幸福な田舎のつくりかた

金丸弘美 著

内容紹介

地域を誇ることが、参加と共感を呼び、小さくても確かな経済をまわす。食と映画の都・山形県鶴岡市、小説の舞台となった高知県おもてなし課、進化する直売所さいさいきて屋(愛媛県今治市)、地域応援商社四万十ドラマ(高知県四万十町)等、注目の地域がローカルシフトする価値を創造しコミュニティを元気にするしくみとは。

この一冊で観光小説が何本も書けそうです。まちおこしの水先案内人、入魂の最新レポート!日本中のふるさとにあふれ返る「物語」が、地方から日本を元気にします!


有川浩(小説『県庁おもてなし課』、『阪急電車』著者)

体 裁 四六・208頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1314-6
発行日 2012/09/15
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき
人を呼び、経済をまわす田舎力

第1部 ないもの探しから、あるもの磨きへ

第1章 風土を誇りに、食の都、映画の都を目指す
──山形在来作物研究会、アル・ケッチァーノ、庄内映画村(山形県鶴岡市)

市民がつくり、上映する映画「よみがえりのレシピ」
料理家と学者が目指す「食の都」
伝統野菜の発掘を応援するメディア
高校生が挑む「食の甲子園」
農家レストランでいただく伝統野菜
風土を愛する人々が盛り上げる「映画の都」

第2章 若者が新風を吹き込む、レトロな商店街 ──阿蘇一の宮門前町商店街(熊本県阿蘇市)

商店街の若手店主が立ち上がる
明治生まれの女学校を人気の店に
若者の出店を後押しする工務店
レトロさを巧みに活かす

第2部 ローカルを発信する、ユニークさが共感を呼ぶ

第3章 地域の味を育て届ける、トータルプロデュース
──道の駅 萩しーまーと(山口県萩市)

萩の魚を都会に売り込むメディア試食会
市民の台所を目指した道の駅
民間主体で運営、責任者は全国公募で
漁業者と連携したイベントが大好評
生産、販売、流通、料理までをプロデュース

第4章 売りたいのは、商品に込めた土地の物語
──四万十ドラマ(高知県四万十町)

雄大な風景に佇む道の駅
思わぬきっかけで全国に知られる存在に
ローカル・ローテク・ローインパクトなものづくり
企画から販売まですべてやるデザイナー
インターンシップ制度を若者の定住につなぐ
四万十ファンを生みだすトリガーに

第5章 まちのファンを増やす、観光特使の活躍
──高知県おもてなし課、小説『県庁おもてなし課』(高知県)

観光客の流れが変わった
欧州スタイルを取り入れる
小説『県庁おもてなし課』の衝撃
どこまでが小説? どこまでが現実?
県庁おもてなし課って何するところ?
人気を集める観光特使の名刺
廃校・空き店舗をミュージアムに、海洋堂の戦略

第3部 人と人をつなぐ、農村と都市をつなぐ

第6章 一軒の直売所から、地産地消がまわりだす
──JAおちいまばり さいさいきて屋(愛媛県今治市)

一二〇万人を魅了する直売所
鮮魚のよさと対面販売が売り
自動販売機は置きません
小さな農家、女性、高齢者も参加できる市場を
参加者が売りたくなるしくみをつくる
ケーキを売るのではなく、果物を売る
直売所が農協と農家の意識を変えた
未来の今治ファンをつくる学校給食

第7章 消費地とつなぐ産直で、小さな農家が輝きだす
──産直で輝きだした生産者たち 148

小さな青空市と直売所をつなぐネットワーク
農協は小さな農家を支えるのが本来の姿ではないか
都会の消費者に大好評の出張販売
売れ筋を知り、売れる農産物のつくり方を学ぶ
小さな農産物の価値を高め、地域の農業力を磨く

第8章 若手農家が連携し、地域で稼げる農業を
──野菜くらぶ(群馬県昭和村)

急増する農家の法人化
稼げる農業を目指す専業農家集団
絶望のどん底から見出した活路
変わり始めた農業出資の形
若い農業希望者の独立を支援するプログラム

第9章 都会の人と、地域を楽しむ農業を
──南信州観光公社(長野県飯田市)

