コンパクトシティ


海道清信 著

内容紹介

欧米の政策と論争の紹介と、日本型への提案

コンパクトシティへの関心が高まっているが、コンパクトシティとは何か、どのように達成するのか、本当に効果があるのか、といった基本的なことについての共通の理解に乏しい。そこで欧米における政策と論争を広範に紹介し、さらに日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れて、まとめたものである。

不動産学会著作賞受賞

体 裁 A5・288頁・定価 本体3200円+税
ISBN 978-4-7615-3095-2
発行日 2001-08-30
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき読者レビュー書評

序章 都市像の意味

1  はじめに

1 豊かな暮らしと都市のありかた/2 都市や地域の変化/3 都市計画の変化/4 OECDの「日本の都市政策」に関する勧告

2  都市像としてのコンパクトシティ

1 都市像とは/2 原風景としての都市像/3 コンパクトシティ論の意味

1章 EUのコンパクトシティの理念と政策

1・1  コンパクトシティとは

1・2  サスティナビリティとは

1 ローマクラブ/2 ブランドラント委員会/3 サスティナブル・シティの理論

1・3  サスティナブル・シティ戦略とコンパクトシティ

1 提起/2 サスティナブル・シティ・キャンペーン/3 サスティナブル・シティ・レポート/4 専門家グループによる意見書/5 自治体へのEUの影響力

2章 英国のアーバンルネサンスとコンパクトシティ

2・1  英国政府によるコンパクトシティ政策の推進

1 中央政府と地方政府の関係/2 都市計画における計画主導システム/3 コンパクトシティ政策の背景/4 コンパクトシティを目指す戦略/5 計画方針ガイダンスPPGsの役割/6 アーバンビレッジ/7 ロンドンの新しい開発パターン

2・2  政府による南東部地域政策

1 地域の概況と地域政策素案の策定/2 南東部地域の開発戦略/3 アーバン・ルネサンスの実現

3章 英国の自治体が目指す都市づくり

3・1  地域の状況

1 レディング市の概況/2 都市の発展と地域構造

3・2  都市が目指すもの

1 自治体の再編成と広域計画/2 サスティナブル・コミュニティの実現/3 商業立地と都市センターのあり方/4 交通の改善を目指して

3・3  開発のコントロール

1 開発コントロールの実際/2 ローカル・プランと基本方針/3 プランニング・ブリーフからみた計画戦略

3・4  田園と町を守るサウス・オックスフォードシャの地域づくり

1 サウス・オックスフォードシャの概況/2 田園景観を守る仕組み/3 ローカル・プランの狙い/4 ローカル・プランの見直しへ/5 住宅地開発の考え方/6 商業施設の開発/7 開発コントロールの体制/8 議会の積極的な活動

3・5  英国の自治体が目指す都市像と実現方法

4章 ドイツ・オランダのコンパクトシティ政策

4・1  ドイツの都市の空間構成と都市像

1 街の中心部のにぎわい/2 歴史的都市空間の価値の継承/3 ドイツにおけるコンパクトシティ戦略/4 ドイツと日本の都市空間の比較

4・2  オランダ政府によるコンパクトシティ政策

1 政府の基本戦略/2 コンパクトシティを実現する方法

4・3  ヨーロッパ諸国のコンパクトシティ政策の流れ

5章 アメリカにおける都市スプロールへの抵抗

5・1  郊外化の実態と問題

1 アメリカにおける郊外化の実態/2 都市スプロールの原因/3 郊外化のプロセス/4 自動車に過度に依存した結果

5・2  郊外化に対抗する市街地像

1 歩行者ポケット(ペデストリアン・ポケット)/2 ニューアーバニズムと伝統的近隣開発(TND)/3 カルソープの公共交通指向開発モデル(TOD)の具体化/4 軌道系公共交通重視のトランジットビレッジ

