学校開放でまち育て


岸 裕司 著

内容紹介

どこにでもある小学校の機能と施設を活かす

東京湾の埋立地にあるニュータウン秋津は、どこにでもある小学校の機能と施設を住民と協動・共有するユニークな地域づくりで注目されている。住民たちが「子縁」でつながり、秋津小を拠点に築いてきたコミュニティが、少子高齢化によるまちの衰退に抗し、いかに次世代育ちを実現しようとしているのか、その取組と課題に迫る。

体 裁 四六・224頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1236-1
発行日 2008-01-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介まえがきあとがき

はじめに

1章 子縁でつながったニュータウン

1 埋立地に生まれた秋津のまちとは─概要とミニ開発史
2 旧住民との摩擦から学んだこと
3 秋津小学校創立と初期の教職員たち
4 地縁から「子縁」へ

2章 われらスクール・コミュニティ   秋津が「小学校」を発見した!

1 今日も学校で―秋津の真ん中にはいつも小学校がある
2 歩いて通える、顔と名前が一致する小学校区
3 学校は、自然に人が循環する組織
4 世代間交流を推進する場としての小学校
5 どこの小学校+地域でも持つ三つの機能を活かす

3章 学校施設の地域開放の工夫

1 住民との共用・開放のポイント
2 学校の鍵を住民が持つことの意味
3 避難所としての学校
4 秋津モデルに学んだ校舎内施設の開放例
◇大阪府貝塚市立北小学校ふれあいルーム
◇神奈川県川崎市立虹ケ丘小学校コミュニティルーム
◇新潟市立笹口小学校「ほっとハウス笹口」
◇広島県福山市立新市小学校「しんいちコミュニティルーム・キラキラ」
◇新潟県妙高市の全市立学校の校舎内施設開放
5 学校新築複合化のためのハードとソフト

4章 学校づくり・まち育て・子育ちは三位一体で

1 いつでもだれでも学べる、生涯学習のまち育て
2 スクール・コミュニティ(市民立学校)の普遍性
3 コーディネーターを育てよう

5章 次世代育ちの芽とわれわれのできること

1 秋津ではやる秋津内移動
2 児童数減少が止まったワケ
3 若者家族がUターン・Iターンしたがるまち育てとは
4 安全で安心な子育てしやすいまちへ

6章 サスティナブルなまち育てのしかけ

1 若い人を誘うコツ
2 男性の参画と継続の秘訣
3 学校づくりはコミュニティ・アートと一体で
4 地域で子どもを育てるという新しい公共性

7章 ニュータウンの老いに抗す   自助・共助のまち育て

1 「二つの老い問題」に直面するニュータウン
2 お年寄りが元気で生きられるまちに
3 納税意識の高い次世代を育てる
4 コストをかけないまち育て

終章 生産のないまちだから考えるこんなアイデア

おわりに

資料編

  • 秋津小学校コミュニティルームの運営概略
  • 秋津コミュニティ設置要綱
  • 秋津小学校コミュニティルーム運営委員会運営管理基準
  • 秋津小学校コミュニティルームの使用にあたっての合意事項
  • 習志野市コミュニティルルーム管理要綱

岸 裕司〔きし ゆうじ〕

1952年東京都生まれ。広告・デザイン会社の㈱パンゲア代表取締役、習志野市立秋津小学校区の生涯学習推進団体・秋津コミュニティ顧問兼秋津小学校コミュニティルーム運営委員会顧問、学校と地域の融合教育研究会副会長、こども環境学会理事、財団法人社会教育協会理事、千葉県生涯学習審議会委員、ほか。

著書

『学校を基地にお父さんのまちづくり』『「地域暮らし」宣言』(共に太郎次郎社)、『中高年パワーが学校とまちをつくる』(岩波書店)、『市民立学校をつくる教育ガバナンス』(共著、大月書店)ほか。

ニッポンには義務教育制度がある。その是非は、だれも疑問に思っていないであろう。そして、この制度は、子どものための制度とほとんどの人が考えているのではないか。

しかし私は、義務教育、とりわけどこにでもある公立の小学校が本来的に持つ「学ぶ」機能と「施設」の機能を校区の住民と協働・共有できるように改革し、同時に今は薄れつつある地縁とも血縁とも一味違う、子どもを介した地域の大人同士をつなぐ考え方の「子縁(こえん)」を活かしたまち育てを推進することにより、いまニッポンが直面するさまざまな課題──例えば少子高齢化によるまちの衰退、核家族化による子育て子育ち不安、開かれた学校を目指す一方での学校やまちの安全問題など──を緩和ないし解決しうるのではないかと考えるのである。

