美味しい田舎のつくりかた

金丸弘美 著

内容紹介

そこにしかない地域の価値を形にし、小さな規模で直接お客さんに届ける。生産と消費をつなぎ、地方の仕事を生み、自らの営みで地域を巻き込む、ローカル・スモールビジネス。瀬戸内ジャムズガーデン、コスモファーム、まちのシューレ963、良品工房、知憩軒ほか、田舎の豊かさを仕事にする起業家たちの挑戦。

体 裁 四六・208頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1341-2
発行日 2014/09/01
装 丁 上野かおる


目次著者紹介はじめにおわりにイベント

1 生きている素材から、極上の味が生まれます

Chapter 01 ジャム屋がよみがえらせた宝の島 瀬戸内ジャムズガーデン(山口県周防大島町)

高齢化率日本一の島に現れた人気店
食べたことのないジャムの味
こだわりのジャムづくりが地域を変える
新婚旅行でのひらめきから始まった挑戦
予想外の帰郷と起業
ジャムの味と仏教の教えを音楽にのせて
思惑が外れたお父さんの応援
起業家を生みだす島にしたい

Chapter 02 里山の牧場に行列ができる絶品ジェラート 池田牧場(滋賀県東近江市)

酪農を観光へ変えた牧場
こだわりの味を生みだす地域連携
余った牛乳を捨てる苦しみ
あきらめを夢に変えた出会い
ジェラートづくりへの扉を開く
念願の工房オープン

Chapter 03 手塩にかけて育て伝える完熟野菜 村上農場(北海道上士幌町)

27種類の美味しさを楽しめるジャガイモ
売り文句にもストーリーを
農家が直販できる背景
安心安全のジャガイモづくり
少量多品種販売の醍醐味
家庭料理が現在の営業に活きている
素朴な疑問から生まれた雪下熟成
イチ押しレシピで営業先を開拓する

2 使われ方を知ることから、商品開発は始まります

Chapter 04 均一化された市場に個性豊かな野菜で挑む コスモファーム(香川県高松市)

産地直送の200種類の野菜
今の料理に求められる多彩な野菜
80アールの畑で全国からの注文に応える
野菜の特性と料理を知ることが大切
加工品で息を吹き返したオリーブ
見たこともない野菜に出会えるマルシェ
美味しいトマトをつくれば必ず高値で売れる
画一化された市場流通への疑問
マルシェが新しい農業のチャンネルに
シェフとの対話から始まる野菜づくり

Chapter 05 農家の本気を引き出す六次産業の伝道師 山際食彩工房(福島県会津若松市)

全国から依頼が舞い込む食品加工会社
六次産業必勝のツール
現地の人が知恵を出す手助けに徹する
商品づくりが地元の生きがいになる
地産地消のホテルへの挑戦
農家が詰めかけた料理講習
被災地を支援する野菜の加工販売
被災地で新事業を軌道にのせる

3 つくり手も買い手も喜ぶ、売り場をつくります

Chapter 06 香川のライフスタイルこそがブランド まちのシューレ963(香川県高松市)

まちに必要な機能を備えた丸亀町商店街
香川のライフスタイルを学べる店
こだわりぬいた商品セレクション
店舗づくりの三つのコンセプト
丁寧な暮らしを発見するイベント
ものづくりの若い担い手を育てたい
スピードに流される仕事への違和感
バブル後の危機を経て生まれ変わった商店街
地方にこそ本物がある
成功するまちづくりの条件

Chapter 07 つくり手、売り手、買い手をつなぐ商品づくり 良品工房(東京都)

全国の個性的な逸品を集めた「ニッコリーナ」
全国デビューへのステージ
美味しそうに売る仕掛け
生産者がランチを提供する「オカッテ」
つくり手の熱い思いが決め手
主婦の本音を聞く「いいものプロジェクト」
積極的に参加してもらうモニタリング
販売の第一歩は信頼されること

Chapter 08 鮮度が命、漁師と農家がとれたての産品を直売 道の駅むなかた(福岡県宗像市)

全国平均の5倍を稼ぐ道の駅
人気の秘密は漁師の直売
スーパーで培った異例の運営手法
生産者との密なコミュニケーション
お客さんに商品の魅力を伝える工夫

4 ありのままのもてなしが、訪れたくなる秘訣です

Chapter 09 本物の豊かさを発信する農家民泊 知憩軒(山形県鶴岡市)

素朴な保存食が人気の農家民泊
自ら育てた食材でつくる絶品料理
庄内の恐るべき発信力
足元にあるものを使いこなす技と知恵
食の信頼を取り戻すための料理
絹のまちを復活させたい
眠っている地域の豊かさを形にする

Chapter 10 まちを耕すシェフを育てるレストラン 素材香房 ajikura(島根県邑南町)

A級グルメのまちづくり
地域の食の拠点をつくりたい
耕すシェフの育て方
女性の移住を促したハーブ
定住を全力で支援する
若い世代から料理を身近に
ajikuraを支える生産者のネットワーク

金丸弘美(かなまる・ひろみ)

食環境ジャーナリスト、地域活性化アドバイザー。1952年生まれ。全国1000の農山漁村を訪れ、食からの地域再生や食育、食のワークショップなどの企画をプロデュースし、出版や講演活動を通じて広く発信している。2008年より総務省地域力創造アドバイザー、2009年より内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師に就任。高知県農業創造人材育成事業総合アドバイザーなど、各地で行政と地域住民が連携した地域活性化事業のアドバイザーを務める。明治大学農学部食料環境政策学科、フェリス女学院大学国際交流学部などで「地域づくりと食文化」の講義を行う。
近著に『幸福な田舎のつくりかた 地域の誇りが人をつなぎ、小さな経済を動かす』(学芸出版社)、『実践!田舎力 小さくても経済が回る5つの方法』『田舎力 ヒト・夢・カネが集まる5つの法則』(以上、NHK出版)など多数。
http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php

