東京再生 Tokyo Inner City Project

伊藤 滋・ピーター・ロウ・石川幹子・小林正美 著

内容紹介

超高層ビルだけの東京再生への代替案を示す

超高層ビルの群造形としての香港のような街が東京の未来像なのか? 美しくて堂々とした都市空間と、その周辺に東京独自のサブカルチャーが埋もれている市民型都市空間の構築こそ東京再生のあるべき姿である。分析→戦略立案→提案→評価というアーバンデザインの基本を押さえた日米大学による国際ワークショップからの提案

体 裁 A4変・132頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2331-2
発行日 2003/12/30
装 丁 中塚 健仁


目次著者紹介はじめに編集後記追記1

はじめに

伊藤 滋
早稲田大学教授
慶應義塾大学客員教授

イントロダクション

ピーター・G・ロウ
ハーバード大学大学院デザイン学部長

東京の基層を考える

江戸/東京の社会的ストックとしての緑地とランドスケープ

石川 幹子
慶應義塾大学教授

江戸/東京:空間構造と社会文化的形態

ピーター・G・ロウ
ハーバード大学大学院デザイン学部長

江戸/東京のゲニウス・ロキ

小林 博人
ハーバード大学特別研究員

これからの東京モデルとは何か?

小林 正美
ハーバード大学客員教授
明治大学教授

プロジェクト

課題+敷地の説明

慶應義塾大学+明治大学の提案

赤坂
京島
六本木
日本橋

ハーバード大学の提案

赤坂
京島
六本木
日本橋
スタディーから学んだこと

ピーター・G・ロウ

1969  メルボルン大学建築学科卒業
1971 ライス大学大学院卒業
1981-85 ライス大学建築学科長
1987- ハーバード大学大学院デザイン学部教授
ハーバード大学大学院デザイン学部長

著書

「中国の現代都市住宅:1840-2000」(プレステルーベルラーク出版)2001
「シビックリアリアリティー」(MITプレス) 1997
「モダニティティーとハウジング」(MITプレス) 1993
「ミドルランドスケープを作る」(MITプレス) 1991
「デザインシンキング」(MITプレス) 1987

石川幹子

1972 東京大学農学部卒業
1976 ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了
1994 東京大学大学院農業生命科学研究科博士課程修了
1997-99  工学院大学教授
慶應義塾大学環境情報学部教授、農学博士、技術士
2000 都市計画学会論文賞受賞

著書

「都市と緑地」(岩波書店)2000
「緑地環境科学」(朝倉書店) 1997
“Urban Growth Management Policies in Japan”,
Proceedings of International Growth Management Conference 2000

小林正美

1977  東京大学工学部建築学科卒業
1979 東京大学工学研究科修士課程修了
1979-85 丹下健三・都市建築設計研究所
1988 ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了
1989 東京大学工学系研究科博士課程修了
2002 ハーバード大学客員教授
明治大学理工学部教授、工学博士
アルキメディア設計研究所 主宰
1999 街並みデザイン賞受賞(岡山県高梁市)

著書

「インターベンション2」(鹿島出版会) 2003
「計画された都市・ボストン(共編)」(プロセスアーキテクチャー) 1991

小林博人

1986 京都大学工学部建築学科卒業
1988 京都大学工学系研究科修士課程修了
1988-96 日建設計
1992 ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了
2004 ハーバード大学大学院デザイン学部博士課程修了
ハーバード大学特別研究員、デザイン博士
慶應義塾大学講師
小林・槙デザインワークショップ 主宰

著書

「ピーターロウ学部長へのインタビュー」(a+u) 2003
「仙台メディアテーク(共著)」(プレステル/ハーバード) 2002

東京インナーシティープロジェクト実行委員会

委員長  伊藤滋
委員   石川幹子
委員   三宅理一
委員   小林正美
委員   小林博人
特別委員 ピーター・G・ロウ

東京が世界の大都市の中で強力な競争力を持つためには、経済力、情報発信力もさることながら、文化的な魅力や品格のある都市景観が求められていることは云うまでもない。しかし、現実のまちづくりでは、小規模住宅地に代表される私的所有権と都市計画という公的権力との衝突が具体的な都市整備を決定的に遅らせてきた。ちぐはぐで乱雑な都市景観には外国人の関心を引くエキゾチズムがあり、それが東京の魅力の一部であるという議論もあるが、これは大きな間違いである。近代の歴史をひも解けば、小スケールを旨とした我が国独自の庶民生活やサブカルチャーは、決してレッセフェールな環境から自然に生れてきたのではない。伝統と風土に根付いた秩序ある文脈から紡ぎ出されてきたものである。これからの東京に求められるものは、先進諸国共通の尺度で評価できる美しくて堂々とした都市空間と、その周辺に日本独自のサブカルチャーが埋もれている、小規模で多彩であるが秩序ある市民型都市空間の構築であろう。これからは大上段に都市改造を振りかざすのではなく、地域・地区レベルの身近な改善から始めてゆくことがますます重要になると思われる。

