家族野菜を未来につなぐ

三浦雅之・三浦陽子 著

内容紹介

施設やお金に頼る福祉の現場で感じた疑問から、本来の豊かさを求める夫婦の旅は始まった。ネイティブアメリカンの集落での気付き、密やかに守られてきた野菜の種との出会い、それを守るために手さぐりで始めた農業、レストラン開業、そして地域との連携事業へ。身近な人の喜ぶ顔を思って作る野菜には、人をつなぐ力がある。

体 裁 四六・184頁・定価 本体1600円+税
ISBN 978-4-7615-1331-3
発行日 2013/09/01
装 丁 TAU GRAPHIC


目次著者紹介はじめにおわりに書評イベント新着情報正誤情報
清澄の里の物語

第1章 伝統野菜の種との出会いが、未来へのヒントをくれた

1 そこに、探していた答えがあった──色とりどりのとうもろこしの教え
2 農業がやりたい──日本のむかしを訪ねて、ローカルを巡る
3 宝物が、たったの9つ?──奈良は僕たちにとって真っ白なキャンパスだ
4 師、現れて、奈良に根をおろす──足もとを見つめる活動のはじまり
5 おいしい笑顔が集まる場所──農家レストラン「粟」の誕生
6 大和の伝統野菜は家族野菜──ちいさな農業のヒント
7 地域の種と文化をつなぐ──NPO「清澄の村」
8 〝未来〟を見据える──姉妹店「粟 ならまち店」の役割
9 五ヶ谷営農協議会と地域プランニング──地域との連携
大和伝統野菜と季節のレシピ

第2章 大和伝統野菜と人をめぐる旅

椿尾ごんぼ家族野菜のおすそわけ(奈良市椿尾町)
八条水菜自家採種がおいしさの秘訣(奈良市大安寺八条町)
今市カブ復活に賭けた若手農家の挑戦(奈良市今市町)
片平あかね住民たちが名づけ親(山辺郡山添村片平)
結崎ネブカ復活を遂げた伝説の野菜(磯城郡川西町)
味間いも物語を伝えるブランディングの手法(磯城郡田原本町)
祭り豆人から人へ、ひそかに伝わるふるさとの豆(吉野郡東吉野村)
野川きゅうり信仰の道を旅してきた種たち(吉野郡野迫川村)
十津川えんどう山間地域は稀少な家族野菜の宝庫(吉野郡十津川村)
下北春まなおかあちゃんが始めた食農教育と加工品づくり(吉野郡下北山村)

第3章 ちいさな種から始まる豊かな暮らし

1 いま、「プロジェクト粟」が注目される訳
2 ちいさな農業で日本的スローライフ
3 種をつなぐ
4 懐かしく新しい未来の暮らし

三浦雅之(みうら まさゆき)

1970年生まれ。京都府舞鶴市出身。

三浦陽子(みうら ようこ)

1968年生まれ。奈良県東吉野村出身。

1998年より奈良市近郊の中山間地である清澄の里をメインフィールドに奈良県内の在来作物の調査研究、栽培保存に取り組む。2002年に大和伝統野菜を食材とした農家レストラン清澄の里「粟」を、そして2009年には奈良町に姉妹店となる、粟ならまち店をオープン。株式会社粟、NPO法人清澄の村、五ヶ谷営農協議会を連携共同させた六次産業によるソーシャルビジネス「Project粟」を展開している。

清澄の里「粟」

2002年オープンした、奈良の原風景に囲まれた小高い丘の上に建つレストラン。ヤギのファミリーが放牧された周辺の田畑には、年間に大和伝統野菜を中心とした約150種類の野菜とハーブを栽培している。『ミシュランガイド 京都・大阪・神戸・奈良 2012』では一つ星を獲得。2009年には奈良町に姉妹店となる「粟ならまち店」が誕生した。

ホームページ http://www.kiyosumi.jp
facebookページ http://www.facebook.com/Project.AWA
構成:高橋マキ

