建築・設計・製図
内容紹介
安藤忠雄「住吉の長屋」、堀部安嗣「屋久島の家」、岸和郎「東大阪の家」の名作住宅3題で製図、パース・模型制作、プレゼンテーションと一連のスキルを学べる入門書。中庭をもつ矩形平面という3題の共通点や、周辺環境や構造種別(RC造・木造・S造)に応じた個々のプランニングで、空間を読み解きながらの基礎習得を実現
体 裁 A4変・92頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2609-2
発行日 2015/11/15
装 丁 木村 幸央
はじめに
prologue 住宅を考える
戦後住宅の変遷
3つの住宅の特長
設計図面とは
設計のプロセスに応じた図面
手描きの図面とCADの図面
折図1-6 3つの住宅の原図
1-2 〈住吉の長屋〉1階平面図兼配置図・断面図兼アクソメ図
3-4 〈屋久島の家〉1階平面図・立面図・矩計図
5-6 〈東大阪の家〉3階平面図・断面図
折図7-8 S=1/50スケールによる平面図の比較
住吉の長屋・屋久島の家・東大阪の家
chapter 01 住吉の長屋
Introduction 〈住吉の長屋〉について
section 01 平面図とは
1階平面図を描く
2階平面図を描く
section 02 断面図とは
断面図Aを描く
section 03 立面図とは
西立面図を描く
section 04 パースを描く
1点透視図を描く
2点透視図を描く
section 05 模型をつくる
column 読解〈住吉の長屋〉
chapter 02 屋久島の家
Introduction 〈屋久島の家〉について
折図9-10 〈屋久島の家〉 平面図・立面図・矩計図
section 01 木造軸組構法とは
section 02 平面図を描く
1階平面図を描く
section 03 矩計図を描く
section 04 構造伏図を描く
基礎伏図・床伏図・小屋伏図を描く
section 05 配置図を描く
section 06 軸組模型をつくる
column 読解〈屋久島の家〉
chapter 03 東大阪の家
Introduction 〈東大阪の家〉について
section 01 基本図面を描く
平面図を描く
立面図を描く
断面図を描く
section 02 展開図を描く
section 03 構造図を描く
section 04 階段詳細図を描く
らせん階段・直階段を描く
折り返し階段を描く
section 05 アクソメ図を描く
column 読解〈東大阪の家〉
chapter 04 資料編
section 01 製図の基本
製図を始める前に
線の太さと線種、文字の書き方
図面の種類と役割
図面の表示記号
建築図面の図法
section 02 建築設計の流れ
設計のプロセス
スケッチとエスキース
3つの住宅を読み解くキーワード
プレゼンテーションをする
模型と模型写真
ダイアグラムをつくる
監修
貴志雅樹(きしまさき)
著者
松本明(まつもとあきら)
近畿大学建築学部建築学科教授。松本明建築研究所主宰、一級建築士。1957年香川県生まれ。1983年神戸大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。小河建築設計事務所、浅井謙建築研究所勤務を経て、1994年松本明建築研究所開設。2008年より現職。
横山天心(よこやまてんしん)
富山大学芸術文化学部造形建築科学コース講師。ヨコヤマダ建築設計事務所主宰、一級建築士。1975年富山県生まれ。1998年東京工業大学工学部建築学科卒業。第一工房、長谷川逸子・建築計画工房勤務を経て、2005年に山田秀徳と共に独立。2006年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻博士課程満期退学。2006年より富山大学助教に着任、2010年より現職。
製図の教科書を、いつか手掛けたいと考えていました。私は40年ほど前に、安藤忠雄建築研究所のスタッフとして〈住吉の長屋〉の担当をしておりました。矩計図を描きながら、屋上のシート防水の立上がりの納まりと逆梁の寸法、1階、2階の中庭側スチールサッシュの納まりなど検討していた時、現場から帰ってきた安藤さんとこのような会話をしました。
安藤さん 「実施設計図はできたか」
貴志 「今、詳細図を描いています」
安藤さん 「責任の持てんことは、いいかげんに描くな。やめとけ」
私は、ディテール集などで調べながら描いているつもりでしたが、素材、工法、意匠的な意図など、全てを考え、また、全てを知って描いているとはいえなかったのです。当時は安藤さんの指摘を正確に理解できていませんでしたが、設計という仕事に関わるほど、1枚の図面のもっている意味の大きさに気づきました。設計者の描いた1枚の図面は、50倍、100倍になって、施工会社によって実際につくられるのです。安藤さんはその1枚の図面を、実物の建築と等価に見ていたに違いありません。それ以来、機会があれば建築を学ぶ学生が初めて描く建築図面の意味、重要さ、面白さに少しでも触れてもらえる本を手掛けたい、との想いがあり、本書の執筆に至りました。
本書では以下の4つの基準によって、掲載する3つの住宅作品を選定しました。
1. 著名な建築家が設計した名作住宅であること
2. 外部空間を取り込んだシンプルな箱型の住宅であること
3. 設計当時の手描きの図面が掲載可能なこと
4. 木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造(RC造)といった構造種別が明快であること
まず、①に挙げた建築家の住宅は、皆さんがこれまで慣れ親しんできたハウスメーカーなどの手掛ける量産型の住宅とは異なり、土地固有の環境や家主の想いが丁寧に読み解かれています。住むことの本質を捉えなおし、細部まで設計者の思想や流儀が徹底して反映された住宅から、新たな価値や魅力を設計する姿勢を学んでほしいと考えます。②には、ミース・ファン・デル・ローエの著名な格言「Less is More(より少ないことはより豊かなことである)」にあるように、複雑な空間構成でなく、極限まで削ぎ落とされた単純明快な空間構成にも多様性や豊かさを生み出せることを知ってほしい、という思いを込めています。3つの住宅はどれも単純な箱型の建築でありながら、外部空間を取り込むことで豊かで美しい空間が実現していることがわかるでしょう。③に示す手描き図面の参照も重要です。本書に掲載した折図から、図や文字の細部まで配慮の行き届いたオリジナルの図面にみられる緊張感や、建築家が図面に込めた想いを肌で感じ取ってほしいと思います。そして最後に④の構造種別です。本書で取り上げるのは小規模建築の基本構造である木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造(RC造)に限定しています。構造といえば、他にも、組積造や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)やプレキャストコンクリート造、さらにそれらが組み合わさった混構造などさまざま挙げらますが、まずは3種の基本構造の違いを単純な空間構成で明快に示し、それぞれの構造および構法への理解を深めてほしいと考えました。
上記の基準によって、木造は堀部安嗣さんの〈屋久島の家〉、鉄骨造は岸和郎さんの〈東大阪の家〉、鉄筋コンクリート造は安藤忠雄さんの〈住吉の長屋〉を選びました。
これから皆さんが学ぶ「図面の模写(トレース)」は、単に図面を描き写すだけの作業ではありません。三角スケールで各寸法を確認し、かつ、線の太さや線種の意味を考えながら線を描き、建築家が図面に込めた想いを読み解く作業です。時間をかけてじっくりと取り組むことで、建築への理解がより深まっていくことでしょう。
貴志雅樹