最新エリアマネジメント
内容紹介
銀座まちづくり会議や東京駅前(丸の内)の大丸有協議会による都心魅力化の成果によって、都心部に必須と認められるようになったエリマネ組織について、小林重敬、青山公三、保井美樹氏ら第一人者による論考と、海外の最新情報、日本各地の22組織からの報告をまとめた。エリマネの「現在」と「これから」が、この一冊に
体 裁 B5変・196頁・定価 本体4000円+税
ISBN 978-4-7615-4091-3
発行日 2015/02/15
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
はじめに
1章 エリアマネジメントの仕組みと展望
1節 わが国のエリアマネジメントの仕組みと展望 小林重敬
1 エリアマネジメントという仕組みの必要性
2 「社会関係資本」と「ソフトロー」
3 都市づくりにおける「協働」と社会関係資本構築
4 エリアマネジメントにおける「関係性」
5 「つくる」ルールと「育てる」ルール
6 エリアマネジメント組織のこれから
2節 アメリカにおけるエリアマネジメントの仕組みと活動 青山公三
1 アメリカの都心エリアマネジメント
2 アメリカにおけるエリアマネジメントの歴史
3 アメリカにおけるBIDの発展
4 BIDが提供するサービス
5 BIDの法的位置づけと組織
6 BIDの資金・財政
7 アメリカにおけるBIDの展望
3節 イギリスにおけるエリアマネジメントの仕組みと展望 保井美樹
1 官民連携とエリア・アプローチの始まり
2 中心市街地の衰退とマネジメントの導入
3 BIDの導入によるエリアマネジメントの進化
4 イギリスにおけるエリアマネジメントの展望
2章 大都市拠点駅を中心とする活動事例
事例1 大手町・丸の内・有楽町 さまざまなソフト面でのまちづくり
NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)
事例2 名古屋駅地区 リニア開業に向けた街づくり 「ターミナルシティ」を目ざして
名古屋駅地区街づくり協議会
事例3 大阪駅周辺 並列の協調関係によるエリアマネジメント活動
梅田地区エリアマネジメント実践連絡会
事例4 グランフロント大阪 新しい「公共」への挑戦
一般社団法人 グランフロント大阪TMO
事例5 横浜駅周辺 既存組織が主役のエリアマネジメントを目ざして
エキサイトよこはまエリアマネジメント協議会
事例6 博多駅周辺 駅からまちへ、まちから駅へ、歩いて楽しいまちを目ざして
博多まちづくり推進協議会
3章 大都市既成市街地における活動事例
事例7 福岡天神 三つの目標像と10の戦略
We Love天神協議会
事例8 銀座 町会・通り会を中心にしたエリアマネジメント
銀座街づくり会議・銀座デザイン協議会
事例9 日本橋地域 地域全体の活性化、賑わい創出を目ざした活動
日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会
事例10 神田淡路町 ワテラスを拠点に情緒ある地域コミュニティ形成を目ざす
一般社団法人 淡路エリアマネジメント
事例11 大阪御堂筋 御堂筋を軸としたビジネス街のエリアマネジメント
御堂筋まちづくりネットワーク
事例12 名古屋栄ミナミ イベント活動をとおして、歩いて楽しいまちづくりへ
栄ミナミ地域活性化協議会
4章 エリアマネジメント活動の課題
1節 エリアマネジメント活動の現在とこれからに向けての提言 小林重敬
1 エリアマネジメント活動の現在
2 エリアマネジメント活動のこれから
2節 エリアマネジメント活動の財源 小林重敬
事例13 札幌駅前通 公共施設の積極的な活用が生みだすエリアマネジメント財源
札幌駅前通まちづくり株式会社
事例14 浜松駅前 行政の理解と協力によるエリアマネジメント
浜松まちなかマネジメント株式会社
事例15 六本木ヒルズ 「街のブランディング」と「街のメディア化」の相乗効果
六本木ヒルズ統一管理者
【事例16 グランフロント大阪 街メディアの活用による自主財源の創出
一般社団法人 グランフロント大阪TMO
3節 エリアマネジメント活動と組織体制 小林重敬
事例17 福岡天神 任意団体と一般社団法人による組織・運営体制
We Love天神協議会/一般社団法人We Love天神
事例18 大手町・丸の内・有楽町 役割をもった街づくり団体と行政・民間の協力体制
一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会
事例19 秋葉原 株式会社で実現するまちづくり
秋葉原タウンマネジメント株式会社
5章 エリアマネジメント活動の新しい領域
1節 エリアマネジメント活動の新要素 長谷川隆三
1 強固な活動基盤の構築へ向けて
2 都市の持続可能性・魅力を高める新たな要素:エネルギー・環境と防災・減災
3 エリアマネジメントとの親和性