グリーン・ツーリズムの時代
お金には代えられない感動を
地域を楽しむ農業を
農家を束ねる株式会社
地域の資源をまるごと体験プログラム
都会の子どもの田植えが支える田んぼ
ワーキングホリデーで地元のよさを再発見

あとがき

金丸弘美(かなまる ひろみ)

食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー。1952年生まれ。全国1000の農山漁村を訪れ、食からの地域再生や食育、食のワークショップなどの企画をプロデュースし出版や講演活動を通じて広く発信する。2008年より総務省地域力創造アドバイザー、農林水産省地域ブランド化支援事業プロデューサー、2009年より内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師に就任。高知県農業創造人材育成事業総合アドバザーなど、各地で行政と地域住民が連携した地域活性化事業のアドバイザーを務める。

近著に『本物を伝える 日本のスローフード』(岩波書店)、『創造的な食育ワークショップ』(岩波書店)、「給食で育つ賢い子ども 全国おいしい学校給食マップ」(ソトコト新書)、『田舎力 ヒト・夢・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『「地元」の力 地域力創造7つの法則』(NTT出版)、『地域ブランドを引き出す力 トータルマネジメントが田舎を変える!』(合同出版)など多数。

人を呼び、経済をまわす田舎力

筆者は食に関する取り組みをしている地域に伺う機会が多い。全国を巡るなかで、地域に活力があり、小さくても地域でまわる経済のしくみをつくり、地域内外の人と活発な交流を生み、地元産物の売り上げを上げているところには共通項がある。

  • ①品揃えが多彩で、消費者がほしいものがすべて揃っている
  • ②自動販売機や仕入品のお土産を置かず、オリジナル商品に主眼をおいている。仕入品であっても、素材や作り手や原料が明確なものを扱う
  • ③子どもたちへの食育を積極的に行い、大人たちが誇りをもって伝えている
  • ④消費者への食の教育を展開している。消費者に本物がなにかを伝えている
  • ⑤消費者との対話の機会を多く設け、望まれる場や商品を妥協せずにつくりあげている
  • ⑥女性の参加が多く、企画や販売や加工にも女性の視点やアイデアが多く取り入れられている
  • ⑦人材教育に力を入れてお金と時間をかけて人を育てている。その結果、自らのものづくりと企画力を高めている
  • ⑧企画から販売まで商品開発全体のデザインを考え、コンセプトが明確に見える。なかには専任でデザイナーを雇っているところもある
  • ⑨旬や地域性が優先される
  • ⑩環境に配慮した取り組みが行われている
  • ⑪リーダーが各地に出かけて新しい視点を吸収し、それまで地域になかった発想で大胆に取り組みを展開している
  • ⑫これまでの枠組みを超えた連携やネットワークを築き、インターネットや通販などでしっかり発信している

いずれにせよ、いいものをしっかり形成すれば、そこに人も集まり、若者もやってきて、地域に小さいながらも経済が巡り、雇用も生まれる。
よく地方は高齢化である、経済が低下している、農業が衰退している、若者の働くところがない、などと言われる。しかし、それは現場をしっかり見ていない人の発言である。出てくる数値も、これまでの人口増、経済右肩上がりが前提での数値となっている。

むしろ、それらの概念にとらわれず、しっかり自ら取り組んできたところは、若者もいるし、高齢者の働く場や生きがいも生まれ、小さくても経済が動いている。

もう一つ共通しているのは、いずこも一度は、どん底に落ちていたところである。人が来なくなった観光地、人が集まらなくなった商店街、高齢化で野菜を売るルートが途絶えてしまった農村、林業が衰退した山間地、などである。

どん底を経験し、これまでの流通や売り方をまったく変えた。自ら出かけて新しい売り場を開拓する。高齢者が生きがいを持てる場をつくる。それまで価値がない、売れないと思われていたものにまったく別の視点で価値づけをし新しい商品を生みだす。他人頼り、企業頼りではなく、自らの行動で、地域の個性を見出し、足元にあるものを発信してきたところだ。

