住宅エクステリアの100ポイント
内容紹介
求められる広範な知識と技術を体系的に整理
住宅の外部空間にこだわりを持つ建築主が増えたこと、景観への意識が高まったことなどにより、エクステリアの需要は拡大している。しかし、多業種出身の技術者が集まった現場は、誤解や理解不足による不具合が多いのも現実である。本書は、求められる広範な知識を建築・土木・造園を軸に体系的に整理し、解説した初めての書。
体 裁 A5・232頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2410-4
発行日 2007-08-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
はじめに
第1章 エクステリア計画前の予備知識
1 「エクステリア」という言葉の持つ意味
2 「エクステリア」と「ランドスケープ」計画の違い
3 クローズ外構、オープン外構
4 エクステリアを構成する3つのゾーン
5 良質なエクステリアの条件
6 エクステリア計画前の与条件
7 エクステリア計画前に必要な建築図面
8 ライフスタイル、ライフステージへの対応
9 境界杭と敷地設計GLの重要性
第2章 エクステリア計画の全体概要
10 狭小地対応プランの特性(Ⅰ)
11 狭小地対応プランの特性(Ⅱ)
12 高低差対応プランの特性(Ⅰ)
13 高低差対応プランの特性(Ⅱ)
14 広大な敷地対応プランの特性
15 モダン系住宅対応プランの特性
16 カジュアル系住宅対応プランの特性
17 セキリュティ対応プランの特性
18 バリアフリー対応プランの特性
19 ペット対応プランの特性
第3章 エクステリア計画に必要な法的知識
20 建築基準法 簡易カーポート屋根、テラス他
21 建築基準法 ブロック塀の構造
22 建築基準法煉瓦積、石塀、その他フェンス、塀
23 都市計画法中心後退道路に隣接する塀、門及び地区計画
24 宅地造成等規制法宅地造成及び擁壁
25 宅地造成等規制法宅造法における擁壁構造概要
26 風致地区条例他その他関連法律
27 民法隣地側との取り合い関連
第4章 ゾーニングからプラン作成
28 ゾーニング
29 一般的なゾーニングの手順
30 南側接道(南入り玄関)のゾーニング
31 北側接道(北入り玄関)のゾーニング
32 東西入り玄関のゾーニング
33 プラン作成時における立面計画の重要性
第5章 門廻りの設計
34 門廻りの持つ意味と機能及び門の種類
35 門廻りの各部位と基本寸法
36 門廻りの位置パターン
37 門扉の取付位置、納まり
38 イメージ別表札選定
39 イメージ別ポスト選定
40 照明器具選定、取付位置
41 表札、ポスト、インターホンの適切な取付位置
42 機能門柱の付加価値を上げる方法
43 さまざまな門廻り事例からのデザインヒント
44 アールを使った門柱
45 石積、石貼門柱
46 タイル貼門柱
47 シャッターゲートに隣接する門廻り
48 屋根付き門の考え方
49 ガスメーター、会所桝などの処理方法
第6章 階段・アプローチの設計
50 アプローチ階段の幅、高さ、位置等の考え方
51 アプローチデザインの基本的パターン
52 アプローチデザインの形状、材料の組み合わせ
53 玄関ポーチ、アプローチ取り合い
54 バリアフリー対応アプローチ(スロープ対応)
55 バリアフリー対応段差昇降機
56 階段、アプローチの素材別対応
57 高低差のある階段、アプローチの考え方
58 扉の開き勝手と直角、曲線部階段納まり
59 水勾配と設備各種桝の処理
第7章 塀・外柵・擁壁(土留)の設計
60 塀の持つ意味と基本的な考え方
61 ブロック(普通ブロック、化粧ブロック)塀
62 タイル、煉瓦塀
63 RC塀
64 フェンス、木柵
65 植物(生垣)を使った塀
66 形状、素材の組み合わせを持つ塀のデザイン
67 スリットを効果的に使った塀のデザイン
68 擁壁の種類と効果的な使い分け
第8章 カースペース・ヤードスペースの設計
69 カースペースの考え方と直角、縦列駐車
70 カースペースの前面道路幅、勾配及び土間勾配
71 カースペースの扉、簡易カーポート屋根取付
72 カースペースの土間デザインと使用素材
73 ヤードスペースの考え方(Ⅰ)
74 ヤードスペースの考え方(Ⅱ)
第9章 エクステリア計画における効果的な緑(植栽)の設計
75 緑(植栽)の効用と役割
76 門廻り周辺の緑(植栽)の考え方
77 道路面の緑(植栽)の考え方
78 カースペースの緑(植栽)の考え方
79 アプローチからデッキ周辺の緑(植栽)の考え方
80 隣地側に対する緑(植栽)の考え方
81 イメージ別対応樹種選定の考え方(Ⅰ)
82 イメージ別対応樹種選定の考え方(Ⅱ)
