中心市街地活性化のツボ

長坂泰之 著

内容紹介

中心市街地の衰退が止まらない。緩すぎる郊外規制等の外部要因はすぐには変えられないが、我々が今できることは何なのか?郊外拡散を規制し中心市街地を一体的に運営する「タウンマネジメント」の必要性と日本各地の先進事例に見る活性化の「七つのツボ」を提示、都市計画・商業双方の視点に立つ論客による実践書の決定版!

体 裁 四六・232頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2510-1
発行日 2011/04/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめにおわりに書評
はじめに

序章 「あがら☆たなべぇ調査隊」の取り組み(和歌山県田辺市)

第1部 中心市街地の現状

第1章 なぜ、中心市街地は衰退してしまったのか

1 中心市街地、特に地方の中心市街地の衰退が止まらない (熊本市中心市街地)
2 「まちなか」と「郊外」で増えた「もの」「こと」と減った「もの」「こと」
3 中心市街地・地域商業が衰退した原因は何か
4 中心市街地活性化基本計画認定地域のその後

第2章 では、私たちはどうすればいいのか?

1 私たちでは解決できないこと(外部要因) 避けて通れない国レベルの郊外規制
2 先進事例の英国の取り組みから学ぶ 政策とタウンセンターマネジメント
3 日英の比較からタウンマネジメントの意味を考える
4 私たちにできること(内部要因) 内部要因は自分たちで変えられる

第2部 中心市街地復活の七つのツボ

ツボ1 リーダーシップとタウンマネジメント

1 中心市街地活性化のリーダー(最終責任者)は自治体の首長(青森市)
2 リーダーの補佐役である参謀(タウンマネージャー)の存在(長野市)
3 わが国でもタウンマネジメントの試みが始まっている(鳥取県米子市)
4 地域が自立できる仕組みを導入した「熊本城東マネジメント」(熊本市)

ツボ2 明確な方向性と戦略を持つ

1 誰も助けてくれないなら自分たちでする 日本一小さな百貨店「常吉村営百貨店」(京都府京丹後市)
2 買物難民問題と正面から向き合う まちなか半径300m商圏の「徒歩圏内マーケット」(熊本県荒尾市)
3 「2核1モール」による中心市街地活性化(長野市)
4 小さな成功から大きなステップへ 「十街区パティオ」(宮崎県日向市)、「夢CUBE」(奈良市)

ツボ3 地域の強みを徹底的に磨く

1 まちづくりの素材としては完全に埋もれていた「やきそば」を活かす (静岡県富士宮市)
2 歩行者四人と犬一匹から二三〇万人の観光地へ(滋賀県長浜市「黒壁」)
3 「メイドインアマガサキ」と「尼崎一家の人々」(兵庫県尼崎市)

ツボ4 まちのファンを育てる/まちの役者を育てる

1 心に響くということ・感動を呼ぶということ 体験型観光から得られるヒント
2 まちなかでも体験型観光がはじまった OSAKA旅めがね(大阪市)
3 首都圏のベッドタウンが若者のまちへ変身する(千葉県柏市)
4 商店街組織やイベント組織が若手を育てる 下通二番街商店街(熊本市)、大須商店街連盟(名古屋市)
5 レトロな下町を紹介しながまちのファンと役者を育てる 下町レトロに首っ丈の会(神戸市兵庫区・長田区)

ツボ5 つながる/連携する/回遊する

1 店主と家主がつながる/世代間でつながる 上乃裏通り(熊本市)
2 商店街間の連携で生き残りを図る 3 「100円商店街」は魔法のような道具(山形県新庄市から全国各地に展開)

ツボ6 イメージアップと情報発信を意識する

1 まちの「イメージアップ」と「マーケティング」(千葉県柏市)
2 マスコミとの付き合いを熟知しているタウンマネージャー(鳥取県米子市)
3 活性化を実現している地域の多くは情報発信もしっかり行っていた 「北の屋台」(北海道帯広市)、「ぱてぃお大門」(長野市)

ツボ7 不動産所有者を巻き込む

1 不動産の所有と使用の分離による中心市街地の再生
2 「使用と所有の分離」による初の市街地再開発事業 (香川県高松市/高松丸亀町商店街A街区)
3 不動産の所有と使用の分離による㈱「黒壁」の店舗展開 (滋賀県長浜市)
4 「所有と使用の分離」の様々なケース
5 不動産所有者を巻き込もう

