事例で読み解く 海外旅行クレーム予防読本

安田亘宏・菅生 洋 著

内容紹介

お客様相談室に届いた実際にあったクレームと対応をもとに、理不尽に見えるクレームにもそれなりの背景があり、きっかけがあることを分かりやすく説く。だからこそ、ちょっとした気遣いがクレームを防ぐ。旅行会社、添乗員、ガイドさんから広くホスピタリティ関係者に、商品改善・業務改善に直結するヒント満載。海外旅行の現場で働く人々の必読書。研修に最適。


田川博己(日本旅行業協会(JATA) 会長、JTB 代表取締役会長)推薦

今日、我が国の旅行市場は、インバウンドは絶好調と言えますが、海外旅行には危機感を感じています。海外観光旅行自由化50 年を過ぎ、多くの日本人が海外旅行を経験しました。海外旅行は1つの区切りを迎えたのかもしれません。
次の時代に向けてもう一度、海外旅行をする意味や価値の創造をしっかりとする必要があります。そのためには原点に戻り、お客様満足を最大にし、クレームをゼロにすることから始めなくてはなりません。
旅行業のようなサービス産業では、答えはすべて現場にあります。本書は、海外旅行を企画造成する人、販売する人、旅行中お客様をお世話する人、すべての現場の人々に読んでもらいたい一冊です。


体 裁 A5・184頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1356-6
発行日 2016/02/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

目次著者紹介はじめにあとがき書評

はじめに

第1章 添乗員のトラブル

episode 1 上海商城置き去り事件 ―中国―
episode 2 小さすぎるミネラルウォーター事件 ―ドイツ―
episode 3 迷子発生観光スキップ事件 ―イタリア―
episode 4 土産物沢山スーツケース紛失事件 ―フランス―
episode 5 バス内手帳紛失事件 ―ドイツ―
episode 6 カーテンボックス落下負傷事件 ―カンボジア―

第2章 エアラインのトラブル

episode 7 荷物紛失多額身の回り品購入事件 ―シンガポール―
episode 8 成田空港飛行機乗り遅れ事件 ―成田発イタリア―
episode 9 同行客Cクラス変更事件 ―台湾―
episode 10 名前のスペル間違え事件 ―ハワイ―
episode 11 道路渋滞航空機乗り遅れ事件 ―カナダ―
episode 12 前泊不要勘違い事件 ―成田発バリ島―

第3章 ホテルルームのトラブル

episode 13 デラックスホテル隣室イビキ事件 ―ハワイ―
episode 14 予定通りのホテルだけど事件 ―シンガポール―
episode 15 ニューヨーク三ツ星ホテル事件 ―アメリカ―
episode 16 2日連続客室ダブルアサイン事件 ―インドネシア―
episode 17 客室の景観相違事件 ―オーストラリア―
episode 18 客室タイプ相違1年後発覚事件 ―アメリカ―

第4章 ホテルでのトラブル

episode 19 シュノ―ケリングできないホテル事件―マレーシア―
episode 20 ホテル特典表記間違い事件 ―インドネシア―
episode 21 子供用プール工事中事件 ―ハワイ―
episode 22 セイフティボックス内現金窃盗事件 ―スペイン―
episode 23 ホテル客室暖房機出火事件 ―トルコ―
episode 24 偽りのファームステイ事件 ―ニュージーランド―

第5章 現地・手配のトラブル

episode 25 韓国式垢すり内出血事件 ―韓国―
episode 26 一度しか着られないシルクワンピース事件 ―香港―
episode 27 ソウル偽ガイド事件 ―韓国―
episode 28 上海トランク破損事件 ―中国―
episode 29 負傷時緊急連絡先役立たず事件 ―香港―
episode 30 帰国時緊急連絡先役立たず事件 ―タイ―
episode 31 スペイン強盗傷害事件 ―スペイン―
episode 32 変身写真ツアー事件 ―台湾―
episode 33 参加者増によるサービス低下事件 ―イタリア―
おわりに

資料編

reference 1  標準旅行業約款
reference 2  景表法
reference 3  消費者契約法

安田 亘宏(やすだ のぶひろ)