この度行われたハーバード大学と日本の大学によるアーバンデザインの合同演習は、この市民型都市空間の創成について、我々に多くの示唆を与え、実り大きいものであった。現在、我々は国策として「都市再生」の方向作りに真剣に取り組んでいる。そこでの重要な政策課題は、この秩序ある市民型都市空間をどう造るかにある。その点で、この日米が連携したアカデミックな実践的研究がよいタイミングで出版されることに大きな意味がある。これからの東京の都市像を考える場合、上海、香港のような超高層ビルの群造形としての都市とするのか、ボストンのように成長管理をした都市とするのかは大きな議論の分かれ目となる。この長期的なビジョンに関わる議論のためにも、現実を直視した地道な研究を超大学レベルで進めていってもらいたい。また、今後このような国際的なワークショップをぜひ継続的に進め、若い人たちがこれからのアジアの街づくりのビジョンについて真剣に考え、新しいアジア独自の都市論を構築する機会を確保していきたいと感じている。

伊藤 滋
早稲田大学教授
慶應義塾大学客員教授

本書は、2000年から2001年にかけて並行して行われた慶應義塾大学の政策・メディア研究科環境デザインプログラムの正課の演習スタジオ「環境デザイン特別演習」とハーバード大学デザインスクールの正課のアーバンデザインスタジオ「Tokyo Inner-City Revitalization Project」の成果の記録である。(明治大学の大学院の学生3名は日本側のチームのメンバーとしてプロジェクトに参加した。)簡単な国際的ワークショップは最近多くあるが、このように日米の大学が正課の授業としてがっぷり四つに組み、環境デザインのスタジオ演習を行うということは我が国でもまだ余り例を見ない。その背景には、大きく産業構造が変革した後の成熟市民社会のために、どのように持続可能で良質な都市環境をデザインするかという切迫した世界共通のテーマがあり、そのための明確なビジョンとシナリオが今まさに強く求められているということを示している。

ハーバード大学のピーター・ロウ教授と学生達によって指摘された日本の都市政策の問題点は以下に集約される。(1)民有地化政策、強大な私有権が公共利益と背反し、都市政策を硬直させた。(2)複雑な地権関係、土地所有情報のデータ不足が新たな土地政策の導入を困難にした。(3)地方自治体の権限不足、全国一律的な法規の適用が地域の特性を弱めた。(4)都市の緑地や公共空間を再編成するアーバンデザイン的な視点が日本の行政や教育に欠落し、醜悪な都市景観を導いた。一方、慶應義塾大学の学生達の提案には、江戸以来の歴史と文化を生かしながら、現在の東京に絶対的に不足している都市のパブリックオープンスペースと緑地の必要性を訴える「環境修復」という今日的な視点が強く見られた。実際、日米の学生間に見られた考え方やアプローチの違いには大変興味深いものがあった。彼らが考え出した様々なシナリオは、今のところ現実的な解を模索するための種(シード)でしかないが、共感を得られるアイデアはうまく戦略を組めば必ず実現されると信じてもよい。これからは都市や街づくりに関わる者たちが信念を持って理解者を増やし、普遍性の高い合意形成を促進していくことが最も重要になるのではないだろうか。本書がそのようなことを考える際の参考になれば幸いである。私自身は今回双方の大学の指導教員という形で参画し、「東京」の再生を題材に、現代都市が抱える諸問題の読み解きから、将来ビジョンの構想、シナリオと戦略の選択、そして最終的なデザインというプロセスを、日米の大学院生達と共に学ぶことが出来て大変感謝している。

最後に、ヒヤリングセッションとシンポジウムでお世話になった方々、特に国土交通省国土技術政策総合研究所の吉川勝秀部長、東京都の河島均参事、港区の原田敬美区長、中央区の吉田不曇部長、墨田区の小川幸男課長、東京大学の八田達夫教授、日本政策投資銀行の根本祐二氏、S&E総合研究所の多田宏行氏、都市計画家の田村明氏、加藤源氏、建築家の槇文彦氏、そしてこのスタジオを支援して下さった各協賛企業と各大学の教職員の方々、特に日本側のスタジオ運営をすべて取り仕切ってくださった慶應義塾大学の三宅理一教授、石川幹子教授には、この場をお借りして心から感謝の意を表したい。

