都市エネルギーシステム入門
内容紹介
断熱など基本的な技術からコジェネレーション、スマートグリッド等の最新技術を含め、全体として効率が良くバランスの良いシステムを、建物、街区レベルでいかに作り上げるか、需要のあり方も含め基礎から解説。行政・都市・建築・機械・ガス・電気・情報・エネルギーの分野を横断した教科書。技術者・政策関係者必読の書
体 裁 A5・264頁・定価 本体3100円+税
ISBN 978-4-7615-3211-6
発行日 2014/09/01
装 丁 上野かおる
第1章 都市エネルギーシステムとは何か?
1.1 「どのエネルギーを使うか?」を議論する前に
1.2 エネルギーシステムの理想像に関するいくつかのコンセプト
1.3 都市エネルギーシステムを見る三つの視点
第2章 都市のエネルギー需要をデザインする─都市エネルギーシステムの全体像
2.1 都市エネルギーシステムの要素と構成
2.2 都市エネルギーシステム計画の手順
第3章 エネルギーシステムの基礎33
3.1 国土のエネルギーシステムと都市エネルギーシステム
3.2 需要側でのエネルギー量表示法
3.3 二次エネルギーの種類とその供給システム
第4章 エネルギーサービスとライフスタイル
4.1 エネルギーサービスとは何か?
4.2 東日本大震災後の節電行動に学ぶ
4.3 省エネライフスタイルにどこまで頼れるか?
4.4 これからのエネルギーサービス
第5章 熱エネルギーの技術
5.1 熱需要の発生メカニズムとその供給方式
5.2 熱力学の基礎
5.3 熱を作る装置
5.4 都市に賦存する熱源
第6章 家庭部門のエネルギー消費とその改善シナリオ
6.1 家庭のエネルギー消費の成り立ち
6.2 シミュレーションによる都市・国レベル対策効果の試算
6.3 家庭の低炭素化を如何に進めるか
第7章 業務部門・中心市街地のエネルギー消費とその改善シナリオ
7.1 業務建物の特性
7.2 業務建物のエネルギーシステム
7.3 エネルギーの面的利用と地域冷暖房
7.4 街区の長期エネルギーシステム改善シナリオ
7.5 都市全体の業務部門エネルギーシステム改善シナリオ
第8章 エネルギーシステムと都市
8.1 都市におけるエネルギーマネジメントとは?
8.2 まちづくりの中に低炭素を埋め込む
第9章 情報化と都市エネルギーマネジメント
9.1 情報通信機器の普及と都市におけるエネルギー消費の変化
9.2 ライフスタイル・ワークスタイル・ビジネスの変化とエネルギー消費
9.3 スマートグリッドとエネルギーマネジメント
9.4 スマートグリッドの実例と課題
第10章 自治体政策としての低炭素まちづくり
10.1 公営エネルギー企業の大胆な取り組み
10.2 日本の自治体が行いうる政策
10.3 都市におけるエネルギー消費構造の把握
10.4 超長期のビジョンづくり
10.5 これからの都市エネルギーシステム
21世紀は、環境問題の深刻化と人口の都市集中が同時に進行する時代であるといわれている。したがって、地球温暖化問題をはじめとする環境とエネルギーの問題についても、都市という場においてこれらの問題にどのように対応していくかが重要な課題となる。
このような時代の要請の中で、「都市エネルギー」という言葉が、学会の研究分野の名前や企業の部署の名前など、いろいろなところで日常的に使われるようになってきている。筆者が調べた限りでは、日本建築学会において、1970年前後より地域冷暖房など都市設備を扱う研究が盛んになる中で「都市エネルギー」という言葉が見られるようになっている。また、大阪大学の毅一郎名誉教授にご教示いただいたところでは、先生ご自身が1990年に科学研究費の領域名に「都市エネルギーシステム」という言葉を使われたのがこの言葉の用いられた最初ではないかということであった。
人々の暮らしの舞台である都市をいかにして省エネルギー・低炭素型に転換していくのかを考えるうえでは、建築設備・建築環境、建築計画、都市計画、衛生工学、機械工学、電気工学、情報工学、また関連する人文・社会科学などさまざまな分野にまたがる学際的な取り組みが必要である。特に近年「スマートコミュニティ」が話題になり、この分野にさらにいろいろなバックグラウンドを持つ研究者・技術者が加わってくるようになった。また、国や自治体のエネルギー・環境政策の中でも、都市を単位としたエネルギーマネジメントの問題が中心的な課題として論じられるようになってきた。
