フランスではなぜ子育て世代が地方に移住するのか

ヴァンソン藤井由実 著

内容紹介

首都圏への人口流出から地方回帰の時代へ移行したフランス。その背景には、田舎の魅力的な環境と生活に最低限必要な市街地機能を守り、移住する若者の新しい価値観と生き方を支援する政策、小規模町村間の広域連携と各地の中核となる元気な地方都市の存在があった。取材とインタビューで読みとく、元気な田舎ができるしくみ。

体 裁 A5・200頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2701-3
発行日 2019/04/01
装 丁  中川未子(よろずでざいん)


目次著者紹介はじめに正誤情報
目次

推薦の言葉
はじめに

第1章 日本とフランス、地方の今

1 人口減少と東京一極集中が止まらない日本

・地方から大都市圏への人口流出
・地方都市の中心市街地の衰退
・農村部の過疎対策と地方創生

2 村落部人口流出の時代を経て、増加に転じたフランス

・国全体の人口増加と同じ割合で村落部人口も増加
・村落部に人口が流れたのは地方都市が元気だから
・村落部に移住する子育て世代
・なぜ田舎の景観が守られたか
・新しい価値観に後押しされた若者たちの村落での暮らし

第2章 フランス流「元気な田舎」ができるしくみ

1 地域活性化の中心となる地方自治体

・フランス人と自治体との関わり方
・市町村合併ではなく広域自治体連合へ
・「6割自治」で、議員と行政職員の約半数が女性

2 魅力的な田舎を守れる自治体主導の都市計画

3 フランスの人口はどのように動いているか

・村落部への就労人口の囲い込み
・過疎地帯「空白の対角線」
・過疎地対策関連法による国からの支援

第3章 人口738人・ポンジボー村の生き残り策 暮らしやすい生活環境と仕事づくり

1 働く人の顔が見える店舗が残る村

2 村会議員の3分の2は「よそ者」

3 村落共同体の活動

・村にUターンして、地域のために仕事をする若い高学歴スタッフ
・共同体が提供する高齢者支援サービス
・田舎のモビリティは県と共同体で分担
・村と村落共同体にみる、議会と行政の協働

4 村の診療所に来る若い医師たち

・医師・議員・村落共同体の協力でできた村の診療所
・すべての村に均等な投資はできない
・自己犠牲ではなく、生活の質の向上を求めて移住した医師

5 支援の充実した老人ホームを支える「連帯」システム

・国民の高税負担で支える高齢者福祉
・入所者と同じ人数の職員がいる介護老人ホーム

6 農家の副収入を生むアグリツーリズム

・農村観光資源としての民宿
・羊小屋と穀倉庫をDIYで改装した超快適な「ショーンブルドット」
・多くの国民がバカンスに出かける機会を保障するしくみ

7 官民協同で実施する起業家支援キャンプ

・キーワードは地域・IT・モビリティ・農業
・補助金ではなく情報とオフィス・OA機器を提供

第4章 伝統的な塩づくりで人口増加を果たしたバシュルメール村の闘い 地場産業の復活と自然保護

1 天日海塩の商品化で人口を大幅に回復

・19世紀の繁栄後、第二次世界大戦前には人口が半減
・天日海塩の歴史を語る博物館

2 地場産業を守るための闘い

・議員たちが進める別荘地誘導政策との闘い
・塩職人の地位向上への道のり
・産地の差別化による食文化の興隆
・天日海塩の保護から地域の湿地帯保全へ

3 誰が伝統産業と塩田を守ったか

・塩職人・議員・学者・環境NPOと移住者
・補助金に頼らずプロジェクトを遂行する「よそ者」

4 観光産業振興と村の将来

第5章 移住者の「生き方」を支援するカドネ村の戦略

1 1978年に最後の籠工場が閉鎖した村で人口が2600人から4254人に

・移住者を受け入れる村・カドネ
・都市部の若者を囲い込む

2 なぜ人口が倍増したのか

・交通事情の改善
・少子化対策と女性の社会進出
・高等教育と都会志向の薄さ

3 村づくりに貢献する移住者の生き方

・村の市街地整備を担うアーキテクトは移住組
・小さな村の合意形成
・食を活かした産業振興に関わるオリーブ精製工場オーナー

4 移住者を受け入れ、支援する村

・NPO活動を通した地元への統合
・小さな村役場はどのように成長していくか
・ネオルーラルと旧住民が混在する新しい社会現象
・村の将来への展望

5 隣村・ルールマラン村に見る抑制的な土地利用と公共空間魅力化による「アートの村」づくり

・158の「フランスの最も美しい村」と郷土愛
・農村観光のあり方
・どんな小さな村にもある「マルシェ」のしくみ・村が管理する公共広場と道路空間

第6章 コミュニティを支える最低限の機能を確保する中心市街地政策

1 人口10万人以下の自治体の明暗

・空き店舗が少ない地方都市の中心市街地
・人口が10万人以下の「シャッター通りがない町」

2 空き店舗率1.7%のビアリッツ(人口2万5000)に見る、街に人を呼ぶモビリティ政策

・町長自らが陣頭指揮する冬場の観光客誘致政策
・自治体が管理する公共空間としての海辺
・商店街への車のアクセスを守り、歩行者にも優しいきめ細かい駐車対策
・新しい住宅開発とまちの発展

