歴史的遺産の保存・活用とまちづくり 改訂版
内容紹介
定本と評価の高い手引書に最新動向を加える
文化財の法制度や補助事業、関連法規や防災面の取組み、アメリカや日本における実践例、特に町家・茅葺の再生やNPOの動きなども加え、最近の動向を解説。建物を保存するだけでなく、現在の生活に役立つものとして活用しようとする行政、建築家、まちづくり関係者に現場で役立つ手引書。最新事例を充実した待望の改訂版。
大河直躬・三舩康道 編著
著者紹介
体裁 | A5判・280頁(カラー16頁) |
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定価 | 本体3500円+税 |
発行日 | 2006-03-30 |
装丁 | 前田 俊平 |
ISBN | 9784761531393 |
GCODE | 5249 |
販売状況 | 在庫×・重版未定 オンデマンド版あり |
第Ⅰ部 これからの「まちづくり」と歴史的遺産の保存・活用
1・1節 歴史的遺産の保存・活用・再生を進めるために 大河直躬
1. なぜ歴史的遺産を保存するのか
2. 社会・文化の変化と保存の関係
3. 歴史的遺産の活用・再生とは何か
4. 活用・再生の効果と楽しさ
1・2節 歴史的遺産の保存施策の発展 苅谷勇雅
1. 歴史的遺産の保存施策の動向
2.文化財建造物の登録制度による保存と活用
3. 伝統的建造物群保存地区の発展と歴史的遺産の保存
4. 歴史的遺産の総合的な保存・活用をめざして
1・3節 これからの都市計画と歴史的遺産の保存・再生 岡﨑篤行
1. 歴史的遺産概念の拡大と都市計画
2. 保存・再生の目的の変遷
3. 歴史性を考慮した都市計画の手法
4. 保存・再生・活用を進める主体
5. 今後に向けて
1・4節 米国における近代建築の保存・再生の考え方 金出ミチル
1. 保存から再生へ
2. 保存の始まり:栄光の記憶と伝統へのあこがれ
3. 保存のかたち
4. 現代の保存としての「再生」
5. 再生された建物:ニューヨーク市の事例
6. 保存による地区再生
7. 変わりゆく世界の中で
8. 「近過去」の建築の保存
9. これから
第Ⅱ部 歴史的遺産の活用・再生の手法
2・1節 個々の歴史的遺産の活用手法 蓑田ひろ子
1. 活用の多様な可能性
2. 活用目的の種類
3. 活用の形態
4. 活用の具体的な事例
5. 景観教育
6. 今後の課題
2・2節 近代に建てられた建築の保存・再生の技法 梅津章子
1. 日本における近代建築と都市景観
2. 近代建築とは
3. 近代建築の再生の展開とその手法
4. 近代建築の保存・活用・再生の問題点
5. 近代建築の保存をとりまく状況
2・3節 町家再生の実際と課題 八木雅夫
1. 京町家再生ブーム
2. 出石城下町における町家の再生
3. 住み手がつくり手と一体になって進める民家再生の試み
4. 再生された町家,民家に対する居住者評価
5. 兵庫県のヘリテージマネージャー
6. 再生町家などを活用した福祉施設
7. 町家再生によりまちづくりの拠点が生まれる
2・4節 茅葺き建物の保存と活用 日塔和彦
1.茅葺きの発生と地方色
2.茅葺きの再評価
3.日本の茅葺きの現況
4.環境と茅葺き
5.ヨーロッパに茅葺き保存の方法を学ぶ
6.日本の景観保全と茅葺き
2・5節 歴史的遺産の地域的活用手法 三舩康道
1. 活用を点から面に進める各種手法
2. 成功事例の紹介
3. 史跡保存と都市計画
4. 歴史的遺産の保存・活用に関連する各省庁の事業
2・6節 NPOの活動の意義と展望 後藤 治
1. NPOと歴史的建築物
2. NPOの役割
3. NPOの活動実態
4. NPOの存在形態
5.中間組織
6.海外の先進事例-今後必要とされるNPO活動
2・7節 活用を支える防災 三舩康道
1. 歴史的建造物の災害対策
2. 個別的対応
3. 地区的対応
三舩康道
編集の方針
本書の第一版は,1997年に大河直躬の編集により刊行されました.姉妹本としての『都市の歴史とまちづくり』は1995年に出版されています.