筆者は勤務先において、「都市エネルギーシステム」という名前の研究室を担当しており、この分野の教育・研究に携わる中で、新しい研究領域として、この分野のしっかりした定義と、そのシステムとしての全体像を示す必要性を感じてきた。そこで本書は、「都市エネルギーシステム」に対する筆者なりの定義と、低炭素化に向けた具体的な改善の方策、そのためのマネジメントの手法を示し、民生分野における都市のエネルギー問題の解決に関心のある、行政、産業界、学界でさまざまな分野に属する専門家、学生、さらには環境問題に関心の高い市民に対する入門書となることを目指して執筆した。ただし、上記の各分野に関する工学的基礎事項については省略しているところも多いので、必要に応じてそれぞれの入門書を参照していただきたい。
本書によってより多くの人々がこの分野に関心を持っていただき、今後の都市の省エネルギー・低炭素化の進展のための何らかの参考になれば幸いである。
環境工学という境界領域分野の教育・研究に携わる中で、自分の研究領域を定義し、それを書籍としてとりまとめたいという希望は2001年に米国に留学していたころからずっと持ち続けていた。本書で図2・1として示した都市エネルギーシステムの全体図も、この留学中に試作したのがはじめである。その後、自分の所属が環境・エネルギー工学に改組され、「都市エネルギーシステム」という研究室を担当するようになり、また地球温暖化対策への関心が高まる中、その思いをさらに強くしていたが、本格的に執筆に取り組む気持ちになったのは2011年の東日本大震災以降のことである。原子力発電所の長期停止による節電の議論、中長期のエネルギー計画の議論の両面で、エネルギーの需要側をシステムとしてとらえ、都市というまとまった単位で、供給側と同じ土俵でその将来を議論していくことの重要性を強く感じたためである。しかし、2012年のはじめに構想をとりまとめてから完成に至るまで、2年半かかってしまったのは、私の能力不足もあるが、当初の予想以上にこの分野を包含する内容が膨大であったことが原因である。
私の担当する研究室を「都市エネルギーシステム」と名付けられた、大阪大学の水野稔名誉教授には、学生時代以来ご指導いただき、今回も、草稿の全体に目を通し、先生が以前より提唱されているデマンドサイドエンジニアリングの観点から数々の有益なご助言をいただいた。大阪大学の鈴木胖名誉教授、毅一郎名誉教授には、筆者がエネルギーシステムの分野に視野を広げるきっかけを作っていただき、研究会などで長くご指導をいただいている。また、2001年の春から秋にかけて、私の留学を受け入れてくださった米国ローレンスバークレー国立研究所のアラン・マイヤー博士には、本書の内容を構成する数々の研究の着想を得る貴重なチャンスと助言を与えていただいた。
第6章より第9章にかけて引用した数多くの研究成果は、この10年ほどの間に研究室に在籍した教員・学生諸氏との共同研究によるものである。特に、第7章の後半に記載した街区や都市単位の業務部門エネルギーシミュレーションは山口容平助教が博士課程学生の頃より続けてきた研究成果をベースにしている。研究室で使用しているシミュレーションモデルは年々改善され、精度を上げており、また関連機器の効率も変化しているので、本来今回の執筆に当たってすべての計算をやり直すべきであったが、膨大な作業が伴うため、やむなく各論文の発表時の数値をそのまま利用した。今後の研究発表の中で最新の値を公開していきたい。
さらに本書の内容のいくつかは、筆者がこの10年ほどの間に参加した数々の研究プロジェクト、学会、研究委員会、研究会などでの討議の内容に多くのヒントを得ている。これらを主宰・参加された先生方、関係者の皆様に御礼を申し上げたい。
本書の出版に当たっては、学芸出版社の前田裕資氏にいろいろと無理をお願いし、同社の越智和子氏には編集作業に多大な努力をいただいた。
最後に、本書の執筆を支えてくれた家族に感謝します。
2014年7月
下田吉之