人口減少時代における土地利用計画

川上光彦・浦山益郎・飯田直彦 他編著

内容紹介

開発と縮小、保全のマネジメントを提案する

都市縮小(スマートシュリンク)の時代。無秩序に広がってしまった都市周辺部の生活を維持し、質を高める方策はあるのか? 市街化調整区域、都市計画区域外など、コンパクトシティ政策で忘れられがちな周辺部へ、開発と縮小、保全のマネジメントを提案する。研究者・行政担当者・計画系コンサルタントが結集した渾身の一冊。

体 裁 B5変・176.0頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3186-7
発行日 2010-08-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


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目次

序章 土地利用計画制度の現状と課題/川上光彦

1 都市周辺部の土地利用計画制度概観
2 本書の構成とねらい

第1部 持続可能な都市の形態と周辺部の課題

第1章 低炭素型都市における持続可能な都市形態と周辺部/海道清信

1 持続可能な都市を目指して
2 低炭素型都市への注目
3 名古屋市低炭素都市戦略と都市構造
4 わが国における集約型都市構造の計画タイプ
5 欧米における集約型都市構造政策と計画
6 低炭素型都市構造に向けた土地利用の再編

第2章 交通行動から考える都市周辺部の土地利用/谷口 守・橋本晋輔

1 「選択」と「集中」の時代
2 課題の俯瞰と都市周辺部の位置づけ
3 地区レベルでの検討
4 交通行動から再構築した都市周辺部
5 交通面から探る持続可能な都市形態

第3章 都市周辺部のあるべき土地利用計画とその実現/中出文平

1 都市周辺部の土地利用の計画を考える視点
2 市街化区域の拡大
3 用途白地地域の問題点
4 都市計画区域外の開発への対応
5 不連続な都市計画規制への対応
6 求められる都市計画区域の新設・拡大

第4章 用途地域外における適切な土地利用管理のために必要なこと/明石達生

1 2つの正反対の主張
2 農地法だけで都市の拡散を防げるか?
3 3411条例が持つ可能性
4 韓国の土地適性評価からの示唆
5 適切な土地利用管理に必要な科学的調査

第5章 景観計画による都市周辺部における土地利用管理の総合化/小浦久子

1 連動する土地利用と景観
2 景観計画による都市周辺部での対応可能性
3 景観計画による開発調整の仕組み
4 景観計画による総合的土地利用管理の可能性
5 市街地再編を調整する空間計画へ

第6章 基盤施設の整備経営から見た都市周辺部の土地利用計画/飯田直彦

1 関係が深い土地利用と基盤施設
2 規制と基盤整備の関係
3 基盤整備の財源である税と起債の性格
4 各種都市基盤の整備と維持管理の分担のあり方
5 基盤施設整備と都市的土地利用のあるべき前後関係
6 基盤整備計画と関連づけた土地利用計画

第7章 まちづくり条例による都市周辺部の土地利用の計画と管理/浦山益郎

1 都市周辺部における土地の利用と管理
2 土地利用管理におけるまちづくり条例の役割
3 事前協議を通じた開発管理の仕組み
4 住民合意の計画による利用管理
5 都市周辺部における土地利用の計画と管理の展望

第8章 郊外住宅地の維持更新の条件と取り組み方策/勝又 済

1 人口減少社会における郊外住宅地の変化
2 郊外住宅地の維持更新の条件
3 郊外既成ミニ開発住宅地に期待される「定住性」
4 「定住性」を高めるための方策

第9章 都市周辺部における農地の保全・利活用・管理/大橋南海子

1 新しい「農のアーバンフォーム」の必要性
2 「農」のアーバンフォーム・マネジメント
3 今後の展開に向けて

第10章 線引きによる都市周辺部の発展と農地課税のあり方/阿部成治

1 線引き制度の登場と宅地供給
2 都城市における線引きの人口制御効果の検証
3 香川中央都市計画区域の線引き廃止と坂出市
4 市街化区域農地への宅地並み課税と市街地整備
5 「農地に準じた課税」がもたらす諸問題
6 都市周辺部の持続的発展と農地課税のあり方

第2部 都市周辺部の土地利用計画制度の現状と課題

第11章 市町村合併を通して見る都市計画区域のあり方/山口邦雄

1 再編が必要な都市計画区域
2 都市計画区域指定に係る歴史的経緯
3 市町村合併による都市計画区域の変化
4 区域再編の取り組み
5 今後の都市計画区域のあり方