5・3  アメリカの自治体政策

1 成長管理政策とスマートグロース/2 シアトルのアーバンビレッジ政策

6章 欧米におけるコンパクトシティ論争

6・1  コンパクトシティの原則と特性

1 コンパクトシティの原則/2 コンパクトシティによる効果/3 コンパクトシティを実現するための都市、地域政策

6・2  コンパクトシティを巡る論争

1 英国における田園居住志向/2 コンパクトシティ論争

6・3  コンパクトシティの検証

1 代替モデル/2 エネルギー効率、廃棄物削減効果/3 都市形態と交通行動/4 都市のコンパクト性と社会的公平さ/5 都市の強化/6 密度について/7 複合機能、混合用途

7章 都市形態と生活環境

7・1  計画の理念と中心市街地

1 部分と全体の有機性/2 空間の論理

7・2  市街地人口の低密化

1 歴史都市の人口密度/2 DID人口密度の低減傾向

7・3  自動車の保有と利用

1 先進国の自動車の普及と人口増加/2 都市形態と自動車保有/3 都市形態とガソリン消費量/4 自動車保有世帯の特徴/5 街なかの公共交通の衰退と再生

7・4  都市形態と交通行動

1 人口密度と生活施設へのアクセシビリティ/2 都市形態による交通行動への影響

8章 わが国におけるコンパクトシティ提案

8・1  コンパクトシティへの関心・注目

8・2  コンパクトシティをテーマとする構想や提案

1 行政による構想・計画/2 調査研究機関、研究者、プランナーからの提案/3 産業界からの提案

8・3  コンパクトシティを目指す施策

8・4  わが国におけるコンパクトシティ構想を巡る特徴

1 政府の戦略としての位置づけの弱さ/2 自治体主導/3 多様な狙い/4 公共事業的手法への依存/5 批判的視点の弱さ

9章 コンパクトシティの空間像

9・1  20世紀のさまざまな都市像

9・2  コンパクトシティの空間像

1 中世都市(有機的な自律都市)/2 メガストラクチャー(自己完結型の人工都市)/3 地域空間の段階構成

9・3  都市空間の変遷とコンパクトシティへの展望

10章 日本型コンパクトシティにむけて

10・1  新しい都市づくりの時代へ…欧米の取り組みと日本の課題

1 持続可能な都市を目指すEU/2 アーバンルネサンスを目指す英国/3 地域自治によるスマートグロースを目指すアメリカ/4 日本の都市の課題と可能性

10・2  日本型コンパクトシティの10の原則と三つのモデル

1 近隣生活圏(アーバンビレッジ)で都市を再構成する/2 段階的な圏域で都市や地域を再構成する/3 交通計画と土地利用との結合を強める/4 多様な機能と価値をもつ都市のセンターゾーンを再生、持続させる/5 徒歩の時代の「町割り」を活かす/6 さまざまな用途や機能、タイプの空間を共存させる/7 アーバン・デザインの手法を適用して美しく快適なまちをつくる/8 都市の発展をコントロールして環境と共生した都市を持続させる/9 都市を強化する/10 自治体空間総合計画に基づく都市経営を進める/11 日本型コンパクトシティの三つのモデル

10・3  21世紀都市へ

参考文献

索引

あとがき

海道 清信 (かいどう きよのぶ)

1948年 石川県に生まれる
1970年 京都大学工学部建築学科卒業
1975年 京都大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学
地域振興整備公団勤務を経て現在、名城大学都市情報学部助教授
専攻:都市計画(都市整備論、地域生活空間計画論)
工学博士

著 書 『社会現象の統計分析-手法と実例』(共著、朝倉書店、1998年)
『新・国際比較ニッポンを診る』(共著、中央法規、1991年)
『地域共生のまちづくり』(共著、学芸出版社、1998)

