ユニバーサルサイン
内容紹介
分かりやすい誘導のためには、一つのサインだけが問題なのではなく、人間を取り巻く環境をどのように構成し、そこにどのようなサービスシステムを連動させるのかが重要だ。それこそがユニバーサルサインの基本である。その考え方と、実践のためのガイドライン、病院などの個別施設からニュータウンや市街地まで12事例を示す。
体 裁 B5変・144頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3175-1
発行日 2009/05/30
装 丁 上野 かおる
グラビア
1 イメージするサイン
2 記憶に残るサイン
3 建築と一体化したサイン
4 色で伝えるサイン
5 五感を活用するサイン
第1章 ユニバーサルサインの視点
1・1 これまでのサイン計画
サインとは/サインの種類/多様な利用者のサイン環境
1・2 ユニバーサルデザインとユニバーサルサイン
ユニバーサルデザインとは/ユニバーサルサインとは
1・3 ユニバーサルサイン実現の課題
付け足しのサイン計画/複雑な動線に対する限界/サインの氾濫と埋没/視覚に偏ったサイン
1・4 ユニバーサルサインのプロセスと管理
1・5 多様な利用者への配慮
利用者の実際のサインとの関わり/デザインフォーオール /高齢者/視覚障害者/聴覚障害者/肢体不自由者/知的障害者/子ども/外国人
1・6 多様な場面への配慮
夜間のサイン/仮設サイン/安全サイン/緊急時サイン
第2章 ユニバーサルサインガイドライン
2・1 ユニバーサルサインの計画プロセス
環境・空間を知るプロセス/人を知るプロセス
2・2 サイン計画の基礎的技術
サインの「あるべきところ」/目的地を明確化する/主要通路を明確化する/多言語表記のあり方/わかりやすくする表記/言葉を超えるピクトグラムを活用する/矢印で方向性を明快に示す/わかりやすくする色の組み合わせ/わかりやすくするレイアウト/表示内容や伝達をわかりやすくする工夫
2・3 イメージを喚起するサイン
イメージから連想される「直感」を生かす/場所特性を考えたネーミング/全体を考えたネーミング/個性を考えたネーミング/表現のしやすさを考えたネーミング/覚えやすさ、親しみやすさを考えたネーミング/将来の変化も考えたネーミング
2・4 記憶に残るサイン
記憶を活用する/長期記憶を喚起する環境デザイン/短期記憶を喚起するサインシステム/記憶に残りやすい“差異”/空間と連動した数字によるコーディング/空間と連動した色彩システム/ランドマーク
2・5 建築化サイン
環境や建築と一体的にサインを計画する/サインレス空間の試み/床・壁・天井・柱等を活用したサイン
2・6 五感を活用するサイン
2・7 視覚を活用するサイン
見やすさを高める工夫/色や光を活用する色彩・光環境/色の意味をルールとして生かす/安全を確保する色/らしさを演出する色/親しみやすくする色/「直感」で知らせる工夫/心地よい色の使い方/光環境の中で考える
2・8 聴覚・嗅覚を活用するサイン
聴覚を活用するサイン/装置による音サイン/音の質と量を考慮した音声案内/音を信号として活用する/場に合った環境音楽で親しみのある区別/反響音を活用したサイン/嗅覚を活用したサイン
2・9 触覚を活用するサイン
触覚を活用するサイン/指の触覚でわかる点字表記/壁面を活用した触覚サイン/床面を活用した触覚サイン
2・10ソフトとハードの連携サイン
ハードとソフトの連携を図る情報提供/現場のサインと手元のサインの連携/種々のマップを効果的に活用
2・11新技術・材料を活用する
新技術・材料の開発とサイン計画/技術や材料の試行例から見るポイント/新技術・材料を活用するポイント
2・12情報メンテナンス
変化に対応するメンテナンス/耐久性と維持管理費を考慮したメンテナンス/サインに注ぐ見守りの心
第3章 ユニバーサルサインの取組み事例
3・1 神戸博ポートピア ’81 - 基準とテーマによる会場サイン
プロジェクトの概要/全体と個の一体的計画調整/基準によるガイドライン/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・2 西神ニュータウン - 色彩とシンボルによる景観サイン
プロジェクトの概要/全体と個の一体的計画調整/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・3 東京都江東区南砂 - 色彩と音による地域サイン
プロジェクトの概要/サイン機能の範囲の明確化/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・4 静岡県熱海市 - 光と色彩を用いた参加の観光サイン
プロジェクトの概要/らしさを演出するサイン/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・5 熊本県山鹿市平小城地区 - 住民参加の地場産素材を生かした地域サイン
プロジェクトの概要/サイン整備プロジェクトへの経緯/ユニバーサルデザインの視点による地域サインの検討/サイン整備のプロセス/成果と今後の展望
3・6 神戸しあわせの村 - 音と触覚、数字と色彩を用いた公園サイン
プロジェクトの概要/多様な利用者に対応した計画/デザインのポイント/スリム型誘導ブロックの導入
3・7 静岡県立総合病院 - 緊急時につながる五感を用いた分岐点サイン
プロジェクトの概要/サイン計画の導入プロセス/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・8 神戸空港 - 視認性と空間イメージを考慮した誘導サイン
