環境コミュニティ大作戦

白井信雄 著

内容紹介

環境・エネルギーの問題は、設備投資や技術開発だけでは解決しない。大事なのは、地域の人々が自立しながら、互いにつながり力を発揮することだ。本書では、これまでの様々な環境政策と自治体等の取組みを振り返りながら、いま求められる、自立した環境コミュニティづくりのための具体的なアクションプログラムを提案する。

体 裁 A5・168頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1307-8
発行日 2012/05/15
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめに読者レビューおわりに

第1部 環境コミュニティづくりが求められる時代

1章 環境・エネルギー問題の根幹を問う

1 震災によって気づいたこと
2 環境技術や環境経済で解決できるのか
3 地域から市民主導で変革する

2章 これまでの環境政策や議論を振り返る

1 環境保全型地域づくりのこれまで
2 70年代の地域主義─内発的発展論
3 人のつながりへの着目─社会関係資本
4 持続可能な社会と地域
5 環境コミュニティ力の考え方

第2部 環境コミュニティ力を活かす取組み

1章 低炭素都市

1 環境と経済の好循環のまちモデル事業
2 ストップ温暖化「一村一品」大作戦
3 環境モデル都市

2章 地球温暖化適応

1 地球温暖化に対する適応策の必要性
2 「社会の弱いところ」を改善する
3 環境コミュニティ力を高める適応策

3章 エネルギー自律 住宅用太陽光発電に注目して

1 どのように普及させるか
2 太陽光発電の街─群馬県太田市
3 エネルギーの自律を支える環境コミュニティ力

4章 資源循環型社会

1 地域循環圏が目指すもの
2 エコ・コミュニティ事業
3 生ごみ再資源化とリペアの普及

5章 森林再生と山村ビジネス

1 森林の多面性
2 大きな森林循環と小さな森林循環

第3部 環境コミュニティづくりの実践地域

1章 市民協働による環境都市づくり─長野県飯田市

1 環境文化都市としてのあゆみ
2 政策展開と住民の意識・行動
3 地区公民館活動とのつながり
4 環境文化都市の今後

2章 地域住民総参加による資源循環─福井県池田町

1 池田町における地域づくり
2 町民による生ごみ回収と地域ぐるみの有機農業
3 3,000人の町に4つのNPO
4 農村コミュニティの未来

3章 住民ニーズを踏まえたエコポイント─東京都荒川区

1 エコポイントの課題
2 エコポイントの設計手法

第4部 環境コミュニティ大作戦を企てる

アクション1 環境コミュニティ力を高めながら環境配慮を促す
アクション2 環境コミュニティづくりを協働で進める
アクション3 環境コミュニティ力を組み込んだ施策手法を設計する
アクション4 環境コミュニティ・ビジネスをおこす

白井信雄(しらい のぶお)

1961年生まれ。静岡県浜松市三ヶ日町育ち。1986年大阪大学大学院前期課程環境工学専攻修了。三井情報開発株式会社総合研究所環境・資源領域リーダー、株式会社プレック研究所持続可能環境・社会研究センター長を経て、法政大学地域研究センター特任教授。
シンクタンク時代の環境省、国土交通省、林野庁等の委託調査の経験を活かし、環境分野での実践を具体的に支援する研究活動を実施中。
専門分野は、環境政策、持続可能な地域づくり、地域環境ビジネス、環境普及学、環境情報学、森林・山村活性化、地球温暖化適応策・低炭素社会等。主な著書に、『サステイナブル企業論―社会的役割の拡大と地域環境の革新』『いちから見直そう!地域資源―資源の付加価値を高める地域づくり』『産業のグリーン変革』等(いずれも共著)。

環境コミュニティ大作戦が始まる

明治維新以降の日本の経済成長は、国策と産業の力によるところが大きい。それを支えたのは、実直で勤勉な国民性であり、身近な自然をいつくしむ日本の心であっただろう。しかし、これまでの市民は、国と産業界の追随者(フォロワー)に過ぎなかったのではないだろうか。これまでも市民が主導して、社会や経済を変える動きがなかったとはいわないが、市民主導の流れはまだまだ小さく、大きなうねり(イノベーション)にはなりきれていない。

そして、地球温暖化や資源・エネルギーの枯渇、本格的な少子高齢化、地球規模での人口爆発と経済不況等の問題が目白押しである。これまで通り、国や産業界のやり方に任せておいていいのだろうか。福島原発の事故とその対応を目の当たりにして、原子力発電を推進してきた国や産業界の信用は失われた。欧米諸国のモノまねに終始し、自らの改革に遅れ、リーダーシップを発揮しきれていない国や、生命の問題を軽視する企業に、国づくりを預けておくわけにはいかない。