自動車利用を前提としたスプロール的な都市拡大は、20世紀の都市の大きな特徴となっている。そこから生じたさまざまな課題に対応するために、EUの環境政策、都市政策の空間形態として提起されているのが、90年代のコンパクトシティである。EU加盟諸国は、それぞれの国の独自性をふまえて具体的な政策を実施している。
地球環境問題、社会的な公平性、都市中心部の活気の維持、効率的な公共投資、そしてなによりも都市の機能を強め、都市生活の魅力と生活の質を守り高めるために、コンパクトシティはわかりやすい解決策となっている。しかし、このテーマを巡って、欧米においては今でもさまざまな論争が行われて、多面的で実証的な議論や研究も行われている。
わが国においても、コンパクトシティへの関心が高まっており、都市マスタープランなどに取り入れている自治体も増えてきた。しかし、コンパクトシティとは何か、どのように達成するのか、それは可能か、また、期待されているような効果は得られるのか、といった基本的なことについての共通の理解に乏しいのが現状である。

本書は、コンパクトシティに関して、欧米における政策と論争の広範な紹介、わが国における都市づくりを取り巻く変化と日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れて、まとめたものである。

序章では、コンパクトシティが注目される背景を、経済、社会状況、都市計画の変化に着目して述べている。あわせて、経済発展が優先されてきたわが国の都市政策において、コンパクトシティ論が持っている意義を考察している。

1章は、コンパクトシティの政策的な基礎となっている持続可能性(サスティナビリティ)について、歴史的な概念の展開をまとめている。さらに、EUにおける持続可能な都市(サスティナブル・シティ)とコンパクトシティについて、経緯や近年の政策展開を整理している。

2章は、開発コントロールやパートナーシップなどを通じて、強力な政府主導で持続可能な地域、社会、経済を♀目指し♀ている英国を取り上げている。英国の都市・地域計画の仕組みと最新の動向を紹介し、新たな地域戦略であるアーバン・ルネサンスとロンドンを含む南東部地域戦略について、まとめている。

3章は、英国政府の政策や、都市・地域づくりが自治体の現場でどのように具体化されているかを、中規模都市レディング市と、隣接する田園地域のサウス・オックスフォードシャ郡を取り上げて、現地での調査を踏まえて紹介している。

4章は、中世以来の自治都市の伝統をもち、環境問題への積極的な取り組みで知られるドイツと、EU諸国のなかでも、計画的な国土づくりで知られているオランダにおけるコンパクトシティ政策とりあげた。

5章は、世界でもっとも早く自動車社会となり、都市のさまざまな機能が郊外へとスプロールしてきたアメリカの動向を考察している。また、ニューアーバニズム運動や賢明なる成長(スマート・グロース)政策を取り上げている。

6章は、コンパクトシティの理念、具体策、効果、実現可能性、社会の支持などを巡る論争を整理している。また、コンパクトシティの基本的な要素である密度、用途混合、モビリティとアクセシビリティなどについてまとめている。

7章は、わが国の都市空間の特徴をコンパクトシティの視点から、考察している。市街地人口密度と施設の立地やひとびとの交通行動、わが国とドイツの都市空間について考察している。

8章は、コンパクトシティの考え方を取り入れたわが国の自治体、産業界、プランナーなどからの提案、関連した国の政策の動向を、広範に取り上げている。そして、欧米における取り組みと比較しつつ特徴を整理している。

9章は、コンパクトシティの原型ともいうべき中世都市とメガストラクチャー、段階的な空間構成についての提案をまとめた。さらに、長期的な都市の空間構成の変遷を整理し、これからの都市空間を展望している。

最後の10章では、コンパクトシティのヨーロッパモデルとわが国の都市、地域の現状をふまえて、日本型コンパクトシティの10の原則を提案している。

本書は、これからのまちづくりや地域のあり方に関わっている研究者や政策担当者、コンサルタント、学生にはもちろんだが、21世紀を迎え、環境問題や高齢社会といった新しい条件のもとで、望ましい社会像を模索されている市民の方々にも、興味深く有益な材料を提供できているものと思う。
2001年7月23日 海道清信