4 エリアマネジメントの新たな役割
5 実践に向けて
2節 新しい活動に関わるこれまでの活動事例 長谷川隆三
事例20 横浜みなとみらい21 世界を魅了する、もっともスマートなまちを目ざして
一般社団法人 横浜みなとみらい21
事例21 大手町・丸の内・有楽町 持続可能な環境共生型のまちづくり
一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会(エコッツェリア協会)
事例22 名古屋駅地区 官民連携による共助体制構築に向けた取り組み
名古屋駅地区街づくり協議会
事例23 六本木ヒルズ 「逃げ出す街」から「逃げ込める街」へ
六本木ヒルズ統一管理者
事例24 神戸旧居留地 阪神・淡路大震災を教訓とした地域防災活動
旧居留地連絡協議会
6章 エリアマネジメントの新たな仕組みづくり
1節 国におけるこれまでの仕組みづくり 御手洗潤
1 エリアマネジメント推進のための制度の枠組み
2 エリアマネジメント推進のための組織
3 エリアのルール
4 公共空間の利活用・公共施設の管理運営
5 エリアマネジメントに対する国の支援
6 国におけるエリアマネジメント推進の仕組みの今後の展望
2節 大阪市エリアマネジメント活動促進条例 大阪市都市計画局計画部都市計画課
1 条例制定の背景
2 大阪市エリアマネジメント活動促進条例の概要と意義
3 今後の展望
3節 竹芝地区における民間活力を活かしたまちづくり
東京都都市整備局都市づくり政策部/竹芝地区エリアマネジメント準備室
1 都有地を活用した東京都のまちづくり
2 竹芝地区のエリアマネジメントの展開
7章 エリアマネジメントのこれからへ向けて
1節 エリアマネジメントを発展させるために 中井検裕
1 エリアマネジメントに共通するもの
2 目的・活動内容から見たエリアマネジメントの本質
3 エリアマネジメントと合意形成
4 自発性の維持と公的支援
5 日本発エリアマネジメントの発信
2節 環境・エネルギー等の視点から 村木美貴
1 避難場所でのエネルギーを考える
2 公共用地の利活用
3 バーミンガムに見る熱供給事業とエリアマネジメント組織の関係
4 エリアマネジメント組織との連携
3節 官民連携と事業開発を支えるプロデューサー型人材 後藤太一
1 そもそも、何のために、どのような連携が必要か?
2 連携の成功の鍵はなにか?
3 福岡における官民連携の発展事例
4 実践における課題:人材確保と解決策
本書は、わが国のエリアマネジメント活動に関して、エリアマネジメント活動の理論的な検討と、大都市都心部における実践的な事例の紹介を試みるものである。理論的な検討としては、エリアマネジメント活動と深く関わる社会関係資本とソフトローについて検討を加える。次にわが国のエリアマネジメント活動の一つのモデルとして考えられ、制度仕組みとして完成形となっているアメリカやイギリスのBIDを検討し、そのうえで、アメリカやイギリスと異なるわが国のエリアマネジメント活動の方向性、それを支える制度や仕組みについて検討を加える。
まず、「はじめに」では、わが国の大都市都心部、地方都市中心部、さらに住宅地におけるエリアマネジメント活動の概要を示し、その後本書の中心である大都市中心部のエリアマネジメント活動組織を紹介することとする。
大都市都心部、地方都市中心部におけるエリアマネジメント
わが国の都市づくりの状況を全体としてみると、競争の時代の都市づくりとして、大都市の都心部地区がより優位に立つために展開している都市再生があり、一方で衰退している地区を再生する都市づくりである地方都市の中心部における生き残りをかけた地域再生がある。
最近では大都市都心部における地区の都市再生も、また地方都市中心部における地区の地域再生も、管理運営(マネジメント)による都市づくりの必要性が認識されるようになっており、大都市から地方都市までの多様な地区で、さまざまな社会的組織によって担われているエリアマネジメントの事例が展開している。
近年、大都市都心部の多くの地区で「エリアマネジメント組織」がつくられている。また地方都市中心市街地でも、中心市街地の活性化のためにTMO(タウン・マネジメント・オーガナイゼーション)が組織化されエリアマネジメントの活動を展開している。
そのような地区での活動の積み重ねのなかからは、「エリアマネジメント」や「タウンマネジメント」の活動を支え、組織を支える仕組みとして、アメリカやイギリスなどで先進的に展開しているBID(Business Improve-ment District)が注目を集め、日本版BID研究と仕組みづくりの必要性が認識されてきている。
住宅市街地におけるエリアマネジメント
市民に身近な住宅市街地のまちづくりは、一方に既成市街地や郊外地の住宅地の価値を保全し、さらに高めるまちづくりがあり、もう一方にはこれから問題視されてくると考えられる、人口減少時代における空き地、空き家の増大にともなう住宅地の価値減少を予防し、地域価値を保全するまちづくりがある。