今、期待される動きは、「地域からの変革」である。地域資源を活用し、地域の住民が地元の行政や事業者と連携しながら、環境と経済、社会が統合的に発展する姿を足元で具現化し、それを他地域にも広げ、地域間のネットワークをつくることで国を変えていく、そうしたボトムアップの変革が必要である。

本書では、特に環境やエネルギーをテーマにした地域づくり・人づくり(環境コミュニティ)を取り上げる。本書は、環境コミュニティが地域を変え、国を変え、世界を変えていく、そうした大作戦の始まりの宣言であり、具体的な作戦の整理と提案であり、実践事例の記録である。

環境コミュニティ力とは

「地域からの変革」において最も大切なものは環境コミュニティ力だと本書では考えている。これは「環境保全・活用に参加しようとする地域住民や事業者、地域行政等の主体の力と主体間の関係の力」である。
ここで主体の力とは、環境保全・活用に取り組もうとする意識や意欲などである。関係の力とは、環境保全・活用に係る主体同士のつながりである。関係

の力は社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と同義である。個々の力が強くとも、関係の力が強くなければ、力が十分に発揮されることはないだろうから、関係の力が重要である。

一方、地域づくりの要素はハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアに分けて捉えることができる。このうちヒューマンウエアは「環境コミュニティ力」と同義である。ハードウエアとは人工的施設やインフラなど、ソフトウエアは制度や情報・知識などを指す。これらの基盤にあり、地域資源と人間活動をつなぐうえで重要な要素がヒューマンウエアである。

地域づくりの要素を積み木構造のように捉え、図1に示した。ヒューマンウエア(環境コミュニティ力)がないと、ハードウエアは形をつくることができても活用されない。また、立派なソフトウエアを整備しても利用されないことも多い。環境コミュニティ力は、ハードウエアやソフトウエアを活かす駆動力のようなものであり、環境コミュニティ力こそが環境を守り、地域をつくる人的基盤として最も重要な礎である。

そして、環境コミュニティ力は、地域活動という実践を通じて、強化されるものである。環境コミュニティ力の活用→地域活動の実践→地域環境力の向上というサイクルが形成されていることが、まさしく持続可能な地域づくりの姿である。

本書の構成と狙い

本書は4部で構成される。

第Ⅰ部では、環境・エネルギー問題の解決のために、「環境コミュニティ力」を重視する必要性があることを説明する。このために、東日本大震災で明らかになった現代文明の問題点、環境・エネルギー問題の根幹にある工業化や都市化、国家・産業主導のスタイルの問題点等をややマクロに整理する。また、環境コミュニティ力という概念の位置づけを、環境保全の人づくり・地域づくり、内発的発展論、社会関係資本、持続可能な地域づくりなどといった関連する議論を振り返りながら整理する。

第Ⅰ部では、言葉の定義の整理を行うため、やや概念的であり、具体的なところを知りたい読者には読みづらいかも知れない。そうした方は、第Ⅱ部以降から読んでいただけばよい。

第Ⅱ部では、2つの地球温暖化対策、エネルギー自律、資源循環型社会、森林再生という取組み課題ごとに、「環境コミュニティ力」がどのように不足し、どのように扱われているかを紹介する。

ここで、2つの地球温暖化対策とは、温室効果ガスの排出を削減する緩和策(低炭素施策)と、緩和策を最大限とったとしても避けられない気候変動に対する適応策の2つをいう。エネルギー自律では、特に住宅用太陽光発電の普及に関する地域の施策の実態と課題を具体的に取り上げる。資源循環型社会については、エコタウンといった大きな循環圏における課題や生ごみ循環における環境コミュニティ力に配慮した事例等を紹介する。森林再生では、森林が持つ多面的な働きと、その活用方法を整理する。

第Ⅲ部は、特定の地域に着目して実施した住民アンケート調査やヒアリング調査をもとに、「環境コミュニティ力」が地域でどのように積み重ねられ、高まっていくか、その過程や今後の展望を紹介する。

取り上げる地域は、太陽光発電に関する市民共同発電事業が活発で、さらに環境モデル都市として取組みを広げてきている長野県飯田市と、3,000人の町でありながら、環境NPOが4つもあり、住民ボランティアによる生ごみ回収と地域ぐるみで環境保全型農業を進めている福井県池田町である。

