参加と協働のデザイン
内容紹介
NPO下請化にNO!対等な仕組みをつくる
NPO法施行から10年、日本に参加協働型市民社会は形成されたか。本書は、参加から協働へのデザインの理論を再整理し、各地で多様な実践を行い成果をあげた事例を紹介。一方、NPOの行政の下請化も懸念されている中、現場が抱える協働の課題を再考し、真の市民社会実現のための仕組みづくりとNPO公共哲学の必要性を訴える。
体 裁 A5・240頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2472-2
発行日 2009-10-15
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
目次
はじめに
1部 参加と協働のデザイン
世古一穂
1章 参加協働型社会に向けて
1 市民活動・市民社会とは
2 市民社会は形成されたか
3 これからの10年をどう展開するか
2章 NPO
1 NPOとは
2 第三セクターとしてのNPO
3 ボランティアとNPOとの違い
4 NPOの仕組み
5 NPOの多様な法人形態
6 NPO法
3章 参加のデザイン
1 創造的な市民参加を目指す「参加のデザイン」
2 参加のデザインの3つのデザイン
3 ワークショップ
4章 協働のデザイン
1 協働とは
2 市民セクターと行政セクターの社会的役割分担
3 ネットワーキングを形に
5章 「協働」再考
1 自治体とNPOの協働の課題
2 中間支援組織と協働コーディネーターの必要性と課題
3 協働のルールづくり
4 「協働の質の評価」──協働の成果を質で評価することの必要性
5 町内会、自治会等の地縁型組織とNPO型組織の協働の課題と方策
6 参加協働型社会における地方議会
7 協働環境の整備
2部 参加と協働の実践~その広がり
1章 「地元と行政のやる気が共鳴したまちづくり
~姫路市別所町の道路拡幅と公園づくり~
姫路市建設局道路部街路建設課課長 吉岡幸彦
1 隔たりのあった行政と住民
2 協働の始まり
3 協働事業に必要なもの
4 協働事業の広がり
5 住民参加の協働事業を経て
6 参加と協働を成功させるために
2章 公的資金の活用と市民参加による共に支えあう地域づくり
~釧路・わたぼうしの家の活動から~
特定非営利活動法人わたぼうしの家事務局長(理事) 工藤洋文
1 NPO法人わたぼうしの家の概要
2 参加へのデザイン~介護保険事業~
3 自主事業
4 参加へのプロセスを検証する
3章 大学と自治体・地域連携による能登の再生ビジョン
~金沢大学・能登里山マイスターの挑戦~
金沢大学地域連携コーディネーター・客員教授 宇野文夫
1 大学は「社会貢献」より「地域連携」
2 「能登里山マイスター」養成プログラムを投入した背景
3 あざなえる縄のような大学と地域の連携
4 連携の効率と達成度を上げるシステム
5 能登の地域資源を活かした先進事例
6 次なる能登のビジョンと仕掛け
7 横に大きく羽を広げる連携を
4章 生産者・加工メーカー・消費者をつなぐ共感マーケティング
~遠州の地元ネタをコミュニティビジネスに~
特定非営利活動法人アクション・シニア・タンク副代表理事、中小企業診断士 中野眞
1 地域の宝物を見つけて磨いて魅せる!
2 地域の“モノ”と“人”の主体にこだわる
3 共感マーケティングの実践事例
4 月一居酒屋“地ネタ屋”にチャレンジ
5 “共感のマーケティング”の可能性、今後の展開~参加と協働の視点
3部 協働のあり方を問い直す
1章 対等なパートナーシップに基づく「協働契約」のあり方
~横浜市の協働の実態と課題~
特定非営利活動法人アクションポート横浜理事 土屋真美子
1 横浜市の協働の仕組みとその展開
2 NPO法人「びーのびーの」の事例に見る協働の課題
3 「協働契約のあり方を考える研究会」の設立に至るまで
4 横浜市の協働事業をめぐる「契約」の実態
5 何が「協働事業」にふさわしい契約形態か?
