不動産の価値はコミュニティで決まる

甲斐徹郎 著

内容紹介

空き家増加、家賃下落の時代、不動産活用で追求すべき経済合理性、価値を持続的に伸ばす方法論を解説。土地のポテンシャルを引きだす地主、暮らしを大切にする住人、コミュニティを再編する建築家、事業者による「新しい不動産」の営み方。うめこみち、マージュ西国分寺、あまつ風、白石農園、まちの保育園、やかまし村などを紹介。

体 裁 A5・160頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1358-0
発行日 2016/03/31
装 丁 大竹 美由紀


目次著者紹介はじめにおわりにイベント

1章 地主よし・住人よし・街よしの不動産事業とは

なぜ不動産事業に「環境」と「コミュニティ」が大切なのか
コミュニティが生まれるメカニズム
長期的視点に立った不動産経営

2章 多様な主体が営む新しい不動産事業

「U & Me komichi うめこみち」―エリアの価値を高める、地主と建築家の協働 茨田禎之、大島芳彦
「マージュ西国分寺」―「土地に根ざす」という思いが生んだコミュニティ 影山知明
「あまつ風」―大家と住人の幸せな関係を生みだしたシェアハウス 黒岩健司・吉枝
「白石農園」―「資産」ではなく「資源」として土地を生かす 白石好孝
「まちの保育園」―まちが子どもを育てる文化をつくる 松本理寿輝

3章 縮小時代の不動産経営のポイント―田村誠邦(アークブレイン)×林厚見(スピーク)×甲斐徹郎

土地活用に潜むまやかし
ビジョンと手間が生みだす価値
コミュニティという長期的価値
事業計画のチェックポイント

4章 時間とともに価値を増す不動産のデザイン手法

時間とともに増していく不動産の価値とは
魅力を放ち続ける事業のつくり方
暮らしのストーリーを描く土地活用を

甲斐 徹郎(かい てつろう)

建築・まちづくりプロデューサー/株式会社チームネット代表/関東学院大学客員教授。
1959年東京都生まれ。千葉大学文学部行動科学科社会学専攻卒業。1995年、環境と共生する住まいとまちづくりをプロデュースする会社として株式会社チームネットを設立。環境共生型コーポラティブ住宅「経堂の杜」「欅ハウス」などを企画、コーディネイト。個人住宅から集合住宅、まちづくりまで、環境とコミュニティを生かした数多くのプロジェクトを手掛ける。著書に『まちに森をつくって住む』(農文協)、『自分のためのエコロジー』(ちくまプリマー新書)など。

冒頭から唐突ですが、皆さんに質問です。左頁の巨木の伐採が行われた場所は、どこだと思いますか。これは郊外ではなく、新宿駅から電車で15分ほどの距離にある世田谷の住宅地での出来事です。ある日突然、その地域の象徴的な存在だった樹齢100年を超える巨木が跡形もなく伐採され、まちの風景が一変しました。その光景を見て、多くの人が「なんであんなひどいことをするんだ」という思いを抱いたに違いありません。

一方で、その土地を所有する地主さんにしてみれば、それは実に無責任な批判だと感じたはずです。樹木が落とす大量の落ち葉は、日頃から周囲の住民に迷惑がられていました。それに耐えながら維持してきたのに、親が他界したら億単位の相続税が課せられたのです。このように、都市部の民有地に残された貴重な自然環境の行方は一個人である地主さんに委ねられています。大きな重圧を一身に背負わされた地主さんがどこまで耐えられるかは時間の問題で、失われても仕方がないのが実情なのです。

こうした悩みに直面している地主さんに出会ったのは、1997年のことです。5階建てビルの高さに達する巨木はかつての農家の屋敷林で、全部で12本ありました。その伐採がまさに始められようとしていたのです。もう一歩遅ければすべての巨木を失うぎりぎりのタイミングでしたが、時間切れ寸前で巨木を残す土地活用の合意にこぎつけました。

当時、私は環境と共生する住まいとまちづくりを進める事業企画会社を2年前に設立したばかりでした。「環境と共生する」というテーマを掲げましたが、それを具体的に伝えることが難しく、手始めに自分の家をそのモデルとして建てたいと考えていた時期だったのです。

