プロが教える住宅の植栽

藤山 宏 著
日本建築協会 企画

内容紹介

住空間で樹木草花を効果的に使いこなす知識

住居への緑のニーズは高まり、住む人のライフスタイルに応じた多様な植栽が求められている。建築主が納得する植栽を提案するには? 本書は、植物の基礎知識及び住空間の各部位ごとの植栽計画を掘下げ、観葉植物、壁面・屋上の植栽も含め、樹種選定からメンテナンスまで、樹木・草花を使いこなす技術を具体的に解説した。

体 裁 B5・176頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2494-4
発行日 2010/11/10
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめにおわりに

第1章 植物の基礎知識

1.1 植物(緑)の役割①──微気象・日差しのコントロール、防風・防火・防音
1.2 植物(緑)の役割②──隠す、視線をそらす、奥行を感じさせる
1.3 植物の分類─植物学上、葉の形状・着生状態による分類
1.4 耐性(抵抗力)による分類①──陽樹・陰樹・中庸樹、耐乾性・耐湿性、耐塩(潮)性
1.5 耐性(抵抗力)による分類②──耐煙性、耐風性、耐寒性・耐暑性
1.6 用途、鑑賞部位による分類──花物
1.7 鑑賞部位による分類①──葉物
1.8 鑑賞部位による分類②──幹物、実物、香りを楽しむもの
1.9 高さ、樹形による分類──高木・中木・低木、グランドカバー
1.10 特殊樹木およびタケ・ササ類とコニファー
1.11 新樹種とは?──外来種と「山から来た新しい仲間」
1.12 一・二年草、宿根草、グラス類および水生植物
1.13 樹木の経年変化と整枝剪定
1.14 風水家相と縁起木、忌み木
1.15 樹形によるイメージ構成

コラム1 カエデ・モミジの違いと紅(黄)葉

第2章 現地調査と植栽計画図の作り方

2.1 住宅の植栽に求められるもの
2.2 住宅の種類による植栽計画の考え方
2.3 現地調査のポイント
2.4 植栽図面の表現方法
2.5 植栽材料の選定フロー
2.6 配植の考え方
2.7 低木(潅木)、グランドカバーの配植選定と植栽密度
2.8 樹木の根鉢と植込場所
2.9 植栽計画に関する各種助成制度と関連法律

コラム2 タケ、ササ、バンブー類補足

第3章 部位別植栽の考え方

01 門廻り

3.1 門廻りの位置パターン別植栽──平行配置、直角配置、斜め配置
3.2 モダン系の門廻りの植栽
3.3 カジュアル系の門廻りの植栽
3.4 ナチュラル系の門廻りの植栽
3.5 フォーマル系の門廻りの植栽
3.6 シャッターゲート、アーチ門等が隣接する門廻りの植栽
3.7 和風門廻りの植栽──腕木門、数寄屋門等

02 アプローチ・階段スペース

3.8 アプローチデザインのパターン別植栽──直線、S字、クランク
3.9 階段スペース等の植栽

03 垣・塀・フェンス等

3.10 生垣の種類と利用法
3.11 塀のスリット、開口部の植栽
3.12 フェンス、トレリス、パーゴラなどの植栽
3.13 狭い空間(隣地側他)の植栽

04 法面・擁壁

3.14 法面部分の植栽
3.15 擁壁(土留)前の植栽

05 駐車スペース

3.16 駐車スペースの形態別植栽
3.17 駐車スペースの植栽の留意点と事例
3.18 カーポート屋根などへの植栽

06 坪庭・中庭

3.19 浴室周辺の植栽
3.20 坪庭、中庭の植栽

07 デッキ・テラス・ベランダ・バルコニー

3.21 デッキ、テラス周辺の植栽
3.22 ベランダ、バルコニーの植栽

08 壁・屋上

3.23 壁面緑化の種類と管理方法
3.24 屋上の植栽の考え方と方法

09 インテリア

3.25 観葉植物の設置場所とモダン系のインテリア観葉植物
3.26 カジュアル系、ナチュラル系のインテリア観葉植物
3.27 エレガント系、クラシック系のインテリア観葉植物

コラム3 ペット(イヌ、ネコ)と暮らす植栽計画

第4章 イメージ別ガーデン植栽の考え方

4.1 モダン和風テイストの植栽
4.2 雑木林風テイストの植栽
4.3 英国風テイストの植栽
4.4 アジアンテイストの植栽
4.5 南欧、地中海風テイストの植栽
4.6 北欧風テイストの植栽