本書は出版から9年経過し,当初目指した使命をほぼ果たしましたが,同様の本がなかなか無いこと,そして各著者から時機に適した改版への希望が多く,改訂版を刊行することになり,三舩がまとめることになりました.
しかし,時機に適した内容に改版するとはいえ,本書は新たな事例を紹介することを目的とするものではなく,基本的な考えを示し併せて大きな流れについて紹介することを目的としているため,内容については大幅に改変するというよりは,基本的な方向性を守りつつ,新たな流れを紹介するという考え方で編集したものです.
第一版を出版した頃は,「まちづくり」に歴史ある建物や遺跡の保存と活用が大きく取り上げられるようになり始めた頃であったと思います.それから9年経過し,いまや歴史ある建物や遺跡の保存と活用は「まちづくり」の基本的な手法の一つとして定着しています.この変化には目をみはるばかりです.
このような変化を生み出す大きな契機となったのが,1996年秋の文化財保護法の改正により創設された文化財登録制度です.それから9年経過し2005年の10月には,登録された登録有形文化財は5000件を超えるまでになりました.この増加する勢いは,重要文化財の指定件数もはるかに超え,今後10年以内に1万件を超えることは確実と思われます.
加えて,NPOの活動が変化を生み出す大きな契機になりました.地域の歴史ある建物の保存・活用にはNPOの活動が大きく関わるようになり,今後は主役になる可能性を秘めています.
また,このように歴史ある建物の保存・活用が増えてきますと,建築基準法との関係が問題になります.建築基準法は1950年に制定されているので,それ以前の建設が大部分である歴史ある建物には,基準法に合致しない既存不適格建築物の比率が高い状況です.
つまり,既存不適格の歴史ある建物を,どのようにして安全性を確保しながら保存・活用するかが課題となります.そのため,各地域の実情にあわせた条例の制定など,法規制についても新たな取り組みが試みられています.
そして,これからの流れには2004年に制定された景観緑三法(景観法,景観法の整備等に関する法律,都市緑地保全法改正)の影響が予想されます.これまでの歴史的遺産の保存・活用では,文化財建造物や伝統的建造物群保存地区が中心となり文化財保護法が主役のように存在していましたが,これからは対象となる建物や地域が広がり,景観緑三法も大きな役割を担ってくると考えられます.そのようなことにも配慮し,今回の改訂版では関連するパートでそのことに触れています.
改訂版の構成
第Ⅰ部のタイトルは第一版と同じ「これからの『まちづくり』と歴史的遺産の保存・活用」です.構成は第一版と同じ構成です.著者も同じですが,内容は最近の動向も含めより充実されたものとなっています.
第Ⅱ部のタイトルも第一版と同じ「歴史的遺産の活用・再生の手法」です.しかし,現在の新しい課題に対応するために構成を変え,執筆者も一部変更しました.そして参考文献も充実させました.
具体的には,今日的な話題として「町家」と「茅葺き」を取り上げています.そして,最近の動向から「NPOの活動」についても取り上げ,さらに活用を支えるという観点から「防災」についても取り上げています.そのため,第一版で取り上げた「町場の建築家の保存・修復体験」及び「阪神・淡路大震災で被災した民家の修復・再生」については紙面の都合で割愛しています.
しかし振り返ってみますと,内容の充実を図ったとはいえ,まだまだ取り上げたい項目が思い浮かびます.歴史的資産を発掘し,整理するための「データベースへの取組み」などです.これらについてはいずれ取組みたいと思っています.
2006年2月
開催が決まり次第、お知らせします。