狭小地3・4・5階建て住宅の設計法

大戸 浩・森川貴史 著

内容紹介

二世帯居住、都心居住が注目される今、特殊条件が多い都心の狭小地でいかに設計施工を行うか。本書は、法規制、構造の制約、耐震・耐火への対応や環境設備面の工夫、施工時に配慮すべき点など、狭小地中層住宅設計のノウハウを50のキーワードで網羅。多数の写真と事例により木造・鉄骨・RC造それぞれのポイントを解説する。

体 裁 B5・144頁・定価 本体3500円+税
ISBN 978-4-7615-3219-2
発行日 2015/09/15
装 丁 フジワキデザイン


目次著者紹介はじめにおわりに
はじめに

1章 都市型住宅としての狭小地3・4・5階建て住宅

1 都心の魅力再発見
2 都市型住宅のスタイル
3 狭小地3・4・5階建て住宅とは
4 狭小地住宅のデザイン手法
5 狭いからこそ、皆と楽しく住む
6 2世帯住宅の相続税優遇制度
7 木造密集市街地の不燃化

2章 設計のルールとポイント

狭小地住宅 設計から工事完成までのフロー図

Step 1 準備段階の要点

設計に入る前に

01 事前に建て主へ伝えること
02 建て主から何を聞くか
03 ウェブから建築情報を得る
04 現地調査で何を見るか
05 設計監理契約までの流れ

Step 2 基本的条件の整理

法規のチェック

06 防火・準防火地域の制限
07 耐火・準耐火建築物
08 階数による制限と緩和
09 防火地域の木造2階建て
10 前面道路と狭小地住宅の関係
11 道路斜線を緩和する天空率
12 形態を制限する日影規制と高度地区
13 隣地境界線と民法第234条の関係
14 2世帯住宅の形態と建築用途
15 その他関連法規について

構造や工法の検討

16 狭小地住宅の構造計画
17 地質調査の方法
18 東京下町の地盤について
19 地盤改良工法のいろいろ
20 杭工法のいろいろ
21 耐火建築物も可能な木造
22 狭小地住宅で一般的な鉄骨造
23 耐火性や遮音性に優れたRC造
24 各構造形式を比較する
25 外壁工法と外部足場

Step 3 狭小地住宅の設計法

計画の基本

26 1階とまちをつなげる
27 階段は住宅の中心
28 ホームエレベーターの考え方
29 屋上利用か屋根か
30 地下室の条件
31 2世帯住宅の相続税優遇制度
32 賃貸併用住宅と事業計画

デザインのバリエーション

33 狭さを克服するデザイン
34 広がりを感じさせるデザイン
35 自然を取り込む
36 外部環境と向き合う
37 まちに開くスペース
38 まちへ投げかけるデザイン
39 リノベーションという住み方

設備のアイデア

40 設備機器の置き場
41 狭小住宅の省エネ設計

Step 4 工事段階の注意点

工事段階のポイント

42 隣接建物が迫るとき
43 狭小敷地と重機の関係
44 土工事のいろいろ
45 鉄骨工事の流れ
46 RC工事の流れ
47 完成後に出やすい諸問題
48 BBSやSNSの活用
49 職人を表舞台に
50 住まいの見学会

3章 設計事例

01 4階LDKと屋上がつながる住宅――SB HOUSE
02 運河に面した3世帯大家族の住宅――KI HOUSE
03 敷地9坪の生花店併用2世帯住宅――AB HOUSE
04 地下ピアノスタジオ付RC住宅――KT HOUSE
05 小テナントビルの住宅コンバージョン――BT HOUSE
06 商店街に建つ4階建て2世帯住宅――KM HOUSE
07 オーナー住宅付5階建てテナントビル――FJ HOUSE
08 狭小間口の2世帯RC住宅――TD HOUSE
09 見せる収納で楽しく住む狭小木造住宅――NA HOUSE
10 防火地域に建つ木造耐火3階建て住宅――KY HOUSE

4章 完成までのプロセス

狭小間口の鉄骨造5階建て2世帯住宅――TG HOUSE
おわりに

大戸 浩(おおと ひろし)

1954年神奈川県横須賀市生まれ。1978年福井大学工学部建築学科卒業。渡辺豊和建築工房、大野建築アトリエを経て1989年建築計画網・大系舎1級建築士事務所設立、現在に至る。 東京の都心部や下町地区を中心に、都市型住宅の設計に多くの実績を持つ。 主な著書には、「なぜ、ウェブに強い設計事務所は家づくりが上手いのか」(共著/エクスナレッジ)、「使える!内外装材[活用]シート」(共著/エクスナレッジ)、「サクッとわかる鉄骨造のつくり方」(共著/エクスナレッジ)など。

森川貴史(もりかわ たかし)

1974年東京生まれ。1998年工学院大学工学部卒業。2001年スペースデザインカレッジ卒業。2003年建築計画網・大系舎入所、現在に至る 一般住宅の設計の他、コンバージョンなどのリノベーション設計や、ウェブ・デザインも手掛けている。 主な著書には、「なぜ、ウェブに強い設計事務所は家づくりが上手いのか」(共著/エクスナレッジ)、「使える!内外装材[活用]シート」(共著/エクスナレッジ)など。

本書は、都市部の狭小地に建つ3・4・5階建て住宅(以下狭小地住宅)の設計を行うための解説書である。建築される住宅の敷地は、都心や下町などでは、一般的な10坪(33m2)から20坪(66m2)程度の広さの狭小敷地を想定している。