第12章 開発許可制度をマネジメントする都市計画マスタープラン/飯田直彦

1 市街化調整区域に土地利用方針が要る理由
2 市街化調整区域でのきめ細かい開発許可制度
3 モニタリングの必要性
4 都市計画マスタープランへの期待

第13章 都市周辺部における大規模商業施設の立地規制と誘導/姥浦道生

1 大型店立地コントロールの法制度とその運用状況の俯瞰
2 基礎自治体レベルの対応
3 広域レベルの対応
4 効果的な商業施設の立地コントロールに向けて

第14章 コンパクトな都市構造の実現に向けた中活認定都市の土地利用規制/川﨑興太

1 コンパクトな都市構造を目指す中活認定都市
2 中活認定都市における土地利用規制の実態
3 中活認定都市における土地利用規制の課題
4 都市周辺部における土地利用計画・規制制度の展望

第15章 市街化調整区域における地区計画による規制と誘導/浅野純一郎

1 市街化調整区域における地区計画とは
2 ロ型地区計画の運用実態と課題
3 地区計画による土地利用マネジメント~福岡県久山町~
4 市街化調整区域地区計画の可能性

第16章 開発許可条例による市街化調整区域での規制と誘導/松川寿也

1 住民参加型土地利用計画を実現する開発許可条例
2 線引きによる影響を緩和する開発許可条例
3 開発許可条例を見直す取り組み
4 制度改正後の開発規制と誘導方策のあるべき姿

第17章 まちづくり条例と法制度の連携・補完による土地利用の規制・誘導/松川寿也

1 土地利用調整系のまちづくり条例とは
2 まちづくり条例と連携・補完する都市計画制度
3 農業側の土地利用調整手法を支援するまちづくり条例
4 土地利用調整系まちづくり条例の可能性

第3部 自治体による都市周辺部への新しい取り組み

第18章 青森市~コンパクトシティのこれまでとこれから~/海道清信

1 三層構造のコンパクトシティ
2 青森市が講じたコンパクトシティ施策
3 コンパクトシティ・青森のこれから

第19章 富山市~串と団子型コンパクトシティへの取り組み~/中出文平

1 都市計画マスタープランの考え方
2 公共交通沿線居住推進地区と都心地域の整備
3 LRTの整備と富山地方鉄道富山軌道線の強化

第20章 松本都市圏~市町村合併を契機とした線引き制度への対応~/中出文平・松川寿也

1 線引き都市計画区域を超える開発
2 都市計画区域再編に向けた取り組み
3 都市計画区域再編後の土地利用制度の構築

第21章 埼玉県内28市町~暫定逆線引き地区それぞれの選択~/飯田直彦

1 暫定逆線引き地区の設定とその廃止
2 土地区画整理事業で市街化区域に編入(選択肢①)
3 地区計画で市街化区域に編入(選択肢②)
4 市街化調整区域の継続(選択肢③)
5 選択に伴うアフターケアとモニタリング

第22章 札幌市~都市内部の充実と周辺部の生活維持を目指した計画的誘導~/星 卓志

1 人口急増期における計画的市街地整備
2 市街化調整区域の土地利用コントロール
3 今後の課題と取り組み

第23章 兵庫県~市街化調整区域における条例による土地利用コントロール~/姥浦道生・難波 健

1 条例の背景と仕組み
2 特別指定区域の指定の実態と課題
3 開発の誘導効果~小野市を事例として~
4 開発コントロール制度の課題~小野市の運用から~

第24章 金沢市~独自条例による都市周辺部の土地利用の規制・誘導~/川上光彦・木谷弘司

1 条例制定の背景
2 金沢市の独自条例(まちづくり条例)の概要
3 まちづくり条例による規制・誘導の課題と展望

第25章 四日市市~市民と行政が合意した計画による都市周辺部の土地利用調整~/浦山益郎・稲垣圭二

1 都市周辺部における土地利用問題
2 都市周辺部問題への対応策としての3条例
3 市民が作成した構想から都市計画マスタープラン地域別構想への翻訳
4 地域別構想の実際~既成市街地と市街化調整区域の事例~
5 市民と行政が合意した計画による土地利用管理

結章 持続可能な都市周辺部の再編に向けて/浦山益郎・飯田直彦・姥浦道生

1 持続可能なアーバンフォームの実現
2 土地利用コントロール手法の戦略的利用
3 都市周辺部の土地利用マネジメントのポイント~開発管理と利用管理~
4 土地利用マネジメントの主体形成

明石達生(あかし たつお) ……………第4章

国土交通省国土技術政策総合研究所都市計画研究室長。博士(工学)。1961年東京生まれ。1984年東京大学都市工学科卒業。建設省(現国土交通省)入省。主に都市計画行政を担当して現職。2007年から3年間東京大学教授(まちづくり大学院)を兼務。