本書を手に取られたほとんどの方がタイトルをご覧になられて「家族野菜って!?」と思われたのではないでしょうか。それもそのはず、家族野菜とは私たちが考える大和伝統野菜の本質を表す造語なのです。大和伝統野菜とは奈良県で戦前から受け継がれてきた在来品種のこと。早くから伝統野菜のブランド化に取り組みその先鞭をつけている京野菜と異なり、大和伝統野菜のそのほとんどが、最近まで農家の方々が自ら栽培し自ら食する自給作物として受け継がれてきました。

約20年前に新婚旅行先のアメリカでネイティブアメリカンの文化に触れたことがきっかけで私たち夫婦は奈良県の伝統品種を求める旅を始めることになったのです。そして初めて目にするのに懐かしく色彩豊かで個性的な姿と風味、そして物語をもつ大和伝統野菜に夢中になりました。
広く知られることもなく継承されてきた伝統野菜を探訪する日々、そこで出会えた農家の方々に教えをいただくなか、「なぜこの野菜をつくり続けてこられたのですか」という私たちの質問に対して、農家さんから異口同音に語られる「お金にはならないけれども子供たちが好きだから」「手間暇かかるけど家族が楽しみにしているから」という言葉とその表情にいつしか魅せられてしまうことに。

その言葉から食べ物を育て、生きていく上で大切なことを教わり、大和の野菜は家族の喜ぶ顔を思い浮かべて育てられる家族野菜であることを知ることとなりました。

本書を執筆した最大の理由は、その家族野菜のエッセンスと可能性をお伝えしたいと思ったこと、そしてその機が熟したと感じたからです。
第1章では、私たち夫婦がなぜ伝統野菜に魅せられてレストランを始めたのかというプロセスを。第2章では伝統野菜を訪ねる旅の中で教わったそれぞれの野菜の物語を。そして第3章では家族野菜が暮らし、食卓、地域を豊かにする可能性についてまとめてみました。巻末には大和伝統野菜を育てたいひとのために、種が入手できる店を紹介しています。
本書が、豊かになった日本の中で知らぬ間に置き忘れられたもの、あたりまえで大切なものをお伝えするささやかな種火になるように願って。

2013年6月27日 20回目の結婚記念日に 三浦雅之

「大和の伝統野菜を受け継ぐ種火となれるように」

そんな思いで私たち夫婦の夢以外に何もないところからスタートした歩みは、今年20年を迎えました。

本書でも紹介したように、数えきれないほど多くの人たちとのご縁と幸運に恵まれ、今の私たちのプロジェクトは存在しています。そして気が付けば、たくさんの物語のつまった種たちが私たちの手のなかに握られることになりました。

そして今、機は重なり山形在来野菜をテーマにした映画「よみがえりのレシピ」に代表されるように、在来作物の種が静かに注目をあつめています。日本の農業はTPP(環太平洋経済連携協定)による大きな転換期を迎えていますが、同時に「スローライフ」「ロハス」「自産自消」「半農半X」といった時流のキーワードに表わされるように、ちいさな農を暮らしのなかに求める人も増えてきました。そんな時代の中で、家族野菜のエッセンスが活用され、各地でその可能性が芽吹き始めることを願ってやみません。

おそらく私たちの世代は、日本の農村文化を体現してこられた方々とつながりが持てる最後の世代となるでしょう。農家の皆さんに教わった大切なこと。それは古の大和を、日本の文化を訪ねる入口でもあります。残る半生はその種火を、大切に守り育てていきたいと思っています。一粒万倍の実りをもたらす粟のように。

最後になりましたが、「家族野菜」という新しいコンセプトを世に送り出す冒険に付き合ってくださった学芸出版社および編集者の中木保代さん。タイトなスケジュールにもかかわらず構成を担当してくださった同志の高橋マキさん。野菜の魅力を最大限に引きだしてくださったデザイナーの寶諸陽子さん、温かい装画イラストを描いてくださったdannyさん、素晴らしい写真を提供してくださった平岡雅之さん、池田麻里さん。素敵なイラストを担当してくださった榎森彰子さん。私たち夫婦を育み、いつも応援してくれる家族と清澄の里の皆さん。そして大和伝統野菜の素晴らしさを教えてくださった農家の皆さんに、この場をお借りして感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

