都市観光でまちづくり


凸版印刷株式会社・財団法人日本交通公社 編著

内容紹介

都市の魅力を発見して、観光でまちを元気に

名所旧跡めぐりから、都市の魅力そのものを体験する観光へ。人・自然・歴史が共生し、歩く楽しさに溢れ、その土地ならではの食と土産があるまちをつくろう。都市観光の魅力要素を整理し、都市の個性創出に結び付ける方策を示す。産官学の枠を超え、「住んでよし、訪ねてよし」のまちづくりに奮闘する各都市事例も多数掲載。

体 裁 A5変・232頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2319-0
発行日 2003-10-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめに書評

発行にあたって 白石真澄(東洋大学)

巻頭言 住んでよし、訪れてよしのまちづくり 木村尚三郎(静岡文化芸術大学)

第一章 まちづくりの新潮流 森下慶子(㈱ケーピー)

一・一 実行し始めた市民たちに
一・二 観光の心と技

第二章 魅力ある都市とは 梅川智也((財)日本交通公社)

二・一 世界の魅力都市
1 パリ―その魅力はファッション
2 ニューヨーク―ミュージカルの魅力
四二丁目再開発計画 タイムズスクエア再開発事業
ニューヨークの劇場街の保存と再開発
3 イタリア―個性豊かな中小都市の魅力
スローフード運動 イタリア生まれの人生哲学
二・二 都市観光の魅力要素
1 「見る」楽しみ
2 「買う」楽しみ
3 「食べる」楽しみ
4 「集う」楽しみ
5 「憩う」楽しみ
6 まちを「回遊する」楽しみと、人と「交流する」楽しみ

第三章 都市観光でまちづくり 本保芳明(日本郵政公社)

三・一 まちづくりにおける都市観光手法の必要性
1 都市観光手法を活かしたまちづくりとは
2 観光魅力のない都市はつまらない
3 都市観光を活かしたまちづくりの効果
三・二 都市観光でまちづくり
1 観光魅力の発見・再発見
2 アピール
3 人づくり・組織づくり
コラム ITを活用した都市観光の可能性 関谷浩史・鈴木祐介(凸版印刷㈱)

第四章 全国の都市観光に向けた取り組み 川口直木(㈱京都デザイン研究所)

そのまちならではの魅力を発見する
まちの魅力は住民視点だけではわからない
内からの取り組み、外からの評価
四・一 都市観光づくりの実践―内からの取り組み
函館市  知恵とパワーを結集した都市観光 笠井佳彦(函館市)
小樽市  「知恵」で育てる都市観光 東田朋巳(小樽市)
黒部市  まちづくりへの高い市民意識が都市観光を創る 川口直木(NPO法人黒部まちづくり協議会)
金沢市  歴史文化と自然にこだわる都市観光 糸屋吉廣(金沢市)
桑名市  出会い・交流―みんなで進める都市観光 石川雅己(桑名市)
松江市  松江都市観光の挑戦―楽しいまち歩き観光を目指して 古賀学(日本観光協会)
四・二 都市観光づくりへの視点―外からの評価
福島市  観光都市としてのデビューに向けて 鳥栖那智夫(日本都市総合研究所)
足利市  風情ある古都 今井晴彦(㈱サンプランナーズ)
栃木市  「観光都市」と「都市観光」の分岐点 南條道昌・矢作陽子(㈱都市計画設計研究所)
沼田市  決め手となる中心市街地再生 今井晴彦
松本市  豊かな資源と条件を活かした新しい都市観光づくりを 鳥栖那智夫
島田市  東海道宿場の賑わい復活を目指して 今井晴彦
彦根市  賑わい再生の都市整備 今井晴彦
北九州市  工業都市の大変貌 今井晴彦
大分市  都市観光でつながる市民の想い 上原邦雄・鈴木祐介(凸版印刷㈱)
資料 都市観光イメージ調査―会員アンケートより