まず既成市街地や郊外地に地区計画や建築協定、さらにはまちづくり条例などのツールを活用して良好なまちづくりを進めてきた地区におけるエリアマネジメントがある。このなかにはニュータウンなどの計画的に開発された住宅市街地の再生のためのエリアマネジメントも入ると考える。課題としては必ずしも新しいものではないが、それぞれの地区で地区主体の社会的組織をつくってマネジメントする必要があり、その活動の展開が始まっている。
次に都市の外延部に拡大した一般住宅市街地の再編がある。大都市圏の郊外には必ずしも良好とは言えない住宅市街地が広がっており、また良好に形成された住宅市街地のなかには時間の経過とともに居住環境が悪化している地区も増加しており、そのための対策の必要性が認識されつつある。とくにこれからの人口減少社会の動向、高齢社会の動向は、このような住宅市街地のエリアマネジメントを促すことになると思われる。
そのような地区での実践や議論を通して、良好な住宅市街地を主な対象に、アメリカなどで展開しているHOA(Home Owners Association)の仕組みが注目されている。わが国ではこれからの人口減少時代の郊外市街地のエリアマネジメント研究とその仕組みづくりの必要性が高いと考える。
ただし、本書では大都市都心部におけるエリアマネジメントに限定して考察することとする。
大都市都心部地区のエリマネジメントの展開
大都市都心部におけるエリアマネジメント活動を考えると、その必要性は次のように説明できる。
第一に、地方公共団体は特定地区に特別のエリアマネジメント活動を行うことは公平性の観点からむずかしい。しかし、これからの都市づくりには、さまざまなレベルでの地区間競争を考えると地区としての魅力をつくることが求められておりエリアマネジメント活動の必要性は高い。
第二に、一般に広がりを持った地区では、多くの関係主体、権利者が存在し、個別敷地に特別の管理を行うと、それにともなう外部経済が発生し、フリーライダーが生まれる可能性が高く、一方、逆に個別敷地が外部不経済を発生させる可能性もある。したがって「エリア」の単位でマネジメントする必要がある。
第三に、フリーライダーを生じさせないためにも、できるかぎり多くの関係主体、権利者が一体となって組織をつくりエリアマネジメント活動をする必要がある。
わが国における大都市都心部のエリアマネジメント活動の事例としては、これまで大規模プロジェクトと連動しているものが比較的多かったが、大規模プロジェクトとは関係なく既成市街地でのエリアマネジメント活動を実践している地区も、表に示すように近年では増えつつある。
表の「六本木ヒルズ」「汐留」「OBP」「横浜みなとみらい21」「グランフロント大阪」などの組織は大規模プロジェクトと連動しているエリアマネジメント組織の事例であり、「大丸有」の各組織、「長堀」「御堂筋」「天神」「名古屋駅地区」「横浜駅周辺」などの組織は、大規模プロジェクトと必ずしも関係のある事例ではなく、既成市街地におけるエリアマネジメント組織ということができる。
また近年では比較的規模の大きな再開発事業と周辺の既成市街地とが一体となって組織をつくりエリアマネジメント活動を行う事例も、「秋葉原」「神田淡路町」などで見られるようになっている。
いずれの地区でもさまざまなレベルの都市づくりを行いつつ、それと連動してエリアマネジメント活動を実践している。エリアマネジメントの内容を大別すれば、第一に公共施設・空間、非公共施設・空間の積極的な利用を予定したデザインガイドラインなどの策定とその実現、さらに第二にそれら施設や空間のメインテナンスやマネジメント、第三にイベントに代表される地域プロモーション、社会活動、シンクタンク活動などのソフトなマネジメントがある。第四に地区の安全・安心やユニバーサルデザインの実現などの課題を解決するマネジメントである。
またこれからのエリアマネジメント活動として期待される防災・減災や地球環境・エネルギー問題への対応が始まっている。わが国のエリアマネジメントのこれからは防災・減災や地球環境・エネルギー問題への対応が、欧米におけるBID活動とは異なるエリアマネジメント活動の特質になると考える。
本書が刊行できたのは、数年間にわたって開催された東京「丸の内まちづくりサロン」でのエリアマネジメント活動に関する検討会、東京、大阪、名古屋で展開されてきたシンポジウムに積極的に参加いただいた多くのエリアマネジメント組織の協力、ならびに検討会、シンポジウムに指導的に関わっていただいた専門家、国、東京都、大阪市、名古屋市などの行政関係者の力添えによるものである。
また「丸の内まちづくりサロン」の事務局を担っていただいた大丸有エリアマネジメント協会の関谷みゆきさん、ならびに学芸出版社の前田裕資さんにはたいへんお世話になった。ここに深く感謝の意を表したい。
2014年12月1日
小林重敬