終章

おわりに

長坂泰之

1963 年生まれ。1985年中小企業事業団(現独立行政法人中小企業基盤整備機構)入団。1994年中小企業診断士登録。中小企業大学校において、中小企業診断士養成研修の企画、講義、実習指導(個店、広域商業診断等)、タウンマネージャー養成研修などの中心市街地、商業関連の研修の企画、講義を経て、全国各地の中心市街地、商店街、ショッピングセンター、個店の診断を多数実施。また、英国でのタウンマネジメントに関する調査のほか、各地(国内多数、韓国)で中心市街地活性化などに関する講演多数。現在は近畿を中心に各地でまちのにぎわい創出のお手伝いをしている。併せて、近畿の11施設のビジネスインキュベーションの運営を通じてものづくりのお手伝いもしている。現在、独立行政法人中小企業基盤整備機構近畿支部まちづくり支援課長兼支援拠点サポート課長兼地域振興課長。共著に『失敗に学ぶ中心市街地活性化』(学芸出版社、2008年)。

2010年5月、兵庫県伊丹市で第2回の「伊丹まちなかバル」が開催された。5枚綴りのチケットを購入し、まちなかにある飲食店80店のうち5店を飲み歩くツアーだ。「バル」とはスペイン語だ。英語なら「バー」、イタリア語なら「バール」となる。この「バル」は、日本では2004年に函館市で始まった「函館バル街」が最初と言われている。まちの回遊性を高め、店と来訪者をつなげるイベントだ。この日の「バル」では約2300冊ものチケットが売れ、老若男女、市長も市民も、そして県外からも多くの人が集まり、マップを片手に「次はどこに店にしようか」とみんな楽しそうに歩いている。
「バル」当日、午後4時の伊丹商工会議所の会議室。正午から始まったバルの裏側で、その取り組みについて語る伊丹市役所の綾野昌幸さんや市民ボランティアの村上有紀子さんの話に熱心に耳を傾ける30人ほどの集団がいた。地元での「バル」の開催を決めて、先輩伊丹の取り組みを勉強しに来た、滋賀県守山市と和歌山県田辺市で中心市街地活性化に取り組む市民のグループだ。地元でのバルの成功に向けてその顔つきは真剣そのものだ。

一方、中国地方のとある都市の駅前。数年前にまちの顔として市街地再開発事業や各種の補助金を導入して素晴らしい施設を整備したが、その中にあるショッピングセンターの専門店ゾーンには空き店舗が目立つ。また、東北地方のある都市の駅前商店街は人の気配が感じられず、空き店舗対策のチャレンジショップは薄暗く、店内に入るのにも勇気が要る。このように、せっかく補助金や交付金を使ってハコモノを作っても、予定していた集客や売上が達成できなかったり、ランニングコスト(運営経費)が捻出できないなどの理由で事業として成り立たないケースが各地で起こっている。また空き店舗対策で補助金を投入しても、補助期間が終わるとすぐにまた空き店舗になってしまうようなケースが実に多い。このようなことを続けていては、せっかくの税金をいくら投入してもまちは一向に元気にならないし、無駄遣いのツケは全て私たちの子供や孫たちが将来負担することになる。

今、まちづくりの進め方が変わりはじめているように感じる。「まち」が「まち」でしかできないことを模索し始めているように思う。ハコモノ重視ではなく、かつ単なる商店街対策でもない、これまでとは違ったアプローチでまちを元気にする取り組みが全国各地で起こっている。本書では、衰退したまちを活性化させた全国各地の取り組みのなかで、新しい取り組みから時代が変わっても色あせないものまで、是非みなさんに知って欲しい取り組みを紹介しながら、これからの中心市街地活性化において本当に大切なことは何か、そして、今、私たちにできることは何かを、皆さんと一緒に考えていきたい。
本書は専門書ではない。自分たちのまちの中心市街地や商店街の活性化に興味がある、地方の衰退を何とか食い止めたいと思う方々に是非とも読んでいただきたいと思って書いた。本書が、皆さんの地域が元気になるよりよい方向を見い出すきっかけになり、まちなか、中心市街地、あるいは地域を少しでも元気にしたいと心から願っている皆さんに少しでも役に立ち、そして、私たちの子供や孫たちが住みたいと思えるまちづくりにつながれば、これ以上の喜びはない。