西武文理大学サービス経営学部教授。
法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。
1977年、JTB入社。JTBグループの旅の販促研究所所長などを歴任。2010年より現職。日本エコツーリズム協会理事、コンテンツツーリズム学会副会長、日本観光研究学会会員、日本国際観光学会会員、日本旅行作家協会会員。
著書に『観光サービス論』『コンテンツツーリズム入門』『フードツーリズム論』(以上古今書院)『食旅と観光まちづくり』『食旅と農商工連携のまちづくり』(以上学芸出版社)、『「澤の屋旅館」は外国人になぜ人気があるのか』『旅人の本音』『キャッチコピーに見る「旅」』(以上彩流社)、『長旅時代』『食旅入門』『犬旅元年』『祭旅市場』『島旅宣言』『鉄旅研究』(以上教育評論社)、『旅の売りかた入門』『旅行会社のクロスセル戦略』(以上イカロス出版)他多数。

菅生 洋(すごう ひろし)

西武文理大学サービス経営学部非常勤講師
中央大学法学部法律学科卒業。
1972年、日本通運㈱入社。日通旅行で海外旅行の商品企画・販売促進を担当。1996年、日本旅行業協会(JATA)消費者相談室長、年間約4000件のトラブルを処理。消費者セミナー等多数講演。2007年より西武文理大学教授。2014年より現職。著書に『判例漫歩&こんな時どうする!苦情対応110番』(共著、トラベル・ジャーナル)等がある。

旅行会社の企画実施するいわゆるパッケージツアーの参加者の旅行後の満足度は概して高い。それは、参加する旅行者がツアーを楽しみ良い思い出を残したいという強い気持ちがあること、企画実施する旅行会社が大手・中小を問わず自社のパッケージツアーの品質管理への取り組みが生命線と考えているからである。

しかし、旅行は目に見えず、手に取ることができず、事前に体験できない無形の商品であり、返品もできない商品である。旅行商品は、季節や天候、またサプライヤー(旅行素材供給者)であるホテル・旅館や航空会社、鉄道会社、バス会社、観光施設などの事情や対応などさまざまな要素が、旅行者の満足度を大きく左右するという特性を持っている。とくに海外パッケージツアーにおいて言語や文化、習慣、食事などの違いがさらに大きな要素となってくる。

海外旅行は、多くの旅行者が気軽に出かける時代となったとはいえ、決して安価なものではない。また、海外情報が容易に入手でき、その動機、目的が多様化、個性化しているなかで、旅行者の思い描く旅のイメージとの間にギャップが生じることがある。海外ゆえに少々のことは我慢して旅を楽しもうという思いの半面、ちょっとしたことで不満が生じ、大きなクレームとなってしまうことも少なくない。

クレームの起こる場面は、当然のことながら旅行中がもっとも多いが、それらのクレームは旅行中に解決されることも数多くある。そこで解決されないもの、さらに帰国後に気がついたことなどが旅行後に大きなクレームとなって発生する。まれに、旅行の出発前に発生することもある。

クレームの発生原因はまさに多様である。パンフレット記載内容との相違、つまり欠陥商品であったり、ホテルや飛行機への不満、現地旅行会社の手配ミス、販売員のミスインフォメーションや添乗員やガイドの不十分な対応のこともある。現地での不測の事態や実際の事件に巻き込まれることもある。なかには旅行者自身の誤解、思い込み、我儘が起因となることもある。近年の消費者保護を一番とする潮流は、消費者の権利意識を高めていき、とりあえず気になった不満は申し入れるという傾向が生まれてきている。

いずれにしても、旅行会社や実際に旅行者と対応する添乗員や現地スタッフにとっても予想のつかないトラブルは常に存在する。旅行会社がどんなに頑張っても旅行後のクレームはなくなることはないかもしれない。

このような消費者優位の時代に旅行会社は逃げることなく消費者と正対することが求められている。それは、クレームに対し顧客の立場に立って的確に対応することも重要だが、そのまえに、一つのクレームも創り出さない商品品質管理、販売体制、添乗業務などの斡旋体制、アフターフォローの仕組みをつくることが最大の課題である。

クレームは顧客からの最大の贈り物とも言われ、商品改善や業務改善に直結する旅行会社にとってはとても重要なもので、その対応は顧客の維持拡大に必要不可欠な日常活動である。しかし、クレームは、旅行の企画造成現場、旅行の販売現場にとっても、実際に旅行現場で顧客に対応した添乗員やガイドにとっても、けっして誇れるものではない。できるだけ早く、できれば大ごとにせずに解決したい出来事であり、それらが外部に伝わることは少ない。

社内でクレームを共有する仕組みをつくっている旅行会社は数多いが、企画造成現場、販売の現場、添乗やガイドの現場で顧客と日々接しているスタッフは案外、クレームに関する知識や情報を持っていないようである。そもそもが、オープンに多くの人に伝える類の事柄ではないという性質のものであり、クレームの量やクレームの内容はその旅行会社の信頼にも係わるものだからである。

