産学官民連携の地域力

関西ネットワークシステム 編

内容紹介

衰退する地域経済への処方箋として、産学官民連携の重要性が増しており、現在では「産学連携」のみならず、文理を超えた幅広い分野に広がりを見せている。第一線で日々奮闘するメンバーが集結し、連携の核となる産学官民コミュニティの全国的展開と現場での経験を自ら語り、コラボレーションと地域活性化の未来を探る初の試み。

体 裁 四六・240頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2504-0
発行日 2011/03/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc.

目次著者紹介はじめにおわりに

はじめに 堂野智史

第1部 産学官民コミュニティの意義と展開

第1章 産学官民コミュニティとは

1 産学官民コミュニティの意義と課題 与那嶺 学
2 産学官連携政策と産学官民コミュニティ 吉田雅彦
3 産学官民コミュニティ―日本とアメリカ 西出徹雄

第2章 産学官民コミュニティの全国的広がり

1 岩手ネットワークシステム(INS)の活動と展開 小野寺純治
2 関西ネットワークシステム(KNS)の活動と展開 堂野智史
3 やまなし産業情報交流ネットワーク(IIEN・Y)の活動と展開 手塚 伸

第2部 産学官民コミュニティが生み出す新たな地域力

第1章 「産」が生み出す地域力

1 地域中小企業の連携で新分野へチャレンジ 中川裕之
2 地域を越えた大学との連携がもたらしたもの 古芝義福
3 研究開発型中小企業と大学 三宅英雄
4 零細企業の新製品開発とネットワークの重要性 森本和洋

第2章 「学」が生み出す地域力

1 地域イノベーションと産学官民コミュニティ 兼松泰男
2 地域企業による小型衛星開発への参加 千葉正克
3 地方大学の産学連携と産学官民コミュニティ 今井 潤

第3章 「官」が生み出す地域力

1 メディカルバレーの「キセキ」 髙村 康
2 地域産業・市民と関わるインキュベーション施設 奥田三枝子
3 地域資源の活用とコーディネート活動 樽谷昌彦
4 地域経済に貢献する情報拠点としての図書館 小林隆志

第4章 「民」が生み出す地域力

1 地域資源を活かした新商品開発の展開 宍田正幸・濱名 研
2 クリエイターのネットワークが生む価値と課題 杉山貴伸
3 オープンソースとRubyを通じた地域産業振興 丹生晃隆
4 大学による「市民の科学」への支援と地域活性化 伊藤真之

総括と展望─産学官民連携の地域力 稲垣京輔+与那嶺 学

おわりに 堂野智史

関西ネットワークシステム

関西を中心に活動する産学官民メンバーが、互いにフラットな関係性を築き、自主的かつ積極的に交流・協働していく人的ネットワークに支えられた異分野コミュニティ。産学官民の広範な交流によって地域の自立と活性化に寄与することを目指している。

本書は、我々が有志の仲間とともに過去10年間にわたって活動してきた産学官民コミュニティ「関西ネットワークシステム(KNS)」が編者になって、現場で産業振興や科学技術振興、まちづくり活動に取り組む当事者の思いや奮闘する様子を自らが書き記したものである。

KNSは、岩手ネットワークシステム(INS)をモデルに立ち上げた、産・学・官・民に属する有志メンバーが個人資格で参加する異分野コミュニティである。「産学官民連携はコミュニケーションからはじまる」をテーマに、2003年6月から活動を開始し、2010年12月末現在約276人の会員が、年間60~70日にも及ぶ活発な活動を行っている。

目的は、構成メンバー同士や構成メンバーが関係する様々な人々との顔の見える関係づくりであり、参加する人同士が所属や肩書き、年齢、性別、国・地域など背中に背負った看板を脱ぎ捨てて、ひとりの自立した個人として関係性を創り、それをもとに各自が、産産、産学、産官、産学官など様々な組み合わせによる自主的・自律的な活動に取り組むことで、地域産業や科学技術の振興、まちづくりの実現に取り組み、ひいては地域経済の活性化に貢献することをめざしている。

ところで、産学官民というと何となくわかったような曖昧な表現になりがちなので、その大凡の概念を整理しておこう。ここでいう「産」「学」「官」「民」とは、「産」は企業や営利活動を行う経済主体に属する人、「学」は大学や研究機関、その他教育機関で研究活動や教育に関わる人、「官」は行政や行政サービスを提供する組織に属する人、「民」はNPOやボランティアグループなど非営利で活動する主体に属する人、およびどこにも属さない個人、といったイメージで整理できる。

産学官民連携と一言で言っても、言うは易し行うは難しである。産学官民連携というと、「産」「学」「官」「民」各々の組織間連携を意識し、「産」「学」「官」「民」という言葉を線で結ぶ単純なイメージを描く人が少なくないが、各々の組織に所属する人々の属人的な関係性を抜きにしては成り立たない。各々の組織における人間同士の関係性が、様々な形でその成否に影響を与える。しかも、その関係性は時間的な流れの中で絶えず変化しており、その結果はその時々によって異なることになる。たとえ、産学連携に関する綿密なプログラムがあっても、それに携わるプロジェクトリーダーのマネジメント能力やリーダーシップ、構成員のモチベーションや当事者意識等々、様々な要因がその成否に関係しており、しかもこれらの要因は恒久的に固定化されたものではなく、日々刻々と変化するため、時間軸を視野に入れないと本当の意味で成否を判断することは難しい。

