日本で最も美しい村をつくる人たち


季刊 日本で最も美しい村 制作チーム 著

内容紹介

美しい村をつくる多種多様な実践者たち

失ったら二度と取り戻せない、日本の農山漁村にある美しい景観や文化。当初7つの村で始まった景観・文化を守る運動体「日本で最も美しい村連合」は、今では60以上の村が加盟する。本書では、ワイン生産者、養蜂家、パン屋、シェフ、陶芸家、村長、教員、民宿経営者など、美しい村をつくる多種多様な実践者たちを紹介する

体 裁 B5・232頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-0921-7
発行日 2022-03-20
装 丁 小瀬古智之・瀬尾瑞初(エクサピーコ)


目次著者紹介まえがき関連ニュース関連イベント

●不毛の大地で生きる人々とタンチョウー北海道鶴居村

○空につながるような道を見た瞬間、「ここだ!」と思った

ゲストハウス「ハートンツリー」 服部佐知子

○自然の中には真実しかない ウィルダネスロッジ「ヒッコリーウィンド」

安藤 誠

○酪農景観の素晴らしさ。ここは「日本で最もしあわせな村」

大石正行 鶴居村長

●丘がもたらす厳しい試練と豊かな恵み―北海道美瑛町

○地元住民と観光客の美しい関係づくり

アトリエ nipek中西敏貴

●大雪の中であたたかな春を待つ―北海道赤井川村

○肥沃な大地で有機アスパラを作る第一人者

アスパラガス農家 滝本農場 滝本和彦

○ここには、直感的に「自分の欲求を満たすもの」があった

山岳ガイド 北海道バックカントリーガイズ主宰 塚原 聡

●雪に埋もれる村の、何もないから見られる風景―秋田県東成瀬村

○人は人のシャワーを浴びて成長する

東成瀬村教育委員会教育長 鶴飼 孝

●じんわりしみる、温泉郷と棚田の魅力―山形県大蔵村

○外に一歩、出てもらうための仕組みを作りたかった

「ひじおりの灯」プロジェクト発起人・つたや肘折ホテル代表 柿崎雄一

○「観る」だけでなく、「時間の使い方」を楽しんで

カネヤマ商店 須藤和彦

○ 「いらっしゃいませ」役場=サービス業ですから

加藤正美 大蔵村長

●厳しい冬を超えて守られる、昔ながらの風景―山形県飯豊町

○「限界集落」から「限界を感じさせない集落」へ

なかつがわ農家民宿

○「美しさ」は厳しい自然との共存にこそ宿る

後藤幸平 飯豊町長

●お金が全てという現代社会を問い直す―福島県飯舘村

○焼き続けること

米粉パン職人 鮎川ゆき

○煎り、コーヒーとともに暮らす

自家焙煎珈琲 椏久里 店主 市澤美由紀

○ずっと大学に行きたいと思っていた

元 「ほんの森いいたて」副店長 高橋みほり

○つながりの回復

飯舘村役場 健康福祉課 保健師 齋藤愛子

●茅葺き住宅、高山植物に囲まれる湖や湿地、色鮮やかな緑の公園―群馬県中之条町 伊参/六合

○ 「失ったら二度と取り戻せないもの」に囲まれて

六合尻焼温泉 星ヶ岡山荘 女将 大谷郁美

○花とアート、個性ある町づくりで次世代につなぐ

伊能正夫 中之条町長

●しだれ桜から、ぶどう栽培、パウダースノーなど、四季が豊かな村―長野県高山村

○高山村を世界に羽ばたくワイン産地に

(株)信州たかやまワイナリー 代表取締役 涌井一秋、醸造責任者 鷹野永一

○「にぎわいの場」創出で村の観光を盛り上げたい

内山信行 高山村長

●おやきが象徴する独立精神―長野県小川村

○ 「みんな気づいて!この村の良さ、普通じゃないよ!」

さんさん市場(取材当時) 川又路子

○人と同じ、村も日々地道な手入れを

染野隆嗣 小川村長

●地域の有名な財産と無名な財産、どちらもがここには必要―長野県木曽町

○在来馬に恋して、木曽馬のいる風景に魅せられて

地域おこし協力隊「木曽馬の里」勤務(取材当時)坂下由衣

○美しいと感じる感性の豊かさを持つ人が暮らすのが、本当の“美しい村”

