元気なローカル線のつくりかた
内容紹介
長く厳しい状況にある地方の鉄道。しかし近年、新しい経営手法とサービス改善の努力で経営の危機から再生した路線が現れ始めた。公募社長による改革で注目を集める山形鉄道、上下分離経営でコスト削減とサービス改善を達成した上信電鉄、子会社化で活路を見出した養老鉄道など全国の事例から鉄道存続には何が必要かを考える。
体 裁 四六・216頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2572-9
発行日 2014/06/15
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史
はじめに
第1章 東日本大震災からの復旧
1 三陸鉄道 いち早い復旧対応とPR戦略で再生
2 JR東日本八戸線 人気シェフ監修のレストラン列車で復興に貢献
第2章 公募社長による第三セクター鉄道活性化
1 由利高原鉄道 「安心と信用」を守る地域密着の取り組み
2 山形鉄道 集客力を活かして「フラワー長井線ランド化」を目指す
第3章 上下分離経営による活性化
1 上信電鉄 群馬型上下分離経営でコスト削減とサービス向上を達成
2 福井鉄道 上下分離による設備更新と他社との相互乗り入れ構想
3 一畑電車 経営の自律性を高め、観光・映画との連携で利便性を向上
第4章 子会社化による生き残り
1 岳南電車 経営をコンパクト化して利便性向上を図る
2 養老鉄道 民有民営の上下分離経営で地域密着の改革を推進
第5章 モータリゼーションの危機を乗り越える
1 江ノ島電鉄 テレビドラマを活かして観光客もターゲットに
2 広島電鉄 危機の時代に存続に成功、サービス改善で市民の支持を獲得
第6章 倒産からの再出発
1 水間鉄道 グルメ杵屋の支援を得て新サービスを展開
2 琴平電鉄 地元企業の支援を得てサービスを改善
第7章 交通政策基本法の成立とローカル線のこれから
1 「地域公共交通活性化再生法」「地域公共交通確保維持改善事業」の総括
2 東日本大震災による鉄道被害
3 「交通権」「移動権」の盛り込みをめぐる議論
おわりに
参考文献
評:吉田千秋
(ひたちなか海浜鉄道株式会社取締役社長)
バランスよくさまざまな事例を紹介・分析
ローカル鉄道だけでなくバスや飛行機、船舶に至るまで、まちづくりと交通に深い造詣をお持ちの運輸評論家堀内重人さんが”地域の自立を通した地方鉄道の活性化の考察”をテーマに著された「元気なローカル線のつくりかた」。
あらゆる観点からバランスを考えた13の事例が取り上げられ、分析がなされています。
地域的には東北のJR東日本八戸線から四国の高松琴平電鉄まで。経営形態ではJR、第3セクター、中小私鉄、民有民営型上下分離、路面電車等々。活性化策についても観光誘致型、事業者主体型、公募社長奮闘型、事業者の経営破綻からの立ち上がり型など。
ローカル鉄道と沿線地域の活性化に取り組み、なにかいい事例はないかと常にアンテナを張っている当時者にとって、こんなに見事にサンプリングされた書籍に出会えたことは、かけがえのない宝物を見つけた気持ちになります。
そして、気の弱い人にはなかなかできない取材時の著者の鋭い突っ込みと、それに丁寧に答えている事業者の皆さんとのやりとりもまた貴重。
小さい事業者は、普段からいろいろなアイデアを持ち込まれ「それ、いいな。」と思うことも多くあります。が、今やっている活性化策で手いっぱい。なかなかアイデアちょうだい、となりません。えちぜん鉄道の活性化策を「やらないの?」とぶつけられた福井鉄道の社長さんが明確に「社の方針としてそれはやらない。」と返答、それでもちゃんと利用客が増えている事例など、思わず「そうなんだよな」と相槌を打ってしまいます。この書には、今まで表に出なかったそんな鉄道事業者の本音も見え隠れしています。
そして各地の事例分析の後、最終章では東日本大震災やヨーロッパの先進的な公共交通政策を絡めながら、これまで国が行ってきた公共交通維持に関する法整備の流れを検証しています。
鉄道と地域の活性化。そのバイブルとして、本書をご一読されることをお勧めします。
担当編集者より
自家用車を売るための道路建設には税金が惜しげもなく投入されるのに、地方鉄道は少しでも採算がとれないと「補助金は無駄」「廃止せよ」の大合唱…
そんな過酷な状況のなかで、廃線の危機を乗り越え、地域の足を守ってきた鉄道はなぜ存続できたのか?
撤退した鉄道会社と何が違ったのか?
そんな思いで本書を企画しました。
本書の見どころは、著者ならではの鋭い質問力で現場の生の声に迫っていることでしょう。
本書が鉄道復権の流れを少しでも後押しすることに貢献できれば幸いです。
(岩崎)