エネルギー政策のイノベーション

飯田哲也 著

内容紹介

3・11の原発震災は、日本のエネルギー政策に大きな転換を迫っている。今こそ、原発依存から、自然エネルギーと快適な省エネを活用する低エネルギー社会へのシフトが必要だ。それには日本の政策知の底上げ、民主的な政策決定プロセスの創造が欠かせない。世界の常識を知り、日本を変える、エネルギーデモクラシーの入門書。

体 裁 四六・176頁・定価 本体1600円+税
ISBN 978-4-7615-1297-2
発行日 2011/12/07
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがき書評
まえがき

第1章 原発からのエネルギーシフト

1 原発震災はなぜ起きたのか

原発震災の危機連鎖
原子力を扱う資格なき張りぼて体制
不毛な政策を生む構造

2 原発がなくても電力は足りる

需要側管理(DSM)の活用
2011年夏の電力需給実績
2011年冬および2012年夏の見通し

3 戦略的エネルギーシフト

民主主義と市場が原発を退場させる
石油・石炭依存は地獄への道
持続可能なエネルギーへ
国民にエネルギー主権を

第2章 世界を席巻する自然エネルギー

1 自然エネルギーのポテンシャル

自然エネルギーを巡る誤解
供給の主力にはなりえないのか
コストは高いのか
自然エネルギー産業の興隆

2 自然エネルギーの今

自然エネルギー普及の四つの波
太陽光発電の今
風力発電の今
地熱エネルギーの今
バイオマスエネルギーの今
バイオ燃料の今
グリーン電力を選ぶ仕組み
都市が生グリーン電力を利用する仕組み

3 世界の自然エネルギー大国

世界市場の半分を担う欧州
グリーン・ニューディールで躍進するアメリカ
存在感を増す新興国
日本は自然エネルギー後進国

第3章 世界のエネルギー政策の潮流

1 環境政策と経済政策の統合

エコロジー的近代化
温暖化防止、電力自由化、原子力代替へ
供給プッシュから需要プルへ

2 世界で最も成功した環境政策の登場

固定価格買取制度の誕生
ドイツの飛躍
競争入札および固定枠制度(RPS制度)

3 21世紀のエネルギーパラダイムへ

コペンハーゲン後の停滞感
カーボンからエネルギーへ
自然エネルギー100%シナリオの出現
21世紀の新しいエネルギーパラダイムへ

第4章 日本のエネルギー政策の課題

1 環境エネルギー政策の歪みと失敗

世界の変化に背を向けた日本
自然エネルギー市場の三大悲劇
自然エネルギーを取り巻く「四面楚歌」

2 固定価格買取制度を巡る混迷

RPS法を巡る政治トラウマ
固定価格買取制度を巡る狂騒
官僚主導政治は続く
「全量買取制度」の政治的な歪み
「政治的リアリティ」という視点の重要性
自然エネルギー普及の第一歩

3 閉じられた電力市場

変動型電源でも問題ない
スマートグリッドより市場のオープン化を
送電線は公共財
全国一体の送電会社の設立を
周波数の東西統一

4 熱政策の不在

眠れる巨人
エネルギー業界の草刈場
エネルギーヒエラルキーの原則

5 時代遅れの補助金政策

量産される補助金事業の失敗
初期投資への補助金を巡る問題点
国の補助金を巡る問題
地方自治体における問題
必要とされる地域の核

6 地域社会での合意形成

7 産業社会から知識社会へ脱却を

環境ディスコースなき日本
知のガラパゴス列島からの脱却を

第5章 地域から始まるエネルギーデモクラシー

1 地域が主導する第四の革命

自然エネルギーは第四の革命
高まる地域のイニシアチブ
市場の改革
政策の革新

2 世界で起きている地域からの変革

サクラメント電力公社(アメリカ)の需要側管理
ベクショー市(スウェーデン)の化石燃料ゼロ宣言
サンフランシスコ市(アメリカ)の「コミュニティによる電力選択」
アーヘン市(ドイツ)のアーヘンモデル
バルセロナ市(スペイン)のソーラーオブリゲーション
東京都の挑戦

3 地域にエネルギー主権を

見掛け倒しの日本の政策
日本の地域はエネルギー植民地
コミュニティパワーで変革を

飯田哲也(いいだ てつなり)

1959年山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科卒業、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。大手鉄鋼メーカー、電力中央研究所で原子力の研究開発に従事した後退職。現在、NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。国際的にも豊富なネットーワークをもち、21世紀のための再生可能エネルギー政策ネットワークREN21理事、国際バイオマス協会理事、世界風力協会理事なども務める。著書に『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論)、『自然エネルギー市場』(編著、築地書館)、『今こそ、エネルギーシフト』(共著、岩波書店)、『原発社会からの離脱』(共著、講談社)、『「原子力ムラ」を超えて』(共著、NHK出版)、『1億3000万人の自然エネルギー』(講談社)ほか。