第五章 都市観光に求められるもの―それはローカル性と普遍性―

対 談 石鍋裕(クイーン・アリス オーナーシェフ、「都市観光を創る会」代表幹事)
亀田良一(尾道市長、「都市観光を創る会」会員)
木村尚三郎(「都市観光を創る会」会長)
松橋功((社)日本旅行業協会会長、「都市観光を創る会」理事)
山出保(金沢市長、「都市観光を創る会」会員)
白石真澄(東洋大学助教授、「都市観光を創る会」代表幹事)
未来に向けて
都市観光でまちづくりとは 石井幸男(日本旅行業協会理事長)
都市と観光の時代 小澤一郎(都市基盤整備公団理事)

コラム 訪ねたいまち、住みたいまち、心のまち

古里:「智慧」こそは、二十一世紀の、「資源」である 大林宣彦(映画作家)
フィレンツェ:瞬間の感動を求めて 兼子勲(日本航空㈱会長)
アントワープ:住む人の心のゆとり 石鍋裕(クイーン・アリス オーナーシェフ)
シエナ:広場の形而上学 井尻千男(拓殖大学日本文化研究所長)
キューバ:新しい実家ができる旅 コシノジュンコ(デザイナー)
世界都市:わくわくさせる魔力 森稔(森ビル㈱代表取締役社長)
東京:ロンドンとの対比における日本の大都市 石月昭二(日本観光協会名誉顧問)
東京ディズニーリゾート:都市観光が地域を輝かせる 鶴田卓彦(日本経済新聞社相談役)
小布施:住めば都 セーラ・マリ・カミングス(桝一市村酒造場取締役)
札幌:みなぎる開拓者精神 松田昌士(東日本旅客鉄道㈱取締役会長)
小樽:知恵と魅力を活かして 山田勝麿(小樽市長)
ブラックプール:強かな街 吉田忠裕(YKK㈱)
金沢:豊かな風土と生活 溝口薫平(由布院玉の湯)
大阪:楽しませる庶民性 白石真澄(東洋大学助教授)
やっぱり湯布院:そぞろ歩きが楽しめる 松橋功(JTB取締役相談役)
古河:我が街古河 岡本重男(古河市観光協会会長)
東京:雑然さのなかのエネルギー 福澤武(三菱地所㈱取締役会長)
飛騨古川:人々の心意気 西村幸夫(東京大学教授)
掛川:心の街と触れ合う 福井照(衆議院議員)
ウィーン、エクス・アン・プロヴァンス、パリ:私の三都物語 木村尚三郎(静岡文化芸術大学学長)
大分:ホスピタリティと観光 木下敬之助(前大分市長)

*執筆者の所属等は、初版発行時のものである

都市観光を創る会

都市観光を活用した、活力あるまちづくりを推進することを目的に、国土交通省の支援を受け平成11年に設立された団体。

「都市観光を創る会」のメンバーは、旅行業、飲食・宿泊業など観光事業者だけではなく、その他の企業人、自治体関係者、芸術家、マスコミ、学者など、その顔ぶれは多様である。会員数一六五名で一九九九年七月にスタートして以来、会のメンバーは全国各地を訪れ、都市観光調査、イベント、食のコンテスト、街歩きマップの顕彰など、さまざまな活動を行ってきた。こうした活動を通じ、訪れた地域の人々と直に語らうことで、地域の歴史や文化に触れ、人々の息吹とエネルギーを肌に感じ、都市観光について多くのことを学ばせていただいた。

ここに、これまでの三年間の活動の成果をとりまとめ、『都市観光でまちづくり』を刊行する運びとなった。ぜひ、多くの方々にご一読をいただき、都市観光についての議論が沸き起こり、よりいっそう魅力あるまちづくりが全国で進むことを期待したい。また、ぜひ、本書の内容についてのご批判もいただきたい。

もともと「都市観光を創る会」の発足は、旧運輸省が主管してきた「観光」と、旧建設省が担ってきた「まちづくり」について、縦割りを廃し、同じ土俵で考えていくことを目的とするものであった。「これまで『観光都市』と呼ばれた数々の都市のように、単に名所旧跡があるというだけではなく、美しい自然環境や景観、その土地固有の文化が存在し、また、おいしい食べ物と人情と人々の生活の知恵もあり、訪れる人を魅了する都市をつくるには、観光客である第三者の目を意識したまちづくりからスタートさせなければならない」という考え方が発端であった。

