スマートモビリティ時代の地域とクルマ
内容紹介
筑波大・社会工学×トヨタ未来創生センター
CASEなどの技術革新を踏まえた自動車と社会との新しい関係を追求するため、トヨタ自動車未来創生センターと筑波大学社会工学域との共同研究が展開されてきた。学際の意義を理解する執筆陣が、社会システムの変革期における地域とクルマの課題を社会工学の視点で分析。スマートモビリティとともにある未来を構想する。
はじめに
──必然性のあるトヨタと社会工学との共同研究(大澤義明)
口絵
序章 CASEが変える社会(笹林徹)
0.1 未来社会Society 5.0での新たなクルマの概念
0.2 CASEによる社会基盤づくり
0.3 「100年に一度の大変革」に活かされる社会工学
第Ⅰ部 地域を変えるモビリティの可能性
第1章 未来のアクセシビリティをデザインする(鈴木勉、嚴先鏞)
1.1 アクセシビリティが危ない
1.2 地域施設へのアクセシビリティを測る
1.3 クルマと公共交通:対立から協調へ
1.4 進化するクルマが未来のアクセシビリティを支える
第2章 モビリティシェアリングサービスの運用を最適化する(吉瀬章子、高野祐一、張凱)
2.1 モビリティシェアリングの変遷
2.2 ワンウェイステーション型カーシェアリングの課題
2.3 Ha:mo RIDE豊田のモデル化と分析
2.4 地域に定着するサービスを設計するために
第3章 日本の伝統的都市と自動車は共存できるか?(藤川昌樹、劉一辰、李雪)
3.1 日本の伝統的都市に侵入した自動車
3.2 保存地区では矛盾が表面化しやすい──駐車場と重伝建地区の関係の4類型
3.3 駐車場の出現が町並みの秩序に影響を与える──A-内部抱え込み型(桜川市真壁)
3.4 駐車場が住民中心ならば共存できるか?──B-住民中心型(橿原市今井町)
3.5 駐車場の外部化で自動車との共存は可能か?──D-外部依存型(金沢市東山ひがし・主計町)を中心に
3.6 新たなモビリティは共存を可能にするか?
第4章 郊外化・自動車依存がもたらす環境の変化とその可視化(村上暁信、グエン・ヒュー・クワン)
4.1 郊外の環境
4.2 郊外のランドスケープと都市計画
4.3 郊外化による平野の樹林減少がもたらす影響
4.4 ヒートアイランドによる健康への影響
4.5 周辺環境を意識できるライフスタイルのための技術革新
第5章 人々の生活行動と脱炭素──COVID-19およびシェアリングによる影響分析から(谷口守、武田陸、香月秀仁、石橋澄子)
5.1 変化の時代:新型コロナ生活行動調査に見る交通行動変化
5.2 行動弾性図の提案とその適用
5.3 生活圏の変化と新たな15分都市圏
5.4 脱炭素への新たな局面
5.5 完全自動運転・シェアリングの下での都市圏
5.6 スマートモビリティを活かしたハイブリッドな地域づくり
第Ⅱ部 モビリティの力を引き出す地域づくりの仕組み
第6章 モビリティ・データ活用に向けたデータ共有とそのジレンマの解消(川島宏一)
6.1 地域サービスをともに創る必要性
6.2 データ共有によるまちづくりの例
6.3 データ共有によるまちづくりと個人情報保護
6.4 データ共有に伴うジレンマ解消の必要性
6.5 茅恒等式
6.6 データ共有のジレンマを解消するためのフレームワーク──茅恒等式からの類推
6.7 ジレンマを解消しつつ地域課題を解決する具体的な活動事例
6.8 データ活用を社会に実装していくために
第7章 モビリティ向上は合意形成を助けるか?(大澤義明、髙瀬陸)
7.1 医療施設集約化とモビリティ
7.2 社会的最適と多数決民意との乖離
7.3 医療高度化時代の施設集約化
7.4 合意形成の観点を通した医療サービス向上
終章 新たな挑戦と仲間づくり(笹林徹)
コラム
【トヨタ×社会工学】
①産学連携ワークショップ(小渕真巳)
②産学連携での学生接点(黒須久守)
③g-RIPS Sendaiへの参加を通じて(小嶋和法)
④筑波大学における社会工学からの学び(菊池弘一)
【コラム】
①スーパーシティの街路樹問題(雨宮護)
②スマート茅葺き屋根研究拠点(山本幸子)
③つくばのスマートシティ(藤井さやか)