これまでは、人口が増え、働く人も多く、売る場がたくさんあった。だから、つくればたいてい売れた。イベントを打てば人が集まった。
しかし、今では人口が減り始め、団塊世代が定年退職し、高齢化率が高まっている。リーマンショック以降、急速に消費の節約が始まった。実際、スーパーや量販店の売り上げは落ちている。

これまでのように、大量につくり都市部に送るという流通構造や、大人数で名所旧跡を巡り、規格化された土産品を買うという観光からは人が離れている。むしろ、小さくても自然景観に配慮したり、手づくりでもしっかりした物を販売したり、足元を見直して一から始めたところが人気を集めている。

既存の観光地より、これまで何もないと思われてきた山村の風景が美しい宿や農家レストランに人がやってくる。

商店街も、道路を拡幅したり量販店が郊外にできてしまったところは客を奪われ衰退してしまっている。安心して歩けて、身近に買い物ができ、日常の食品や必要なものが揃うところ、独自の街並みを残すところに人が集まっている。

今、ものづくり、観光、流通などの現場で、大きな価値の変動期にある。大量生産・大量流通するところと、こだわりの商品を扱うところと、二極化が進んでいる。

地域でも、これまでの商業や農業、観光という概念が急変していて、新しい価値観が求められている。本書に登場したところは、従来のやり方を脱し、いずれも地域の人が地域の豊かさを自らの手で見つけ、さまざまな資源や人をつなぎ、自分たちの価値観を発信し、共感を呼んでいる地域である。それは、ローカルの徹底こそが、じつはグローバルに通用するものだと、改めて知らしめてくれる。

2010年、2つの事業に関わることとなった。農林水産省の地産地消普及拡大事業委員会(運営:まちむら交流きこう)。高知県農業創造人材育成事業総合アドバイザーである。

このなかで提案をし実現したのが、先進地における合宿である。現場に関わる人たちが、元気な地域に行き、ノウハウを学び、お互いの知恵を交換しあうことで、より深い学びと現場で使える知恵の共有化ができる。ここから多くの交流と実践が生まれた。

合宿で親しくなったのが本書に登場する四万十ドラマの畦地履正さん、JAおちいまばり さいさいきて屋の西坂文秀さん、JA雲南の須山一さんたちである。

もう1つ、食のまちづくりや食育のアドバイスを求められ、2000年から各地で始めたのが、食のワークショップである。これに地域調査を加え食材のテキスト化を行い、料理家との連携で、地域の人たちがノウハウを学ぶという形になったのは、2006年の大分県竹田市からである。こうすれば地域の味や豊かさが実感でき地元のよさを発信できる。その後、茨城県常陸太田市、兵庫県豊岡市、岐阜県高山市、高知県、岡山県奈義町、茨城県小美玉市、神奈川県小田原市、宮城県石巻市など、さまざまなところで開催してきた。

こんな活動を始めたのは、大きな経済の話や地域活性化の取り組みも必要だが、現場に行くと、小さくても、ものづくりや発信の工夫で多様な展開ができるとわかったからだ。

地方に行くと、大きなイベントでたくさん人を集めることばかりに目がいきがちになる。小さいところからしっかりつくることを始めよう。元気なところに行ってしっかりノウハウを学ぼう。こうして始めた活動が今、着実に広がりつつある。
この本の依頼があったのは2010年であった。明治大学、フェリス女学院大学などの講義、『地方行政』『月刊JA』『月刊社会民主』『月刊ガバナンス』などの連載で取材したものをベースに、新たな取材を加え書き下ろしている。執筆を進めるなか、東日本大震災が起こった。震災後、各地を巡ると、地域のよさを自ら発見してきたところは、変わらず元気で、新しい価値観を創造し、共感を得られる場所となっていることを再確認した。

この間、ずっと地域づくりの本を書くことを応援し続けてくれた母・金丸美恵子が八七歳で亡くなった。その母にまっさきに報告をしたいと思う。また陰で支えてくれた妻・早苗とその家族に感謝を述べたい。
2年以上も辛抱強く待ってくださった学芸出版社の宮本裕美さんに感謝申し上げます。そしてなにより各地で取材にご協力いただいた多くの方々に心より御礼申し上げます。

2012年9月15日

金丸弘美

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