町屋と人形さまの町おこし


吉川美貴 著

内容紹介

新潟県村上市の活性化が成功したのはなぜか

新潟県村上市、人口3万人の城下町。その廃れかけた商店街で一人の男が、立ち上がった。たったひとりではじめた町おこしは、やがて「町屋の人形さま巡り」「町屋の屏風まつり」として市民を巻き込み、全国から大勢の観光客を集めるムーブメントに成長した。本書は、捨て身の覚悟で町の活性化に挑戦する男の感動の記録である。

体 裁 四六・208頁・定価 本体1600円+税
ISBN 978-4-7615-1191-3
発行日 2004-07-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめにおわりに読者レビュー書評

第1章 一人ではじめた町おこし

城下町村上のマップ誕生
村上町屋商人会結成
署名活動事件で四面楚歌
町屋に光を、町屋をスターに

第2章 「町屋の人形さま巡り」大反響!

「町屋の人形さま巡り」開幕
吉川は普通の若者
ミニ美術館「旅籠門」オープン
地域活性化大賞ベストオブベスト賞受賞へ
陰での苦闘

第3章 町が動き出した

第二回人形さま巡りでの変化
行政との関係
「十輪寺えんま堂の骨董市」の開催
「町屋の屏風まつり」誕生
町に起こってきた様々な動き
催し成功のポイント
ウズベキスタンの人形さま登場で国際交流へ
SL「村上ひな街道号」走る
第二、第三の男の登場

第4章 町おこしの秘訣

初回が肝心
二つの壁を突破せよ
はかり事をするに密をもってすべし
三つのリスクを引き受ける
メンバーを活かす組織づくり
信念と実行

村上の佇まい

第5章 次のステップへ

黒塀プロジェクトと「宵の竹灯籠まつり」はじまる
BSNドキュメント賞受賞とテレビ番組化
町が元気でなければならない理由
市民としての意識の芽生え
多要素をさらに伸ばそう
今後の課題
村上における歴史的布石
町屋の外観再生プロジェクト始動

人形さま巡りボランティアの様子と生徒の感想文から

おわりにかえて

町屋を支える人たち

年 表

吉川 美貴(きっかわ みき)

1966年生まれ。大阪教育大学教育学部卒業後、㈱神戸製鋼所人事部、こうべケーブルテレビ㈱勤務を経て、結婚後、1998年より夫とともに、本業の傍ら町おこし活動をはじめる。
味匠っ川(伝統鮭製品製造加工販売業)取締役
新潟放送番組審議会委員
2003年 BSN開局50周年記念ドキュメント賞正賞受賞
〃  婦人画報第4回「私の茶遊び」大賞グランプリ受賞
〃  村上市褒章受賞

気づけば、新潟県村上市を舞台にいつの間にか一人歩きし、催しそのものが、多くの市民と観光客を取り込み、自己増殖しだした感のある「町屋の人形さま巡り」と「町屋の屏風まつり」。

長い長い村上の歴史の中で、機が熟し、多くの先人たちが築き上げた土台の上に、「なにものか」の力がはたらき、一人の男「吉川」が、ある方向に動き出しました。思うに最初の出だしは吉川の足元である非常に小さなところからであり、その動機は至極明瞭で、純粋な心意気に根差すものでした。誰もが描く理想の町の姿を夢見るだけでなく、また余計な心配で行動することそのものを断念するようなこともなく、小さな実際の行動を積み重ねることに、吉川は秀でておりました。その行動の蓄積は、驚くほどの短期において、本人にさえある種の感慨に浸らせる実りをもたらし、村上の町中に衝撃をもたらしました。吉川が渦の中心となり、町の長老達は陰に日なたに見守り支え、その周りに心ある賛同者が少しずつ増え、それぞれの持ち場を主体的に得て、次第に大きなまちづくりのムーブメントに成長してきました。

それが、全国から大勢の人が来る一大イベントとなった「町屋の人形さま巡り」や「町屋の屏風まつり」であります。いまや、催しそのものが自らの意思を持つように、内部の質的変化を伴いながら、それに関わる人々に大きな気づきと喜びをもたらし、時代の要請を具現化する方向へと動いています。