今、食を取り巻く状況は確実に変化しつつある。大量に生産した食材を市場に流す、あるいは動員目的のイベントで一過性の料理を出すといったやり方に頼っていた時代は終わりを迎え、食の現場では新たなムーブメントがすでに生まれている。

地元の食材を活かした加工品や料理を生みだすことで、地域内に新たなつながりをもたらし、雇用や起業を促進するレストランやカフェ。
少量多品種栽培で育てた農産物を、自家製レシピを添えて消費者に直接宅配する農家。

消費者の声を聞き、生産者のものづくりを支援する、新しい流通の担い手。

地元の特産品を厳選し、生産と消費をつなぐイベントを組み合わせて販売する地域発信型のセレクトショップ。

農家・漁師が直接持ち込む鮮度の高い食材が人気の道の駅。

地域の文化や歴史を感じられる手料理でもてなす民宿。

そこにしかない、そこだけの味を追求したこれらの取り組みは、多くの消費者やバイヤー、料理人たちの注目を集め、確実に売り上げを伸ばしている。いずれも、地元にある素材をうまく活用し、料理法や食べ方、見せ方や売り方、そして人材育成までを含めて食を総合的にデザインすることで成功を収めていると言えよう。

本書に登場するキーマンたちは、農家、料理人、流通業、元サラリーマン、元主婦、行政職員など、経歴はさまざまだが、一念発起して食と地域づくりに関わり、自ら発信している人たちばかりだ。

彼らに共通するのは、流通が拡大し市場が画一化していくなかで失われていた地域性を改めて現場で再確認し、そこに新たな視点を取り込んで、自分たちにとっても、そして地域にとっても継続できる事業を築いていることである。彼らは自らの仕事を通して、人と人がつながる仕組み、人と地域が関わる仕組みを提示している。

彼らが生みだすものは、単に美味しいだけではない。地域の個性、実直な技、健やかなホスピタリティといった要素が絡みあうことで「五感に訴える味」が生み出され、人々の共感を呼ぶのだ。

人口減少と高齢化が進行し、市場も縮小していかざるをえない状況の中で、生産・消費のあり方は変化を迫られている。モノの流通、人の移動がグローバル化する社会では、その地域でしか生み出せないものに価値を見出す動きはますます加速するだろう。

ローカリゼーションの徹底こそがインターナショナルに通用する力を持つ時代が始まろうとしている。

本書に登場する、田舎の豊かさを仕事にする起業家たちの挑戦は、日本の未来を明るく照らす指針になると確信している。

本書の執筆にあたっては、二つのテーマがあった。

一つは、現場のノウハウの地域連携である。これには、「高知県農業創造人材育成事業総合アドバイザー」(2010~2014年)と「農林水産省地産地消普及拡大事業・企画委員会委員」(運営:財団法人都市農山漁村交流活性化機構、2010~2013年)での経験が活かされている。これらのアドバイザーの仕事では、現場の関係者がお互いの現場を訪れ合宿し、ノウハウを学び、知恵の共有化を図ることを提案し、実現した。特に高知県の事業では、参加者に一人20本の質問を用意することを条件とするなど、成果を上げる工夫をした。そこで知りあったのが、本書に登場する池田牧場の池田喜久子さん、コスモファームの中村敏樹さん、山際食彩工房の山際博美さんである。

もう一つは、六次産業の具現化に向けた足元からのサポートである。現在、六次産業化については国が支援し、各自治体で積極的に推進されているが、現実にはうまくいっていないケースが圧倒的に多い。販売先の開拓やメニュー開発など、六次産業化にあたってはさまざまなノウハウが必要となるからだ。本書で紹介した人と地域は、どこも等身大のひたむきな活動で成功を収めている。ぜひこれらの事例から、成功のヒントを掴んでもらいたい。

本書の執筆にあたり、アシスタントを務めてくれたのは、長男の金丸知弘である。

彼は、イタリア北部ピエモンテ州の人口6000人ほどのコスティリオーレ村にある「外国人のためのイタリア料理研修機関ICIF(Italian Culinary Institute for Foreigners)」で料理を学んだ後、ミシュランの一つ星レストラン「Ristorante Guido da Costigliole(グイード・ダ・コスティリオーレ)」で研修を受けた。ICIFは1991年、EUの支援を受け、800年前の城をリノベーションして設立された料理学校である。海外から研修生を受け入れ、同時にイタリアの食文化を発信する拠点となっている。

今回、食や料理の現場取材にあたり、イタリアと日本で料理を経験してきた彼に取材にも同行してもらい、さまざまなアドバイスをもらった。また、彼は会津若松市の山際食彩工房にも1ヵ月間、インターシップとして滞在し、具体的なレポートを送ってくれた。

最後に、今回の出版にあたり、前著『幸福な田舎のつくりかた』に続き、形にしてくださった学芸出版社の宮本裕美さん、そして各地で取材に協力してくださった皆さまに心より感謝申し上げます。

2014年9月

金丸弘美

※終了しました

出版記念トークショー「美味しい田舎のつくりかた」

金丸弘美×松嶋匡史/2014.9.24@東京・八重洲ブックセンター本店

出版記念トークショー「美味しい田舎のつくりかた」

金丸弘美×松嶋匡史/2014.10.18@京都