住まいづくりのウソ?ホント?

井上まるみ 著/日本建築協会 企画

内容紹介

流行のデザインや最新の工法など、巷に溢れる家づくりの「情報」。「寝室には当然ベッド」「床はフローリングに」といった部屋づくりの「常識」。でも、その家、本当に住みやすいですか?住まいづくりで一番大切なこととは?家庭科教師と建築設計・住宅相談の経験を持つ主婦建築家と考える、暮らしを見つめた住まいづくり。

体 裁 四六・184頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1321-4
発行日 2013/03/01
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめに
はじめに

1章 これでいいのか?日本の家づくり

今のトレンド、これでいいだろうか
トレンドを追っかけているのは誰?
暮らしが読めない「作品派」の建築家
お仕着せの工務店・ハウスメーカー
住まいは作品?商品?物件?
「住まい」の原点に戻ろう
住まいに求めるものは?
住まいづくりで大切な四つのステージ
住まいづくりは暮らしづくり

2章 ウソ?ホント?住まいづくりの「常識」

1 家を手に入れるときに

家を買う?それとも住まいをつくる?
「早く決めて早く工事をし早く住む」のがいい?
契約は早く済ましてしまう方がいい?
キャンペーン中に駆け込むとお得?
「土地・建物合わせてウン千万円」を購入する方が楽でいい?

2 土地を決めるときに

家が狭くても便利なところ
不便だけれど広くのどかなところ
広い土地、整形の土地を買う方がいい?
狭い土地の幸せ、広い土地の不幸

3 家を建てるときに

建蔽率・容積率をめいっぱい使って家を建てないと損?
平屋より2階建て、2階建てより3階建てにした方がいい?
古くなった住まいは建て替えて新築した方がいい?
メンテナンスのことを考えよう

4 予算の考え方

事前に考えた予算は絶対超えてはいけない?
「リフォームだから予算を抑えておく」方がいい?
マンションを買うなら新築物件の方がいい?

5 相談に行く前に

設計料の安いところに相談すればいい?
自分の考えを通すことが一番大事?
ネットで調べた「○○工法」「○○工務店」が一番?
友人のアドバイスは頼りになる?
住宅雑誌に載っているような家が「いい住まい」?

3章 ウソ?ホント?部屋づくりの「常識」

1 玄関・階段

玄関土間から玄関ホールへは式台なしに一段で上がれた方がいい?
玄関にたっぷりの収納スペースをとるといい?
ストリップ階段はおしゃれでいい?

2 リビング・ダイニング

「ソファとテレビだけのすっきりした広いリビング」が理想?
リビングの床の素材はフローリングで決まり?
リビングの床の素材を大理石かタイルにするとおしゃれ?
「堀座卓での食事」は憧れのスタイル?

3 キッチン

キッチンからダイニング・リビングと一列に並んでいるプランがいい?
キッチンは広い方がいい?
アイランドキッチンはみんなで料理ができていい?
長いI型キッチンはゆとりがあっていい?
L型・U型のキッチンは作業スペースが広くていい?
ワークトップの下がオープンのキッチンはおしゃれでいい?

4 子ども部屋

子ども部屋にはベッド・机・クローゼットが必須?
子ども部屋の扉は当然「ドア」?
ロフトを子ども部屋にするといい?

5 寝室

寝室には当然「ベッド」?
寝室・子ども部屋の床は当然フローリング?
ウォークインクローゼットは寝室の隣に?

6 和室・宿泊室

「とりあえず和室は玄関脇に」?
来客用の宿泊室は1階に?

7 浴室

「坪庭を眺められる風呂」がいい?
「広い浴室」は本当に快適?

8 洗面室・脱衣室

洗面・脱衣室に洗濯機があると便利?
脱衣室に洗面化粧台は必要?

9 トイレ

トイレは当然「洋便器のみ」?
トイレの広さは「1畳が普通」?

10 高齢者への対応

老後のためにエレベータースペースがあると安心?
住まいの中の段差はご法度?

11 収納

収納スペースはできるだけ多く?
屋根裏や床下の収納は本当に便利?
キッチンの引き出しは幅の広いものがいい?
洋服の収納はクローゼットがあればいい?
収納スペースの扉は折れ戸がいい?
収納の扉は分割しておくと便利?
収納の扉をガラスにすると中が見えて便利?
収納をオープン棚にすると簡単に取り出せていい?

4章 日本の住まいを見直そう

魅力いっぱいの日本の住まい…活かさないのはもったいない!
「畳」は優れた床材
多様な暮らし空間に変身する「和室」
人を育てる「茶の間」
家族をつなぐ「コタツ」スタイル
衛生的な「布団」の生活
スペースを有効に使える「引き戸」
「段差」にも意味がある
気配を感じる「続きの間」
機能によって分けないことの利点
季節をしつらえる「床の間」
コンパクトに収納できる「軸」
簡単に取り外せる「障子」「襖」
日本の気候に適した「軒」「庇」

おわりに

井上まるみ(いのうえ まるみ)

1972年 大学にて食物学を専攻し卒業。三重県立の高等学校教諭として、食物・被服・保育・家庭経営学・住居を教える。退職後、建築・インテリアを学び、建築関連企業に籍を置く。
1987年 住まいの研究室大阪OFFICE開設。住宅設計・キッチン設計・キッチンスペシャリスト養成セミナー・リビングセミナー開講。インテリア専門学校講師・NHK文化センター講師等も務める。
2001年 住まいの研究室東京OFFICE開設。
2013年 住まいの相談室顧問。
所属 社団法人日本建築協会常任理事、社団法人大阪府建築士会元理事、(一社)関西インテリアプランナー協会副会長、社団法人東京建築士会会員、社団法人家庭電気文化会幹事、日本住宅会議会員
著書 『プロが教えるキッチン設計のコツ』(学芸出版社)、『シニアライフ―魅力的な住まい方』(共著/創元社)、『建築を志す人々へ』(共著/学芸出版社)