2011年3月11日に起きた東日本大震災は、明治維新、太平洋戦争終結に次ぐ、日本の第三の転換期として歴史に刻まれるだろう。とりわけ、世界最悪級となった福島第一原子力発電所の事故(原発震災)は、原子力中心だったエネルギー政策のあり方を、根底から問い直している。
そもそも人類が永続的に豊かな文明を営んでゆくためには、「再生可能なエネルギーと資源を、再生可能な範囲で利用する文明」へ移行するほかに道はない。3・11は、全速力でその方向に向かうパラダイム転換を、私たちに促している。

そして、その胎動が起こりつつある。

ソフトバンクの孫正義社長は、私財を投じて「自然エネルギー財団」を立ち上げ、35もの道府県知事を動かして「自然エネルギー協議会」を組織した。孫氏のように、現実的な議論を踏まえて、合理的に行動する経営者が現れるようになったのは、3・11以降の大きな変化であろう。
さらに、震災以降、全国各地で毎日のように開かれている講演会やシンポジウムでエネルギー政策についての学習や議論が行われている。旧態依然としている大手メディアを脇に、インターネット上ではツイッターなどの新しいソーシャルメディアで自主的な情報が流通し、対抗的文化が形成されつつある。書店には原発を批判的に検証する本が大量に積まれ、多くの人が手にとっている。

今、日本国民のエネルギー政策についてのリテラシーはかつてないほどに高まっている。この変化はエネルギー政策の民主化にとって、決定的ともいえる重要性を持っている。

これまで、日本社会では、社会が変わるということにあまりに無自覚であった。実際には変わるのに、変わらないかのように考え、あるいは変えてはならないと錯覚されている既得権益すらあった。そのため、社会を変えるための知の蓄積もほとんどなく、それを生み出すためのコンセンサスをつくる場もない。

たとえばスウェーデンをはじめとする北欧社会では、社会が変わるということを皆が共通に理解していて、それゆえにどう変わるのか、どう変えるのかということに、皆が責任をもって主体的に関わる。そこで議論し積み重ねた知の蓄積が社会のルールや政策、法律のあり方を決め、それに則って社会は変わってゆく。逆に社会が激しく変わるということをわかっているがゆえに、変えてはいけないものに敏感で、景観、自然、環境といったものを非常に大切にする。

一方、日本には、新しい知の創造に対して責任をもって主体的に関わる人はきわめて少ない。まるで「知の焼け跡」のような状況である。我々は今こそ、この焼け跡から失敗の本質を学び、やり直さなければならない。

原発震災という悲惨極まりない大災厄を、将来世代への負債ではなく遺産とするためにも、今それができなければ、いつできるというのだろうか。

変革は自らの意志で生み出すほかなく、確固たる意志を持てば、未来は必ず変えられる。

2011年11月

飯田哲也

日本社会の変革プロセスにクリアな見通しを提示する  3.11後、日本はエネルギーと社会のあり方をめぐって大きな転換点を迎えている。その渦中にあって、著者飯田哲也は「知の焼け跡」のような現状から、人々が確固たる意思と責任をもって新たな知を創造し、持続可能なエネルギー社会を築いていくことを提唱する。本書は、そうした日本社会の変革プロセスにクリアな見通しを提示するものである。

これまで地域独占の電力会社や官僚機構にエネルギーのあり方を任せてきた日本社会が抱える課題は山積みである。量産される補助金事業の失敗と問題点、地方自治体における政策知の欠如という問題、そもそも地域で知識・経験・社会関係資本を蓄積する「場」が存在しないなど、見渡せば課題ばかりである。

こうした状況にあって、著者は20世紀型の「供給プッシュ」から21世紀型の「需要プル」へと発想を転換し、地域からエネルギーの変革を創り出していくことこそが課題を解決する方法であると述べ、サクラメントやサンフランシスコ(アメリカ)・ベクショー(スウェーデン)・アーヘン(ドイツ)・バルセロナ(スペイン)・東京都(日本)など、豊富な事例を通じてその手がかりを提示する。

山積みの課題に挑む著者の日常は、国の委員会、各地域での政策アドバイス、講演・執筆に加え、世界の専門家・機関とのネットワーキング活動など、まさに分刻みのスケジュールである。3.11後は、その多忙度合いが倍増し、環境エネルギー政策研究所の活動・注目度にも大きな変化が生じた。そうした大きな変化の中で、著者は「エネルギーデモクラシー」を普遍知に据え、現実のさまざまな矛盾と課題に向き合い、実践知を創り出しながら統合知を目指す、その姿勢は3.11の前から変わらない一貫性をもっている。

(環境エネルギー政策研究所研究員/古屋将太)

担当編集者より

今、エネルギー分野で最も多忙な活動家である飯田哲也さんの待望の単著である。単行本を企画するにあたって、飯田さんが過去から現在までに書かれた膨大な論文やインタビューに目を通し、講演にも通った。
飯田さんの主張は、活動を始められた頃からまったく変わらない。変わらず主張し続けなければならないほど、この国のエネルギー政策は停滞してきたということだ。

日本のエネルギーを巡る閉塞状況を打開するのは簡単ではない、だけど、それを実現する方法は必ずあると、飯田さんの明晰な言葉の数々が教えてくれる。

(MH)