おんたけ有機合同会社 松井淳一

●山奥にある村の、おもてなし精神―長野県大鹿村

○村人の思いが結集する歌舞伎という娯楽

大鹿歌舞伎

○切り絵作家として、村の魅力を全国へ

柳下修、敏子

○あるものをいかし、100年先を見つめる

旅舎 右馬允 前島正介、久美

●山の麓に暮らす日々にある持続可能な取り組み―長野県中川村

○長く続ければいいことあるね

古民家「ホンムネくん」米山永子

○人生をかけて、蜂と喜怒哀楽を分かち合う

養蜂家 富永朝和

○美しい村には生きている文化がある

イエルカ・ワイン、関 悦子

○美しい村を美しいままに引き継いでいく

曽我逸郎 前 中川村長

○森も人も活かすキャンプ場で、地球の課題に地域から取り組む

四徳温泉キャンプ場(Waqua 合同会社) 久保田雄大、米山達也、宮下史恵

○夢は大きく、活動は地道に。30年かけて「理想の農園」をつくる

大島農園 大島太郎、歩

○ここにしかない、この土地の味わいを映すワインを

南方醸造合同会社 曽我暢有、晴菜

○小さな村の行政は、一人ひとりが輝くための伴走者

宮下健彦 中川村長

●コンパクトな町に、ぎっしり詰まった自然資源―静岡県松崎町

○町、シニアを元気に奮闘する松崎の母

企業組合 であい村「蔵ら」代表理事 青森千枝美

○1200年前の古道を蘇らせた現代の「山伏」

山伏トレイルツアー・西伊豆古道再生プロジェクト代表 松本潤一郎

○海、山、豊かな自然を生かした松崎らしい町づくりを

齋藤文彦 元 松崎町長

●歴史、神話、山脈、一面ススキの高原が生みだす、地域の奥深さ―奈良県曽爾村

○じっくり焦らず作られた曽爾の「隠れ家」

カフェねころん 前川郁子

○「箱庭」のように、どこを取っても美しい風景がある村

芝田秀数 曽爾村長

●杉と桜がつくる、いやしの場―奈良県吉野町

○伝統の技は続けて、伝えて、つなげなあきまへん

福西和紙本舗六代目 福西正行

○引き算の戦略で大切なお客さんとつながる

TSUJIMURA & Cafe kiton 辻村佳則

○この法被とともに、町のあちこち走り回る

東 利明 吉野山観光協会 会長

○木のまち、吉野だからこそできる木育を目指して

北岡 篤 前 吉野町長

●村ぐるみで自主自立の精神が培われてきた場所―奈良県十津川村

○「むこ(婿)だまし」が村でずっと続いてほしいのう

生産グループ「山天じゃあよ」中南百合子、泉谷和子、松葉俊子、鈴木大介

○だから「山との対話」という原点に戻ろう

更谷慈禧 前 十津川村長

●脈々と受け継がれるお世話好きの遺伝子―愛媛県上島町

○島から島へ

「ゆめしまサイクル 2015 in かみじま」体験記 渡部みのり

○それが上島町をイメージさせるものであるか

上村俊之 上島町長

●用の美棚田が生みだす、人々のつながり―福岡県星野村

○注ぐ雫が金となってゆらめく夕日色の星野焼

源太窯 山本源太

○子どもと親と地域が未来に種撒く山村留学

星野村山村留学センター「星の自然の家」

●住民主体で守られてきた、雄大な農村景観―大分県湯布院町 塚原地区

○道なき道を切り拓く、父親ゆずりの開拓精神

コテージ&カフェ「恵里菜」 熊谷美保子

○「安心して暮らせる塚原」を目指して