④つちうらMaaS(鈴木勉)
⑤パーソントリップ調査(谷口守)
⑥オープンイノベーションハブ(千葉磨玲)
⑦レゴ×CGによるデザイン思考(野口宇宙)
⑧高校生と学ぶ最適化×まちづくり(高野祐一)
⑨生徒会選挙にデジタル投票(大澤義明)
⑩公共交通のサブスク(淺見知秀)
⑪医療MaaS(堀越卓)
⑫カシマース(中田浩二)
はじめに
─必然性のあるトヨタと社会工学との共同研究
自動車業界が直面する100年に1度の大変革は、地域の生活に大きな影響を与える。本書の内容は、このターニングポイントを踏まえて2015年度から始まったトヨタ自動車と筑波大学社会工学域との共同研究の成果からなる。
販売台数で世界首位を誇るトヨタ自動車と、常に新しい社会システムの構築を追求する社会工学域との共同研究には必然性がある。社会工学は、社会課題解決や新産業創出のために、現地・現場の視点を尊重しながら数理やデータなどの客観的手法を組み込み、社会変革の実現を目指す学術分野である。現在、DX・GX、データサイエンス、文理横断・文理融合、産業界連携・地域連携が、大学を取り巻く時代の潮流となっているが、1977年に発足した筑波大学社会工学分野には、これらを先取りした半世紀の実績がある。既存組織の改組とは異なり、筑波大学発足時からすでに新構想大学の目玉として既存の枠組みにとらわれることなくゼロベースで体制を敷けたことに強みを有している。現在でも都市計画、マネジメント、数理最適化、データサイエンス、経済学を専門とする研究者50名以上が所属し、課題解決へ対応できる面的な力を保有している。学問領域の都合ではなく多様化、複雑化する社会ニーズに組織全体で対応策を考え、既成概念に拘ることなく学際により発生する化学反応を大事にしていることも筑波大学社会工学の強みである。
共同研究開始後、2017年度にはリカレント教育を意識した社会連携講座が筑波大学大学院社会工学学位プログラムに開設された。同時期に産業競争力会議において推進テーマとして「地域社会の次世代自動車交通基盤」が採択され、2019年発足のつくばスマートシティ協議会の立ち上げにも結びついた。共同研究開始後8年を経た現在でも、新しい形の産学連携を常に模索し試行錯誤の連続である。確固たる信頼関係を構築しながらも、常に緊張感のある関係を維持している。
本書のポイントは少なくとも3点にある。第一は、地方を対象としていることである。地方は移動手段を自動車に依存し、そして人口減少や財政圧迫で疲弊している。一方で、東京圏へエネルギー、食料、さらには人材まで大量に供給してきた。地方あっての東京、そして日本であり、地方の活性化は日本再生の鍵だと考える。本書は医療アクセシビリティ、シェアモビリティ、伝統的建造物群保存地区など地方ならではのテーマを含んでいる。第二に、若い世代との連携である。若い力はイノベーションを引き起こす源泉となる。また、スマートモビリティ社会は若い世代からの支持が基盤となる。執筆者陣に元学生や現役学生を多数含んでいることからも分かるように、Z世代、デジタルネイティブである学生の視点を共同研究に取り入れてきた。第三に、筑波研究学園都市という町の力である。地方でありながら、テクノロジーなど新しい考え方への社会受容性が高く、国際競争を肌で感じられる場所である。本書はつくば市と日常的に関わる執筆者陣による、つくば市とその周辺地域をフィールドとする内容を含んでいる。
本書は実務から研究まで多岐にわたる30名の執筆者による9個の章と、それらの背景や関連となる16個のコラムから構成される。読者の最も関心の高いトピックスから読んでいただくために、章ごとに完結する形で執筆している。都市計画やまちづくり、地方創生に関する一歩先の知識を習得したい、
モビリティ・イノベーションを自分の生活経験と結びつけ未来を想像したい、現実に起こっている地域現象を理論的・分析的思考で理解したい、まちづくりリテラシーを向上させたい、そのような読者の参考となるであろう。
2023年8月 大澤義明
開催が決まり次第、お知らせします。
メディア掲載情報
その他、各所でご紹介いただいています
・岩手県議会「議会図書室だより」令和6年度No.3(令和6年8月6日発行)
ほか