コラム4 植栽と根廻し

第5章 施工・メンテナンス

5.1 植栽材料の発注と検査
5.2 土壌改良と植穴
5.3 樹木の植付けと支柱
5.4 潅水(水やり)と施肥
5.5 中・高木の手入れ──整枝、剪定
5.6 低木、地被類の手入れ──刈込み、他
5.7 植物の病気と害虫

藤山 宏(ふじやま ひろし)

1947年佐賀県鹿島市生まれ。鳥取大学農学部農学科卒業後、電鉄系造園会社、住宅会社造園課、外構造園工事会社を経て、1994年㈲造景空間研究所を設立。戸建住宅中心のエクステリア・ガーデン工事の営業、設計、施工管理一筋のキャリアを活かし、マネジメント面及びテクニカル面の両輪で、経営面アシスト、システム構築から社員教育、技術研修等にて活躍中。

●資格及び所属団体:

技術士(都市及び地方計画)、一級土木施工管理技士、一級造園施工管理技士、上級造園修景士、日本造園学会、日本修景協会、英国王立園芸協会日本支部、日本建築協会

講師、執筆、他:

●E&Gアカデミー副学長及び専任講師。兵庫県いなみ野学園非常勤講師。住宅会社、エクステリア関連メーカー、代理店、工事店、他全国各地で講演及び研修会講師。著書に『住宅エクステリアの100ポイント』(学芸出版社)、㈱リック『エクステリアテキスト』「基礎編」CD版監修、「週刊エクステリア」「リフォーム産業新聞」等に連載、コラム執筆

大きくなりすぎたゴールドクレスト、無残に切り詰められたケヤキ、隣地側に大きくはみ出しているミモザ、門廻りの表札やカメラホーンまで隠してしまっているオリーブ……。

仕事がら各地の住宅地等を見てまわりますが、こんな光景を見かけることが増えています。そして、新しい住宅地ではシマトネリコが10軒に7~8軒は植えられていますし、マツ、マキなどの仕立物中心の植栽は極端に少なくなってきました。以前とは大きく様変わりした住宅植栽が目につきます。

そういう筆者も、ここ15年位はマツなどを図面に折込む機会はほとんどありませんでしたし、逆にシマトネリコなどは、実際かなりの現場で使っています。この要因は、敷地スペース、建物デザインの多様化、ユーザーの樹木に対するイメージ・嗜好、メンテナンスの問題、他多々ありますが、樹木の耐性(抵抗力)を含めた特性を理解したうえで、敷地内の門廻り、カースペース、隣地側などの各部分の植栽樹種選定や適切なメンテナンスさえきちんとできていれば、最初に述べたような光景は少ないのではと思います。

緑(植栽)の持つ機能は、大きくは地球環境という視点から、小さくは住宅での目隠しとしての生垣まで実にさまざまありますが、少なくとも、快適な住空間づくりには欠かせない存在といえます。庭に対する意識が「鑑賞本位の見る庭」から個々のライフスタイルに応じた「介在できる、使う庭」に変化した部分があるように、住宅における植栽の視点もさまざまな要因から変化しており、植物の、エクステリア部分を含めた壁と土間のデザインのマテリアルとしての見方や使いこなしが必要になってきたと言えます。

樹木、草花、造園(ガーデン)に関する書籍、雑誌等は今までに多数ありましたが、住宅という限られたスペースでの植栽計画に特化した書籍は非常に少なく、あっても照準が絞れていなかったり、現場とかけ離れたものになっていたりもします。

本書では、植物の基礎的知識の理解から始まり、住宅の各部位(門廻り、アプローチ、階段、塀、土留、カースペース、坪庭、他)から壁面、屋上に至る部分をできるだけ掘り下げた形で構成し、さまざまなテイスト別の計画や植栽代替案等を図面、パース、現場写真等を用いて基本的な考え方から応用までをわかりやすい形で展開しています。また、住宅内部の観葉植物もテイスト別に、リビング、洗面・トイレ、浴室と分けており、植物の基礎的知識からメンテナンスまで、戸建住宅の建物内および敷地全体を含めた植栽(緑)の考え方のポイント等を体系的に説明しています。