木村尚三郎(「都市観光を創る会」会長、静岡文化芸術大学学長)氏も、巻頭言で触れているように、「都市観光を進めることはすなわち、まちづくりを進めること」である。『安心』、『歩く楽しさ』、『食とみやげ』の三つのある都市は、観光客にとって魅力ある都市になるだけではなく、地元の人々にとって、生きる自信と誇りを与えるという。つまり、都市観光を成功させる秘訣は、「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」を実践することにほかならない。「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」を実践するには、行政だけではなく、民間事業者や住民、NPOが参画し、ともに観光を考えていくことが求められる。このような問題意識から、本書は立場を異にする多くの方々に執筆いただいている。

第一章では、「まちづくりの新潮流」と題し、都市観光の時代が訪れたことを紹介した。第二章の「魅力ある都市とは」においては、国内外の都市の魅力の解剖を行い、続く第三章「都市観光でまちづくり」では、都市観光を具体的に進めるための方策を取り上げた。第四章「全国の都市観光に向けた取り組み」では、各地域で進んでいる都市観光の取り組み事例で、他の地域にも応用可能なものをできるかぎり具体的に掲載した。

また、各界で活躍する会のメンバーには「訪ねたいまち、住みたいまち、心のまち」と題するコラムを執筆いただいた。国内外の都市についての各人各様の印象をお楽しみいただきたい。

さらに、「都市観光に求められるもの」と題して、観光に日頃からかかわる方による座談会を開催し、その内容も掲載した。

観光調査をはじめ、会の活動にご協力をいただいた各地のご関係者、編集委員会の運営、執筆といったかたちで、本書の作成・出版に際して多大な尽力をいただいた凸版印刷㈱、(財)日本交通公社の諸氏の労に感謝を申し上げたい。

学芸出版社編集部の前田裕資・永井美保の両氏にも深く謝意を表したい。

以 上

東洋大学助教授 白石真澄

『地域開発』((財)日本地域開発センター)2004. 7

都市観光を進めるには都市に魅力が存在しなくてはならず、かつ、それは住む人、訪れる人の両者をひきつけるものである必要がある。そのようなまちづくりを本書では「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」という言葉で表現し、メインテーマとしている。

本書は、旅行業、飲食・宿泊業といった観光事業者、企業人、自治体関係者、芸術家、マスコミ、学者など多様な顔ぶれから構成される「都市観光を創る会」の3年間の活動をまとめたものである。まちづくりにおける都市観光の重要性を説き(第1章)、都市の魅力というものを分析した上で(第2章)、都市観光を進めるための方策と国内の具体的事例を紹介し(第3、4章)、都市観光の展望が議論されている(第5章)。

都市観光方策の理論的考察とともに豊富な事例が紹介されているため理解しやすく、また、実務的にも参考になろう。様々な分野の著名人による「訪ねたいまち、住みたいまち、心のまち」と題したコラムも面白い。

『都市問題』((財)東京市政調査会) 2004. 2

2003年1月、観光政策のあり方を検討する観光立国懇談会が開催され、訪日観光客数を倍増させることなどを目標とした報告書がまとめられた。ようやく、わが国も観光の推進に取り組むようになったといえよう。

とはいえ、行政・民間ともに、観光の重要性を深く理解している向きは少ないのではないだろうか。一部の都市を除けば、観光は政策の立案において軽く扱われてきた。それは、観光とはあくまで「客寄せ」であるという意識のせいであろう。

そのように考えている人が本書を手にすれば、意外な感じを受けるに違いない。これまでまったく別の分野と考えてきた「観光」と「まちづくり」が並んでタイトルになっているからである。しかし一読すれば、両者に深い関係があることが分かる。文中、「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」という言葉が出てくるが、まさに本書の精神を表している。