三浦雅之・陽子

『家族野菜を未来につなぐ』は野菜の本。たしかに、そう。大和伝統野菜と呼ばれる、奈良県各地の在来野菜が本書の主人公だ。

でも、見逃してならないのは、タイトルにもある「家族」という視点。「家族が好きな食べ物、おいしい顔を知っているということは、あたりまえすぎて見逃されがちですが、実はとても豊かなことなのかもしれません」(本書p.83-84)。著者の三浦雅之さんと陽子さんご夫妻が伝統野菜に注目したのも、もとをたどれば、こうした豊かさの実現につながっているからにほかならない。

とはいうものの、家族なんて、ちょっと内向きじゃない?と思う人もいるかもしれない。だが、はたしてそうか。時代の節目には、政策や制度といった大きな仕組みよりも、むしろ日常的な生活の場から、小さくとも確実に変化は現れるものではないか。いまさら家族なんて――もしそう思う人がいるとしたら、「いまさら」とされかねない現代だからこそ、家族に注目した三浦夫妻の先見の明をよくよく考えてほしい。
ここで思い出す人物が一人いる。西村伊作(1884-1963)。文化学院創設者として知られるが、大正から昭和初期にかけて数多くの建築を手がけ、家具や子供服をデザインし、生活全般の刷新を試みた人物でもある。彼が初の著書『楽しき住家』(1919)で来るべき住宅の根幹に据えたものこそ、家族だった。住まいの楽しさとは、家族の楽しさ。旧弊にとらわれるあまり、このあたりまえの事実が見過ごされている現状を憂い、伊作は家族が日々過ごすリビング中心の住空間を提案し多くの共感を集めた。

後に伊作は、あくまで体制に屈することなく信念を貫きとおし、教育家・社会思想家として活躍することになるが、その原点には家族と過ごす豊かさへの着目があった。そこから1世紀を経たいま、20世紀初頭と同じく、次の時代のカタチが判然としないなかで、ふたたび家族を起点とした変革の試みが動き出しつつある。本書をその静かな宣言書と見ることもできるのではないだろうか。

もとより本書のメインモチーフは、食や農業のあり方、それらを通じた地域づくりにある。おりしも、日本各地でますます在来野菜を再評価する機運が高まっている。そうした関心から本書を紐解かれるのは、もちろん間違いではない。しかしながら、著者にとってそれらがすべて家族への求心力に発すること、そうであるからこその説得力と現代性を、一人でも多くの読者と共有できればと思う。

そういえば、本文は基本的に「僕」の一人称で語られ、明らかにストリーテラーは夫の雅之さんであるけれども、著者としてはご夫婦お二人のお名前を掲げている。これもまた、家族という視点ゆえだろう。

(哲学者、総合地球環境学研究所特任准教授/鞍田崇)


担当編集者より

初めて三浦雅之さんのお話を伺ったのは、本評を書いていただいた鞍田さんが京都精華大学で建築の学生に向けて開催されたレクチャーでした。

建築学生を対象に何故「農」をテーマに?と、その視点が気になりましたが、そこでは「風土」のお話もされていました。農村にある「7つの風―風土、風味、風景、風物、風情、風習、風俗」を大事にしたいと。
自ら伝統野菜を育て、レストランでそれを提供している三浦さんが次世代に伝えたい、残したいのは「農」「食」という領域を超えて、地域の文化であり、それをつくり上げてきたコミュニティなのだと思います。
そういう大きな方向性の一方で、本書では「家族野菜」をキーワードにしました。

なぜ作りにくい野菜を育てるのか?

それは単に美味しいから。家族の笑顔が見たいからなんです。

そうやって愛情を込めて育てられた野菜たちが、幸せな気持ちを運んでくれる。そんな想いを込めた本です。

(中木)

  • 「種からはじまる豊かな暮らし」 *終了しました
    三浦雅之×高橋マキ/2013.11.3@FUTABA+ 京都マルイ店(京都)
  • 「種からはじまるちいさな農」 *終了しました
    三浦雅之×塩見直紀/2013.8.29@啓林堂書店三条店(奈良)

本書の内容に以下の誤りがございました。

ここに訂正させていただきますとともに、誤記がございましたことを深くお詫び申し上げます。

p.129 3行目
(誤)古都香 → (正)古都華

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