その土地の巨木をいかにして残すか。私は地主さんにとっても入居者にとっても魅力となるよう「世田谷に森をつくって住もう」と呼びかけ、参加者を集めました。その反響はとても大きく、コンセプトに賛同する人たちは即座に集まりました。そして、地主さんとの出会いから3年の歳月を経て実現したのが、5本の大ケヤキを残して建てられた「経堂の杜(もり)」(東京都世田谷区)です(1章参照)。

都市部の利便性の高い場所でありながら、建物全体が森に囲まれたような住まい。屋上の菜園で採れた野菜の美味しさ。クーラーをほとんど使わなくても済む涼しさ。そして、こうした豊かな環境をともに享受しあっている入居者同士がほどよい距離感を保ったコミュニティ。ここでの暮らしには、たくさんの幸せが溢れています。

地主さんにとっても、この土地活用はとても意味のあることでした。これまで樹木の管理が行き届かなかった土地が、住人たちの出資によって美しい環境として整備されたこと。悩みの種であった巨木を12世帯の住人が率先して世話をしてくれること。そして、自らを慕ってくれる住人たちとの関係も地主さんにとっては嬉しいことでした。たとえば、かつては恒例だった年末の餅つきは久しく途絶えていましたが、地主さんの納屋小屋に臼や杵、釜などの道具が揃っているので再開することに。それも住人たちとの良好な関係があってのことでした。

「経堂の杜」において「コミュニティ」の存在はとても重要な意味を持っていますが、一方で「コミュニティ」には「煩わしさ」が伴うことも事実です。私が重視したのは、その「煩わしさ」を意識させずに「コミュニティ」を機能させることでした。それは、私が「コミュニティベネフィット」と呼んでいるもので、コミュニティを「目的」にせずに「手段」にするという方法です。コミュニティを手段とすることで個人単位では実現できない大きな価値を実現させようと考えたのです。「経堂の杜」で実現させた大きな価値とは、5本の大ケヤキを保全して生まれた森の中にいるような贅沢な暮らしです。その恩恵を得るために合理的に協力し合える関係が築かれたのです。

「経堂の杜」の取り組み以降、私は、同じような悩みを持つ地主さんにたくさん出会い、いくつものプロジェクトを実現させてきました。一般的には「巨木はお荷物」「入居者との関係は面倒」と捉えられることが常ですが、そこでの出来事はその「常識」を覆すことばかりでした。「コミュニティベネフィット」という考え方を応用すると、巨木は貴重な「お宝」ですし、入居者との関わりがあった方がトラブルは未然に防げ、地主を楽にしてくれます。そして、土地と深く関わりその価値を生かそうとするなかでこそ、「地主」という存在は輝くのです。

土地活用とは収益を生みだす行為ですが、見方を変えると、地域の「環境」と「コミュニティ」に大きく影響する行為でもあります。本書は、そうした観点から地域が時間とともに豊かになっていくような土地活用のあり方を提示したいと思います。土地活用を考える地主さん、不動産事業の企画者、建築設計者、そして、場の運営者の皆さんにも手に取っていただき、役立てていただければ幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

「不動産経営」と「コミュニティ」。その二つを価値創造という視点から有機的につなぎ合わせることが、本書の中で私が試みたテーマです。「コミュニティ」を生かした魅力あふれる「不動産経営」が多様な形で展開されていること、また持続可能な「不動産経営」のためには今後ますます「コミュニティ」の要素は不可欠になっていくことを、拙稿からくみ取っていただければ幸いです。

そのときに皆さんに多少なりとも「わくわくする」気持ちが芽生えたなら、この本を書いた意義があったと思います。なぜなら、わくわくするという心の作用は人から人へと伝播するものだからです。自分自身がわくわくしているという心のバロメーターを大切にしていただければ、きっとその方向にこそ、物事の本質があるのだと思います。それは、地域にとって、そして日本にとっても大切にすべき本質的な価値だと思います。

私が土地の生かし方を考えるときに、その本質を問いただしてくれる場所があります。それは沖縄です。沖縄には現代でも土地に宿る霊的なものを大切にする文化があり、その神秘的なところに私は惹かれるのです。

