サステイナブル都市の輸出
内容紹介
アジア発展途上諸都市へのインフラ輸出ビジネスが急成長中だ。既にシンガポールや韓国の進出が著しく、日本も開発援助で培った信頼関係、耐震・環境技術等、質の高いインフラ技術を活かした官民連携の整備が急務だ。北九州や横浜等の自治体及び民間の先進事例と共に、政府、行政、研究者、民間の各観点から現状と課題を総括
体 裁 A5・288頁・定価 本体3600円+税
ISBN 978-4-7615-3230-7
発行日 2017/03/27
装 丁 前田 俊平
はじめに
序章 新興国・途上国都市のサステイナビリティと都市輸出
城所 哲夫・原田 昇
0-1 サステイナブル都市をめぐる国際的潮流
0-2 新興国・途上国都市の課題
0-3 サステイナブル都市への転換と都市輸出
Ⅰ部 世界の都市整備ニーズと日本の役割
1章 日本の都市輸出戦略
和泉 洋人
1-1 我が国の都市輸出戦略
1-2 我が国における主な取り組み事例及び教訓
1-3 競合国の動向
1-4 都市インフラ輸出促進に向けた今後の展開
1-5 「質の高いインフラ」のさらなる推進
2章 都市ソリューション輸出の戦略と展望
野田 由美子
2-1 今なぜ都市ソリューションなのか
2-2 都市ソリューションをテーマに動き出した世界
2-3 日本がとるべき都市ソリューション戦略
3章 都市整備──区画整理事業を通じた貢献
岸井 隆幸
3-1 我が国都市整備手法の代表:土地区画整理事業
3-2 区画整理の国際展開・その初動期
3-3 タイに移転された「区画整理」
3-4 区画整理を巡る最近の動向
4章 スマートシティ──構想と技術移転の枠組み
野城 智也
4-1 スマートシティとは何か
4-2 スマートシティの実例
4-3 スマートシティを成立させるための技術的枠組み
4-4 スマートシティの技術移転
5章 社会基盤とインフラ輸出──支援からパートナーシップへ
加藤 浩徳
5-1 アジアにおけるインフラニーズと日本の貢献
5-2 世界のインフラ需要とインフラ整備に期待される効果
5-3 アジアのインフラ整備における日本の貢献の実績
5-4 インフラ輸出の可能性と課題
6章 都市環境と廃棄物管理──経験と技術の国際展開へ
森口 祐一
6-1 経済発展と都市環境問題・廃棄物問題
6-2 都市の廃棄物処理
6-3 廃棄物の処理処分技術とシステム・制度
6-4 廃棄物分野における国際協力と国際的活動
7章 水インフラ輸出──制度・組織・事業運営モデルの展開へ
滝沢 智
7-1 国際協力から水ビジネスへ
7-2 日本の都市人口増加と上下水道普及の歴史
7-3 水と衛生の問題に対する国際社会の取り組み
7-4 水環境分野における日本の国際協力の歴史
7-5 開発途上国の水道事業の変容:国際協力から民間資金の活用へ
7-6 国際協力から水ビジネスへ:日本の動向
7-7 質の高い水インフラの輸出に向けて
Ⅱ部 都市輸出の実際と日本の役割
8章 都市輸出における官民連携とファイナンス
野田 由美子・石井 亮・田中 準也
8-1 海外の都市開発への参画という「都市輸出」
8-2 都市開発ビジネスの雄、シンガポール
8-3 海外の都市開発ビジネス参画における日本のジレンマ
8-4 日本の都市輸出戦略の今後
8-5 都市インフラ輸出ファイナンス
9章 都市開発における国際協力──JICAの経験から
森川 真樹
9-1 サステイナブル都市に向けたJICAの取り組み
9-2 JICA による都市開発分野での支援
9-3 M/P策定を軸とした支援での教訓
9-4 支援経験を効果的に活用した都市開発分野での協力可能性
10章 防災まちづくりにおける国際協力
安藤 尚一
10-1 災害経験から得た課題と対策の整理
10-2 防災まちづくりの国際協力
10-3 最近の大災害の具体事例から
10-4 防災まちづくり分野の日本の役割
