エネルギー・ガバナンス
内容紹介
2016年に発効したパリ協定により、世界は脱炭素へと大きくシフトした。欧州には、原発や化石燃料に依存しないエネルギー自立を目指す地域が多数ある。エネルギーを中心に据えて経済と暮らしを豊かにする「地域経営」を、政策設計・事業スキーム・組織づくりから解説。ドイツ・オーストリア・スイス・日本の先進地を多数紹介。
体 裁 A5・200頁・定価 本体3200円+税
ISBN 978-4-7615-3239-0
発行日 2018/02/28
装 丁 上野かおる
はじめに:脱炭素社会へ加速する世界
序章 地域エネルギー・ガバナンスとは
的場信敬
1 地域エネルギー・ガバナンスとは
2 本書の意味する「地域」
3 「ガバナンス」の射程
4 「持続可能な地域運営」に必要なこと
5 なぜ「協働型」なのか
6 地域エネルギー・ガバナンスを支える「社会的基盤」
1章 日本における地域エネルギー事業
豊田陽介・木原浩貴
1 エネルギー政策の変遷
1.1 3.11以後のエネルギー構成はどう変わったか
1.2 再生可能エネルギー政策の変遷、導入量の推移
1.3 省エネルギー政策の変遷
1.4 地域エネルギー政策の不在
2 エネルギー事業による地域再生
2.1 再生可能エネルギー事業による地域再生
2.2 省エネルギー事業による地域再生
3 地域エネルギー事業の状況
3.1 再生可能エネルギー事業の変遷
3.2 市民・地域共同発電所の広がり
4 地域エネルギー事業の課題
4.1 組織面での課題
4.2 経済・金融面での課題
4.3 政策面での課題
5 再生可能エネルギーのポテンシャルを活用する
2章 国内外の地域エネルギー政策・事業の事例
1 北海道下川町
―ゼロエミッション型林業と木質バイオマスによる地域熱供給
平岡俊一
2 岡山県西粟倉村
―森林資源を活用するローカルベンチャーの活躍
豊田陽介
3 滋賀県湖南市
―福祉とエネルギーを相乗する小規模分散の地域づくり
豊田陽介
4 長野県飯田市
―公民協働で地域を潤す事業のデザイン
豊田陽介
5 オーストリア・フォーアールベルク州
―野心的なエネルギー戦略を実現するステークホルダーの連携
的場信敬
6 オーストリア・フェルトキルヒ市
―暮らしの質を高めるためのエネルギー政策
木原浩貴
7 ドイツ・ヴィルポーツリード村
―売電収入で公共サービスを充実させるエネルギー自給村
的場信敬
3章 エネルギー・ガバナンスにおける地方自治体の役割
的場信敬
1 社会的基盤としての地方自治体
2 政治・行政の意志をどのように確保するか
3 地方自治体を支える専門的人材・組織
4 包括的な地域エネルギー政策を実現する条例・計画
5 事業を支援する制度と体制
6 協働のしくみをデザインする
7 広域連携のハードルの超え方
8 地方自治体の役割の変容
4章 地域エネルギー事業の担い手
木原浩貴
1 地域エネルギー・ガバナンスを担う組織
2 日本における地域エネルギー事業の推進主体
2.1 日本における推進主体
2.2 市民共同発電所の場合
2.3 自治体電力の場合
2.4 極めて少数なモデル
3 欧州の自治体公社
3.1 自治体公社とは
3.2 ミュルハイム・シュタウフェン自治体公社(ドイツ)
―二つの自治体が連携して設立
3.3 ブルネック自治体公社(イタリア)
―100年前に設立された地域インフラ企業
3.4 ヴェルグル自治体公社(オーストリア)
―地域の経済的付加価値を創出
3.5 ノイエ・ハイマット・チロル(オーストリア)
―パッシブハウス基準を満たす公営住宅の提供
3.6 自治体公社の存在意義
4 欧州のエネルギー協同組合
4.1 エネルギー協同組合とは
4.2 オーデンバルト・エネルギー協同組合(ドイツ)
―地域に仕事を生み出すプラットフォーム
4.3 ビュルガーベルケ協同組合(ドイツ)
―76の組合が連携して住民に電力を販売
4.4 エネルギー協同組合の存在意義
5 省エネルギーを支えるしくみ
5.1 エネルギー相談員ネットワーク
5.2 低所得者向け省エネルギー診断事業
6 日本での担い手の多様化と重層化に向けて
5章 欧州のエネルギー自立を推進する制度
豊田陽介
1 エネルギー政策のクオリティ・マネジメント・システム
1.1 エネルギー政策のクオリティ・マネジメント・システムとは
1.2 オーストリア:e5プログラム
1.3 スイス:エネルギー都市制度
1.4 EU:ヨーロピアン・エナジー・アワード
2 日本では実現できるか
6章 欧州の地域主体を支える中間支援組織
平岡俊一
1 地域エネルギー政策における中間支援組織の必要性
2 欧州における中間支援組織「エネルギー・エージェンシー」
2.1 エネルギー・エージェンシーの組織体制
2.2 エネルギー・エージェンシーの活動
3 ドイツの中間支援組織
3.1 気候保護エージェンシー・ハノーファー地域
―18地域の気候保護コンセプトの策定を支援
3.2 気候保護エネルギー・エージェンシー・ニーダーザクセン
―ローカルエージェンシーを補完する広域型支援組織
4 オーストリアの中間支援組織
4.1 エネルギー研究所フォーアールベルク
―州内の多様な政策・事業を支えるシンクタンク
4.2 エネルギー・チロル
―自治体のエネルギー政策プロセスへの同伴
4.3 e5プログラムを通した自治体エネルギー政策の支援
5 中間支援組織の機能
5.1 調査研究・提言機能
5.2 助言・ノウハウ提供機能
5.3 ネットワーキング・コーディネート機能
5.4 教育機能
6 中間支援組織を支える組織・ネットワーク
6.1 EU・国レベルの支援組織・ネットワーク
6.2 特定の主体に特化した支援組織・ネットワーク
7 中間支援組織の体制、活動の特徴
7.1 多様な地域主体の参加
7.2 重層的な支援体制の構築
7.3 自治体政策への積極的関与
7.4 ネットワーク形成、コーディネーター役の重視