3 5年間で6750億円を投入する政府の中心街活性化策

・シャッター通りを抱える人口5万以下の町の共通項と複合的な要因
・郊外の大型店舗とネットショッピングへの対応措置
・自治体が主導する中心市街地活性化政策

4 一度は政策の失敗で市街地が衰退したサンブリュー(人口4万5000)の総合的な中心市街地活性化策

・郊外大型店舗との競合と広域での都市発展政策の不在
・中心街の魅力を高めるための公共機関による総合的な支援
・空き家対策への取り組み
・あきらめず町の発展を図る自治体―住宅対策とモビリティ

第7章 文化と教育の力で活性化を図るシャルルヴィルメジエール

1 1980年代の繁栄後、人口が6万から4万7千に激減

2 小さな町で共有する世界の文化

・まちなかの空間を活かして開催される「世界人形劇フェスティバル」
・人形劇を通して世界とつながる

3 若い首長の自治体新生への試み

・大学誘致と環境・公共空間の魅力化策
・地元の村長を兼務するシャルルヴィルメジエール自治体職員

4 40歳を前にエリート官僚から転身した首長

・フランス政財界を動かす「エナルク」
・定年後ではなく働き盛りに故郷の町に帰ったわけ

5 パリを脱出したい人たち

・パリで開かれる「地方就活フェア」
・ネオルーラルを生む移住者向けウェブサイト

第8章 フランスから何を学ぶか

1 村での生活を続けるための工夫

・サービス機能を守りぬくためのアイデア
・広域で補う行政サービス

2 小さな村落が生き延びるための考え方

・都会を模倣せず、田舎を大切にする
・新参者の積極的な受け入れに必要な寛容性

3 地方活性化は村落と地方中核都市の両輪で

・過疎の村に仕事をつくることにこだわりすぎない
・過疎地の再生は地方都市の仕事づくりから

おわりに

ヴァンソン藤井由実
ビジネスコンサルタント(日仏異文化経営マネジメント)。翻訳監修書に『ほんとうのフランスがわかる本』(原書房、2011年)、著書に『ストラスブールのまちづくり』(学芸出版社、2011年、土木学会出版文化賞受賞)、『フランスの地方都市にはなぜシャッター通りがないのか 交通・商業・都市政策を読み解く』(学芸出版社、2016年)。

フランスの大都市を描いた『ストラスブールのまちづくり』、人口10万人以上の地方都市の動きを紹介した『フランスの地方都市にはなぜシャッター通りがないのか』に続いて、フランスの村落部についての3冊目の拙著をご購読くださる読者に心から御礼を申し上げる。

フランスでも1980年代には出生率が下がり、地方の人口10万人未満の小規模自治体では中心市街地が空洞化した。しかし出生率はその後回復し、元気な町や村も多い。また普通の若者世帯が子どもを連れて地方に移り住み、農村地帯の人口も増えている。

衰退から再生へ向かっている地方の小規模自治体はどのような取り組みをしてきたのか?に答えるのが本書の試みだ。筆者は「モビリティ」の観点から、フランスの住みやすいまちのあり方を分析し、交通、商業や住宅供給政策を包括した都市計画が必要だと述べてきた。「計画なくして開発なし」の原則は、若者が移住する小さな村落にも適用されている。そして自治体運営のすべての基本政策を支える法律には「連帯・助け合い(富の再分配)」と「環境保存」という基本理念が読み取れる。

本書は「町」や「村」の活性化が基本テーマだが、コミュニティを支える「人」に重点を置いている。過疎対策の中心を占める少子高齢化社会に対応する政策は、住民がその土地でどのように生活できるかに関わる。

多民族からなる多文化国家のフランスは緊張社会だが、個々の生き方の選択と多様性を出来る限りの範囲で認める社会の寛容性がある。国民は重税を収め、社会格差の解消に努め、飽くことなく「生活の質の向上」を求めながら挑戦を恐れない。税制や選挙、地方政治の在り方など、多面的に「地方の賑わい」を考えてみたい。また村活性化の背景のグローバルなご理解につながるように、フランスの子育て、教育、高齢者への対応などについての全体像もご紹介した。社会構造も基本政策も全く異なるが、日本の参考になるフランスの事例があれば嬉しく思う。

それでは、フランスのルーラルにようこそ!

こちらをご覧ください

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