構成は、以下の通りである。まず第一章「まちづくりの新潮流」で総論が述べられ、第二章の「魅力ある都市とは」で都市観光の魅力について触れられている。続く第三章「都市観光でまちづくり」では、まちづくりにおいて都市観光手法をどう活かしていくかが検討されている。そして第四章「全国の都市観光に向けた取り組み」では、金沢市や松本市のような誰もが思い浮かべる観光地から、福島市や北九州市といった従来は観光と無縁と考えられてきたところまで、多くの実例が紹介されている。最後に第五章として、有名料理人や市長らによる対談が収録されている。また、随所に設けられたコラムによって、読みやすいように配慮されている。
本書から学べることは数多いが、やはり「観光を重視することは、これからのまちづくりの基礎である」という主張に尽きるだろう。日本ではいまだに、「観光に力を入れることは住民軽視だ」とか「観光政策は有名都市が行うものだ」などという理解が少なくない。しかし本書を読めば、それらが誤解であることが分かる。都市の魅力を高めることは、なによりそこで生活している人にとって大切なのである。その魅力が外部の人に伝わり、観光客として訪れるようになるのだ。

このように考えると、観光政策が一部の都市に限られるものではないことも分かるだろう。都市観光はすべてのまちづくりに共通する土台なのである。繰り返しになるが、「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」こそ今後の都市政策の重要課題なのであり、観光を重視した政策はそのためのツールといえる。観光に携わる人はもちろんのこと、まちづくりの未来に関心ある人全員に、本書を読むことをおすすめしたい。

(Mo)

『民家』(日本民家再生リサイクル協会) 2004. 1

この本は、木村尚三郎氏を会長とする「都市観光を創る会」のメンバーを中心とした委員による編集である。この会は、これからの「観光」と「まちづくり」を同じ土俵のなかで考えていこうと、旅行や宿泊などの観光事業関係者のみでなく多種多様な人々が1999年から全国各地を訪れ、調査や実践的活動を行ってきた。

単に名所や名物を求めてまわる物見遊山的観光より、その都市や地域の食や文化、生活と触れるような観光こそがずっと奧の深い魅力的なものになり得る。訪れる人々を魅了するような町づくりは、その土地の生活自体が魅力的でなければならない。それは、全国で深刻化している地方都市の衰退化をどうするかという課題とおおいに関係している。つまり、「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」における人々の交流の活性化により、日本の経済や社会が新しい方向を見出せるかもしれないという視点を示している。

この本では、この会の三年間の成果として、日本や世界の都市の魅力の解剖、まちづくりの方策の提案、全国各地で繰り広げられているまちづくりの取り組み事例を収録している。

(荻野邦彦)

『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2003. 12

最近は、まちづくりが「観光」という起爆剤によって元気付くケースが目立っている。それも、これまでのような意味の観光ではなく、新しい価値観によるものが芽生えてきている。

たとえば、私も参加の経験がある滋賀県長浜市。そこでは古い街並みと、それを生かす日常の建築美と振る舞いが人を引きつけていた。人が通らないシャッター通りに灯がともったのである。

新建の建まちセミナーが行われた飛騨古川も、町並みが宝となり人々を山奥まで引きつけている。

もう一方では、山奥の温泉街の小さな商店街でありながら、小さな宝を大事にしている鳥取県の三朝温泉商店街がある。ここでは、小さな商店の中に商売や人間のルーツを展示しているミニ美術館が店の中に生み出されていた。訪れる人々の心の中に明かりを灯す活動である。

全国にその名をとどろかせた大分県の由布院。センスのある上質のしつらいに、訪れた人々が圧倒された。その価値観が観光の起点となっているのである。

「由布院雑記/暖炉の火を眺めながら、ベートーベンを聴く。椅子はハンス・ウェグナーをはじめとするデンマークのデザイン。床は煉瓦敷き、色濃く塗られた柱や梁は、日本の民家の古材が使われている。しかし民芸調に陥ってはいない。
昨晩の酔いがほのかに残った身体を、とても優しい朝のひとときが包んでくれた。
由布院の、「亀の井別荘」「玉ノ湯」は饒舌であった。
その名とたたずまいを全国に発信し、様々な企画を打ってきた由布院。
世界に発信できる、日本の感性のひとつがそこにはあった。」

このような意味で、観光がどのような広がりをもっているのか。その可能性を本著では掘り下げている。さまざまな人々のコラムも大変興味深い。

(ま)

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