11章 環境都市を輸出する──北九州市
櫃本 礼二
11-1 都市の持続可能性と環境インフラ需要
11-2 持続可能な都市発展に関する日本の経験
11-3 北九州市の環境国際戦略
11-4 世界の均衡ある持続可能な発展に向けて
12章 都市マネジメントを輸出する──横浜市
信時 正人・橋本 徹
12-1 日本の都市輸出マネジメントの現場─横浜の経験
12-2 都市連携から都市輸出へ(G to G)
12-3 横浜市温暖化対策統括本部の活動
12-4 横浜市国際局の国際技術協力(Y-PORT事業)
12-5 これからの課題
13章 公共交通指向型開発(TOD)を輸出する
松村 茂久
13-1 新たな官民協力の枠組みによるTOD型都市開発
13-2 ベトナムにおける都市開発マーケット ~経済発展と都市化の現状~
13-3 ODAと連動させた官民一体となった都市開発事業推進の仕組み
13-4 ホーチミン市におけるTOD型都市開発事業の推進
13-5 新たな官民協力の仕組み
14章 都市づくりを担ってきた日本企業の海外進出の現状
瀬田 史彦
14-1 都市づくりを担う日本企業の海外進出
14-2 業種別の状況
14-3 東京五輪後に向けて
おわりに
索引
「第二期東大まちづくり大学院シリーズ」の刊行にあたって
都市輸出という耳慣れない言葉を目にして戸惑いを覚えた方も多いと思う。しかし、一度でも、アジア都市を訪れたことがある方であれば、新興国・途上国の巨大都市ではまさに都市輸出というべき都市化が進行していることを実感として理解していただけるのではなかろうか。
ここで言う都市輸出とは、もちろん、例えば東京のような特定の都市がまるごと輸出されるという意味ではない。新興国・途上国の都市では、自動車やスマホ、生活製品は言うに及ばず、巨大ショッピングモールからコーヒーチェーン、コンビニ、文化ソフトのような、直接、目に触れるモノやサービスにとどまらず、近年では、鉄道、水道、情報などのインフラ・都市サービスから大規模オフィス・マンション開発等の都市開発に至るまで、先進国企業の技術・資本投資が、日々、存在感を増している。これらの製品や技術、サービス、都市開発は普遍的な意味でのモノやサービスではなく、先進国都市のライフスタイルや都市のあり方、価値観を体現したものである。その意味で、まさに、先進国の都市から新興国・途上国へ、さらには、最近では、中国のような新興国の都市から新興国・途上国の都市へと、まさに都市そのものとも言えるモノやサービスの輸出が進行しているのである。
このような都市の輸出には、ポジティブな側面とネガティブな側面がある。急速な都市化が進行する新興国・途上国の都市では、そこで生まれる膨大なインフラ整備需要を満たすために官民連携(PPP:Public-Private Partnership)のもとでのインフラ整備は必須であり、そこでは外国資本投資が重要な役割を果たしている。また現代都市に求められる機能を支えるためには先進国企業の有するハード・ソフト両面にわたる先進的技術・ノウハウが欠かせない。先進国企業、さらには、最近では、新興国企業にとっても膨大なビジネスチャンスが広がっており、Win-Winの関係のもとでポジティブな成果が生まれている。一方で、あまりに急速な都市化が進んでいることから、目先の利益のみに囚われた開発が進められ、将来に禍根をのこすような都市開発が進んでしまっている例も多い。本書が、サステイナブルな都市の輸出の重要性を強調する所以である。
すなわち、現在、まさに進行しつつある都市輸出を、いかにサステイナブルな都市形成に役立てていくのか、言い換えれば、サステイナブルな都市を目指す新興国・途上国都市と、技術・ノウハウを輸出し、同時に資本投資を行う先進国や新興国の企業とのWin-Winの関係をいかに築き上げていくかについての戦略と展望を示すことが求められている。この点に本書のねらいがある。
