エネルギーの世界を変える。22人の仕事
内容紹介
自分たちのエネルギーは自分たちでつくる! 温泉地で地熱、山間地でバイオマス、郊外住宅地で太陽光……地域の経済を回す地域の仕事から、メガソーラー建設やインフラ革新などのビッグビジネス、さらには地域融資や事業支援、制度設計や政策提言などの舞台裏まで。各々の立場で知恵を絞り一歩でも前へ! 若手渾身の書下ろし。
体 裁 四六・204頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1350-4
発行日 2015/04/25
装 丁 三重野 龍
はじめに 諸富徹
自然エネルギービジネスの現場で働く 1 ――独立起業して働く
だれかが始めないと始まらない バイオマス+温泉事業 ローカルベンチャー 井筒耕平
エネルギーから世界を変える 発電所開発・建設・運営事業 国際ベンチャー 川戸健司
都会で挑むエネルギー革命 分散型メガソーラー事業 郊外ベンチャー 小峯充史
GIS技術が地域性を可視化する 発電導入シュミレーション事業 ITベンチャー 分山達也
広がる木質バイオマスの環 薪ボイラー設計・販売事業 山村ベンチャー 森大顕
日本初!地域主導の温泉発電 温泉バイナリー発電事業 地熱ベンチャー 佐々木裕・山東晃大
自然エネルギービジネスの現場で働く 2 ――組織で働く
だれからも奪わない暮らし 百姓発電支援事業 農民連職員 佐々木健洋
地域再生をかけた未来への投資 風力発電融資事業 地方銀行員 佐藤幸司
新たな電力ビジネスモデルを目指して 電力供給事業 大手企業社員 真野秀太
三方よし!の事業をめざして 市民出資コーディネート事業 環境金融コンサルタント 谷口彰
世界のローカルと日本のローカルを結ぶ 国内外メガソーラー事業 発電事業会社社員 南原順
自然エネルギー事業を支える現場で働く
プレーヤーたちを支える舞台裏 実践者支援 環境コンサルタント 榎原友樹
百年持続する森づくりとともに 木質バイオマス事業支援 森林経営コンサルタント 相川高信
政策と現場のつなぎ手 政策提言・事業化支援 政策実践NPO 山下紀明
「世界を変える」仲間づくり 環境ビジネス人材支援 環境ベンチャー社員 佐藤李子
1万基の小さな発電所づくり 市民事業支援 草の根支援NPO 豊田陽介
自然エネルギー政策・研究の現場で働く
制度をつくる現場 FIT制度設計 国家公務員 安田將人
エネルギー自治を興すために 市民連携・行政実践 地方自治体職員 池本未和
エネルギーの転換に向けて 経済政策分析 シンクタンク研究員 木村啓二
限界集落にひそむ持続可能な資源地域経済研究 環境経済学研究者 中山琢夫
温暖化対策の実践支援をアジアで途上国政策研究 環境省勤務 浦上亜希子
おわりに 井上博成
この本は、2014年3月に発足した「若手再エネ実践者研究会」を母体として生まれた。
「自然エネルギー」と「地域」という視点を共有する若い人々が結集するこの研究会に、私も46歳にして“最高齢者”として関わることになるとは思ってもみなかった。しかしこれは、それだけ自然エネルギーの世界に、若く魅力的な人々が次々と身を投じていることの反映でもある。
この世界は急速に変わりつつある。特に日本は、2011年3月11日の東日本大震災の発生と福島第一原子力発電所の事故(3・11)をきっかけとして、急速な変化に直面している。百年一日のごとくだったエネルギーの世界も、「再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度」の導入と「電力・ガスシステム改革」によって、大きく変貌を遂げようとしている。この変化は不可逆的であり、日本も間違いなく20世紀型の「集中型電力システム(大型火力、水力、原子力発電)」から21世紀型の「分散型電力システム(ガスや燃料電池、太陽光、風力発電)」への移行が始まり、そのなかで、太陽光、風力、バイオマス、地熱、小水力発電といった自然エネルギーは、基幹電源の一角を占めるようになるだろう。すなわち、エネルギーの世界における地殻変動が始まったのだ。
本書に登場する執筆陣は、こうした変化に積極的に身を投じた人々でもある。読み進めると、 3・11に抱いた思いを大切にもち続け、実践に移し、直面する課題を「寄らば大樹の陰」ではなく、旺盛な独立精神とベンチャー精神で乗り越えようとしている共通点に気づく。自然エネルギーという「未踏の地」を手探りで進んでいくことの怖さ、失敗の経験とその教訓、達成の喜びと充実感を、著者たちの息づかいとともに追体験できる。試行錯誤を繰り返すなかでも「気づき」があり、それが大手企業にはないビジネスモデルの創出につながったことも記されている。
解決すべきチャレンジングな課題が眼前に広がっており、きわめてやりがいのあるエキサイティングなこの世界に身を投じることは、「人生を生きる」ことそのものだと言っても過言ではない。
自然エネルギーに関心を持つ人はもちろんのこと、農山村を中心とする地域再生に関心をもつ方々や、エネルギーへの関心の有無にかかわらず、そもそもこれから自分はどのようなキャリアを積んでいけばよいのかと日々考えている学生の皆さん、すでに企業で働いているけれども、はたしてこれでよいのかと迷いの生じているサラリーマンの方々、さらには、この世界を自分が変えつつあると実感できる手応えのある仕事がしたい、との意欲に燃えるあらゆる方々の手に、本書を届けたい。
2015年3月 諸富徹