オーベルジュ「フォレスト イン ボン」オーナー 渡辺 理

●住民の主体性が尊重される土壌―熊本県南小国町

○地域ぐるみで温泉街の風景を作りあげる

旅館山河 後藤健吾

○地元野菜や自分たちでつくった食事を囲む豊かさ

野風ムラ 河津耕冶

○美味しい野菜料理が自慢の、農家民宿の草分け的存在

さこんうえの蛙 河津正純、慶子

●阿蘇山がもたらす湧水、地質、気候の豊かさ―熊本県高森町

〇地域の農地は地域で守る 農事組合法人

奥阿蘇くさかべ

〇宝の森・高森を盛り上げる地域の「愛されびと」

一般社団法人TAKAraMORI 大野 希、加藤誠佑(取材当時)

〇スピードと情報発信力で、「企業経営」から「町の経営」へ

草村大成 高森町長

●必要以上は望まない。自然との共生で知り抜く大切なこと―宮崎県椎葉村

〇何だって買わずにつくる「究極の山暮らし」を実践中

地域おこし協力隊「食の継承者」(取材当時) 江崎紋佳

〇この村なら何か新しいことができる

尾前設計合同会社 代表社員 尾前一日出

●人々の静かな祈りが息づく場所―長崎県小値賀町

〇活版印刷ならではの文化を発信

OJIKAPPAN 横山桃子

〇世界中からゲストが集まる島に

島宿御縁 岩永太陽

●支配に揺れた歴史のなかで、たくましく生きた人々―鹿児島県喜界町

〇オーガニックに挑むのは、島の地下水を大切にしたいから

朝日酒造 喜禎浩之

〇島唄は口伝の世界、島の心を歌い続けたい

川畑さおり

「日本で最も美しい村」連合加盟町村
季刊 日本で最も美しい村 INDEX/ 制作チームクレジット

季刊 日本で最も美しい村 制作チーム

「日本で最も美しい村」を取材している制作チーム。グラフィックデザイナーのジュリアーノナカニシが中心となり、美しい村づくりの活動を『季刊 日本で最も美しい村』として2012年より発行している。
~NPO法人「日本で最も美しい村」連合は、2005年に7つの町村からスタート。当時は、いわゆる「平成の大合併」で市町村合併が促進され、小さくても素晴らしい地域資源や美しい景観を持つ村の存続が難しくなってきた時期である。その後、フランスの素朴で美しい村を厳選し紹介する「フランスの最も美しい村」運動に範をとり、失ったら二度と取り戻せない日本の農山漁村の景観・文化を守りつつ、最も美しい村としての自立を目指す運動が始まった。

ジュリアーノナカニシ (本書企画者 /グラフィックデザイナー)

わたしが “「日本で最も美しい村」連合 ” と名乗る団体の運動に共感したのは、あるウェブサイトで目にした一文からでした。

〜NPO法人「日本で最も美しい村」連合は、2005年に7つの町村からスタートしました。当時は、いわゆる平成の大合併の時期で市町村合併が促進され、小さくても素晴らしい地域資源や美しい景観を持つ村の存続が難しくなってきた時期でした。私たちは、失ったら二度と取り戻せない、そんな日本の農山漁村の景観や文化・環境を守りつつ、最も美しい村としての自立を目指す運動をはじめました。「日本で最も美しい村」連合と言います。お手本にしたのは「フランスで最も美しい村」活動。今、イタリア、ベルギーなども加え、地域文化の活性化は世界的なムーブメントになっています。(後略)〜

