境保全論研究会メンバー[9章3節]

[編集協力]

気候ネットワーク

COP3を市民の立場から成功させる目的で活動した「気候フォーラム」の趣旨・活動を受け継いで、1998年4月に設立された全国的なネットワーク組織。99年12月に特定非営利活動法人に移行。京都議定書の実施、地球温暖化防止を目的として、国際交渉への参加、国内政策の監視・提言、市民向け情報発信、シンポジウムの開催、キャンペーン活動、地域レベルの政策提言、実践活動等を行っている。URL:http://www.kikonet.org/

立命館大学環境保全論研究会

編著者の和田武が主宰する研究会。地球温暖化防止を中心とする環境保全論に関する研究会で、院生の学びの場でもある。再生可能エネルギー普及、地域温暖化対策、温暖化防止教育、環境マネジメントなど、持続可能社会の構築が主テーマ。メンバーは立命館大学大学院社会学研究科和田ゼミ院生や修了生が中心であるが、他の院生にも開かれた院ゼミ式研究会である。

今や地球温暖化・気候変動は、人類にとって最重要問題になりつつあります。IPCC第4次報告書は、地球温暖化の進行でさまざまな悪影響がもたらされ始めており、それがほぼ間違いなく人間活動に起因していることを科学的に明らかにしました。このままでは人類の将来が危機的なものになることも推定されており、温暖化防止は待ったなしの状況にきています。世界と未来世代に対する責務を果たすには、「京都議定書」の目標を達成し、さらなる温室効果ガスの大幅削減を進めるとともに、安全で持続可能な社会を実現することが私たちに求められているのです。

危機を回避するために、すでにEU諸国などは、温室効果ガスを大幅に削減する中長期目標を示しています。イギリス・フランス・ドイツなどは2050年までに60~80%の削減を目指し、ノルウェーやコスタリカは排出量を0にする方針を表明しています。しかし、日本は自国の中長期目標を示しておらず、現実に削減も進んでいません。国が大幅な削減政策を打ち出し、排出量が最大の産業界での削減を推進することが不可欠ですが、私たち多数の市民や自治体などが地域での温暖化対策を積極的に推進し、その声を社会全体に広め、強めていくことを通じて、早急にそれらのことを実現しなければなりません。

本書は、地球温暖化防止のために市民が中心になってさまざまな主体との協力、協働を通じて、地域での取り組みを全国に広げていくことを願って書かれています。温暖化防止の緊急性、市民、自治体、事業者などによる地域での取り組みの重要性を述べるとともに、各地で取り組まれている市民参加とパートナーシップによる温暖化対策、省エネ、自然エネルギー普及、温暖化防止教育、中小企業等の環境マネジメント、地球温暖化防止活動推進センターと推進員の取り組みなどの現状や克服すべき課題を示しました。また、各分野の多くの先進的事例を紹介しました。温暖化防止の取り組みが持続可能な社会への道を拓くことも論じています。温暖化防止に関心を持つ市民、自治体、企業、温暖化対策推進員など、さまざまな立場の方々が地域で互いに協力しながら行動していく上で参考にしていただけるよう努めたつもりです。今後、多くの皆さんとともに地球温暖化防止を推進していければ幸いです。

なし

本書は、地球環境問題に関する啓発書であると同時に地球温暖化防止行動への手引書である。その焦点は、地球温暖化防止のための市民による取り組みや地域での活動にある。

一読後に強く印象付けられるのは、第一に、山盛りあるいは大盛りの内容になっている点である。全国各地の取り組み事例が豊富に紹介されていて、これを見ているだけでも楽しくなってくる。加えて、事例が無秩序に並んでいるのではなく、省エネルギー、自然エネルギー、温暖化防止教育などの活動分野ごとに体系化されコンパクトに紹介されている。

第二の強い印象は、温暖化防止に関して言えば、本書のアプローチがもっとも正当な方法かもしれないと思わせられる点である。温暖化防止において国家戦略や国際社会の働きはもちろん重要だが、結局は、個々のアクターの意識や行動による問題解決しかないことを考えると、当然といえば当然の主題あるいは対象の選択であった。

第三に、印象付けられたのは、本書全体を通じて一貫している考え方である。それは端的に『地球規模で未来のことを考え、地域で今行動しよう』と表現されている。これは、未来を見据えて行動を起こしつつある全国の各地域における市民発の温暖化防止活動を多く取り上げた本書にとって、実に的確にその精神を言い表した言葉であるように思える。

こうした印象はさておき、本書で注目すべきは、地球温暖化防止において最も重視されるべきことが市民参加とパ-トナーシップにあり、その事例が豊富に示されているという点である。すでに従来から言い古されてはいるが、各主体の取り組みの成否が市民参加の広がりにかかっていること、また、企業や地方自治体、あるいは国の場合においても、市民参加による環境ガバナンスが、地球温暖化防止において決定的に重要である。この市民参加は単なる参加ではなく、環境パートナーとしての自覚と行動によって支えられる参加とパートナーシップ活動を意味している。事例を示しつつパートナーシップによって効果的で広がりのある温暖化防止活動を実現できるという本書の主張は、改めて傾聴されなければならない。

(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授/新川達郎)

担当編集者より

「京都議定書に定められた温室効果ガスの削減目標達成は、対策が十分に進んでおらず、目標達成は極めて厳しい」(2007年7月25日、環境省と経済産業省の合同審議会発表)。こうして手をこまねいているだけの国を尻目に、市民や地域が自らの意思で立ち上がり、着実に一歩一歩、実績を残してきた。とりわけヨーロッパなどの環境先進国では、こうした市民や地域の実践が、国を動かし、EU全体で世界をリードするまでに成果を挙げている。日本の未来図はまだまだ前途多難だが、本書に描かれた先駆者たちの真摯な取り組みが、より多くの人々を巻き込み、日本を変えていく力となることを信じたい。

(MY)