そして、そのような課題の解決に挑む実験を行っている地域と小学校がある。本書の主舞台であり私が居住する千葉県習志野市の秋津地区と、同地区の市立秋津小学校である。

秋津地区で行ってきた特に大きな特長は、次のようなことである。

「秋津コミュニティ」と称する秋津小学校内に事務局を置き、校区の全住民と校区で働く人々を対象にして生涯学習を推進する任意団体があること。この団体は、生涯学習のさまざまなサークルの立ち上げを援助しながら各種の事業を開発し自主的に楽しく活動しているが、同時に秋津小学校の子どもたちが「学ぶ」ことを大人が協働するようにコーディネートもしている。その前身は1992年に発足した「秋津地域生涯学習連絡協議会」であり、その時代から今日まで15年も活動を続けている。
また、秋津コミュニティのサークルの活動や、だれでもが集い憩い学べる拠点としての「秋津小学校コミュニティルーム」と称する小学校一階の余裕教室四つ・校庭の余裕花壇・陶芸窯の三つの「施設」を地域に開放し、鍵も住民自治の理念から預かり管理運営していること。

そしてこれらの活動の主な推進役は、何にでもすぐに乗りまくることから「ノリノリ団」と呼ばれている成人男性であることもユニークな特長であろうか。
そのノリノリ団のひとりであるシルバー世代のS氏から、昨日こんなメールが秋津の仲間たちに流れた。表題は、この数日間役員間を飛び交う「年末の秋津小学校コミュニティルームの大掃除」。

12月29日(土)の大掃除は参加させていただきます。
ところで私の考えなのですが、当日はガラス窓とトイレのお掃除を徹底的にやりたいと思います。そして、毎回行っている床面の洗浄ワックスがけは、この日はやめて人のいないときに行いたいと考えております。後日(1月1日~3日までの日程)にやらせていただきます。
床面については、任せてください。出来ればその3日間、ワックスを乾かすためにコミュニティルームは休館日にしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?

コミュニティルームの毎年末の大掃除は、さまざまなサークルの仲間が自主的に参画して行っている(もちろん無償でね)が、今年のS氏は特に力が入っているようである。S氏は、秋津小学校4年生に国語の授業で落語を教えている。また秋津コミュニティの地域劇団蚊帳(かや)の海一座の、この12月に16回目を迎えた定期公演に役者として出演し、気を良くしているのだろう。そんな地域の仲間の積極性と心づかいを、私はとてもうれしく思う。

さて、秋津地区は、27年前に東京湾の埋立地に誕生した中層団地が多数を占めるニュータウン。しかし「トキ=年数」の経過により住民は高齢化し、集合住宅もいずれ建て替えの時期がやって来る。

本書は、小学校と地域が持つ三つの機能を活かしながら地域の諸課題の解決に挑みつつ、住民自治を進化・深化させている秋津のまち育てを紹介する。また、そんな「まちの価値」を慕ってUターン・Iターンする次世代を意図的に育てることによりニュータウンのゴースト化を防ぎ、サスティナブルタウンをめざす「スクール・コミュニティ」づくりを展望するものである。

岸 裕司

本書の主題である「サスティナブル」の単語が一般に普及したのは、1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」による「われら共有の未来」と題する報告書において、「持続可能な開発(Sustainable Development)」という概念が提唱されたことによる。

この「持続可能な」の意味を、私は意図的にわが愛する秋津のまちに当てはめて実践しながら研究し続けてきた。研究は、秋津のまちの宝である秋津小学校の児童数の変遷を軸にし、この5~6年で目立ってきたUターンやIターンの若者家族の意見に耳を傾け、秋津の暮らしやすさなどの「まちの価値」の成果を本書で紹介した。
児童数の変遷の意味をまち育てとリンクさせて研究することは、いま全国各地で吹き荒れる学校の統廃合問題に直結し、同時にまちの持続可能性とも大きく関わる普遍的な課題と考えるからである。

学校がなくなっても教職員は路頭に迷うことはない。他の職場への異動が保障されているからである。

しかし小学校がなくなると、住区は確実に衰退にする。私はそんな各地の現場を見てきた。

だから小学校を持続させることは、その住区をキラキラと明るく輝かせながら未来への住区の持続を保障することと同義と思うのである。
その持続を保障するには、子どもを増やすことである。だから、「サスティナブルなまち育て」の究極は、その住区の子どもを増やし続けることである。
一般に、小学校の存続問題とサスティナブルなまち育てを一体にとらえて論じることはないと思う。しかも、都市や地域づくりの政策とリンクさせて論じることはないと思うのである。

本書は、そんな都市・地域政策の実験としての、小学校機能を活かした新しい提案をしたつもりである。まだまだ研究が稚拙でいたらないと思う。しかし、幸いにも本書をお読みいただいたあなたに心から感謝の意を捧げるとともに、いたらないところをご指摘いただけたら私はとてもうれしい。

秋津の仲間たちと、本書で取り上げさせていただいた秋津に関心を持っていただき、そのご研究の成果をこころよく収録させていただいた秋津菌感染者の各位に、特段のお礼を申し上げたい。
最後に、本書を世に送り出すために実に辛抱強く私を励まし続けてくれた学芸出版社編集部の越智和子さんと、同社のみなさんにお礼と感謝の気持ちを捧げます。ありがとうございました。

2007年12月18日(愛するワイフの誕生日に)
岸 裕 司