プロジェクトの概要/ユニバーサルサイン改修整備の取組み/ユニバーサルサイン計画の考え方/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・9 倉敷駅前 - 視認性と景観イメージを重視した観光サイン
プロジェクトの概要/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・10国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)- グラフィックデザインと五感を活用した建築化サイン
プロジェクトの概要/設計計画の視点/モックアップによる検証プロセス/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・11ダイヤモンドシティ - モックアップによる色彩と形態を活用したサイン
プロジェクトの概要/既存店での施設利用満足度調査/ダイヤモンドシティ・リーファでのユニバーサルデザイン化の取り組み概要/デザインのポイント/成果と今後の展望
3・12イオンレイクタウン - 空間構成と五感を活用した建築化サイン
プロジェクトの概要/ユニバーサルデザイン化への取組み概要/デザインのポイント
索引
参考文献
私たちの生活環境の中には、いろんなサインが見られます。看板・広告といった類のサインだけでなく、道路標識や歩行者案内サインなどの公共的なサインまで多種多様なものがあります。
基本的には何らかの情報を伝えるという目的があり、その情報で生活環境の安全性・健康性・利便性・快適性などの諸要素が満たされることが期待されます。しかし、実際にはサインそのものだけで解決できる問題ばかりではありません。
例えば、移動環境に関する問題では、不十分な「アクセシビリティ」が原因のひとつになっていることがあります。そこでは移動障害とともに情報障害の問題も大きいといえます。身体状況の差異とともに、外国人など、言葉の理解が困難な状況を考慮する必要があります。
高齢化や国際化など社会環境の変化とともに、これからより一層いろんな人が安全快適に生活できる配慮が求められます。ちょっとした配慮や気配りで、ずいぶんと多くの人の生活で役立つことがあります。身近な生活の道具や空間での配慮を積極的に進めることが期待されるわけです。そこですべての場面でのユニバーサルデザイン的な発想が重要になってくると思います。
では、どのような工夫をすれば、特定の利用者の要求だけではなく、より多くの、できればすべての人にやさしいデザインが実現できるか。寸法や形といった物理的環境の改善に関するものだけでなく、素材や色の微妙な取り合いや配慮や工夫によっても実現できることも多くあります。
とりわけ、移動障害だけではなく、情報障害の問題解決ということでは、サイン計画が大きな役割を果たしています。サイン計画では、単に一つのサインをどのように設置するかという問題ではなく、人間を取り巻く環境をどのように構成し、その中にどのようなサービスシステムを連動させるかという環境デザインのテーマにつながります。ここにおいて、サインというよりはサイン環境としてのデザインのあり方が重要なテーマになります。
本書は既刊の『サイン環境のユニバーサルデザイン』を受けて、多様な利用者の要求と評価など、これまでの研究成果や考え方を踏まえて、筆者による実践事例として実施してきた「ユニバーサルサイン」の試みと考え方を紹介するものです。さらに五感やユビキタス技術を活用したサインデザインの考え方など、国内外の事例の紹介などを含めて、今後のユニバーサルサイン実践の基本事項をガイドラインとして提示するものです。広く設計者や研究者、行政関係者はもとより、この分野を学ぼうとする人たちへの基礎的専門書として活用されればさいわいです。
2009年5月
田中直人
サインの有用性やユニバーサルデザインの意義については誰もが認めるところです。また、これに関する多くの研究や著述も多くみられるようになってきました。しかしながら実際のサインデザインをユニバーサルデザインの視点から実現・実践する試みはまだその緒に就いたばかりといえます。多くの研究調査の成果を完全にひとつの具体的な形にするというデザインにはまだ課題があるといえます。しかしながら一方で、従来のサインの枠や発想を超えて、新たなサインとしての可能性を導き出す環境デザインをめざしていくべきであると思います。
本書では筆者がこれまで多くの関係者とともに取り組んできたユニバーサルデザインに関する研究成果や基本的な考え方を実現しようとして試みた実践事例の成果に立って、「ユニバーサルサイン」として展開するための手がかりや方法を提示し、紹介しました。
しかし、必ずしも選択し、提示した事例等が最適であるということではなく、スパイラルアップの言葉通り、今後も多くの方からご意見をいただき、理論から実践、試行とフィードバックされ、改善していければと考えています。
最後に、本書で紹介した多くの事例におけるデザインの試みの紹介には、多くの方々との協働から、ご教示いただいたこととご協力によるものが大きく、ここに厚くお礼を申し上げる次第です。なお、本書の図版原稿の整理などの編集作業について、株式会社NATS環境デザインネットワークの諸氏に多大なご協力をいただきました。また、学芸出版社の前田裕資、小丸和恵の諸氏には出版について忍耐と寛容の心で励ましていただきました。ここに厚く感謝申し上げます。