日本一のローカル線をつくる

小嶋光信 著

内容紹介

行きすぎた規制緩和と根深い補助金依存で苦境に喘ぐ地方の公共交通。岡山で交通運輸業を営む著者は、和歌山電鐵中国バス等、廃線・倒産の危機にあった赤字路線・交通企業を多数再生してきた。地域交通事業が儲からないのは当たり前。ではなぜ、どうやって守るのか。異例の取り組みで注目を集める業界の旗手が明かす経営術。

体 裁 四六・176頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1299-6
発行日 2012/02/15
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき新着情報
まえがき

第1章 なぜ地域公共交通は衰退したのか

赤字が当たり前のビジネスモデル
地域公共交通事業が衰退した理由
交通権は全国民の権利
補助金から「公設民営」へ

第2章 公共交通を再生させるという決意

岡山の公共交通離れ
バスが直面していた問題
路面電車が直面していた問題
お客様目線の「わかりやすさ」「乗りやすさ」の追求
公共交通の復権をかけた取り組み

第3章 歩いて楽しいまちづくり運動

まちづくりは人々の意識改革から
路面電車「MOMO(モモ)」の導入
都心居住を進める「グレースタワー」の建設
レトロでモダンな「SAI BUS(サイバス)」登場
世界初!二一世紀型バス「SOLARVE(ソラビ)」発進
生まれない、公共交通存続の危機感

第4章 目からウロコの韓国バス事情

イ・ミョンバク氏の交通改革
韓国の視察で学んだこと

第5章 規制緩和は公共交通を衰亡させる

岡山市バス業界の顧客争奪戦
お客様第一に、競合から共同へ
行政と事業者の深まる溝
規制緩和の結末

第6章 「公設民営」の実証─津エアポートライン

地元が匙を投げた旅客船事業
多重投資による破綻
経営再建の秘訣は徹底した現場志向
公共交通事業の成否を分けるもの

第7章 たま駅長とユニークなアイデアで鉄道再生─和歌山電鐵

不可能と思われた再生を引き受けた理由
覆面視察で見抜いた再生の可能性
忘れ去られていた地域の魅力
本物の市民運動の存在
「知って、乗って、住んでもらう」戦略
再建の看板となった三毛猫たま駅長の活躍
たま駅長の超出世物語
水戸岡鋭治さんがデザインする、乗ってみたい電車
鉄道再生後の嬉しい出来事

第8章 補助金の誘惑が経営不在・顧客不在を招く─中国バス

誰にも助けられないバス会社に救いの手を
現場に問題の答えがある
現場管理の要諦
補助金行政の副作用①:経営のモラルハザード
補助金行政の副作用②:顧客不在の劣悪なサービス
補助金は顧客サービスに還元を

第9章 地域公共交通の存続をかけた政策改革

規制緩和でなぜ多くの公共交通が倒れたのか
高速バスとツアーバスのアンフェアな競争
規則緩和の功罪を検証
地域公共交通の見直し機運
公共交通政策の抜本的改革が必要
公設民営のビジネスモデル
国政を動かすための運動

第10章 なぜリスクばかりで得のない再生を決意したか

創業者の経営理念「忠恕」
「経世済民」を学び経営の道へ
信託経営による人材育成
岡山藩郡代・津田永忠との出会い
企業の使命を問い直す

第11章 地域公共交通の変革─エコ公共交通大国構想

世界一のエコ公共交通大国を目指す提言
エコ公共交通大国の実証実験を岡山で
公設民営のスキーム
地域経営の時代

第12章 日本の公共交通経営の未来

あとがき

小嶋光信(こじま みつのぶ)

1945年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、三井銀行勤務。1973年に義父が経営する両備運輸に常務として入社し、経営再建を指揮。以後、両備グループ各社の役員を兼務する。1999年両備グループ代表、2007年両備ホールディングス社長に就任し、現在両備ホールディングス代表取締役会長兼CEO。和歌山電鐵、中国バスほか公共交通7社の赤字路線の再生を含め交通運輸事業15社の再建を手がけ「地方公共交通の救世主」として知られる。

両備グループ

岡山県で列車、バス、タクシー、トラック、フェリーなど交通運輸業を中心に情報産業、生活関連産業など52社を展開。社員数約8,000人、売上高約1,300億円。

三毛猫のたま駅長の華々しい活躍で、日本のみならず、世界的に有名となった和歌山電鐵ですが、その再生の背景には、沿線住民の皆さんの献身的なご協力と行政の皆さんの熱いサポートに加え、幹部や社員の皆さんのひたむきな努力があったのです。それらの総合力で、奇跡的ともいわれる再生が和歌山電鐵貴志川線で展開されています。