6 対等なパートナーシップの実現に向けての課題と改善の方向性
7 対等なパートナーシップを実現する協働契約
8 対等なパートナーシップを実現するための仕組み
「協働契約の提案」の実現に向けて 世古一穂
2章 NPOの下請け化を克服する政府との対等な協約
~英国のコンパクトと地域戦略パートナーシップ~
スマイルひろば地域推進委員会事務局長 細見義博
1 コンパクトについて
2 パートナーシップの仕組みとコンパクトの役割
3 ローカルコンパクトの課題と方向
4 日本への反映
4部 公共哲学の必要性
生活者・市民との対話:金 泰昌 コーディネーター:世古一穂
1 公共哲学は参加協働型社会の根本的な哲学
2 今、なぜ日本で公共哲学が必要なのか
おわりに
本書の位置づけ
1997年に人材養成の中間支援組織として「NPO研修・情報センター」を筆者が設立した当初から、「つぶやきを形に、思いを仕組みに」を実現できる参加協働型社会とその中核となる人材、「協働コーディネーター」の養成に取り組んできた。
その中心となる理論として「参加のデザイン」と「協働のデザイン」を筆者のオリジナルとして構築、その成果を『市民参加のデザイン』(ぎょうせい、1999)、『協働のデザイン』(学芸出版社、2001)として社会に問うてきた。
いずれの本も重版をかさね、全国各地のNPO支援センターや行政、NPO、参加や協働のテーマに関係する研究者や学生、一般市民の方々に読まれ、大きな反響を得ることができた。
2冊の本を出してから早10年が経過したのを機に参加協働型市民社会を構築していくうえで必要な参加と協働のデザインの理論を再整理し、実践事例を加筆し、昨今の協働の様々な歪みをただす羅針盤となることを願って上梓させていただいたのが本書である。
本書の構成と概要
本書は4部構成になっている。
1部では参加協働型市民社会を構築していくうえで必要な参加と協働のデザインの理論を再整理した。「参加と協働のデザイン」は知識を教え込む教育方法ではなく、自ら学び、考え、自発的に問題を発見し、主体的に課題を設定し、判断し、よりよく問題や課題を解決する参加体験型の学習方法で、私自身がこの15年くらいの間に創造してきた理論と実践の体系である。
筆者が代表理事をしている(特非)NPO研修・情報センターでは「参加と協働のデザイン」を学び、その成果を生かして、「協働コーディネーター」として実践できる人材を養成するために、この10年にわたって主に東京と京都等で年に数回『協働コーディネーター養成講座』初級と中級を自主事業として実施してきた。
2部、3部では、その講座に参加され、各地で多様な参加と協働の実践を行い、成果をあげてこられた方々に事例を中心に書いていただいた。各事例はこの10年間の『協働コーディネーター養成講座』の参加者と筆者の協働の成果でもある。
まず2部は協働の実践報告である。それぞれに参加と協働のデザインの理論を現場で実現した成果で、筆者自身が参加し、協力してきたプロジェクトがほとんどだ。担い手となった方々自身のレポートは読み応えのあるものとなっていると思う。
1章 地元と行政のやる気が共鳴したまちづくり
~姫路市別所町の道路拡幅と公園づくり~
2章 公的資金の活用と市民参加による共に支えあう地域づくり
~釧路・わたぼうしの家の活動から~
3章 大学と自治体・地域連携による能登の再生ビジョン
~金沢大学・能登里山マイスターの挑戦~
4章 生産者・加工メーカー・消費者をつなぐ共感マーケティング
~遠州の地元ネタをコミュニティビジネスに~
3部では、NPOの行政の下請け化も懸念されているなかで、協働のあり方をいかに変革していくか、その具体論を、横浜および英国の事例を元に書いていただいた。
1章 対等なパートナーシップに基づく「協働契約」のあり方
~横浜市の協働の実態と課題~
2章 NPOの下請け化を克服する政府との対等な協約
~英国のコンパクトと地域戦略パートナーシップ~
本書の最後には第4部として「参加と協働のデザイン」を支える哲学をNPO公共哲学と銘打ち、公共哲学の専門家の金泰昌(キム・テチャン)さんとの対話をまとめた。2007年からNPO公共哲学研究会を立ち上げ、議論や対話をしてきたもので、これから参加協働型社会を構想し、実現していくための根源としようとしているものである。
公共哲学の真髄は対話である。「公共哲学とは」を対話形式として「ですます調」で書いたゆえんでもある。
*
本書をきっかけに参加協働型市民社会形成にむけて多元的に、多様な対話が広がっていくことを切に望みます。
2009年秋 世古一穂
●利休に学ぶ
「参加と協働のデザイン」とは何かと考えてみると千利休が唱えた「和敬清寂」の茶の精神に学ぶところが多いことに気付く。