一人の人間が一生の間に思いもよらない様々のドラマを体験するように、この村上で起こった町おこしも、これから風雨にさらされることでしょう。今後この村上で起こったムーブメントがどう変貌を遂げるか、先の先までは誰も推し量ることはできませんが、地域市民にとっては実際に自分たちが体験した、この一連の町おこしの起こりと流れを今一度振り返ることで、改めて今求めている多くの問題の解決法、もしくは改善のヒントを見出すことができるでしょう。また、この催しに直接関わらなかった人たちも、村上でのドラマをお知りになれば、自らの夢を具現化する際のヒントとなり得るものを、文中に感じていただけるのではないかと思います。

天の意志に背く類のものでない限り、小さな行動の積み重ねがかくも広がりをみせ、思わぬ程の多くの理解と協力を得て大きく展開するものかと、一番驚き、そして感動したのは、他でもない私自身です。この感動のひとかけらでも読者の皆様に共有していただけるならば、本当にしあわせです。

村上である一人の男、吉川が起こし、自然発生的に大きく広がり育ちだしたある現象。これを全くの最初の起こりから一部始終を見てきたのは、この男本人以外には私一人でありました。非常に初期の段階から想像を超える反響があり、その周囲の反応も変化も、また吉川のその時々の細かな対応についても、そして北から南まで津々浦々を歩き通して全国の市町村の取り組みを見学し続けたその傍らにも、ほとんどと言っていいほど私は居合わせていました。そしてある時、そんな我が身を客観的に振り返った私は、自分が密着取材をしている記者同様であることに気づいたのです。

私がこの本を書いたのも、社会学的な考察は全くお粗末ながらも、記録しておくに値する感動的な人間ドラマだと初期の段階から感じてきたからでした。同時にあるものを活かし、心からのもてなしで活性化を成した村上の事例は地域に根付く有形・無形の力の総体であり、多くの示唆に富む全国に誇れる実例との思いも手伝ってのことでした。

これはきっかけさえ得れば、どこの地でも類似の現象を起こす可能性の大きなストーリーであり、元はと言えば私たちも他の地からヒントをもらってきたことで、今後この本をささやかなきっかけに地域から力強く発信する所が新たに出てくることを期待したいと思います。話の展開の中で非常に細かな記述にまでこだわったのも、この細部にこそ話の流れを発展させていく要因があり、それこそがドキュメントの醍醐味とも言える部分ではなかろうかという考えに立脚したことによります。
ちょうどこの原稿を書き終える頃、一連の村上のまちづくりが総務省の平成15年度地域づくり総務大臣表彰を受けるという嬉しいニュースが飛び込んできました。まさに村上の平成に始まったまちづくりの第1章を、このような喜ばしい知らせと共に、区切りの良い形で本にできることに大きな喜びを感じ、改めて今までの展開に感動を覚えずにはおれません。

読者の皆様におかれましては、吉川の実にコロンブスの卵的な発想と、それを次々に行動に移していく、何者をも疑わないその朴訥ともとれる率直でひたむきな姿勢を行間に感じていただき、一人でも多くの方がご自身の夢を今日から具体的にどう叶えていくかを考え、フットワーク軽く行動される契機となれば幸いです。一人一人が夢を叶える力を思い出す、もしくは取り戻す、それこそが一番の地域の活性化、ひいては社会全体の活性化の原点になると信じています。

振り返ってみれば、本当に感動の連続の日々でした。文中でご尽力くださった一人一人の名前とその功績をすべて表現することができなかったのはもどかしい限りですが、力を出し合うことがここまでの展開になることを見せて、大きな大きな感動を与えてくださった村上市民の皆さん、夢を運んでくださったお客さん、瀧波重平さんをはじめとする陰に日向に日々奔走してくださっている村上町屋商人会の皆さん、並々ならぬご努力で催しを支えてくださっている参加各店のご家族の皆さん、安沢孝雄さん、新潟大学助教授の岡崎篤行先生はじめ学生の皆さん、壁にぶつかるたびに相談に乗ってくださり解決策を示してくださった綱島信一先生、心から感謝を申し上げます。そして何より、「最後の最後は責任の引き受け所になってやるから信じて進め」とドンと構えて後方支援に徹し、経済的基盤を支えてくれながら、ここまで自由に活動させてくれた吉川の両親には何と御礼を申し上げたらいいことでしょう。そして改めて村上の近代化に警鐘を鳴らしてくれた恩人である五十嵐大祐さんに心より感謝申し上げます。