本書は住宅建築に携わるデザイナー、設計事務所の方々からエクステリア、造園に関わる多くの人、また、これから住宅を計画されておられる一般の皆様まで広く読んでいただくことにより、緑を活かす舞台としてのエクステリアデザインを考えるうえで、必ず何らかのお役に立てると思います。先に刊行しました『住宅エクステリアの100ポイント』と併せてご愛読いただければ幸いです。

2007年8月に『住宅エクステリアの100ポイント』を出版させていただいてから3年余りが経ちました。前著では、エクステリアの一部としてしか説明できてなかった植栽部分を各ゾーンごとにより掘り下げ、インテリア観葉植物を含め、テイスト別のより具体的な樹種選定等、住宅植栽に特化した形で書かせていただきました。

「住まい」というのは決して建物内部のみではなく、エクステリア、ガーデンを含めた敷地全体が生活の場であるという視点から、最近はユーザーの外部住環境に対しての見方が大きく変化しており、住宅を設計する以上は敷地全体を含めたトータルな視点での計画がますます必要になってきています。敷地全体を計画していくなかでは、エクステリア部分を含め、壁と土間のデザインマテリアルとしてさまざまなフォルム、テクスチュア、カラースキームを持つ樹木、草花などを効果的に使いこなす知識、スキルが必要になるのは言うまでもありません。

私は講演会や研修の場で「植物は嫌いではないけれど、そんなに好きではない…」という話をすることがあります。できれば植物がすごく好きな方が良いかも知れませんし、植栽の話をする以上そう思われているかも知れませんが、好きとか嫌いという以上に、マテリアルとしての位置付けからの植物の重要性は十分に認識しているつもりです。建築の一部の人はどちらかといえば植物が苦手?というか、そこまでの必然性を感じておられていない人も見受けられますし、製材されたスギ、ヒノキ、トガ(ツガ)の違いはわかっても、山にあるスギ、ヒノキ、トガ(ツガ)の違いは判別しにくい方も多いと思います。しかし、建物の様式、デザイン、テイストに対して、樹木の配植選定次第で建物の演出効果も大きく変わることもありますので、もう少し植物を身近なところに位置付けて、マテリアルの一つとしての認識を持たれることをおすすめします。

「はじめに」にも書かせていただきましたように、最近はシマトネリコやヤマボウシなどの自然樹形志向のユーザーが増えてきています。そのなかでは、今まであまり使われなかったような「新樹種」と総称されるハイノキ、ナナミノキなど山から来た新しい仲間から、ノルウェーカエデ、フォレストパンジーなどの外来種等さまざまな植物が流通していますし、植木材料業者さえ良く知らないようなものがネットで販売されていたりもします。

最近は樹木のみではなく、宿根草、一・二年草などの草本性植物(草花)も含め、植栽材料として用いることができなければ、全体計画ができにくい場合もあり、草花類の品種改良等においてはバイオ技術、DNA組換え等もあり、以前にはなかったような花の色や特性を持つ植物がますます増えてきています。いわゆる、樹木から草花に至るまでの緑(植栽)をある一定のレベルで使いこなすスキルが必要になっているということと思われます。

マテリアルと言っても他の金属やコンクリート、木材などと異なり、当たり前のことですが植物は生き物です。植え込まれた場所の環境から始まり、日常の潅水、施肥、メンテナンス等の関わり方によっても生長や植物の状態は変わりますし、たまには専門家でもわからないような状況になったり、まだまだ不思議な部分も兼ね備えています。植物の持つ環境保全等の機能的効果や建築的、審美的効果だけではなく、植物に接することにより自然を感じたり、リラックス、癒しの効果、また、生物(虫、昆虫、野鳥など含め)に対する想い…など、日常の住宅という生活の場を通じてそこに住む全ての人が植物に対し、さまざまなものを感じていただければとも思います。

本書出版にあたりましては、日本建築協会の上原出版委員長をはじめメンバー各位には貴重なご意見と助言をいただいたり、㈱学芸出版社の吉田編集長および編集の越智和子氏には見本組、校正などいろいろお骨折りいただきまして感謝申し上げます。本書のなかで掲載した現場写真など各種資料の使用に際してお願いしましたところ、資料提供各位には快諾していただき、ありがとうございました。
また、私事ではありますが、前著同様、娘の奈緒子には原稿の書き出しから入稿までのパソコン作業等、裏方としてかなりの苦労もかけたと思います。
このように、多くの方々の励まし、助言、協力をいただきまして本書が出版されることになりました。皆様にはこの場をお借りしまして、心より厚くお礼申し上げます。

2010年10月

藤山 宏