83 壁面緑化、屋上緑化の考え方
第10章 施工
84 敷地(工事場所)と設計図、境界杭の確認
85 現場養生及び近隣対策
86 土工事
87 地業及び基礎工事
88 鉄筋コンクリート工事(Ⅰ)型枠
89 鉄筋コンクリート工事(Ⅱ)鉄筋
90 鉄筋コンクリート工事(Ⅲ)コンクリート
91 コンクリートブロック組積工事
92 左官工事
93 吹付、その他工事
94 植栽工事の材料検査
95 植栽工事の植付け、土壌改良、養生・支柱
第11章 メンテナンス
96 材料、商品、施工特性説明と契約書、保証基準
97 門扉、フェンスなどの金属系材料の手入れ
98 タイル、石材、木製品他の手入れ
99 植栽物の潅水、整枝、剪定
100 植物の病気と害虫及び施肥
おわりに
column
●海外のエクステリア
①イギリス
②アメリカ
③オーストラリア
④トルコ
⑤イスラエル
●住宅エクステリアの歴史
①黎明期(1950~1970年代)
②草創期(1970~1980年代)
③街並みとしての意識(1980~1990年代)
④アウトリビング化とガーデニング(1990~2000年代)
⑤商品、商材の多様化(2000年~現在)
「エクステリア」という言葉が一般的に認知されたのは、ここ15~20年ぐらい前からだと思われます。それまでは、エクステリアという言葉自体があまり使われることもなく、単に「外構=外を構える」とか「外柵=外を囲う、柵をする」という意味合いのものにすぎず、建築業界の一部で認知されていた程度でした。
エクステリアという言葉は元来「インテリア」の対語としての意味合いがあり、住環境という視点でとらえれば、建物内部に対して外部の住環境ということになりますが、どちらかといえば、建物内部と外部住環境に対する考え方は、一般生活者にとってもかなり温度差がありました。建築関連出版物等の情報量に対して、エクステリア関連の情報ははるかに少ないというか、ほとんどなかった状況のなかで、建物ほどのこだわりもなく、「予算の範囲内でおまかせします…」という建築主がほとんどだったといえます。
また、外部空間は一般的には「庭」という概念の空間があり、エクステリアとは一線を画していたともいえます。
エクステリアの流れ、考え方の推移については後で詳しく述べますが、大きな転機として考えられるのが「庭」の概念が単に「鑑賞する庭」だったのが、生活者が個々のライフスタイルに応じて「使う庭、介在する庭」という考え方を持つ人が増えてきているということです。庭に対する考え方、視点が変わることにより、エクステリアに対しても以前とは異なる見方、考え方が生まれてきたといえます。
ふり返れば、エクステリア工事(外構工事)を専業とする業者及び関連メーカーが出現し始めたのは1970年代前半くらいであり、それまでは、建築業の一環として門や塀の工事がなされていました。そこには建築からの流れによるデザイン性、材料の選択、品質等に対する技術的な裏付けも確保されていました。1970年代後半になり、日本経済の高度成長に伴う新設住宅着工件数の大幅な増加のなか、建築本体と門や塀の外構工事の分離が始まり、さまざまな業界からの新規参入も含め、エクステリア業界の形成、拡大につながったといえます。
また、最近の建築主は建物、門や塀、庭という空間を個々に考えるのではなく、敷地全体のトータル的な住環境として考える傾向が強くなってきています。
しかし、建築・土木工事業を源とするエクステリア業界、公園・緑地工事などの官需から個人庭園工事に携わってきた造園業界、ガーデニング、草花等を中心とした園芸業界、その他建築に関連する業界や異業種からの参入も含め、さまざまな出身母体を持つ人達が建物の外部住環境づくりに携わっているのが現状です。
言い換えれば、エクステリア業に携わる技術者には建築、土木、植物を三つの軸とした広範な知識が必要であり、その基礎知識に裏付けされたデザインの考え方、現場における安全性、品質の確保という技術者としての姿が求められているといえます。建築にとても似つかわしくないエクステリアデザインから始まり、建築基準法など関連法規の理解不足、ブロック基礎から鉄筋、コンクリート工事などの施工品質不備及び安全面の軽視、樹木の耐性(抵抗力)・特性を無視した植栽他などが、知識のないままなのか? 競合業者とのコスト対応なのか? いろいろ理由があるかもしれませんが、不具合現場、またはそれに類する現場が多いのも現実といえます。
エクステリア業界が生まれて約35年、一般生活者が工事内容等についてもインターネット、各種雑誌などからさまざまな情報を得られるようになった状況のなか、よりプロとしての専門知識に裏付けされた対応が求められるのはいうまでもありません。
