ようこそ ようこそ はじまりのデザイン

graf 著

内容紹介

大阪を拠点に家具、建築、プロダクト、グラフィックのデザインから食やアートまで、暮らしに関わるものづくりに取り組むgraf。集団で生みだす、領域を横断する、人と出会う、感覚を呼び覚ます。15年間の活動を通してメンバーが語る、創造的な日常を送るために大切にしてきたこと、grafを面白くし続けていくためにできること。

体 裁 A5・184頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1322-1
発行日 2013/03/15
装 丁 UMA/design farm


目次著者紹介はじめにあとがき推薦
はじめに

ものづくり

チームでつくる(服部滋樹)
家具づくりのはじまり(松井貴)
クライアントと共に育てるブランディング(横山道雄)
技術と暮らしをつなぐ(井上真彦)
新しいスタンダードをつくる(松井貴)
つくり手がはたす責任(小寺昌樹)
ものをつくる、その先を考える(小松祐介)

ローカリティ/コミュニティ

少年探偵団をつくりたい(服部滋樹)
場を超えて共有する価値観(服部滋樹)
若手たちの実験場(赤井佑輔)
オルタナティブな動きを支える(増地孝泰)
出来事を生み出す(小坂逸雄)
つくり手の想いを伝えるショップ(田中文代)
暮らすこと、働くこと(服部滋樹)

感じる/生活の知恵

感覚をひらくグラフィック(置田陽介)
想像力を引き出す(服部滋樹)
食べることは、生きること(堀田裕介)
土と畑から学ぶ(川西万里)
現在のgraf(服部滋樹)

graf archives 2012 → 1998
年表
あとがき

graf

大阪を拠点に家具の製造・販売、グラフィックデザイン、スペースデザイン、プロダクトデザイン、アートから食、イベントの企画運営に至るまで「暮らしのための構造」をキーワードに、暮らしにまつわるさまざまな要素をものづくりから考え実践するクリエイティブユニット。decorative mode no.3なるユニット名で1993年から活動を始め、1998年4月、大阪の南堀江にショールーム“graf”をオープン。2000年11月に大阪の中之島へ移転し、ショップ、ショールーム、カフェ、企画フロア、デザインオフィスが一体となったgraf bld.を運営。2012年11月、自社家具工場を改装したgraf studioへと拠点を移し、デザインワーク、ショップ、キッチンから生まれるさまざまなアイデアを実験的に試みながら、異業種が集まる環境と特性を生かした新たな活動領域を開拓している。

grafは何をしている会社ですか?

いろんな人からよく聞かれる質問だ。僕らの運営しているショップは自社工場で製造するオリジナルデザイン家具の販売をしているので家具屋という位置づけにはなるが、もちろんそれだけではない。オリジナルプロダクトのほかに作家のつくる作品や雑貨も取り扱っているけれども、セレクトショップという呼び方には違和感がある。プロダクト、グラフィック、内装設計などのデザインワークも手がけるが、デザイン会社と括るのはいまいちしっくりこないし、アーティストと共に展覧会を開催したり、ときには自らがパフォーマンスに参加したりもするがアーティスト集団というわけでもない。

主な業務は、家具の製造、そして販売、内装設計、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、飲食店の運営、食や音楽、アートをはじめとするイベントの企画など。さまざまな手法を使って「暮らし」にまつわるあらゆる事柄に取り組んでいる。これらすべての業種を扱う会社ということを一言で説明する言葉として、いつからかクリエイティブユニットという呼び方をするようになった。異なる専門分野が集まって物事を協働しながら形にしていくこの考え方はgrafの活動の原点でもある。生活というものがひとつの要素だけでは成り立たないことを考えれば「暮らし」を提案する方法としては一見複雑かもしれないが、愚直で理に適った方法だと思っている。

業種はさまざまだが、それらは「ものづくり」という視点から「暮らしを豊かにする」ことを目指している。豊かな暮らしをつくるために必要な「価値」という感覚的なことをどのようにして表現していくか。僕らは多岐にわたる活動を通して日々その方法を模索している。社内の各専門分野同士だけではなく、そのつながりを外へと広げながら活動を展開していることもそういった欲求の現れだ。生活に必要不可欠な要素を各頂点とした多角形が「暮らし」を可視化するグラフのようなものだとすれば、grafはその形を自由に変化させることで組織という枠組みをつくる。ここに「自分たちで時代を測る」という信念のもとに名づけた「graf」という組織の輪郭を見ることができるのではないだろうか。
「暮らし」や「豊かさ」について提案することは、昨今特にめずらしいことではない。しかし本書をお読みいただければ、僕らが目指すそれが「~的」や「~風」といったライフスタイルを提案することではないことがおわかりいただけると思う。自分たちの感覚に対する素直さを忘れず、さまざまなことに付随する条件や要求などの問題を受け容れ、活動を通じて出会う人たちと共に解決しながら、新しい世界につながるはじまりを、ものづくりやデザインをすることの延長線上に見据えていたい。