そこで、さまざまな場面で実際に起きた海外旅行に関するクレームと旅行会社の対応をもとに創作したエピソードを綴ることにした。さらに、旅行者、旅行会社のそれぞれの立場から少し距離を置いて、クレーム予防方法を念頭に入れた辛口コメントを付けた。また、そのクレームとなった事象だけでなく、その背景となったそれぞれの旅行者の姿かたちや旅の動機や目的、さらに海外の観光地、観光スポットで楽しみ、感動している旅の風景も、限られた紙幅のなかではあるが描いてみた。実際に海外パッケージツアーに参加した旅行者の視線で、あるいは同行している添乗員やガイドの視線で、企画造成した旅行会社やそれを販売した旅行会社スタッフの視線で、さまざまな「事件」と向き合ってぜひ一緒に考えてもらいたい。

本書は、海外旅行に関するクレームの対応に関する法的見解やノウハウを伝える解説本ではない。事例を通し、クレーム自体をなくす、または減少させることを目的とした予防対策本である。クレームを事前に防ごうという旅行会社の思いは、必ず新たなもっともっと魅力のあるパッケージツアーを誕生させるはずだし、必ず顧客がもっと安心して気持ちよく購入する販売シーンを創り出すはずだし、旅行中にマニュアル化されたサービス以上のホスピタリティを生みだすはずである。

海外旅行に係わる企画造成しているスタッフ、販売しているスタッフ、旅行者を斡旋し同行している国内外のスタッフはもちろん、将来観光の世界を目指して観光を学ぶ大学生・専門学校生、国内でとくにインバウンドに係わる観光サービスを提供している人々にも気軽に読んでいただき、一緒に考えていただけたら幸いである。

本書は、旅行業界出身であり西武文理大学教員の先輩でもある共著者の菅生洋先生の旅行クレーム処理に対する深い知識と長年の実践経験により出版にいたったものである。また、法的チェックをお願いし、快く引き受けていただいた法学者である西武文理大学の和知惠一教授に御礼申し上げる。最後に、出版企画段階から編集にいたるまでさまざまな助言をいただいた学芸出版社の前田裕資社長に紙面を借りて改めて感謝いたしたい。

2016年1月

安田亘宏

日本人の海外旅行者数が1千万人を超えた1990年以降、海外パッケージツアーを企画する旅行会社が飛躍的に増加し、その結果、旅行業界の価格競争への転換が始まった。そして旅行会社は、とくに詳しい知識もない一般の旅行者がパッケージツアーに参加していることを十分に承知していたにもかかわらず、品質管理や旅行者の立場を考えたサービス精神を忘れ、安いほど売れるという考えが先に立った商品企画や販売に邁進していったのである。それによって旅行者は旅行に対する夢を持つ以上に、募集パンフレットの内容どおりだったかどうかのみ気にする風潮が高まり、それが旅行者の自己責任意識を遠のかせ権利意識のみを強めていった。そして、旅行会社の責任となるクレームが増えたのは当然であるが、旅行者側に原因があるクレームも急激に増大するという結果を招いたのである。

旅行という形のない商品の特殊性から、どれほど高品質の旅行商品であっても、事の大小を別にすればクレームの原因になる出来事が発生するケースがないとは言い切れない。国内旅行であれば自力で解決できるケースは多いと思うが、海外旅行の場合は、風俗や習慣、とくに言葉の違いから些細な問題でもその場で解決できないことがある。元来旅行者は旅を楽しみたいという気持ちを持っている。それゆえに何らかの問題が発生してもその場で解決できれば、こんなことがあるのも海外旅行だからと思って、納得してくれる人が多い。したがって、問題をその場で解決するためには、添乗員、現地ガイド、現地旅行会社やホテルのスタッフ等、旅行に関わるすべての人たちのお客様を思いやる気持ちが欠かせないと言える。

もちろん、旅行出発前でもクレームは発生することがある。商品企画から手配までの段階でのミス、また、販売員や出発空港での係員のミスインフォメーションなどが考えられる。では、旅行出発までの段階で何のミスもなかったとしたらクレームが発生しないかと言えばそうでもない。