「和」はお互い同士が仲良くすること。和し合うということ。
「敬」は尊敬するの敬。お互い同士が認め合い、敬い合うこと。
「清」は目に見える清らかさだけでなく、心の中が清らかということ。心の汚れやくもりを取り除く。自分自身で自分の力で自分の気持ちを清めようという心が大事だということ。
「寂」はどんなときにも動じない心。誰にも未来は予想することはできないのだからどんな事態になったときにも動じない心をもつ。そうした心をつくっておくということ。
また利休は「茶の湯の心得とは何か」という質問に対して、「利休七則」を説いている。
利休七則とは、
一、茶は服のよきように点て
一、炭は湯の沸くように置き
一、花は野にあるように
一、夏は涼しく冬暖かに
一、刻限は早めに
一、降らずとも傘の用意
一、相客に心せよ
というもので、当たり前の自然な姿を説いている。茶道の奥は深く、禅にも通じる高い精神性を備えた世界、作法はそこに達するための手掛かりといわれる。
参加と協働のデザインを実践するには「人々のつぶやきを形にする」ファシリテート、「思いを仕組みにする」コーディネート、協働の評価や評価の技術が必要だ。しかし、大切なことは、そうした技術の使い手の精神、ミッション、哲学だと思う。
筆者が「参加と協働のデザイン」の理論と実践を学ぶ場として10年来(特非)NPO研修・情報センターの事業として実施してきた「協働コーディネーター養成講座」に参加される方の中には、ファシリテートの技術を身につけたい、合意形成の方法を学びたい、というようにハウツーを求めてこられる方が結構多い。しかし、市民社会を構築していくという大きな目的やミッションがないと立ち位置がぶれてしまい、ときには行政の意図を市民に合意してもらうための下請けファシリテーターや、コーディネーターとなってしまい、本来の役割を果たせなくなる。
「参加と協働のデザイン」は手段ではなく、市民社会構築の前提であり、それを支えるのがNPO公共哲学である。私が考える「参加と協働のデザイン」を実践するために必要な態度とは、以下のようなことだ。
①権力に距離を置く
②強者に対し背筋を伸ばす
③弱者に寄りそい、視座を低くする
④名刺に頼らない
⑤いのちを最優先する
⑥(主観の)客観化を目指す
⑦裏返してみ、俯瞰してみる
⑧失敗を恐れない
⑨待つことに耐える
⑩好奇心を養い、英知を磨く
⑪昨日に学び、明日を読む
⑫二本の足で立つ
⑬自分に厳しく、自分を軽くする
⑭市民社会構築の哲学をもつ
●東アジアにおける市民社会のあり方
では、「参加と協働のデザイン」によって目指し、実現しようとする市民社会とはどのようなものであろうか。
95年の国連社会開発サミット以来、国家、企業と並び立つ第3のアクターとして、市民社会の概念が定着した。しかし、それは欧米型の市民社会の概念であったといえる。
日本をはじめ、中国、韓国も欧米型の市民社会づくりを目指しているように見える。しかし、1998年のNPO法施行以来の状況を振り返ってみても、日本に市民社会は構築されていない。また、現在の新自由主義が導入されて30年になるが、すさまじい投機マネーの動きを、欧米の市民社会も制御できず、極端な経済不況に陥った。
それに対して、北欧はいわゆる欧米型ではない市民社会、「連帯経済」の考え方、協同によってもうひとつのあり方を示していると思う。最大限の利潤を追求するのではなく、人々の連帯に依拠した経済活動を指す。たとえば協同組合などの相互扶助や、NGOによる開発支援。家事や育児などの女性の無償労働も含まれる。
大量生産、大量消費、大量廃棄の市場経済に対抗する概念でもあり、環境や人権を損なうものであってはならないという考えが根底にある。
規模は小さくても、個々に自立した連帯経済の単位が、国や地域、グローバルのレベルで緩やかなネットワークを作っていく必要がある。
連帯経済に着目した動きは、日本でも広がっている。今後市民社会に期待される役割はグローバル化で拡大した貧困や格差に、歯止めをかけていくことだ。行き過ぎた市場経済原理主義を規制する役割を、市民社会も担わなければならない。
その前提としての「参加と協働のデザイン」が必要だ。
また、欧米とは、文化や歴史的背景の違う東アジアではどのような市民社会が実現可能なのか、東アジアの市民社会構築に向けた「参加と協働のデザイン」が必要なのではないかと思う。それは筆者にとって、また、アジアのNPO・NGOにとっての今後の大きな課題である。
最後に本書の出版を快諾いただいた学芸出版社と本書の編集に尽力いただいた前田さん、越智さんをはじめ、共著者として協力していただいた皆さんに心から感謝申し上げたい。
2009年秋 世古一穂
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