また、環境コミュニティづくりのツールとしても期待されるエコポイントについて、環境コミュニティ力の形成という観点から検討を行った東京都荒川区の事例を紹介する。

第Ⅳ部は、環境コミュニティ力の活用や向上を図るための施策や取組みについて、4つの提案を示す。4つの提案とは、①環境コミュニティ力を高めながら環境配慮を促す、②環境コミュニティづくりを協働で進める、③環境コミュニティ力を組み込んだ施策手法を設計する、④環境コミュニティ・ビジネスをおこす、である。

本書は、地球温暖化、エネルギー、あるいは廃棄物・3R(リデュース・リユース・リサイクル)等に取り組む、行政関係者、企業、NPO関係者等あらゆる人々を対象にしている。環境コミュニティ力を高めることの必要性を否定する人は少ないだろうが、環境コミュニティ力への配慮に手が回らない人、それを軽視してしまっている人は多いことだろう。環境・エネルギー問題に係わる人々と、環境コミュニティ力の必要性とそれを高めてきた日本各地での経験を共有できれば幸いである。

私のライフワークは、持続可能な地域づくり(環境保全と地域活性化が両立する地域づくり)を具現化し、実現し、それを広げることである。誰もが理想郷をつくりたいという夢を描いたことがあるのではないだろうか。そうした理想郷づくりに近い仕事があると気づいたのは、環境省が1980年代後半に手がけた「エコポリス」の計画策定事業である。

しかし、エコポリス関連事業は、残念ながら1年間で廃止となり、神戸市と滋賀県野洲町で計画が策定されただけであったが、環境問題の解決を地域づくり全体で図ろうとする試みはとても魅力的であった。実際、当時に描かれた計画をみると、現在進められている環境モデル都市や環境未来都市の取組みにも劣らない内容であり、時期尚早であったということだろう。

その後、都市ではなく農山村を舞台として、環境理想郷を描くエコビレッジ研究会に参加する機会を得て、以降、地域の環境基本計画やエコミュージアムの計画策定、環境イベントの企画等の仕事を得ることができた。環境省の関連では、持続可能な地域づくりに係る調査研究を継続的に受託し、環境面で持続可能な地域づくりの事例調査等を踏まえて、あるべき目標像や実現の方法論を検討した。

そして、持続可能な地域づくりへの取組みは1990年代に先進的な地域で立ち上がり、2000年代に入り、確実に増えてきた。また、先駆的な地域では取組みの歴史も20年近くとなり、積み重ねの効果も表れているところである。

さて、持続可能な地域づくりの方向性をまとめた文章として重要なものがいくつかある。その一つが、第三次環境基本計画の重点施策「環境保全の地域づくり・人づくり」の記述である。同計画の記述は決して読みやすいものではないが、地域の環境政策と環境学習を一体として捉え、環境保全・活用と経済、社会の相互作用による発展を描こうとしたことに意義がある。持続可能な地域づくりにおけるヒューマンウエアの重要性を指摘しているのである。

そして、第三次環境基本計画をフォローする進行管理の指標開発の委託調査で、「環境保全の地域づくり・人づくり」に関して、地域の施策の進行管理を行う指標を開発する委託調査が公募された。筆者は、「地域環境力」(本書でいう環境コミュニティ力)という観点で指標を構築することを提案し、無事に委託を受けることができた。

「地域環境力」は、平成15年度環境白書及び第三次環境基本計画で取り上げられている。2002年9月20日に開催された中央環境審議会総合政策部会での配付資料「地域環境力創造戦略(案)について」においても「地域環境力」という表現が使用されている。この「地域環境力」という考え方を用いれば、持続可能な地域づくりの本質的な部分を捉えることができると考えたのである。

この時の委託調査は1年だけであったが、委員会の委員の先生方やこちらのスタッフの関心も高く、楽しく熱心に仕事をすることができた。そのため、委託調査終了後も、「地域環境力(環境コミュニティ力)」をテーマにした個人研究を継続することにし、この本をまとめるに至った。

この本を書くきっかけは、学芸出版社の中木さんからのメールであった。中木さんは、もっと自分が実践した地域づくりの具体的な事例を楽しく伝えるような本を期待していたと思うが、環境コンサルから大学に職場を変えた私は、最近実施してきた住民アンケートやヒアリングの詳細データを紹介したくてたまらない。できるだけ住民アンケートでは複雑な統計解析の結果を示さずに、わかりやすく解説したつもりなので、ご理解をいただければ幸いである。

なお、地域力やヒューマンウエアに関する多くの本が既に出版されており、本書ではそれらと差別化する意味でも、筆者が研究の一環として調査をしたデータを用いている。関連する他の図書と合わせて、読んでいただくと相乗的に理解が深まるはずである。

