まちで闘う方法論

木下 斉 著

内容紹介

お金がない、無関心、旧態依然の組織…環境を嘆くだけでは始まらない。まずは自分から変わる必要がある。まちを経営するという観点で18年闘い続けてきた著者が、まちを変えるために必要な思考と、身に付けるべき7つの技術、そしてまちの活動に参加する段階から継続的な事業マネジャーになるまでの成長プロセスを解説する。

体 裁 四六・232頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1359-7
発行日 2016/05/15
装 丁 minna/長谷川哲士


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はじめに

第1章 思考編

自分の中に常にもう一人の自分をおいて考える
「自分―仲間―その他」の3つのカテゴリの相互関係で考える

1.自分から始める時に必要な思考

1. 受け身にならない。常に対案を作る

提案する癖を身につける
思考の軸を作って意見を整理し、提案する
ひとまず提案してみる

2. みんなではなく、自分がどうしたいのか

「聞き上手」になりすぎていないか?
まちで稼ぐ学生たち

3. 準備病から脱却し、まずはやってみる

動き出すと、わかることが一気に増える
3年周期で新しい分野に挑戦する

4. 「悩むこと」と「考えること」は違う

問題が発生した時には、一歩引いて、クールに考える
考えているのか、悩んでいるのかを自認する
客観的な「正論」から意思決定する

2.グループで取り組む時に必要な思考

1. 「自分たちでやる」から、「人に任せる」へ

規模によってやり方を変えていく
自分のモノサシを捨てる
人の入れ替えを定期的に行う

2. 説得ではなく、結果で見せる

やってみなければ、誰もわからない
論より証拠。結果が一番の代弁者
案の段階で潰し合いをせず、結果で競う

3. 「ないもの」で諦めず「あるもの」で勝負する

「予算がない」は「知恵がない」
あるものでやれることを考える

3.革新的な事業に地域で取り組む時に必要な思考

1.いい人になることは二の次にする

批判されるのは良いこと
最初は理解されなくて当たり前
小さな成果を一刻も早く出す
「安定への甘え」と「メンバー間の隔たり」に注意

2. 再挑戦こそ本当の挑戦

挫折こそが大いなるチャンス
二度と地域に関わるものか!と思うのは普通のこと
反省を活かして再挑戦する

3. 稼ぐことと向き合う

地域で「稼ぐ仕組み」を生み出す
本当に必要なものは必ず事業になる
目の前にいる人にとって価値があるものをやろう

第2章 実践編

1.成長プロセスのイメージ

2.成長プロセスの基本ステップ

3.ステップ別解説

1 単発活動メンバー:自分のウリを持って取り組みに貢献しよう
2 単発活動マネージャー:面白い企画を立てて参加者を率いよう
3 継続活動メンバー:自己管理しながら要領よく動こう
4 継続活動マネージャー:変化にも対応できる継続力を養おう

計画を常に修正し続ける
継続することを目的にしない

5 単発事業メンバー:稼ぐための営業力を身につけよう
6 単発事業マネージャー:複数事業を展開し、新たな事業モデルを創り出そう

事業ポートフォリオを時間軸で考える
新しいビジネスモデルを生み出す

7 継続事業メンバー:事業の連鎖を生み、構造問題の解決を図ろう

構造問題を解決し、早く事業を立ち上げる
細かな分業はせず、共同作業が可能な環境を維持する
営業活動は常に継続する
プロジェクトの連鎖を生み出す

8 継続事業マネージャー:事業手法を体系化し、外とのネットワークを広げよう

自分のスタイルを確立する
外部とのネットワークを広げる
メンバーとの情報ギャップを埋める
権限移譲を行う
事業内容を整理し体系化する

第3章 技術編

1.基本的な技術を身につける

2.情報力 情報を集め、検証する

リアルで気づき、ネットで調べて、現場に反映
小さな疑問から、連鎖的に情報を収集していく

3.情報力 複眼的に分析する

問題の「全体像」をつかむ
事実に基づき、数字と向き合う

4.論理力 因果関係を整理する

「原因」は自ら発見しなければならない
因果関係の基本法則
構造問題を解決するロジカル・シンキング

5.論理力 複数の要素を構造化する

ツリーにして整理する
フローチャートで整理する

6.構想力 自分のビジョンを描く

個人の構想力が試される
曖昧な合意形成がもたらすもの
構想力に必要なのは「主観的な夢」
共感されるビジョンとは

7.構想力 絞った戦略を立てる

戦略─溝を埋めるシナリオ
積み上げ型戦略立案:小さな仮説→改善で目標に近づける
逆算型戦略立案:現在地から目標に近づくシナリオ

8.実現力 プロジェクトを効率的に管理する

「タスク」「分担」「期限」を決める
時には嫌われる役回りも必要

9.実現力 やる気を引き出し、良い結果を導く

モチベーションを高めることも技術
「報・連・相」は細切れ時間と自動化で対応する
ネット活用で円滑なプロジェクト・マネジメントを
チームの共有時間をしっかり取る

10.組織力 みんなで取り組むからこそ失敗する

みんなで「正確に」話すことは難しい
みんなで決めると間違える
集団浅慮に気をつけろ
マネジメントの責任はどこにあるか

11.営業力 対象を絞り逆算で開発する

地方にはピンホール・マーケティングが効く
絞り込むこと、組み合わせることが基本

12.数字力 経営に関わる数字を見分ける

損益計算の基本
地域で必要な会計の基礎知識
投資回収を意識した事業計画を組み立てる

おわりに

木下 斉(きのした・ひとし)