和歌山電鐵の再生では、「小嶋さん、ちっとも自分の利益にならず、リスクばかりの地方鉄道の再生を何のために努力しているの?」とよく聞かれます。もちろん、私も専務も無報酬。業績が向上すれば補助金が減るだけで、会社の経常利益はゼロ以下ですし、経営リスクばかりで何も儲けにつながらない「補助金」のスキームの下では、そんな疑問が当たり前かもしれません。

和歌山電鐵の開業日に、お年を召したご婦人お二人が私の姿を見つけて、「あなたが和歌山電鐵の社長さんですか? 電車を残してくれてありがとうございます」と手を合わされて、返す言葉で「でも逃げないでね!」と茶目っ気たっぷりに笑われたのです。開業当初は、地元の皆さんも本当に再建できると思われていなかったのでしょう。

それまでは、死屍累々の地方鉄道の再生は無理かもしれないという諦めが監督官庁や業界を支配していたなか、一縷の望みをかけた両備グループの再生ノウハウと地域力で、思わぬ道が開けてきたのです。

そして、マスコミから「燃える高速バス」とキャッチフレーズをつけられ、荒れに荒れた中国バスの再生では、「労使関係が悪すぎて、きっと火傷を負いますよ」と、内情を知っている方々が止めてくれました。なぜそんな火中の栗のような凄い会社の再建を引き受けたのか、ぜひ真相を読んでいただきたいと思います。

実は、行きすぎた規制緩和で崩れ去り始めた地域公共交通を、ミクロ的な延命政策では、もう救うことができなくなっているのです。日本の公共交通に対する法律まで変え、財源を確保しなければ助からないというマクロの事実を読みとっていただきたいのです。

両備グループとして私が携わってきた交通運輸事業の再生は、旅客船事業2社、新設1社、鉄道事業1社、バス事業1社、物流事業5社、タクシー事業5社と多岐にわたり、規制緩和後の交通運輸事業の衰亡の現実に立ち向かい、再生してきた現場から、多くの規制緩和の功罪を体験してきました。

現場に立脚した政策やコンサルティング・学術論が少ない業界で、今回は規制緩和後の公共交通の経営環境の変化と課題を、再生の実例をもって論じていきたいと思います。

本書は、その地域公共交通の再生をドキュメンタリーでお伝えしたいと思います。それが、元気なまちづくりのために、地域の誇りとそれを支える地域公共交通を救う一助となれば幸いです。

2011年、この1年が地域公共交通存亡の天下分け目の最重要時期と思い、各地からの講演依頼を積極的に受けて、実態の理解と解決法や交通基本法の成立がなぜ必要かを訴えました。なんと北海道から九州まで全国で講演会が約30件、どこの地域も熱き講演になり、九州では立ち見も出るほどで、いかに地域の皆さんや事業者、行政が困っておられるのか、解決法を熱望されているのかがヒシヒシと伝わってきました。

また両備ホールディングスのホームページで「交通基本法案が3月8日付、閣議決定されました。政局が混迷していますが、与野党の先生方も地方の苦境をおわかりなので、本法案は、政争の具にはならないと思います。良い流れですが、気を抜かずに頑張りましょう! 法案に財源がセットになってはじめて地域の公共交通が救われるのです! 延命型の公共交通政策から、夢のあるエコ公共交通大国に向けてのギアチェンジが必要です!」とお伝えし、必要なアクションとして各政党や行政に交通基本法の成立や地域公共交通の実情について陳情をお願いしたところ、全国から多くの共感をいただき、陳情や要望を各方面に寄せていただいて大変感謝しています。

瀕死の状態を延命している多くの地域公共交通事業者は、交通基本法が早く成立し、予算が確保されて、将来に夢と期待の持てる事業へ転換することを願っていると思います。しかし、安定した公共交通サービスに変革するには、公共交通をどのレベルで維持、発展させるかの国家のビジョンを示しておかなくてはなりません。交通計画を県や市町村がつくるにしても、そのモデルがハッキリしていなければ、つくることができません。

地方の路線バスは、大都市で使われた中古バスで、年金受給の運転手さんを安く雇っておればよいのか、それとも高齢化社会と環境に対応し、情報システム化された路線バスを義務づけるのかによってまったく計画が変わります。また、その財源をどうするのか、利用客数の増加に結びつかない社会的なサービスの負担をどうするかの問題があります。

鉄道での公有民営の考えを、旅客船事業や路線バスの限界事業者に適用していくのかなども課題です。また、行きすぎた規制緩和をそのままにしておくことは、ザルから水の漏るような事態になるでしょう。少なくとも利用者利便の確保のためには、輸送の秩序を維持しなければ、安定的な輸送サービスを供給することはできないでしょう。

多くの課題を、丁寧に一つ一つ、利用者目線と、将来を担う若者たちのための将来目線で解決し、真に世界に誇れる、夢の持てる「エコ公共交通大国」に進んでいく努力を、これからも皆さんとご一緒に続けていきたいと思います。

2012年1月

小嶋光信

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