建築・土木・植物という各分野での専門書は多数ありますし、一般的なガーデン雑誌、エクステリア雑誌も最近は増えていますが、これら広範囲な部分をエクステリアという視点で、体系的に整理された専門書はいまだ皆無といえます。
本書が住宅エクステリアに携わる多くの人達や、エクステリア工事を考えておられる一般の人達の、失敗しないエクステリア計画の考え方の一助になればと思います。
エクステリア・ガーデン工事関連の仕事を目指したり、スキル習得のための若手技術者や社員研修の折に「表札」の話をすることがよくあります。表札はほとんどのお宅にあるものですが、この数年の間に大きく様変わりしてきています。たまたまかどうかわかりませんが、筆者が大学卒業後、電鉄系造園会社に入った頃がエクステリア業界の草創期といえ、それから約35年が経過し、その間に多くの建築主に対してエクステリア・ガーデンの仕事をさせていただきました。当時の表札は90×180mmのいわゆる3×6寸の大理石、御影石か木製の表札ぐらいしかなく、今日ほどさまざまなサイズ、素材、デザインのものは当然ない時代でした。新築の家の門柱に「自筆の文字をそのまま彫れますよ」とお話したら、今でいうCS(顧客満足)からCD(顧客感動)といえるくらい喜んでいただいたことも多くありました。
ところが最近は、表札(サイン)の種類が非常に多く、ややもすれば表札一つ決めるのがなかなかスムーズにいかず、時間だけがかかり、建築主も迷ってしまいます。場合によっては、表札を設置した後でバランスが悪かったり、イメージが違ったりするなどの不具合につながることもあります。言い換えれば、エクステリア工事に用いる植物を含めた商品、材料の多様化に伴い、「ただ何となく」ではなく、デザイン面から商材の選択に至るまで、建築主に理解して納得してもらうだけの論理的な説明が大事になってきています。イメージを構成する要素(フォルム、テクスチュア、カラースキーム)から造形物のバランス感など、生物である植物の特性から生育環境条件などに至るまでを含め、さまざまな専門知識を持つエクステリア技術者が必要といえる所以です。
また、エクステリア工事を取り巻く周辺環境もここ数年の間に大きく変化してきています。顧客サイドから見ると、外部住空間に対しての意識の変化が顕著となり、個々のライフスタイル、ライフステージに対応した、住む人にとって価値のある外部住空間を求め始めているといえます。エクステリア関連の商材も多様化していき、雑誌やインターネット等にてさまざまな情報が身近なものになる中「セミプロ化」している建築主も増えています。一方、建築サイドから見ると、新築着工件数の減少に伴う「顧客囲い込み」「生涯顧客化」という面からも、建物だけでなくエクステリアを含めたトータルな提案により顧客満足度を高めていく必要性が強くなってきています。言い換えれば、住宅設計において、建築だけではなくエクステリア関連の知識、情報に裏付けされた敷地全体の提案スキルが必要になってきているといえます。
エス・バイ・エル(株)の玉水新吾氏には、以前から仕事上などでお世話になっており、氏より「エクステリア関連のノウハウをまとめて、若手技術者に役立つ情報提供をすべきである」と勧められ、筆の運びとなりました。大学卒業後、住宅のエクステリア・ガーデン等を中心の仕事をしてきましたが、集大成としての出版ができ、こういう機会を作っていただいた玉水氏に深く感謝しております。
また、日本建築協会の出版委員会のメンバー各位には、毎月の会議において、貴重なご意見と助言を頂戴すると共に励ましていただきました。(株)学芸出版社の編集長:吉田隆氏、編集:越智和子氏には、毎月の出版委員会での原稿の方向性や出版に向けての見本組、校正などいろいろ援助していただき感謝申しあげます。
本書の中で掲載した現場写真など各種資料の使用に際しお願いしたところ、資料提供各位には快諾していただきありがとうございました。思い起こせば、昨年の9月くらいから永い時間がかかりましたが、このように多くの方々の励まし、助言、協力をいただきまして本書が出版されることになりました。皆様にはこの場を借りまして、心より厚くお礼申しあげます。
2007年8月 藤 山 宏
『グリーン情報』(㈱グリーン情報) 2007.9
住宅業界の関係者には、インテリア部門は比較的馴染みがあるが、エクステリア部門はどちらかというと業者任せ…といった感覚が強いかもしれない。しかし実際の現場では建築・土木・植物の総合的な知識が求められる場面も多いはず。
本書は、エクステリア草創期から業界を見続け、設計・管理などのテクニカル面から営業・経営マネジメントまで総合的な知識を持った著者が、エクステリアに関するさまざまなノウハウをまとめた良書。E&Gアカデミー副学長であり、技術者・コンサルタントの各方面で活躍し、新聞などでの執筆も多い著者が、これから住宅を建てる人、若手技術者などに向けて役立つ情報を惜しみなく提供している。