今回出版できたのは、何よりも私の職場である独立行政法人中小企業基盤整備機構の前田正博理事長をはじめ、上司、同僚の方々のお陰である。職場の理解なしには出版は不可能であった。心から感謝したい。
今回の出版にあたり本の推薦をしていただいた流通科学大学の石原武政教授には日頃から気軽に接していただき感謝の言葉もない。今回も気軽に「いいよ」と推薦文を書いてくださった。前著『失敗に学ぶ中心市街地活性化』でご一緒させていただいたお二人にも大変お世話になった。関東学院大学の横森豊雄教授には2006年に英国にご一緒させていただき、マンツーマンで英国の取り組みを教えていただいた。あの凝縮された英国での一週間は何事にも変えられぬ経験であった。中小機構で中心市街地サポートマネージャーをしていただいている久場清弘先生は、私が初めて診断の現場にデビューしたとき以来、ずっとお付き合いしていただいている。日頃から温かい目で私を見守ってくださっている。

次に、この本で紹介させていただいた事例に登場するみなさん全員にお礼を述べたい。私がこの本を書こうと思ったのはみなさんがいたからだ。「みなさんの取り組みや想いがひとつになれば素晴らしいものになるかも知れない」。そう思ったからに他ならない。みなさんの素晴らしい取り組みが輝いたものとして表現できていたらこれ以上の喜びはない。
また、全国のまちづくりの仲間にも感謝したい。この本に登場するみなさんは全国のまちづくりの仲間が紹介してくれた方々だ。みなさんのお陰で書くことができたと思っている。とりわけ3年ほど前に大阪に来てから、関西のまちづくりの仲間には本当にお世話になった。特に近畿中心市街地活性化ネットワーク研究会の皆さんには感謝の気持ちで一杯である。この研究会は、近畿版のATCM(英国TCM〔タウンセンターマネジメント機関〕の全国ネットワーク)ができればと思っていたところ、尼崎市役所の梅村仁さんと近畿経済産業局の福田利治さんのお陰で組成できた。研究会の役員のみなさんや職場の後輩の古川荘太郎君、松永秀人君、川治恒紀君がいなければ研究会は運営できていなかった。

学芸出版社の前田裕資さんと編集の岩崎健一郎さんにはこのような機会をいただき、感謝の言葉もない。
最後に、陰でしっかりと応援してくれた妻かほりと長男裕史と長女はるかに心から「ありがとう」と言いたい。

まずは、著者である長坂泰之氏について触れたい。彼の肩書きは、中小企業機構基盤整備機構の課長。また、中小企業診断士でもある。1985年に前身である中小企業事業団入社以来、この道一筋なのであるが、こういう業界にありがちな頭でっかちの理屈屋とは真逆の人物なのである。40代後半、身長180cmを超える大男で、顎に白髭をたくわえた、一見無骨なヤクザか俳優のような風貌。そして、飲むのが大好き。決してアル中ということではなく、その場の雰囲気が好きということである。飲みながら話すことで、本音が聞き出せるということもある。私も彼と出逢って、この2年間でどれだけ杯を交わしたか、数え切れないほどだ。

まちづくりに関わる人には、酒好きが非常に多い。彼がその酒好きのまちづくり屋から、本音、愚痴の全てを聞き出し、まとめたのが本書である。

私にとって羨ましい限りだが、彼は仕事上、さまざまなまちを訪れる。また、訪れる回数はひとつのまちにつき、1度や2度ではない。

我々が視察に訪れる場合、せいぜい年間1回が限度、しかも1度訪れたまちを2度、3度訪問することはない。果たしてそれで、そのまちの本質が見えるだろうか。

私がまちづくりに携わったこの2年間で痛感していることは、まちを訪れるだけでなく、そのまちのキーマンに会うことの重要性だ。

単に活性化に成功したまちを訪れ、「人がたくさん歩いているなぁ」「すごいなぁ」と感想を持ったところで、自分のまちづくりに取り入れられるだろうか。

例えば、長浜の「黒壁」。通行量4人と1匹だった時代から、現在は約200万人の観光客が訪れるまちになったわけだが、視察に訪れた人の大半がその賑わいだけに目を向け、ただの観光で終わってしまっていることだろう。

「取り立てて目立った地域資源のなかった長浜」「来訪者のためのまちとしては完成しつつあるが、生活者のためのまちとしてこれからどうするか」(本書第2部ツボ3より)。「長浜のまちづくり唯一の欠点は、人づくりをしてこなかったこと」(本書第2部ツボ4より)。長浜のキーマン吉井さんの本音を引き出すことができたからこその、この文である。
これを見た読者は以下の2点を学ぶ。