このような都市部の狭小敷地に、戸建て専用住宅や併用住宅を設計するために必要な、設計監理契約までの流れ、建築法規、建築構造・工法、建築計画・デザイン、建築工事などの要点を、50のキーワードとして取り上げ、設計の流れに沿って詳しく解説している。

特に住宅の構造形式に関しては、木造、鉄骨造、RC造を横断的に扱っているので、具体的な設計において構造を検討するシーンでは、各構造形式を比較対照しながら、最良の構造形式が選択できるように配慮した。また後半では、多くの実例を通じて、これらのキーワードが実践的に学べる構成とした。

ところで本書で詳しく解説する都市型の狭小地住宅は、一般的な郊外型住宅と多くの点で異なっている。最も大きな違いは、都市型の狭小住宅の原型は町屋が原点になっているのに対して、郊外型住宅は、一戸建ての邸宅が原型となっていることである。

町屋は、その住宅が集合するまちと常に関わりながら、まちと表裏一体で発展してきた住居形式である。一方の庭付き一戸建ての郊外型住宅は、一般的には周囲のまちとはあまり関係を持たずに、敷地の中で自己完結したデザインが求められる点が、町屋を原点とした都市型の狭小地住宅との大きな違いである。

そのため、都市型狭小地住宅のデザインにおいては、まちと住宅の関係に注目して設計を進めることで、失われつつある、住宅とまちとの良好な関係を取り戻す契機になるのではないだろうかと考えている。
その意味では、曲がり角に立っている都市型住宅の今後は、空き家住宅のリノベーションや、老朽化した住宅などの建て替えが混在する形で進行すると思われるが、どちらにしてもまちと住宅の新たな関係のビジョンを常に持って設計が行われるべきだ。

日本の人口は、2008年をピークに減少をはじめている。また東京都の人口も2020年をピークに減少をはじめると予測されている。

人口の減少やそれに伴う空き家問題がクローズアップされているが、区市町村ごとに詳細をみていくと、一部の区部では、2035年においても人口が増え続けると予測される地域がある。この地域は、都心や下町と呼ばれる活気あふれる地域であり、人々がこれらの地域に住むことを望む傾向が強くなっていることを示している。

また、この地域は、戦後の高度成長期にできた木造住宅密集地と重なる部分が多い。

この木造住宅密集地では、防災の観点から耐震性能や防火性能が優れた住宅に建て替える必要がある。そのため、東京都では、これらの木造住宅の密集地域を「木密地域不燃化10年プロジェクト」の中で、不燃化推進強化地域として指定している。また、大阪府も同様に、密集市街地整備を積極的に進めている。今後これらの地域では、住宅の建て替えが促進することが予想されるが、本書で解説している都市型狭小地住宅は、そのモデル住宅となるものである。

高度成長期に比べて、人々が比較的自由に居住地や住宅形式を選択できる時代は、すぐそこまで来ている。そのため住まいの場所として魅力的な、都心や下町に人々が集まることが予想され、新しい時代に対応した都市型狭小地住宅が求められている。本書をそのような新しい都市型狭小地住宅を設計するための参考書として、ぜひ活用してほしいと思う。

この10年ほどの間に、都心や下町の狭小地に、3・4・5階建ての都市型の戸建て住宅を設計する機会が増えてきた。

このタイプの住宅の設計を通じて感じることは、一般的な郊外型の住宅設計と、多くの面で異なっていることである。その異なっている点こそが、都市型住宅としての特質であり、それをきちんまとめてみたいと思ったのが、この本を書く一番の動機であった。

また近年は、住宅がまちとは無関係につくられ続けているという点が、住宅設計者として非常に居心地が悪いと感じていた。このような住宅とまちとの不幸な関係は、現代の住宅が陥っている大きな問題点であると感じている。

その理由の一つは、高度成長期には、住宅を大量生産するために、特定の地域やまちとは切り離し、汎用性が高いデザインにする必要があったことが一つの要因だと考えている。本来、まちと住宅は、切り離して考えるべきことではなく、一体のものであるという考え方が必要な時代になっているとつくづく思う。

都市型の狭小地3・4・5階建て住宅の設計においては、まちと切り離して考えることができないと言う点で、まちと住宅の関係を、再び考えるためのきっかけになるのではないかと感じている。

また、本書の内容の後半では、工事段階におけるウェブを使った家づくりのコミュニケーションの方法についても触れている。これは、住宅設計において、出来上がった住宅と同様に、家づくりのプロセスも重要であると考える著者の独自の考えから、本書のコンテンツに加えたものである。

なお、本書のルーツを辿ると、大戸が設計修業時代に在籍していた大野建築アトリエにて、都市型住宅の開発や設計に携わったことであり、その経験が現在に繋がっている。その意味で所長の建築家・故大野勝彦氏には感謝の意を表したい。

最後に本書の住宅写真の多くを、独自の視点で撮影していただいた写真家の飯村昭彦氏には、特に感謝したい。飯村氏の写真には、住宅と住人の一体的な姿が描写されており、建築家の手が及ばない、住まいのリアリティを見事に切り取ってくれている。

また、都市型の戸建て住宅の設計に関してご理解をいただき、本書を執筆する機会をつくっていただいた元学芸出版社の村田譲氏には大変感謝している。学芸出版社の中木保代氏には、初期の構想段階から的確なアドバイスを多くいただいた。そのおかげで、ようやく本書が完成したといってもよい。あらためて、この場を借りて感謝の言葉を述べたい。