また、こうした関係性を生み出す「場」を、本書では「産学官民コミュニティ」と表現する。「コミュニティ」というと、社会学では、規定自体多義的であり概念が曖昧であるという前提のもと、伝統的には、「一定の地域の住民が、その地域の風土的個性を背景に、その地域の共同体に対して特定の帰属意識を持ち、当人にとっては選択の余地のない人格全体を包含するような文化・価値体系を持った集団」などと定義され、むしろ本書で言う「産学官民コミュニティ」は、特定の類似した関心や目的を持つ人びとが、自由意志で加入・離脱し、ある目的のために意識的に結合し形成する人為的集団である「アソシエーション」に近いものである。しかし、今日では、「コミュニティ」という言葉が、地域社会と共同社会という二つの意味合いを持ちながらも、連帯や共同の活動との関わりで用いられることが多くなってきており、本書においても産学官民連携活動の母体となるものとしてこの言葉を使うことにした。

現場で産学官民連携活動に関わる人は、必ずしも描いたシナリオのとおり事が運ばないイライラ感に苛まれながらも、目標の実現に向け日々努力・奮闘しており、繰り返し目前に現れる様々な難題に対して、失敗を繰り返しながら、時間をかけて結果を出してきた人も少なくない。小さな成果を生み出す舞台裏では、血の滲むような努力の中で悪戦苦闘した現場人の思いがあることを忘れてはならないのである。

しかし、いわゆる「成功事例」と呼ばれるある程度の結果が出た案件は、行政やマスコミ、大学の研究者などが話題に取り上げ、発信し、研究の対象として調査を行う。これは大変有り難いことなのだが、一方で、伝えて欲しい現場の思いが脚色、編集され、必ずしも正しく伝わらず、失望することも少なくなかった。ニュアンスのずれ程度であればまだいい方で、全く意図していないことが発信されたり、明らかに事実誤認であるケースもあり、現場で苦労する我々にとっては憤りを感じることさえあった。

また、KNSで活動していくうちに、全国各地で同じような思いを持って活動する熱い人に出会うことが多くなった。そして、これらの人たちと一緒になって熱い思いを交換しながら、互いに切磋琢磨し、ある時は協働し、各々の活動に取り組んできている。一見順調にプロジェクトを進めているように見えても、本音で話をすると、その舞台裏では相当な苦戦を強いられ、それに対して人並み外れた努力をして乗り越えてきている姿を垣間見ることになる。しかし、この経験値はなかなか表には出ないし、第三者が客観的に表現しようとすると臨場感がなくなってしまいがちである。

悪戦苦闘する現場での思いを正しく伝えるためには、若干客観性が失われても、現場で活動している本人が直接書き残すしかないと思ったのが、本書を出したいと思った最大の動機であった。様々な活動の裏側に潜む本音の部分を少しでも読者に伝えることができれば、同じ思いを持って活動する仲間の精神的な支えになるかもしれないし、これから産学官民連携活動に取り組もうとしている若い人たちにも何らかのヒントや気づきを与えられるのではないかと考えた。本書は、こうした思いを共有するKNSの熱いメンバー22人が、多忙な本業の合間を縫って、少しでも現場での思いを伝えるべく、執筆に取り組んだものである。

本書を構成するにあたっては、KNSメンバーの中から、現場で産学官民連携活動を実践し、ある程度の結果を出している人で、産産、産学、産学官など「産」「学」「官」「民」各々の組み合わせで、熱い思いを持って積極的に活動している人を選び、執筆を依頼した。当然のことながら、KNSのメンバーには、熱い思いを持って現場で頑張っている人が他にも大勢いることは言うまでもない。構成と紙面の都合上、この人選になったことをお断りしておきたい。

また、本書は、産学官民コミュニティの意義、政策的背景、国際比較、そしてINSモデルの波及を扱った「第1部 産学官民コミュニティの意義と展開」、KNSメンバーの活動事例から産学官民コミュニティの役割を明らかにした「第2部 産学官民コミュニティが生み出す新たな地域力」、そして本書の締めくくりである「総括と展望―産学官民連携の地域力」から構成される。

本書が、全国各地で同じ志を持って活動する産学官民メンバーに少しでも元気と勇気を与えられるものになればと願う次第である。

KNS世話人のひとり 堂野智史

(財団法人大阪市都市型産業振興センターメビック扇町)

そもそもKNS発足に向けた問題意識は約十5年前に遡る。与那嶺氏が本文中で書いているように、当時シンクタンク研究員であった私と与那嶺氏は一緒に仕事をすることが多く、各地で進められている産業振興プロジェクトやそれを牽引するコーディネータなどを調査しては、その成功要因・失敗要因について頻繁に議論を重ねていた。