翻って、ポジティブな意味での都市輸出を進めることは、日本の都市にとってもプラス面が大きい。直接的には、日本の都市自治体が、新興国・途上国都市に対して、立地企業とともに、積極的に都市整備や都市経営を支援することで、立地企業のビジネスチャンスを拡大したり、都市のブランド価値が高まることでインバウンド観光や企業投資に結びついたりする可能性が拡大するというような効果が期待できる。
加えて、日本のまちづくりへフィードバック効果も大きい。すなわち、サステイナブルな都市の輸出に向けて、日本の都市づくりの制度、技術、ノウハウを体系的に整理し、新興国・途上国都市への適応可能性を当該国都市の政策担当者、専門家、実務家、研究者とともに検討するプロセスを通じて、日本の都市づくりの双方向的相対化がなされることで日本の経験や制度の特殊性と普遍性、利点と弱点があぶり出され、今後の日本の都市づくり・まちづくりに生かしていくことができるのではなかろうか。
本書は、以上のような問題意識のもとで、サステイナブルな都市の輸出に関わる重要なテーマ群を設定し、それぞれのテーマについて第一線の政策担当者、実務家、研究者に執筆をお願いしたものである。編集に当たっては、インフラ輸出や海外における都市開発等、都市輸出の実務に携わっている(あるいはこれから携わるであろう)方々や本テーマに関心のある研究者や学生の方々に都市輸出に関する体系的な見取り図を提供すると同時に、具体的な事例を多く挙げることで実践的にも役立つものとなるよう心がけた。
本書が、サステイナブルな都市の輸出に関する広範な関心と議論を喚起するものとなるならば、編集者の一人として望外の喜びである。
2017年2月
城所 哲夫
2007年に設立された社会人大学院である東大まちづくり大学院、通称「まち大」は、学術的な教育・研究という基本的なスタンスを保ちながら、最新のまちづくりの動向を、講義・演習やセミナーで取り上げ、外部の専門家を多く招き知見を深めてきた。まち大を運営する都市持続再生学寄付講座は、のべ20社近くの寄付企業の寄付によって支えられてきた。これまでまち大の運営にご協力頂いた全ての個人や企業・組織の方々に、厚く御礼を申し上げたい。
本書は、「東大まちづくり大学院シリーズ」の5番目の刊行物となるが、今回新たに書籍全体として国際化・グローバル化を取り上げたことには特別な意味がある。これまでまち大では、海外の事例を研究・調査し参考にすることは多くても、フィールド自体を国外に設定することは、まれであった。もっぱら日本の都市づくりが抱える課題・問題を、さまざまな切り口で報告・議論してきた。
しかし今や、日本の都市づくりも国際化・グローバル化と切っても切り離せない。まちづくりの需要が、これから成長し都市が拡大していくアジアをはじめとした新興国・途上国でより大きくなっていることは、否定できない。日本のまちづくりの仕組み・手法・ノウハウが、国外の他の都市でも有用なユニバーサルなものなのかが、本格的に試され、評価されようとしている。
そしてその評価は、日本の都市自身にも跳ね返ってくるだろう。世界の都市が比較され優劣が評価される傾向が強まっている。機能だけでなく、住みやすさ・心地よさといった要素も含めて、世界基準で評価される時代になっている。
できれば、日本の都市づくりのすばらしさが、日本人の単なる思い込みではなく、世界の都市生活を向上させることを示したい。そのためには、実務者も研究者も、海外に出て日本の制度・技術・ノウハウを伝え続ける必要があるだろう。
「サステイナブル都市の輸出」は、このような努力によってはじめて達成されるものと考えられる。まち大もそのことに貢献できればと願ってやまない。
最後に、本書の企画から刊行までご尽力頂いた学芸出版社の井口夏実さんに、監修者・編者・著者を代表して深く感謝の意を表したい。
2017年2月
瀬田史彦