平成15年12月
小林正美

Editor’s Note

This book resulted from the “Environmental Design Special Studio,” a regular curriculum subject for the Graduate School of Media and Governance, Keio University (with three graduate students from Meiji University joining the team as visiting members), and Urban Design Studio “Tokyo Inner-City Revitalization Project,” a regular curriculum subject for the Graduate School of Design of Harvard University, held simultaneously in 2000-01. Although there are a number of international workshops, this was a very rare case where American and Japanese students joined to work closely in environmental design studios held by universities as their regular curricula. The background to this studio project was a pressing universal concern for how a sustainable high-quality urban environment should be designed for the present developed civil society since the changes brought about by post-industrialization.

The problems of Japanese urban policy depicted by Dean Peter Rowe and his students were summarized as follows:

1) Land privatization policy and protected private ownership have hindered public welfare and stifled urban policy; 2) Complicated ownership and lack of data available on land ownership have made the introduction of new land policies difficult; 3) Loss of local character has been due to the lack of local government autonomy and the difficulty in applying a general nationwide policy; 4) Deterioration of the modern urban landscape has been caused by the lack of greenery and public open space incorporation, absent from urban design planning policy in Japanese authority and education.
Suggestions by Keio University students meanwhile tended to emphasize the regeneration of the present environment by drawing on aspects of past culture and history dating back to the Edo era, very much a generational viewpoint arising from recognition of the complete lack of public open space and greenery in Tokyo.

In fact, the differences seen in approaches and viewpoints of American and Japanese students were quite interesting. Various scenarios devised by the students are at this stage only seeds for exploring a realistic solution, but their sympathetic ideas will certainly be realized one day when backed up with the right strategic approach. We, who involve ourselves in city and town planning, believe that it will be of the utmost importance in the future to increase public awareness and promote universal mutual agreement regarding this matter. We would be grateful if this book can be used as one of the references in considering these issues.

I myself participated in the project as an instructor for both universities, and am very honored and grateful that I could share the experience and learning with the US and Japanese graduate students on the issue of regeneration of Tokyo, from the beginning when various problems were depicted, from the planning of future visions and selection of scenarios and strategies, to the final stage of actual designing.

Last but not least, we would like to thank those who helped us with various hearing sessions and symposiums, especially Director Katsuhide Yoshikawa of the National Institute for Land and Infrastructure Management, Mr. Hitoshi Kawashima of Tokyo City Municipal Government, Mayor Keimi Harada of Minato Ward, Tokyo, Mr. Yukio Ogawa of Sumida Ward, Tokyo, Professor Tatsuo Hatta of the University of Tokyo, Mr. Yuji Nemoto of Development Bank of Japan, Mr. Hiroyuki Tada of Space and Environment Institute, urban designers Mr. Akira Tamura and Mr. Gen Kato, and Mr. Fumihiko Maki, architect. We also sincerely thank our corporate sponsors and faculties of the universities, especially Professor Riichi Miyake and Mikiko Ishikawa of Keio University, who kindly took charge of the operation of all studio activities in Japan.

『地域開発』((財)日本地域開発センター)2004. 7

東京は都市空間として多くの問題をかかえており、日本独自のサブカルチャーから生まれた小規模な空間によって構成されつつも、全体として秩序ある都市空間を形成するように再構成されることが求められよう。
このような問題意識のもと、2000年から2001年にかけて、慶應義塾大学、明治大学、ハーバード大学の大学院生によるアーバンデザインの合同演習が行われた。この演習は都心居住をテーマとし、赤坂、六本木の防衛庁跡地、日本橋周辺、隅田川東部の下町(京島)を対象として、それぞれの地区の持つ課題に対してアーバンデザイン的観点から解決策を探るというもので、日本とアメリカの学生が成果を競った。
演習の成果物をまとめた本書には、日米間の考え方やアプローチの違いがうかがえ、また、対象地区もバラエティーに富んでいることから、多面的に東京という都市空間について考えさせてくれる。図表を用いた説明が多く、読みやすい1冊でもある。

『建設通信新聞』 2004. 4. 7

2000年から01年にかけて取り組んだ日米の大学による国際ワークショップの提案を収めた。ハーバード大と慶大、明治大大学院生らが「都市居住」の在り方を、分析、戦略立案、提案、評価し「東京インナーシティプロジェクト」として成果をまとめている。
赤坂、京島、六本木、日本橋各地区を江戸時代から現代に至るまでの歴史をひも解きながら問題点を探っている。