コンパクトシティに関心を持ち、勉強をはじめてから4年ほどになります。学生時代から都市の人口構造や工業都市の形成・変化、大都市の空間変化などに関心を持っていました。学位論文は、20年間勤務した地域振興整備公団の地方都市圏における新都市開発事業の事業運営と効果を中心にまとめましたが、このときに、地方都市の空間構造のあり方や、英国のニュータウン政策を勉強しました。いろいろな政策や計画が実際の地域空間をどのように変化させているのか、地域空間構成の基本原理とはなんだろうか、といったことへの関心が根にあるように思います。

コンパクトシティ論の勉強を始めた直接のきっかけは、静岡県島田市の都市マスタープランの専門委員として、これからの都市のあり方を考える必要に迫られたことにあります。島田市では、都市計画課(当時)の矢沢雅則さんたちといっしょに、ゼミの学生たちも参加して、参加型まちづくりの取り組みを進めています。同時期に、京都大学大学院生の田泰宇(ジョン・テウ)さんと一緒に、地方都市の計画論を議論していました。

人々の地域における交通行動の矛盾を通して、地域空間の問題とあるべき姿を探れるのではないだろうかということになりました。その後、津山と可児で調査を実施しましたが、このとき、私の恩師の三村浩史関西福祉大学教授・京大名誉教授から、英国で出版されたジェンクスらの著書『The Compact City』を教えられ、コンパクトシティという概念やモデルの存在を知ったのです。そして、この考え方には大事なテーマがあると直感しました。

しかし、この本だけでは彼らが議論している肝心の「コンパクトシティとは何か」という実体がつかめませんでした。その後、インターネットで、アメリカのサスティナブル・シティの取り組みを知り、さらに、名城大学図書館可児分館の皆さんの協力で外国文献の収集、インターネットで関連洋書の購入や資料収集を進め、少しずつ理解が深まっていったというのが、研究のたどった道でした。また、並行して雑誌『マイホームプラン』に全国各地の歴史的なまち並みをとりあげ、「まちをあるく」と題して連載しましたが、このときに訪れた50ほどのいろいろなまちの魅力も本書の論調にかなり影響しているように思います。

この間に、三村浩史編著『地域共生のまちづくり』(学芸出版社)にコンパクトシティについて小論を書きました。幸いなことに、それが神戸市の震災復興本部(当時)の本荘雄一さんや都市計画局の中山久憲さんの目に留まり、コンパクトシティ研究会に参加させてもらい、『The Compact City』の翻訳・出版を実現することができました。この翻訳をめぐって、東北でコンパクトシティの考え方を広めておられる福島大学の鈴木浩教授らとの交流もできました。また、EUの文献収集の中で、建築家・都市ジャーナリストの岡部明子さんのご協力も得られ、議論の機会も持てました。

滋賀県立大学の水原渉教授、米子高専の片木克男教授らと日本建築学会都市計画委員会地域計画小委員会で、コンパクトシティの考えを論議できました。98年夏に、ドイツに行き、アーヘン工科大学のクルデス教授から、ドイツにおけるコンパクトシティの取り組みについて教えていただき、99年には同教授とユーリッヒ市のシュルツ助役に来日していただきました。お二人をゲストとして、彦根、広島、東京でシンポジュームを開催し、認識を深めることができました。この取り組みで、伊藤伸一\財()国土開発技術研究センター上席主任研究員、轟慎一滋賀県立大学助手、神吉紀世子和歌山大学講師、中村司オリエンタルコンサルタンツ大阪支社地域環境部長にお世話になりました。

また、建築学会の地方都市研究会では金沢大学の川上光彦教授他の皆さんと良い経験をすることができました。金沢の資料については、木谷弘司金沢市都市計画課主査(当時)から多大の協力を得ました。