たとえば、パスポートの有効残存期間の問題である。確かに募集パンフレットには渡航先国に関するパスポートの有効残存期間について記載されている。販売員は、パンフレットの条件書や注意書きをよく読むようにと説明すれば、旅行業法上の説明義務を果たしたことになる。しかし旅行者がそれを読まず、出発空港で有効残存期間不足が発覚し旅行をキャンセルせざるを得なくなったとしたら、やはりクレームに発展するであろう。販売員はたとえ義務ではなくてもパスポートのコピーをもらって確認して欲しい。また、旅行中にケガや病気になったという場合、それがたいしたことではなかったとしても、販売員が帰国後すぐに「おケガのほうは、いかがですか」などのお見舞いの一言を述べれば、その旅行者はロイヤルカスタマーになる可能性がある。しかし言わなければ、あんな冷たい旅行会社は二度と利用しないとなるかもしれない。

旅は非日常の世界、異文化の世界の体験である。旅行者は夢や感動を期待して旅に出る。その期待が何らかの不愉快な出来事によって裏切られたときに発生するのがクレームである。しかし、そのような出来事があっても、それを補う「何か」があれば、クレームは発生しないのではなかろうか。その「何か」とは、私たち日本人がもっとも得意とする「おもてなし」の心である。「一期一会」の気持ちを常に忘れず、旅行者の一つ先を考えたホスピタリティを発揮することが重要であり、それがクレーム予防へとつながり、ひいてはロイヤルカスタマーの囲い込みにつながると言える。

なお、本書では資料編として、標準旅行業約款、景表法、消費者契約法に関して、旅行会社ならびに現地旅行会社の社員、添乗員、現地ガイドの方々にとって必要最低限身に付けて欲しい知識として一部抜粋の形で掲載した。同時に観光系の大学生や専門学校生の教科書としても使用できる内容にしている。多くの方々に読んでいただき、クレーム予防方法、ひいてはツーリズム産業のホスピタリティについて考えていただけたら幸いである。

 2016年1月

 菅生 洋

評:辻野 啓一
(日本エコツーリズム協会事務局長・元JTBハワイ社長)

『クレーム転じてファンとなす』の例で続編を期待

ハワイで旅行会社の社長をしていたとき、夜の11時頃「お客様が怒っているので謝りに来てほしい」とスタッフからの悲痛な電話。ホテルに着くとホテルマネージャーから「風呂に熱いお湯が出ないとお怒りなのです」と説明があったが、実はまずはお湯が出ないことがお怒りの発端だが、怒りの本当の原因はクレームを挙げた後のホテルの誠意を欠いた対応に対してであった。

クレームによくあるパターンだ。始めにちゃんと対応しておけばよいものを、おざなりな対応で火に油を注いでしまう。本書はその勘所を的確に、しかも愛情をもってとぎほぐしてくれている。

本書の構成は、①お客様のクレームとクレームの背景、②クレームを受けた側の釈明、そして③作者のコメントという順だ。各エピソードを②まで読んだ時点で一度本を置き、大岡越前ならぬ安田・菅生越前がどのようなお裁きをするか自分で想像しながら読んでみた。

「そうだろうな」という回答もあれば、「そう考えるべきだったんだ」と思わず唸る名ジャッジも数々あった。根底に流れる考えは実に中立な立場である。

この時はこうすればクレームにならずにすむのにと、まさに本書の題名が示すようにクレーム予防に大いに役立つ読本なのである。一件、一件が示唆に富んでいるので、サービス業に従事する人は再三再四繰り返して読んでほしい本だ。

さらに、途中まで読み進むと、これが単なるクレーム予防の本でなく、実は作者一流の『サービス論』『ホスピタリティ論』であると気づく。

クレーム対応はマイナスだった評価をゼロまで回復させることに終始しがちだが、それでは弱くお客様を少なくともハッピーに、場合によってはその会社のファンに変えうると言う、極めてやり甲斐のある仕事である。

本書にはそういうヒントが随所に書かれているが、さらに『クレーム転じてファンとなす』の例を続編で書いていただき、ややもするとクレーム対応は気の重い仕事だと悩んでいる人たちに元気を与えてほしい。続編が、心から待ち望まれる。

担当編集者より

私は海外旅行の現場は門外漢だが、会社でトラブル、クレームを経験するたびに、ちょっとした心遣いのなさ、気の緩みが、最後の最後に先方の怒りを誘発することを痛感する。あのとき「こうしておれば」「ああしておれば」と悔やみながら後ろ向きの仕事をすることの何と空しいことか。

本書の事例は海外旅行の現場なので、その関係者にしか役立たないと思われるだろうし、実際、他の業界、職種の人が読んでくださることは少ないだろう。ただ、同じく他業界に属する一読者として読んで、部下に読ませたいと思った。

(前田)

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