住まいづくりを考えだすと、多くの方々は「しっかり考えなければ!」と思うでしょう。しかし「どうすればいいのか」となるとよくわからず、まずは「住宅展示場(住宅メーカーが集まっている展示場や工務店が独自にやっている展示場があります)へ行ってみる」とか、「住宅情報の新聞折り込みチラシを見る」とか、「住宅雑誌を買って読んでみる」とかするのではないでしょうか。そして、「これからの住まいづくりはどのようなものがいいか、私たちが望むのは何なのか」ということについて、「にわかに目にしたこれらの情報」と、「今まで自分が暮らしてきた中で得た住まいに関する情報」をベースにして「にわか住まいづくり」の意識を持つ方が多いようです。そして、「展示場はこうしているからそのようにするのがいいかナ」「こんな家が多いから、今はこのようなのがいいのかナ」「こんなめずらしい提案がある。今度はめずらしいことをいっぱい取り入れたいナ」「かっこいいのが魅力だナ、みんなと同じではなくかっこよさがほしいナ」「すてきそう!やってみたい」「今の流行を取り入れよう」「いや、今までこうだったから今までのようなのがいいかナ」、このようなことをベースとして住まいづくりを進めていくのではないでしょうか。

一方、住まいをどのようにして手に入れるといいのかを判断するに当たっては、「今までの生活のなかで得た意識」と「にわかに調べた知識」と「住宅の相談に行った業者との会話」をベースとして進めていくのではないでしょうか。住まいづくりの準備を進める際の判断においても、具体的な住まいの内部を考える時の判断においても、「皆さん、ちょっと待って下さい!」と思うことが多くあります。

例えば、誰しも、豆腐や野菜を買う時、「どの店で買おうか」「金額は」「買う量(大きさ)は」、などといろいろ考えることでしょう。しかし、住宅(時にはプラス土地)は人生をかけた買物であり、その後の暮らしを大きく左右するものですから、豆腐などよりもっともっとよく検討をしなければ…と思うものの、家づくりはあまりに遠く、わからないことが多いからか、「お得ですヨ」「早いですヨ」「これいいですヨ」という業者の言葉に流されているように思うのです。

住まいの内部を具体的に考えるに当たっても、図面や写真を見ていると、主人公が誰だかわからない決め方を、建築主もそして設計者も無意識のうちにしているような姿を多くみかけます。

私は住まいを設計する時、どうしたいのかを白紙の状態から考えて設計するようにしています。

「普通はこう」とか「みんながこうしているから」など、「みんなが」「普通は」ということをベースにした図面(住まい)を見た時、この設計が住まう方にとって「本当に望ましいですか? そして理想としている姿ですか?」と聞いてみたく思うのです。

また一方、建築主の方が「すごくかっこいい」「わっ!すごい!」と言う図面(住まい)を見た時、これもまた、住まう方にとって「暮らし始めてからも嬉しいことですか?」と聞いてみたく思うのです。
住まいは数学のように「これが正解です。そしてこれは間違いです」というものではありません。ですから「普通はこうだから」とか、「みんながこのような住まいに住んでいるから」という考え方もだめではありません。また「こんなすごい住まいにしよう」という考え方もだめではありません。

しかし、いろいろな気づきをした上で、「我が家にとって本当にいいのか」を繰り返し考えてみることも大切であると思うのです。
多くの人は、住まいづくりを人生で何度も体験することはありません。
また、住まいのことを学ぶことは、残念ながら日本ではあまりありません(家庭科の授業の中にありますが、住分野の授業時間はあまりとれる状況にはありません)。「体験」も「学び」もないのです。

一方、建築士(建築家)の中には「住宅の設計が得意です」「住宅の設計をしたいです」という方々も多くいますが、建築という視点では当然プロであろうと思われるものの、「暮らし」という視点での(例えば、食事をどう作るとか、衣類の管理はとか、子どもをどう育てるかとか…というような家政学の)「学び」は残念ながら建築学の中にはないのです。「学び」「体験」の両方の中で「暮らし」を見つめて設計することができれば理想ではないだろうかと思うのです。しかし、それがよくわからないという方にいろいろな「気づき」をしていただくために、そして「ほんとうにこれでいいのか」を考えていただくために、この本では、そのいくつかを拾い出してみました。

「これはダメ!」「こうするといい!」と断定して読み取っていただこうとしているものではありません。あなたが、「自分たちの家族の住まい」について、立ち止まって考えるヒントとして読んで下さい。住まいを考えようとしている方にとって、「自分が暮らす住まい」について判断する時の考えの引き出しの一つとして、役立てていただければ幸いです。

住まいは敷地・予算・家族構成・暮らし方など、一件一件異なります。多くの条件の中、暮らしを見つめつつ、設計するものです。

一方、設計する者の設計手法や持っている力量により(あなたの)希望が可能ともなり、不可能ともなり、望ましい姿ともなり、望ましくない姿ともなりえるのです。その意味では、住まいの設計の仕事をしようとされている方々にも、是非手にしていただき、設計で一本のラインを引く時に「このラインは、暮らしを考えた時にどういう意味があるか」「どうラインを引けばいいか」など「一本のラインの重み」を意識して設計に活かしていただければ幸いです。

住まいの研究室 井上まるみ

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