それ以降、99年度の神戸市コンパクトシティ研究会に参加して、神戸のコンパクトシティのありかたについて、紙野桂人帝塚山大学教授、佐藤滋早稲田大学教授らとも、議論する機会がありました。また、2000年度には、地域振興整備公団上野都市開発事務所が三重県上野市の将来像をまとめる作業に参加し、コンパクト・エコ・シティというコンセプトによる都市づくりの提案を、国際開発コンサルタントの大森和仁さん、まちづくりホームプランナー事業組合の池田利通さんらと議論することができました。  2000年の8月には、『The Compact City』の3人の編著者、ジェンクス、ウイリアムス、バートンさんと、オックスフォード・ブルックス大学で、お会いしていろいろな話ができて、理解を深めることができました。このときに、バーミンガム大学に留学中の中林浩平安女学院短期大学教授、レディング大学に留学中の植野和文神戸商科大学助教授のお世話になりました。

この他にもたくさんの皆さんのご協力で、研究を進めてきましたが、改めて振り返ってみると、本当に良い出会いと幸運に恵まれて、本書をまとめることができたと実感しています。だれにも、街や村の原風景、原体験があると思いますが、私にとってはそれはふるさとの金沢です。親戚のおばさんから「わたしらは、もう年を取ってしまったし、昔のようになんでも歩いて用がたせるような街にしてもらわんと困る。そうなるように、しっかりがんばって」という励ましが、勉強を続けさせる後押しともなりました。

なお、コンパクトシティ研究の関連で、旧文部省科学研究費「高齢化に対応した環境重視の都市像・コンパクトシティ論の検討と提案―日韓独比較」(98~99年度)、同「地域共生型社会における持続可能な都市形態及び地域構造の研究―日本型コンパクトシティ・モデルの構築」(2000~2001年度)、同様のテーマで名城大学総合研究所特別推進研究費(2000~2001年度)の研究助成を得て研究を進めることができました。

さらに、本書の出版のチャンスを与えてくださり、かたくなりがちな表現を少しでも読みやすいように、いろいろと具体的にアドバイスをいただいた学芸出版社の前田裕資さんには、本当にお世話になりました。ありがとうございました。最後になりましたが、執筆の過程で家庭的な文句もあまり言わず、写真や図版の整理も手伝ってくれた妻の昭恵に感謝します。

2001年盛夏 海道清信

コンパクトシティとは、人口と物質消費の成長よりも生活の質の成長を重視する、成熟社会にあるべき「都市の縮小期の都市像」の考えである。本書では、ヨーロッパ諸国のサスティナブル(持続可能的)な都市の空間形態を参考に、これから人口縮小時代に突入する日本の都市像はどうあるべきかを、欧米諸国と日本の都市の現状を比較分析することによって展望する。イギリス、ドイツ、オランダ、アメリカなどの欧米諸国におけるコンパクトシティ形成の議論や政策に関する特徴・問題点をまとめる一方、わが国における都市の課題と問題点など、広範な領域を網羅している。膨大な数の事例と具体性を伴った分析において、類書のなかでも特に内容が充実している。

本書の中でとりわけ興味深いのは、欧米とわが国におけるコンパクトシティの狙いの違いである。欧米におけるコンパクトシティは主に環境問題に対処するために目的化されているが、一方で人口の減少や少子・高齢化への対応がわが国特有の問題意識となっていることである。著者は、日本の従来のインフラ整備主導で進められてきた都市計画を見直し、それぞれのまちや地域が持つ独自の価値をもう一度発見し、さらに地球環境問題への対応と自然環境の保全を考慮することで、画一的な都市の機能主義から脱却すべきだと主張している。

日本型コンパクトシティのあり方についての、最終章における著者独自のいくつかの提案も実に興味深い。これらの提案の根底にあるのは、市民主体のまちつくり、脱自動車、自然環境保全、ヒューマニズム、そしてポストモダニズムであろうか。
ちなみに、私はエネルギー・環境と経済の関係、特に環境政策に関して研究しているが、政府によるうえからの規制ではなく、市民主体で住み易いまちを造っていくにはどうしたらよいかという著者の一貫した視点は、非常に刺激的であった。また、一般市民にとっても、住み心地の良い生活・都市とはなにかについて新たな視点で考えさせられる絶好の一冊となろう