この本の出版に当たっては、東京大学大学院工学系研究科教授の西村幸夫先生にもお力添えを賜り大変お世話になりました。本書を快く出版に結び付てくださった学芸出版社の京極迪宏社長と的確なるアドバイスをくださった編集の前田裕資取締役、優しく励ましながら細やかにご指示くださった越智和子さん、中木保代さんにも厚く御礼を申し上げます。皆々様に心からの敬意を表したいと存じます。

最後に我が夫、吉川には、一番の身近で人生の楽しさ素晴らしさを実感させてくれたことに対し厚く御礼申し上げ、また執筆中、私のお腹の中で不規則でハードな生活に耐え、無事に生まれてくれた長女利嘉にも一言御礼申し上げます。

この本を書いている間中、その澱みなく出てくる村上での様々な事柄や思いに、いかに私がこのムーブメントに魅了されていたかを知る結果となったことを申し上げ、結びと致します。

吉川美貴
2004(平成16)年6月吉日

町おこしにハウ・ツーはない。
「吉川」という男には、時代に流されない本物を見抜く力は確かに卓越したものがあった。しかしこれだけの賛同者を呼び、成功させたのは、このままでは町が廃れてしまうという危機感を背にした情熱に他ならない。誠実さ、無欲さはいつの世も人の心を動かす。そして歴史を塗り替える。

「まずお茶でも飲んでいけっしゃ」

評者が地元紙村上支局に異動したのが、平成12年秋だった。
町屋巡りが浸透し始め、第1回城下町村上町屋の人形さま巡りが成功を収めた頃。町屋商人会の店ではどこでも、このように声をかけてくれた。黒光りした梁に箱階段、囲炉裏や調度品。実際に現在でも使われている品々であり、そこに住む人の生活感が伝わり、たまらなく面白い。しかし、なによりの「旅のごちそう」は、村上弁での心温まるもてなしだ。いずれも大観光地では味わえない醍醐味。私自身、すっかり村上にハマってしまった。

一連の活動がもたらした一番の功績は、村上人特有のもてなし心を呼び覚ましたことだろう。

町おこしにおいて、無い物ねだりをせず、足元を見つめ直そうと言われて久しい。地方においてそれは歴史的建造物や伝統芸能、手付かずの自然などだろう。成否の分岐点はそこに「心」があるかどうかにある。

「吉川」の己が信じた道を突き進む姿は圧巻だ。
私が村上に赴任していた2年余の間に、人形さま巡りを核にしつつ、「黒塀プロジェクト」「十輪寺えんま堂の骨董市」「竹灯籠まつり」「SL運行」を始動させた。
予算がない中での実行。新しい事業をやる時、とりわけ地域の結びつきが強い社会においては、周囲に理解されないこともある。町おこしに目覚めた「吉川」のこれまでは、孤独との戦いでもあっただろう。しかしすべてで結果を残し、その度に協力者の輪を村上の内外に広げている。
村上の人々の努力が次々に結実していく様(さま)に私が感じた興奮を、読者もきっと共有できるだろう。
村上町屋は埃をかぶった宝石。その埃を取り払い、町並みに磨きをかけ、次世代に残そうとする「吉川」最大の目的からすれば、まだ道半ば。挑戦は続く。
「急がば回れ」。本書では、気をてらわない、地に足をつけた活動にこそ成功の道が開けることを痛感する。住む人の息遣いを感じる観光地へ向け、村上は確実に歩みを進めている。

最後に。本書は「ラブレター」でもある。陰になり日向になり、「吉川」を支え続けた著者の深い愛情を行間から感じずにはいられなかった。

(新潟日報社整理部/山本 司)