7章 日本での中間支援の推進
平岡俊一
1 日本における中間支援組織の事例
1.1 北海道再生可能エネルギー振興機構
―120主体が立ち上げたネットワーク組織
1.2 下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部
―地域づくり事業のノウハウを地元に蓄積する
1.3 徳島地域エネルギー
―再生可能エネルギー事業のスキーム構築と共有
2 日本の中間支援組織の形態
3 中間支援組織が活動できる前提条件
4 中間支援活動を推進していくための課題
4.1 組織の整備
4.2 強化が必要な取り組み分野・機能
4.3 人材の育成
終章 地域エネルギー・ガバナンスの構築に向けて
平岡俊一
1 「社会的基盤」に辿り着いた経緯
2 地域エネルギー・ガバナンスの構築を進める上での課題
2.1 プレイヤー(担い手)の育成
2.2 参加型政策形成のプロセス
2.3 政策の実現を支援する人材・制度の構築
2.4 残された課題
脱炭素社会へ加速する世界
2015年11月30日~12月12日にかけてフランス・パリにて国連気候変更枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催された。COP21には196の国と地域が参加し、全会一致で「パリ協定」が採択された。その後アメリカや中国をはじめとする多くの国と地域が批准したことで、2016年11月4日にパリ協定は国際条約として発効した。世界は温室効果ガス「排出ゼロ」の未来に向けて、大きな一歩を踏み出した。この時、日本政府は批准手続きが遅れ11月4日の発効には間に合わず、11月8日に批准手続きを終えることになった。
パリ協定には、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満とし、1.5℃に向けて努力することや、今世紀下半期のうちに温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする中期目標を設定することが含まれている。これにより国際社会は今後温室効果ガスを排出しない社会=「脱炭素社会」を目指すことに合意したことになる。脱炭素社会の実現のためには、省エネとともに、必要なエネルギーをすべて太陽光、風力、水力、バイオマスなどの二酸化炭素(CO2)を出さない再生可能エネルギーで賄うことが必要になる。
少し前まで再エネ100%は夢物語だと思われていた。しかし、ここ10年間で再エネを取り巻く環境は大きく変わった。世界中の国々で2050年までに再エネ100%の実現が可能という研究もある(WWF(2017)ほか)。
国際環境NGOのThe Climate Groupが2014年に発足させた100%再エネによる事業活動を目的とするイニシアチブである「RE100」には、金融、IT、製造業を中心に世界の名だたる企業119社(2018年1月22日現在)が加盟している。「RE100」が2017年1月17日に発表した「2017 RE100 Annual Report」によれば、すでに100%目標に達した企業はMicrosoftやStarbucks、Swiss Postなどを含む18社に及ぶ。このほかAppleやGoogleでも100%達成間近となっている。
またCOP21では、再エネへの転換を訴える「アフリカ再生可能エネルギーイニシアチブ(Africa Renewable Energy Initiative)」が発足し、アフリカおよび途上国における再エネの加速的普及を目指すことが発表された。COP22でも途上国48カ国が再エネ100%目標を改めて掲げた。
こうした再エネ100%を目指す背景には、再エネの急速な成長とそれに伴うコストの低下と波及効果がある。2014年推計値では世界全体で再エネが最終エネルギー消費量に占める割合は19.2%となり、原子力発電(2.5%)を大きく上回る。発電量に占める割合では2015年には約24%になった。先進国では電力比率でドイツが30%以上、スペインが44%、デンマークが56%になり、なかにはパラグアイやコスタリカなど自給率が100%を超える国、地域も生まれ始めている。
国だけでなく各国の州や地域レベルでの再エネ100%に向けた取り組みも広がっており、とりわけ欧州では国や地域単位で積極的な再エネ目標が掲げられるようになっている。ドイツでは153の地域が再エネ100%の地域づくりに取り組むことを宣言している。このほかハワイ州(2045年)やバンクーバー(2035年)、シドニー(2030年)などの都市部でも再エネ100%を掲げている。
日本でも少しずつ再エネ100%を目指す流れが生まれている。都道府県では福島県が2040年に再エネ100%を、長野県では2017年度には再エネ発電設備容量で100%を達成する目標を立てている。市町村でも南相馬市が2030年頃にほぼ100%を、宝塚市が2050年に電力比率100%を掲げている。しかしながら日本全体で見れば、こうした地域はごく一部にとどまっている。
どうすれば、日本でも欧州のように地域エネルギー政策を推進できるのか。本書は、その命題を解き明かすべく、国内外の多くの地域を調査し、得られた知見をまとめたものである。
序章では、エネルギー・ガバナンスの捉え方と本書の目的を解説する。1章では日本の再エネ・省エネ政策と事業の変遷について整理し、2章では国内外の先進事例を紹介する。3章、4章ではエネルギー政策の担い手とその役割について検討する。5章では自治体政策の質を担保するしくみについて、6章、7章では知的・人的基盤を支える国内外の中間支援組織について紹介する。そして終章では地域エネルギー・ガバナンスを構築するための課題について整理する。
本書が、専門家の方だけでなく、地域エネルギー政策を担う自治体職員やNPO、事業者の方々の取り組みを後押しするものとなることを筆者一同願うものである。