(京都大学経済学部大学院/ 大堀 秀一)

担当編集者から

コンパクトシティという言葉を聞いたとき、思い浮かべたのはイタリアの山岳都市のように小さくて、まとまりの良い小ぎれいなまちだった。実際、そのようなまちもコンパクトシティと言われることは多いのだが、一方では、東京のようにメガサイズで、高密度に集積した都市もコンパクトシティと言われることがあるそうだ。
ひとつの言葉でこんなにかけ離れた都市を指していて良いものだろうか。こんな状態で言葉だけが一人歩きをして行くのはろくな事にはならない。そんな思いから、多岐にわたる議論の整理と日本で考えるポイントを執筆下さるようにお願いしたところ、出てきた力作が本書である。

日本はどうしていくべきか、果敢に提案いただいたが、なお十分に深められていないと思われる読者もおられるだろうが、それは結局のところ読者諸子の実践にかかっている。

本書で指摘されているように、日本では政策の転換がなされているのか、いないのか分からないまま、従来型の施策とコンパクトシティを目指す施策が併存しているように見受けられる。政策の大転換が本物になるのかどうかは、ここ数年が勝負ではないか。本書が少しでも役立つことを願う。

『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2002.3

本誌の昨年11月号では郊外居住の問題を取り上げた。その中でも触れられていたが、都市への集中は一方で都市の郊外への拡大をともなっていた。欧米でも同様で、自動車利用を前提とした郊外への拡大は大きな環境問題、都市問題と認識されている。膨張する都市に対して、ヨーロッパの歴史的都市の形態をモデルに都市再生を図ろうというのがコンパクトシティの考え方である。

著者は生活の質を高めながら都市が持続していくためには都市の形態が重要とし、論文集「コンパクトシティ」の編著者オックスフォード大学のマイク・ジェンクス教授の主張を引用、持続可能な都市形態とは①都市形態のコンパクトさ、②混合用途と適切な街路の配置、③強力な交通ネットワーク、④環境コントロール、⑤水準の高い都市経営、であるという。コンパクトシティ像とはこういうものである。

本書の前半は最近の欧米の都市政策をこのコンパクトシティと関係付けて紹介している。サステイナブルな社会と都市をめざすEU、アーバンルネッサンスのイギリス、環境問題に積極的なドイツ、計画的国土利用のオランダ、ニューアーバニズムのアメリカ。後半では欧米における論争を紹介。低密度な郊外に対する人々の志向や、すでに拡大してしまった都市を変革する力はないというのがコンパクトシティに対する批判である。著者はコンパクトシティがすべての問題を解決するわけではないとしながらも、基本的な政策の方向はその推進に向かっているとして、日本でも青森・福井・神戸・金沢などの都市構想を例示している。

最後に、日本型コンパクトシティの原則を提案している。個々の提案は特に目新しいものではないが、コンパクトシティという概念でまとめ上げることの有効性が本書の主張であろう。

(K)

『地域開発』((財)地域開発センター) 2002.3

自動車利用を前提とした現在の都市空間に代わる新たな都市像として、特にEUを中心にコンパクトシティという概念が注目を集めている。

コンパクトシティが提起しているのは、都市の諸問題に対する現実的な取り組みの中で発見された、新たな都市空間の共通の原則である。実際のコンパクトシティ政策の目的や手法は、田園風景の保持を目的とする英国、市街地の活性を維持しようとするドイツ、スプロール整序を目指すアメリカなど多種多様であるが、いずれも単純な過去への回帰ではなく、都市の問題を克服する新しい都市空間を実現しようとするものである。

コンパクトシティの原則は日本においても例外ではないと著者は説く。本書はまだ日本では共通の理解が得られていないコンパクトシティに関して、欧米における論争や政策を紹介し、さらには日本の先進自治体の取り組みも交えながら、日本型のコンパクトシティに向けた10の原則と3つのモデルを提案している書である。

