連載|建具デザインの手がかり|vol.1 KITAYON

 建築設計事務所を主宰しながら、建具専門のメーカー「戸戸」を運営する建築家の藤田雄介さんが、さまざまな建築家による工夫された建具を独自の視点で紹介し、建具、そして境界の可能性を考える連載です。 

vol.1 KITAYON(寳神尚史+太田温子(日吉坂事務所))
個の存在を街にあらわす、つくり込まれた境界

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設計者自身が事業主となり、土地探しからテナントビルの事業計画、設計、テナントのリーシングまで行った建築である。従来の請負型の設計と異なる関わり方により、「能動的な街への働きかけ」を行っている。この建築は、そのような設計者の建築への関わり方が重視されているが、ここでは境界面に注力した建築的操作を中心に取り上げる。

この建築の特徴として、1つ目に地上階の敷地内路地、そして上階への屋外階段の幅を広くとった路地の立体的な引き込みがある。2つ目に、路地に面した境界面を細やかなディテールでつくり込んだスチールサッシが隔て繋いでいる点がある。

地上階に設けられた路地は、通り抜けがあるものでなく敷地奥で行き止まりになっている。上階への立体的路地についても同様である。建物の間口の約2/3の幅をとってこのような路地を設けることは、通常の商業的な論理の上では不可能だろう。しかし、隣地や周辺の建物ないしは、街の未来にとって路地の重要性を表明する意思を感じさせる存在となっている。そして、この行き止まりの路地が人の行き交う場所となるためには、建築との境界面の操作が欠かせないのだ。

路地に面するスチールサッシは、開き戸・横滑り窓・引き違い戸そしてはめ殺し戸など、異なる複数の開閉機構の建具を一体化させている。枠の見付け寸法は16mmと18mmで統一しており、それらが合わさることでつくられていて、開閉の多様さが一見わからない立面にまとめ上げられている。こういった納め方をする場合、金物類をどう組み込むかが難題となる。これを解決するために、「スペシャルソース」というメーカーとの協働により特注の開閉機構やにぎり・フランス落としを製作している。

設計者でありオーナーである寳神は、この建築を個人でものづくりをしている作家がいきいきと暮らせる建築にしたいと考えた。そして、入居者の作家たちとの相性から、手仕事でつくり込んだ境界が必要だと感じたと言う。この境界は、個々の入居者の存在を路地そして街に向けてあらわすものになっている。

事例詳細

KITAYON
東京都杉並区、2017
用途:ショップ、カフェ、共同住宅
構造:鉄骨造
クライアント:日吉坂事務所
設計:日吉坂事務所

著者プロフィール

藤田雄介

1981年兵庫県生まれ。2005年日本大学生産工学部建築工学科卒業。07年東京都市大学大学院工学研究科修了。手塚建築研究所勤務を経て、10年Camp Design inc.設立。おもな作品に「花畑団地27号棟プロジェクト」「柱の間の家」「AKO HAT」などがある。現在、東京都市大学、工学院大学、東京電機大学非常勤講師。明治大学大学院理工学研究科博士後期課程在籍。

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