「ようこそ!」未だ知らぬこれからのすべてに対して、僕らはこの言葉を胸に今日も活動を続けている。

graf

この本をつくっている間に、grafは大きな転換期を迎えた。本文で何度か触れているが、2000年より拠点としていた中之島のgraf bld.から、100メートルほど離れたgraf studioに移転した。ここはまるで景色の違った場所だ。今回強く感じたのは、スタッフそれぞれの役割が明確になったということ。今取り組まないといけないこと、これから取り組みたいことがそれぞれの思考にフィットしていった。ここから個人の動きが活発化していければ良いなと思う。そしてこの先、graf village構想を計画していた頃の理想的な一歩を踏み出せそうで、すごくわくわくしている。

第一ステージgraf bld.の時代は、ものづくりの環境を整備することで精一杯だった気がする。もしかすると、個人がおざなりになって、より内側に向かっていたところがあったかもしれない。graf studioは、スケールがコンパクトになった分、溢れ出すものは外に向かっていく。移転して早4ヶ月。その気配が溢れていて頼もしい。

graf village構想で想像していた体感のための環境のみならず、それぞれが生きる集団づくりに、本当の意味で踏み込んできたのだ。最初に想像していたビレッジとはスケールも違うが、しかし現在の時代感を吸い込みながら、一歩一歩踏み出せる何かが見えてきたように思う。
ものづくりに立ち返り、今の時代に残すべきものは何かと考えてみる。根源的に強度のある時間を過ごしたものが、過去から現代に残っている。野性的なるもの。これは、僕が指針としている民藝運動にもつながる話だ。

僕は、民藝運動を時代に対するアンチテーゼとしての活動体として興味を持って見ていた。1889年、パリ万博の機械館からはじまり、アートアンドクラフト運動があって、それを受け継ぐ柳宗悦がいる。パリ万博に対するアンチテーゼとしてウィリアム・モリスは、目の前で置き去りにされているものごとに意識を向けようと運動を行った。柳らは西洋の文化が入ってきて手仕事が見過ごされ、背景にあるものに意識を向けよ!と声をあげたのだ。

民藝運動のはじまりから、もうすぐ100年が経とうとしている。当時と現在とでは、その時代観も似て不景気で、グローバルスタンダード以降のきな臭さが漂っている。そろそろ消費税も上がり、もう一度、生活自体を考えなおす時期が来るだろう。

昨今の民藝ブームは、癒しの対象として民藝を見ているように思う。単なるスタイルとして受けとめるのではなく、本質を理解することからはじめなくてはならない。実のところ民藝とは、ハードなセンスを磨いた人がやっと使いこなせる代物でもある。旧来の仕組みは受け継げるが、その精神を受け継ぐためには、現代のふるまい方を確立しないといけない。

民藝運動を起こした柳宗悦、濱田庄司、その周辺には白州次郎や正子らがいた。「コミュニティ」がキーワードとなる時代の中で、10年後、彼らと同じように僕らは運動体として、それぞれの役割を持った活動ができるのではないかと期待する。今はどうなるかわからない点が、10年後には結びついてひとつの輪となるかもしれない。民藝運動のような活動がものづくりの方法論、証として、ものや状況をつくり出していったように、grafというものづくりの方法論をもっとみんなで共有できるような状況になることを夢見ている。

これからの時代、今度は民藝に変わる新しい時代のムーブメントとして、次の100年を担う言説をつくることが必要なのだ。この本が、自分たちの思想を言語化するその第一歩となって、grafの活動とは何かを、言葉で伝えることができたとしたら、活動家として今の時代を生き、遠くにいる仲間たちと共に新しい答えを見つけ出していけるのではないだろうか。

最後に、僕らの15年の出会いの中で、お世話になった方々、背中を押してくださった先輩、勇気を与えてくれた仲間、出版に携わってくださった学芸出版社のみなさん、編集とデザインを担当してくれたMUESUM、UMA/design farmのみんなへ、改めて感謝の言葉を、そしてこれからの未来によろしくお願いします。

graf代表 服部滋樹

ずっと残るものをつくり続けるgraf。この本には、彼らのものを生む考えの深みがちりばめられている。今の時代に必要なことは、共感できる物語性であり、同時にそれを実行している集団だ。D&DEPARTMENT・ナガオカケンメイ
有機的な活動が会社のかたちをして存在していること、そのファンタジーに勇気をもらいつづけています。シアタープロダクツ
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