『人と国土21』((財)国土計画協会) 2001.11

「まちづくり」という言葉があちらこちらで使われるようになって久しい。それだけ住民が「まちづくり」に興味を持ち、参加しようというムードになっている証左なのだろうが、裏を返せばそれだけ現在の「まち」に問題があるということなのかもしれない。郊外型店舗の展開に伴う中心市街地の空洞化などは、さしずめ典型的な問題なのだろう。

「コンパクトシティ」は、もともとヨーロッパにおいて環境政策の中から出てきた概念であるが、現在では、その射程範囲は広く「まちづくり」のあり方までに及んでいる。本書は、「コンパクトシティ」を支える「持続可能性」の概念から、各国のコンパクトシティ政策の紹介、そして日本型コンパクトシティの提案まで、「コンパクトシティ」についての基本的事項をまとめたものである。

コンパクトシティへの賛否はともかく、「まちづくり」について議論する上での共通基盤として、本書は役立つであろう。

(井上靖朗)

『造景』(建築思潮研究所) No.34

現在東京で実施されようとしている「都心再生」を見て痛感するのは、明確な都市ビジョンのない段階で開発を行っても、結局、前世紀的な拡張志向を脱却できないということだ。

「開発」を「再生」と呼び換え、表面的には自然環境の回復や歩行者空間の復権など、近年の流行りを取り入れても土建屋的な再開発であることに変わりはない。その理由は、目指す都市像が近代都市を抜け出ていず、規制緩和によって都市計画制度をなし崩しに改定しながら、高密度都市を目指しているためである。

これに対し、ヨーロッパではEU統合が行われたせいもあり、前世紀末に徹底した都市像に関する討論が行われた。そこで生まれた概念が、持続可能な開発(サステイナブル・デベロップメント)である。

本書は、この概念を都市形態の面から「コンパクトシティ」ととらえ、欧米の都市計画を一括して紹介している。

サステイナビリティは、環境問題と社会問題を統合した概念である。都市計画の制度や手法が独立に存在するのではなく、環境や社会との関係においてとらえられ、失業やスラムなど、さまざまな都市問題を統合的に解決しようとする概念である。むしろコンパクトシティはその一部をなすものと理解すべきであろう。

『建設通信新聞』(日刊建設通信新聞社) 2001.10.22

コンパクトシティは、サステイナブル(持続可能)な都市の空間形態として提起された欧州の都市政策モデル、都市空間の概念である。これを日本の都市づくりの指針となるように、10の原則を提案する。

原則は①近隣生活圏で都市を再構築する②段階的な圏域で都市や地域を再構成する③交通計画と土地利用との結合を強める④多様な機能と価値をもつ都市のセンターゾーンを再生、持続させる―など。このほかに、都市の規模によって環境共生型(小都市)、多重多層型(中都市)、多芯(しん)連携型(大都市)の3モデルを提案している。

『新建築住宅特集』(㈱新建築社) 2001.10

コンパクトシティとは、「サステイナブルな都市の空間形態として提起されたEU諸国で推進されている都市政策モデルであり、都市空間の概念」と説明されている。1996年には英国のマイク・ジェンクス教授らによって同名の論集が、2000年にはさらに第2、第3論集が出版された。そして持続可能な都市形態の共通原則として、(1)都市形態のコンパクトさ、(2)混合用途と適切な街路の配置、(3)強力な交通ネットワーク、(4)環境のコントロール、(5)水準の高い都市経営、の5点を挙げる。本書では、英国、ドイツ、オランダ、アメリカの事例を紹介しつつ、より望ましい都市形態のひとつとして日本型コンパクトシティを模索している。

建築・都市・まちづくりの今がわかる
ウェブメディア「まち座」
建築・都市・まちづくりの今がわかるウェブメディア「まち座」
学芸出版社では正社員を募集しています
学芸出版社 正社員募集のお知らせ

関連記事

メディア掲載情報

公開され次第、お伝えします。

その他のお知らせ

公開され次第、お伝えします。

関連イベント

開催が決まり次第、お知らせします。