当時を思い起こすと、「プロジェクト推進のために、ヒエラルキーを重視し、当事者意識のないメンバーが権威主義的かつ形式的に集められた組織」「同業種の集まりで刺激が少なく愚痴と人の悪口ばかりを言い合っている異業種交流会」「企業への利益還元を目的としているはずなのに、自分への利益誘導を率先する自称コーディネータ」「交流したら即連携や協働が生まれると信じ、すぐに成果を求める行政マン」などの存在に出会し、何となく違和感を抱きながらも、どうしたらこれらの課題が解決でき、本当の意味での結果が生まれるのか、二人とも悶々としていたことを覚えている。

1998年夏に偶々仕事で訪れた岩手でINSに出会い、産学官民コミュニティの重要性に何となく気づいてからは、その悩みは次第に払拭されることになる。以降、仲間とともに同種のコミュニティ立ち上げを試みるが、経験値の少なさから失敗に終わり、具体的実現には程遠い感触があった。

本文中にも記したが、2002年11月の「第2回INSinおおさか」の二次会の席上でKNS発足機運が沸き起こった際に、酔った勢いで「一旦立ち上げたら棺桶に入るまで続けることになるが、それでもいいのか」と呼びかけたところ、本書の執筆者でもある三宅氏が「一人で背負うことはないし、梯子を外さないから是非やろう」と力強く言ってくれたことは今でも強烈な印象として自分自身の脳裏に焼き付いている。周りにいた仲間も、お酒の勢いはあったかもしれないが、「やろうぜ」という強いメッセージを発してくれたことは確かである。この熱い思いと仲間のメッセージが、私と与那嶺氏をはじめとした後の発起人メンバーの心を動かし、ようやく2003年6月にKNSを立ち上げることができた。

それ以後、約8年間、思いを共有する熱い仲間とともに「産学官民連携はコミュニケーションからはじまる」を合い言葉に、大小併せて500回以上にも及ぶ活動を重ねてきた。その間、一部発起人の退会や世話人メンバーの交代など初期メンバーに変更はあったが、8年経った今も発足当初の仲間を含めて全国各地で約280人の仲間が元気に活動を行っている。

KNSは、ある意味「遊び」のプライベートな活動なので、活動を行えば行うほど、お金も時間も家族とのコミュニケーションもなくなり、時には「自分はいったい何をしているのだろうか」「本当にこんなことをする意味があるのか」と疑問に思うこともあった。しかしそんな時にKNSに集まってくれた仲間が「楽しかった」「元気になった」「来て良かった」と笑顔で言ってくれると、やって良かったなという思いが募り、再び自分自身のモチベーションが高まって、次の活動の企画に入るという繰り返しの日々であった。

また、回を重ねれば重ねるほど、いろんな仲間に出会う機会が増え、皆一様に友人も増えた。各地各所で様々な協働の動きに発展している例や、直接的な「連携」の事例ではないが、KNSを通してモチベーションが高まったとか、視野が広がった、人脈が広がったといった話を聞くと、まだまだやり続けなければならないなと、いわば使命感みたいなものさえ感じるようになった。ここに書き記すことによって、おそらく、発足当初に仲間と交わした契りを生涯貫くことになるのではないかと改めて思っている。

KNSを通じていろんな人に出会ううちに、熱い思いを持って頑張っている人が全国各地にたくさんいることに気づいた。冒頭にも書いたように、これらの人たちとコミュニケーションをとるにつれ、表面上は成功しているように見えても、舞台裏では悪戦苦闘の連続で、相当な苦難を熱い思いと志で乗り越えていることを知るようになった。しかし、その現場人の思いや苦労、そして経験値を伝える機会や手段もなければ、第三者を介するとなかなか正確には伝わらないという現実があった。「なんとか現場の思いを正しく伝えたい」。長年こんな思いを抱きながら、いつかはKNSで本を出版したいと思っていた。

執筆を依頼したみなさんは本業が多忙であったが、予定通りここに日の目を見ることができたことは大変嬉しい限りである。執筆者の思いが十分伝えられたかどうかは読者の判断に委ねなければならないが、日々現場で悪戦苦闘する思いの丈を自分なりの表現で記したことには大きな意味があったのではと考えている。

最後に、本書の発刊に当たっては、大変多くの方にお世話になった。執筆者であるKNSメンバーの他、編集委員としてこのプロジェクトに参加してくれたKNS世話人の長川勝勇氏、平山知明氏、吉田真二氏には記して謝意を表する次第である。

また、このプロジェクトを実現に導いて下さった株式会社学芸出版社の岩崎健一郎氏には、企画段階から出版に至る最後まで多大なご苦労をおかけしたし、我々の思いに共感して下さり出版企画にご尽力をいただいた同社京極迪宏社長にはKNSメンバー一同、心から感謝の意を表する次第である。

2011年2月 堂野智史

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