  • 1.やり方次第で、どこのまちでも活性化は可能だということ。
  • 2.一見、大成功しているように見えるまちでも、問題を抱えているということ。

重要なのはこれらの点に着目できるかどうかである。

まちづくりは時代とともに変化している。10年前に求められていたことが、現在では全く違っている。この至極当然のことをわかっていない、まちづくり本がどれだけ多いことか。現場で動く者にとって、10年前に求められていたことをそのまま載せているようなマニュアルなど何の役にも立たないのである。また、最前線で戦う者が、自らは安全地帯にいて理論の構築に終始する者のいうことを参考にするだろうか。
長坂氏は、常に第一線の人と交流する(ただの交流ではなく、心と心の繋がった)ことで、現場の生の情報と成功するまちづくりに普遍的に必要な「ツボ」を本書に詰め込むことに成功した。
彼にまちづくりの現場の人間としての経験はないが、役割として与えられていれば、地域に入りこんでのまちづくりを成し遂げたであろうと想像できる。
彼が、まちづくり屋に必要なあらゆる要素を備えていることを私は知っている。しかし、ある特定の地域のみのまちづくりをすることが彼の役割ではない。彼の役割。それは、日本全国のまちの中心市街地活性化を手助けすること。

しかし彼は、彼がいくら講演をしようが、補助金を使ってハード面に投資しようが、活性化が成らないことを知っている。何より重要なのは、そのまちの「人」なのである。商店街の人だけではない。もはや、商店街の人だけではまちの活性化は成らない。

主体が市民のまちづくりについても、本書は多数(和歌山県田辺市、兵庫県伊丹市、千葉県柏市、他)取り上げている。彼は、まちづくりにおいては、そのまちの誰もが主役に成り得る可能性があり、また主役と成って欲しいという願いを込めて、本書を書きあげたのであろう。

また、彼も人間なので、彼の役割を果たし続けるには限界がある。本書によって、彼は少しでも多くの「まち」や、そこにいる「人」が気付くこと、動き出すことのきっかけとなることを願っているのである。
本書を、まちづくりに携わるできる限り多くの方に読んで欲しいと切に願う。そして読むだけではなく、その日から行動に移してほしい。自分のまちで、取り組めることを始めるのもよい。まずは本書で取り上げられている事例を、実際に見に行くのもよい(その際は、必ず本書記載のキーマンにアポを取ることを忘れずに。長坂氏とキーマンの信頼関係ができているから、「本を読んで」と伝えれば、先方は快く迎え入れてくれるだろう)。

また、長坂氏自身が主張していることだが、本書は決して、専門家だけの為に書かれたものではない。1部で、「中心市街地の現状」とこれから日本が参考にすべき英国の先進的なタウンマネジメントについてふれ(退屈だと思う方は飛ばして読み進めてもよい)、2部で、実際に彼が、地域に入りこみ、キーマンに話を聞いて噛み砕いた具体事例を取り上げている。この2部が、読み物としても非常に面白いのである。
まさに「事実は小説より奇なり」。さまざまなまちの悲喜こもごもが、見事に描かれている。単に観光に訪れる人にとっても、裏側を知ることができるし、就職先に悩んでいる学生にとっても、「まちづくり」という分野に興味を持つきっかけとなろう。

「今、書けるなら、全く別のまちや人のことも取り上げるんだけどね」とは、出版後の長坂氏の言葉。それくらい活発かつ急速にまちづくりは変化し、進化を遂げている。これから5、6年もすれば、この本に取り上げられている事例は古く感じられるようになるだろう。それまでに先進地域から、成功事例だけでなく失敗事例も含めて、さまざまなことを学びとろうではないか。そして、彼の、おそらく出版されるであろう本書の改訂版には、自分のまちを取り上げてもらえるよう、取り組もうではないか。

(株式会社みらいもりやま21/石上 僚)

担当編集者より

当初「全国のまちづくりのカリスマ的な方々に全員集まってもらって講演会ができればいいのに」などといった夢想から始まった本書の企画。それと同等かそれ以上のことを実現していただくために、全国のキーマンと強いつながりを持ち、特別に予備知識がない方にも分かりやすく紹介していただける長坂さんにお願いしました。寂れるまちなかの現状に疑問を持つ市民の方、商業者の方、自治体やまちづくり会社、コンサルタントでまちなかの活性化に取り組む方、研究者、学生の方など、中心市街地の活性化とこれからの都市・まちのあり方に関心を持つ皆様にお読みいただければと思います。

(I)

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