その沖縄の宮古島に伊志嶺(いしみね)敏子さんという、いつも私の話し相手になってくださる建築家がいらっしゃいます。伊志嶺さんとお話ししていると自分が大切にすべきことが自ずとはっきりしてくるのです。今回も、本書の主題について発想を深めようとお伺いしたのですが、それは、土地の「風景」の意味について深く考える機会となりました。

伊志嶺さんは、沖縄の切実な問題として「台風の被害を受けない場所」こそが価値のある土地だと考えます。ある事業用地の下見に行かれたとき、その敷地に自生している松の大木に注目したという話を聞きました。大木が育っているということは、長年にわたり台風の被害を受けずに済んだという「証し」だと言うのです。そうした意味で、長い年月をかけて引き継がれてきた風景こそが「安心の証し」であり、そういう土地こそが「まほろば」、つまり「住みよいところ」なのだと指摘いただいたのです。

地域の風景は、それがその地域の共有価値として位置づいたときに根づきます。逆に言うと、共有の価値を相互に味わい、それを大切にし合う人間関係がそこになければ、地域の風景は失われていくということです。

今回の取材では六つの不動産事業の事例を見させていただき、貴重なお話をお聞かせいただきましたが、改めて「思い」があるところに、人のよりどころが生まれ、そこに寄り添う人々の手によって土地の「風景」は育まれるのだと思いました。「まほろば」はそうしてかたちづくられるのだと。

最後に、本書の出版にあたってご協力くださった皆さまに心より感謝申し上げます。

不動産事業の事例について、お忙しいなか快く取材にご協力いただいた地主およびオーナー、事業者、住まい手の皆さまとのお話は、まさに「わくわくする」ことばかりでした。また、田村誠邦さん、林厚見さんには、豊富な実践に基づき、経営的視点から私の問題意識を補完いただきました。心より御礼申し上げます。
学芸出版社の宮本裕美さんには、企画段階から校正まですべてにわたって目配りしていただきました。そして、出版の機会を与えてくださった一般財団法人 住総研の道江紳一専務理事をはじめスタッフの皆さま、誠にありがとうございました。

また、この本は、旧知のライターである渡辺由美子さんによる執筆協力、「経堂の杜」の住人でもあるデザイナーの大竹美由紀さんによるデザイン、弊社社員の牛越理紗さんによるイラスト、そして私の妻であり仕事の右腕でもある高橋喜久代が企画編集を担当するというチームワークで仕上げられました。私の思いを深く理解してくれるこれらの協力者がいてくれることで、私個人の力をはるかに超えた本ができあがったと思います。これこそがコミュニティのもたらす可能性だとつくづく思います。

わたしがわたしでいられるのはあなたがいてくれるから。わたしがわくわくしていられるのはあなたがいてくれるから――という思いをこめて。

2016年1月 経堂の杜にて  甲斐 徹郎

東京

  • 日時 : 2016年4月25日(月) 14:30~16:45(開場14:00)
  • ゲスト : 甲斐徹郎、林厚見、田村誠邦、大島芳彦、松本理寿輝
  • 会場 : 国際文化会館
  • 参加費 : 500円(本をご持参いただいた方、会場でご購入いただいた方は無料)
  • 申込み
    http://www.jusoken.or.jp/symposium/sumaidokuhon.html

京都

  • 日時 : 2016年5月20日(金) 18:30~20:30 (開場18:00)
  • ゲスト : 甲斐徹郎、田村誠邦、大島芳彦
  • 会場 : 学芸出版社 3階
  • 参加費 : 500円(本をご持参いただいた方、会場でご購入いただいた方は無料)
  • 申込み
    http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1605fudosan/index.htm

不動産が変わるコミュニティデザイン フォーラム in 福岡

  • 日時 : 2016年7月19日(火) 15:00~17:30(受付 14:45~)
  • ゲスト : 甲斐徹郎、吉原勝己、黒岩吉枝、吉浦隆紀
  • 会場 : 清川リトル商店街特設会場
  • 参加費 : 2000円(プチ懇親会費込)
  • 申込み
    http://teamnet.co.jp/pdf/20160719forum.pdf

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