「自然エネルギー業界は、若手の繋がりが弱いように思います。ぜひ同世代の実践者の方たちとのネットワークをつくることができれば思うのですが、いかがでしょうか?」
2013年9月、自然エネルギーを通じた地域自治で有名な長野県飯田市へ視察に訪れた帰りのバスの車内で、本書の監修者である諸富先生に、私が提案した一言。この一言をきっかけに業界若手の実践者の皆さんとの縁を繋ぎ、昨年2014年3月21日に計24名が集い、「若手再エネ実践者研究会」が生まれた。
この本のコーディネーターをさせていただき、この研究会の発起人である私自身も、京都大学大学院の経済学研究科博士課程に在籍しながら、出身地である岐阜県高山市で、自然エネルギー利用日本一を目指す市のビジョンを達成するため日々実践(木質バイオマスや小水力など)に取り組む。未成熟なこの業界をゼロからつくりあげる活動は常に試行錯誤で、思い悩むことも多い。各地にいる若手の実践者が繋がり、情報や行動を持ち寄ることで新しい流れを生み出すことができないかという構想は常々抱いていた。
組織された研究会は、三つのことを目的にしている。
①地域と情報を繋ぐ
②人と知恵を繋ぐ
③政策に繋げる
結成してから1年と少し。現在50名をこえる若手実践者による当研究会は、これらの目的を達成するため、配電網や電力小売りといった旬なテーマの研究会から、五大資源(太陽光、風力、地熱、バイオマス、水力)に関する勉強会、学生との交流シンポジウムなど、自然エネルギーに関するさまざまな取り組みを行ってきた。昨年の夏には、京都大学での集中講義も開催し、産学官連携の研究を実践している。
私自身、理論と実践の両方に身を置く日々の活動を通じて、大学や行政的な見地から、また事業化に関わる実践的な立場双方から触れて感じる自然エネルギーの最大の魅力は、“多様性”である。エネルギーはすべての基礎だと感じている。農業、製造業、流通業、サービス業など、地域のすべての産業に通じている。エネルギーを通じて見える世界はこんなにも広く、関わる人はこれほどにも多様なのだと感じる日々である。研究だけ、実践だけということではなく、その“多様性”にどっぷり向き合い、広い世界の今を捉え続けたいと感じている。どっちも大事で、どっちも欠けてはいけない。そんな思いで実践と理論の間を行き来している。
本書の22人から波及して、そして研究会を通じて、多くの若手が繋がり合い、感化され、互いに行動を繋いでいってほしい。私がそうであったように、一人ひとりの魅力的な実践者に触れ、これから出てくる「若手再エネ実践者」が、自然エネルギーを手段に、さまざまな活力ある場づくり・地域づくりに寄与していくことを切に願っている。
2015年3月 井上博成
評:鈴木 菜央
(greenz.jp 編集長)
エネルギーを自分事に〝つなげる〟ために
本書の冒頭に登場する村楽エナジーの井筒耕平さんを「新しい時代のエネルギーベンチャー企業」として取材させていただいた。廃業した温泉宿を「元湯」として復活させた井筒さんは、まもなく薪ボイラーを導入するということで、そうなれば、薪で沸かしたお湯に浸かって、エネルギーの地産地消を肌で感じることができる。
僕が編集長を務めるgreenz.jpでも何度か取材をさせてもらっているが、西粟倉村は「100年の森構想」というビジョンのもと、放置された森の木を有効活用しようと「西粟倉・森の学校」という会社が立ち上がり、面白がって集まった若者たちがじつに様々な分野で起業している。そして彼ら彼女らは、地域と生態系のようにつながり始めている。井筒さんもその一人だ。有り余る森林資源から薪を生産し、温泉事業を興し、さらには村と協働して、地域に熱を供給する構想もあるという。一人ひとりの幸せと、持続可能な地域づくりを、エネルギーを通じて行おうとしているように感じた。この西粟倉村のように、エネルギーを「エネルギー」として考えるのではなく“つなげていく”発想が重要だと思う。さらにマクロな視点で西粟倉村の成功を支えるのは、役場が率先して彼らの動きを支援している点だ。県も通り越して国に直接話ができるような関係を築いている。山奥の村と国がダイレクトにつながる、そのインパクトは大きい。
本書は現場から企業、国の政策まで、一見ばらばらに動いているように見える実践者たちを、広くつないで見る書籍だ。国の政策は手触りがなく、エネルギーはなかなか自分事にしづらい。でもだからこそ温泉で温まって「へえ、これ薪で沸かしたお湯なんだ」と思ってもらうことが重要だ。市民一人ひとりの感覚からはじまって政策に到達するというルートこそ、自治体や市民が自ら考え、行動して、責任をとるための第一歩だ。政策やビジネスといったマクロな社会事情に現場の声がもっと接続され、住民から国への回路をつくることができると、社会もがらっと変わるはずだ。これから僕ら市民の側も、実践者として、もっと政策に影響を与えられる動きをつくっていきたい。
※イベントは終了しました
エネカフェ vol.2地域のエネルギーとコミュニティイノベーション
川人ゆかり・吉高美帆・山東晃大・磯野久美子・大津愛梨・荒川あゆみ/2016.1.30@京都
出版記念セミナー第二弾
自然エネルギーを仕事にする エネルギービジネスの今を知る!クロストーク
安田將人・小峯充史・川戸健司・山下紀明/2015.7.18@東京
出版記念セミナー
【 Real 】―自然エネルギー業界に就職する!
豊田陽介・池本未和・相川高信・榎原友樹/2015.04.11@京都