根っからの実測好き建築家・政木哲也さんが、日本中の「本のある小空間」の魅力を解き明かすべく、測って・描いて・綴り歩きます。連載第二回目は、四日市市の商店街に佇む元電話ボックスの極小図書館です。

vol.2 USED BOOK BOX |まちの図書館に生まれ変わった電話ボックス

 

― 内法80cm四方の極小図書館 ―

三重県四日市市に電話ボックスを再利用した図書館がある。諏訪新道発展会という商店街の通り沿いに、ぽつんと立っている緑色の電話ボックス。正面に回って見上げると、「USED BOOK BOX」の金文字が光る。
扉を開けて中を見てみよう。本棚自体は19の直方体の木箱で構成されている。それぞれの木箱にはジャンルレスに種々の本が並んでいる。どれも住民からの寄贈本だという。偶然隣り合った本とはいえ、まじまじ眺めているうちに思わぬ広がりが感じられるから面白い。まちの隠れた個性をこの本棚から垣間見たような感覚にさえなる。

 

 

― 子どもが見上げるまちの本棚 ―

木箱はシナランバーコアという合板でつくられ、奥行寸法こそ25cmで揃っているものの、縦横はバラバラで7種類のサイズ展開がある。ランダムに組み合わさることで凸凹の多い複雑な形状ができあがる。
企画・設計を担当した建築家の石田祐也さんによると、小さな子どもが見上げた時にワクワクしてほしいと思ってデザインしたという。たしかに電話ボックスという箱の中だと凸凹はより強調され、なんとも楽しげな雰囲気である。サイズの違う本を収容したり、箱ごとにテーマ設定したりできるようにと、機能的な配慮も両立しているそうだ。

 

 

― 電話ボックスを再利用せよ ―

通りの遺物としてすっかりその存在を忘れ去られていた商店街の電話ボックスに撤去告知の張り紙が貼られたのが、2020年9月のこと。西洋風でレトロな佇まいが通りの顔となっていたこともあり、将来なにかに転用すべく、とりあえず譲り受けたのが商店街組合の人たちだった。
電話ボックスを利用した図書館は日本でここだけ、とUSED BOOK BOXの本棚をDIYで施工した組合若手の杉野哲嗣さんは胸を張る。四日市市は名古屋の通勤圏内だ。駅周辺は高層の集合住宅の開発が活発で転入者も多い。海外には電話ボックスを図書スペースに利用したまちがあるらしい……とのウワサを聞きつけるやいなや、杉野さんはじめ地元店主たちの課題だった“新しい住民が商店街に来たくなるきっかけづくり”が、通りの電話ボックスの余生になった。

― クリップで固定するアイデア施工 ―

アイデアが固まればそこからは早かった。唯一の条件は、将来の定期的なメンテナンスも想定して取外しと再設置がしやすいこと。企画・設計担当の石田さんは東京在住ながら遠隔で素早くスケッチや図面を共有し、関係者たちとデザインを練った。日曜大工が得意な杉野さんが施工を買って出た。狭い電話ボックス内の什器設置は、思っていた以上に組み立てが難しい。最終的には、複数の木箱を組み合わせたユニットをクリップで互いに固定する方法に落ち着いた。ちなみに、通りにある2台の電話ボックスのうち、もう1台は公衆電話のまま残されているので、片方を探し出してビフォーアフターをしみじみ味わうのも面白い。

― さあ商店街に繰り出そう ―

寄贈される本は直接USED BOOK BOXに持ち込まれるのではなく、商店街の中にある書籍受付店が引き受けるという。このワンクッションによって、商店街全体に新たな人の流れをつくりだそうというねらいだ。

USED BOOK BOXを見に訪れたなら、かつての本の持ち主が立ち寄ったお店、暮らしたまちの風景としての商店街もそぞろ歩きしたい。


店舗情報

USED BOOK BOX(諏訪新道発展会内)

住所:〒510-0085 三重県四日市市諏訪町
営業時間:9:00〜17:00
定休日:無
URL:
https://ishau.jp/usedbookbox
https://www.instagram.com/suwashindow/


著者プロフィール


政木哲也
京都橘大学専任講師。1982年大阪府生まれ。2007年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社久米設計、株式会社メガにて設計業務に従事したのち、2016年より現職。京都の地蔵盆にまつわる都市生態をはじめ、建築設計・都市研究をなりわいとし、趣味で実測した国内外のホテルを小冊子にまとめてしまうほどの実測好き。


関連書籍

「USED BOOK BOX」の設計を手掛けた建築家・石田祐也さんが翻訳をつとめた、ニューヨークの道路空間活用の取り組みがわかる書籍です。

『ストリートファイト 人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』ジャネット・サディク=カーン、セス・ソロモノウ 著/中島直人 監訳/石田祐也、関谷進吾、三浦詩乃 訳


その他の連載記事

連載|図解 本のある小空間|vol.1誠光社

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