そして、本書で紹介させていただいた多くの地域にお礼を申し上げたい。特に、長野県飯田市、福井県池田町、東京都荒川区では、アンケートやヒアリングにおいて、多大なご協力をいただいた。本書の整理が今後の地域づくりに役立つものになればと願っている。

最後に、本書はこれまで共著を6冊ほど書いてきた筆者にとって、初の単著となった。私を励ましてくれた妻・白井純子に感謝を伝えたい。そして、ふるさと静岡県浜松の両親たちに喜んでもらえればなによりである。

2012年3月

白井信雄

長年、シンクタンクで国や地方の環境政策を調査・研究してきた著者が、その豊富な経験から導き出した環境問題解決のための重要な要素が環境コミュニティ力である。環境コミュニティ力とは、環境課題に対して、地域を変えていく力を持った活力あるコミュニティの力のことを意味している。

本書で提言する地域モデルは、環境活動に新しい時代の到来を予感させる。地域を強力なリーダーがひっぱるのではなく、いくつかの役割を分担する普通の人の集まりを想定している。筆者も地域調査を実施するなかで、このようなリーダーはどのようにすれば育成できるのかという疑問を持ち続けてきたが、環境コミュニティの動きを広げるには、リーダーの発現を待つよりもリーダーがいなくてもできる地域の取り組みを考える方が、普及の可能性が高い。

筆者の知る限り、環境問題について施策を紹介する書籍、取り組み事例を紹介する書籍は枚挙にいとまがないが、環境問題を解決するコミュニティ自体に焦点を絞った書籍は他に例がない。

第Ⅱ部、第Ⅲ部は、施策や地域の取り組みを紹介している。事例は、長野県飯田市、福井県池田町、東京都荒川区の取り組みを紹介している。飯田市については、著者の実施した環境配慮行動に関するアンケート調査の結果も解説されている。紹介のなかで、随所に著者の経験を交えた分析が展開されているので、単なる事例調査ではなく、非常に読み応えがある内容で、この部分は、販売の都合もあろうけれど、もう少し分厚くして欲しかった。

本書への要望をあげるとすれば、第一に、対象としているコミュニティの規模があいまいであることである。どの程度の規模のコミュニティが有効に機能しやすいのかを示してもらえると、第Ⅳ部の環境コミュニティづくりのマニュアルが活きてくるように思う。

第二に、150ページからの環境配慮行動の3つのステージについてである。個人が取り組み、第1、2ステージから、社会的な行動へと移る第3ステージには、少し距離があるように感じる。その距離をどう埋めるのかは実は筆者の研究テーマでもあるのだが、この点について著者の考えをもう少し詳しく読みたい。

(近畿大学経済学部教授/坂田裕輔)


飯田市で市民との連係が生まれているのは、長い公民館活動などがその源であることもよく判りました。

そのことをもっと活かして、エネルギーに止まらず、地域資源である、「ひと、もの、お金」の活用と循環になるよう、努力してまいりたいと思います。

(おひさま進歩エネルギー㈱/原 亮弘氏)


この著書を読んで大変びっくりしました。なぜなら、環境に関する多くの書籍と異なり、住民、自治体、NPO、専門家等のすべての立場にとって大いに参考になる内容であり、さらに、これから環境政策に参画しようと考えている人にとってもわかりやすいものだからです。さっそく、環境政策を研究する仲間に購入を薦めました。先生と出会えてよかったと思いました。

(行政Aさん)


今後の施策立案にあたり、ついつい忘れがちな視点を改めて認識させていただきました。

うちの課内でも、この本に興味を持たれている方も多く、順番待ちで私の本を貸し出しています。

(行政Bさん)


担当編集者より

CO2削減や地球温暖化防止など、震災以前から環境やエネルギー問題は取り上げられていたが、身近な問題として感じにくかったように思う。原子力発電所の事故があってからも、あいかわらず電力は大手電力会社に頼っているし、節電をするくらいしか個人ができることはないのか?という疑問もある。

著者が主張するのは、大きな設備投資(ハードウェア)や制度(ソフトウェア)だけでなく、市民の力(ヒューマンウェア)が大事ということだ。これまでの国の政策によるトップダウン型ではなく、地域からボトムアップ型で動きを起こすことで、自発的・継続的な環境コミュニティづくりはできるということを、本書と事例が示してくれている。

市民の意識はすでに高まっている。あとは、自治体や環境NPOの誘導のもと、いかに地域全体で行動に移していくか。本書をヒントにしていただいて、それぞれの地域で取り組めば、きっと大きな変化につながると期待している。

(中木)

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