担当編集者から

いまだ訪れたことのない、みも知らない北陸の町村上。
そこでは、町を思うたったひとりの男が立ち上がったことによって、保守的とされる城下町の人々が巻き込まれ、どえらいことが起こっていました。
「町屋の人形さま巡り」「町屋の屏風まつり」というそれぞれ10万人超の人を集めるという新しいおまつりの誕生、はじめての骨董市や燈籠まつりの開催、他にも、市民による黒塀づくり、外観再生プロジェクトの始動等々……と、とても3万人の町とは思えないパワーで、この5年の間に続々といろんなことが打出されていました。
次々と町に起こる楽しいこと、町に戻ってきた賑わいに、子どもが、お年寄りが、大人が喜び、私も何かできるんじゃないかと参加の輪は広がり……。

この村上市活性化の仕掛け人吉川真嗣さんの奥さんである美貴さんの筆は、まちづくりも、村上も、まるで知らない読者まで一気に読ませ、吉川さんの驚くべき行動力と村上に起こった素敵な出来事に、まるで自分のことのようにワクワクし、拍手を贈らせる力を持っています。
吉川さんという男を輩出したまちと、彼に積極的に巻き込まれていった市民の感動的な記録―あれよあれよという町おこし成功の物語は、誰をも魅了し、わが町を愁う多くの人に勇気を与えることと思います。

(O)

『民家』(日本民家再生リサイクル協会)2005. 3

新潟県最北部の城下町、村上市。鮭製品を扱う地元商店の一青年、吉川真嗣氏(現在「村上町屋商人会」会長)が一人から始め、やがて賛同者が集まり、大きなまちづくりに発展していった記録を、ともに歩んできた吉川夫人が詳細に記述している。

話は、昔ながらの町屋のすばらしさに気づくことから始まる。その町家の内部を公開し、「町屋の人形さま巡り」のイベントを企画することにより、元気を失っていた商店街に観光客を呼び寄せ、活性化を進めていった経過が感動的に語られる。そこからは、まちづくりを成功させる秘訣や教訓、運動の原則を読み取ることができる。

「思いついたら自ら行動をおこさなくてはならない」と吉川氏は言っている。
吉川氏自身、全国を巡り歩いて先進事例から多くを学び、活動に生かしてきた。本書に盛り込まれた内容は、これからまちづくりに取り組もうという人たちにとって貴重な先進事例であろう。

村上市のまちづくりは2003年度に地域づくり総務大臣表彰を受け、吉川氏は昨年、国土交通省の「観光カリスマ」に選ばれている。

(松本 薫)

『地方自治職員研修』(公職研)2004. 9

40年前の計画のままにわがまちが破壊されようとしている―。それまで地域に関する活動をするどころか、さして愛着を感じてはいなかった一人の若者が、人との出会いに感銘し、各地を回ってヒントを得て「町屋の人形巡り」という仕掛けをつくり、村上のまちづくりの芽を生み出す。官に頼らず、わずか35万円で仕掛けたイベントが、どのようにして地域やそこに住む人々を活気づけていったのか。次々とまちづくりの装置をつくり続けた仕掛け人の妻が、その様子を一つ一つ伝える一冊。

『新建築住宅特集』((株)新建築社)2004. 9

新潟県村上市は人口3万人の城下町。その商店街は、全国の中心市街地と同様にすたれかけていたという。本書は、商店主であり著者の夫である吉川真嗣氏が、ひとりで町おこしをはじめ、きわめて短期間に大きなムーブメントへと発展させた経緯を描いている。吉川氏は1998年に旧町人町一帯を描いたマップを作成したのを皮切りに、村上町屋商人会を結成して古い町屋の造りを観光客に見学させ、各家の茶の間に雛人形を飾り、客に見てもらう「町屋の人形さま巡り」を実施、と実に精力的に動き回る。やや大仰な成功物語が鼻につく感もあるが、きわめて具体的にさまざまな活動の成否が記されており、町おこしを行う際の参考になるだろう。

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