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事、内閣官房 地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一般社団法人公民連携事業機構理事。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、経営学修士。専門は経営を軸に置いた中心市街地活性化、社会起業等。
著書『稼ぐまちが地方を変える』『まちづくりデッドライン』『まちづくり経営力養成講座』など。

1998年、私は16歳の時に早稲田商店会による地域活性化活動に参加しました。
その時に「地域活性化」なるものに参加していると標榜する早稲田の学生は、私を入れても数人しかいませんでした。高校生なんて皆無。しかし現在は、実に驚くほど多くの10代、20代の若者たちが、全国各地の地域活性化に関わるようになっています。

本書は、地域で新たに挑戦する方々に向けて書いた本です。

私が地域活性化に取り組み始めた頃は、成功事例や地域政策に関する解説本はありました。しかし、地域活性化に取り組んでいる人が、どう活動を企画し、どう問題と向き合い、どう事業を作って飯をくっているのか、といったような情報は全くありませんでした。

そのため常に試行錯誤してきました。まち会社の経営に失敗したり、成功事例と持て囃されて浮かれたり、取り組みが補助金漬けになって衰退したり、と数多くの失敗を繰り返しました。
これまでを振り返り、18年前の自分に何を伝えるかを考えました。それは下記の3つです。

  • (1)どのような考え方を持って、地域で取り組めばよいか。
  • (2)どのような活動や事業を経験していけばよいか。
  • (3) どのような技術を習得すればよいか。

これに従い、本書は「思考」「実践」「技術」という3つのフレームワークに沿った構成になっています。成果を上げた事例だけでなく、失敗した事例も紹介しました。また、推薦図書も多く紹介しています。
全体に一貫しているのは、地域活性化とは「稼ぐこと」であり、地域活性化を牽引する人材というのは「地域を稼げるようにできる人材」であるということです。
一方で、そのような地域で「稼ぎ」を作り出す取り組みは、残念ながら未だ地域活性化のスタンダードからはかけ離れています。地域活性化を謳う取り組みのほとんどは税金を使い、地域に良さそうな非効率なことを繰り返し、誰も責任を持たない。結果、今も地域は衰退をしています。

江戸時代の後期、人口縮小で悩む北関東から東北などの600にも上る農村の経済と財政を再生した、二宮尊徳が残した言葉に「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」というものがあります。まさしく、現代の地域活性化にも必要なことです。我々は正しい道徳心を持ちつつ、併せて厳しい経済とも向き合って実践をしなくてはなりません。

しかし、地域で「稼ぐ」新たな事業を立ち上げる時には、時に地域の一部から反発を受けたり、仲間から裏切られることも出てきます。しかし、それでも自ら身銭を切って投資し、事業を通じて成果を上げなくてはならない、闘うべき時があります。

闘うとは別にまちの人と闘うということではなく、ある時は過去の常識と闘い、ある時は法律制度と闘い、ある時は既存組織の壁と闘い、ある時は事業と闘い、そして、常に心が折れそうになる自分と闘うことを指しています。

日々の闘いで折れず、自分を成長させながら、地域での取り組みを広げていく、着実な一歩一歩の積み上げしかありません。逆に言えば、そのように日々の積み上げによる自分の成長なくして、地域の再生などは不可能であると思っています。

だからこそ、適切な「まちで闘う方法論」が必要なのです。

一介の高校生がまちに飛び込み、地域での活動で奮闘し、そして事業に挑戦しながらも失敗し、それでも再び挑戦をする。そんな18年間のプロセスが、多少でも皆様のお役に立てば幸いです。

本書は実は今から4年前に構想が立ち上がりました。

発端は編集者の方から、都市計画や地域活性化のこれまでのロールモデルでは「地域でどう稼ぎを作り、飯を食っていくか」という点で、これからの若者に役立ちそうもない、という話があり、18年前の自分が漠然と持っていた疑問に対して、今の自分がどう答えるかを考え、本書を書くことにしたのです。

地域を活性化し、さらに自分も飯を食うということは、実はシンプルです。自分の必要とする稼ぎの何倍もの価値を地域で作り出し、その中から自分の食う糧を獲ればよいわけです。とはいえ、単純なだけに難しい。私の場合は、地域活性化事業を通じて収入を得ていくまでには、活動に参加してから実に5年、事業として取り組み始めて3年ほどかかりました。

本書をまとめる中で、18年のプロセスを今一度思い起こすことになりました。まちに関わるきっかけをくれた早稲田商店会、そしてそこから広がった全国の地域とのネットワーク。さらに、行政から民間まで幅広い方々の支えがありました。地域で起こる様々な闘いを乗り越えてこれたのは、そのような多くの方の支えがあってこそです。

本書を読まれた方が、様々な方との出会いを通じ、地域に新たな「稼ぎ」を作り出されることを祈念しております。そして、どこかのまちで共に事業に取り組めたら、それ以上に嬉しいことはありません。

本書を通じて、まちで出会った多くの方々、そして友人、家族の支えによって今の自分が存在しているのだと実感させられました。この場を借りてそれらの皆様へ心より感謝申し上げると共に、期待を裏切らぬように地域で「稼ぐ」事業開発に奮闘しようと決意した次第です。

2016年3月  木下 斉