弱きを助けるために立ち上がった7人のサムライのようで、その運動にとても共感しました。2007年5月のことです。そこから(通称)美しい村連合の個人サポーターとして村へ出掛けていく機会が増えました。
わたしが初めて訪ねた「日本で最も美しい村」は、当時「葉っぱビジネスのまち」として話題になっていた徳島県上勝町。日本全国の美しい村々から首長さんはじめ美しい村連合の有志が、年に一度結集する総会&フェスティバルの会場でした。人口2,000人ほどの四国の山あいの辺境の地に、同じく日本中の辺境の村々から、故郷の美しさの存続のために集い、困りごとや目指すべき方向を共有する時間を持つ。それはとても温かく、また刺激的な時間でした。
その上勝町は、町内から出る焼却・埋め立てごみをゼロにするという目標を掲げ、日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を2003年に行っていました。町長のメッセージは「上流に住んでいる私たちは、下流に住む人々の水を濁してはいけない」。
しかし2011年3月11日の東北大震災では、東京電力福島原発1号機の放射能漏れ事故により、「日本で最も美しい村」連合に加盟した直後の福島県飯舘村が全村避難となりました。その翌年の2012年6月に飯舘村を訪ねた時のことです。村は静まりかえっていて人気は無く、見えない放射能に怖さを憶えながら一人役場を目指しました。車を降りて、役場前に設置されている線量計を見つめていた時、軽トラックに乗った農作業姿の男性が近づいて来て、何者かわからないわたしに向かって言いました。
「失ってみてよくわかったなぁ。山と畑に囲まれて、ポツリポツリとみんな離れて暮らしていて、夜は真っ暗。きれいな空気とうまい水しかない。そんなもの売れないしと思って、村でずっと60年以上暮らしていたけれど、それがなによりも大事な宝ものだったんだなぁ」
その言葉に美しさの真実があると思いました。そこから、わたしは村へ出掛け続け、お聞きした内容を季刊紙としてまとめての発行を始めました。
最初はわたし一人の手弁当で始めた季刊紙づくりですが、まるで桃太郎のように旅先で仲間が増えていきました。人との「ご縁」、 それがとても不思議であり今日まで発行を続けられています。
奈良県の吉野町を取材したのは2018年4月の中旬。吉野山の桜は少し前に満開を終えていましたが、金峯山寺に続く参道や家々の軒先を風に舞ったピンクの花びらが染めて美しかったのを憶えています。その日が暮れた吉野山で、吉野山観光協会の東会長のお話しを聞いていた時、はっとしました。
「加盟する町村、それぞれがお互いを宣伝し合うなど連携を取り合って『美しい村に入って良かった』と思える価値観を打ち出す必要があるんじゃないでしょうか? 例えば新聞のように、一度読んで捨てられてしまうものでなく、永久保存できるガイドブック。うちに泊まったお客さんが自分の部屋に持ち込んで、読みたくなるような立派なもの。それを読んで、じゃあ他の美しい村にも行ってみようか、となるような。そうしたお互いの連携があってこそ、『美しい村連合としての価値』があると思います」(東会長)
今回の書籍は、この時の東会長の言葉により発想を得たものです。
季刊紙は2022年1月末現在で38号まで発行しています。これまで40カ所の最も美しい村を訪ね、250組余りの方に取材を受けていただきました。その記事のダイジェスト版が本書になります。
また、2018 年の晩秋にフランス南西部、オクシタニ地方の最も美しい村を取材した際には中世の巡礼路「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」の要所として有名な村「コンク」を訪れました。そこで観光協会のアンさんと懇意になり、翌 2019 年にはアンさんを吉野町と曽爾村にお連れすることができました。アンさんは来日直前に利き手を骨折、わたしは家族に大きな困難を抱えていた時期であったのですが、ススキが金色に輝く曽爾高原を一緒に歩きながら、最も美しい村での人間らしい時間を楽しむことができました。
何よりも旅の魅力は人との出会いです。そしてどの村でも感じることは、人との出会いの場所が美しい山里や漁村であれば、自分の心が素直になる。他者の考えを受け入れやすくなる。これが私の美しい村体験です。だから日本中を美しい村にしたい。
誰もがおおらかで、子どもや女性の笑顔が日本中の辺境の村から世界に伝播していく。日本国憲法の前文に掲げられているように「平和」で世界を牽引できる国も夢ではありません。そんな世界の在り方が村の暮らしから見えてきます。

開催が決まり次第、お知らせします。