浅野純一郎(あさの じゅんいちろう) ……………第15章

豊橋技術科学大学建築・都市システム学系准教授。博士(工学)、一級建築士。1968年岐阜県生まれ。豊橋技術科学大学大学院修士課程修了。2008年より現職。著書に『中心市街地再生と持続可能なまちづくり』(共著、学芸出版社)、『地域・都市計画』(共著、鹿島出版会)など。

阿部成治(あべ じょうじ) ……………第10章

福島大学人間発達文化学類教授。工学博士。1948年生まれ。1972年京都大学大学院修士課程修了。都城工業高等専門学校助教授などを経る。著書に『大型店とドイツのまちづくり』(学芸出版社)、『欧米のまちづくり・都市計画制度』(共著、ぎょうせい)など。

飯田直彦(いいだ なおひこ) ……………第6、12、21、結章

建築技術教育普及センター。筑波大学客員教授。1980年東京大学大学院修了。建設省、建築研究所などを経る。著書に『建築ストック社会と建築法制度』(共著、技報堂出版)、『条例による総合的まちづくり』(共著、学芸出版社)など。

稲垣圭二(いながき けいじ) ……………第25章

四日市市都市計画課政策グループリーダー。1961年生まれ。1987年中央大学大学院土木工学科修士課程修了。同年、四日市市役所入所、道路、下水道、港湾関連部署、中部地方整備局港湾計画課などを経て、2008年より現職。

姥浦道生(うばうら みちお) ……………第13、23、結章

東北大学大学院工学研究科准教授。博士(工学)。専門は土地利用計画論。2003年東京大学大学院博士課程満期退学。豊橋技術科学大学COE研究員、大阪市立大学助手等を経て、2008年4月より現職。

浦山益郎(うらやま ますろう) ……………第7、25、結章

三重大学大学院工学研究科教授。工学博士。1978年名古屋大学大学院博士課程中退。主な社会的活動として、三重県建築審議会会長など。著書に『都市近郊土地利用事典』(共著、建築知識)、『ラーバンデザイン―「都市×農村」のまちづくり』(共著、技報堂出版)など。

大橋南海子(おおはし なみこ) ……………第9章

(株)まちづくり工房代表。工学博士、技術士、一級建築士、区画整理士、都市農地アドバイザーなど。(社)全日本土地区画整理士会、(財)神奈川県市街地整備支援センター、(財)都市経済研究所理事など。

海道清信(かいどう きよのぶ) ……………第1、18章

名城大学都市情報学部教授。博士(工学)、一級建築士。1948年金沢市生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了後、地域振興整備公団に20年間勤務。著書に『コンパクトシティ』『コンパクトシティの計画とデザイン』(学芸出版社)など。

勝又 済(かつまた わたる) ……………第8章

国土交通省国土技術政策総合研究所都市研究部都市開発研究室主任研究官。博士(工学)。1967年新潟県生まれ。1991年東京大学都市工学科卒業、1995年同大学院博士課程中退。建築研究所を経て、2001年より現職。著著に『まちづくりのための建築基準法集団規定の運用と解釈』(共著、学芸出版社)など。

川上光彦(かわかみ みつひこ) ……………序章、第24章

金沢大学理工研究域環境デザイン学系教授。工学博士。1972年京都大学大学院修了。主な社会的活動として、石川県都市計画審議会会長、NPO法人金澤町家研究会理事長など。著書に『まちづくりの戦略―21世紀へのプロローグ 』(共編著、山海堂)、『都市計画』(森北出版)など。

川﨑興太(かわさき こうた) ……………第14章

(株)東京建設コンサルタント地域環境本部都市・地域計画グループリーダー。博士(工学・筑波大学)、技術士(建設部門)、再開発プランナー。1971年茨城県常陸太田市生まれ。1995年信州大学大学院教育研究科修士課程修了。著書に『ローカルルールによる都市再生』(鹿島出版会)。

木谷弘司(きだに ひろし) ……………第24章

金沢市都市政策局交通政策部交通政策課担当課長。金沢大学非常勤講師。1959年金沢市生まれ。金沢大学工学部建設工学科卒業、同大学院博士課程修了。地方都市における土地利用コントロールの研究で博士(工学)。1983年金沢市入庁、都市計画課、交通政策課。

小浦久子(こうら ひさこ) ……………第5章

大阪大学大学院工学研究科准教授。博士(工学)、技術士(都市及び地方計画)。民間コンサルタント会社などを経て、1992年より大阪大学工学部助手。国土交通省社会基盤整備審議会委員のほか、自治体の都市計画に関わる。著書に『まとまりの景観デザイン』(学芸出版社)、『失われた風景を求めて』(共著、大阪大学出版会)など。

谷口 守(たにぐち まもる) ……………第2章

筑波大学システム情報工学研究科教授。工学博士。1989年京都大学大学院工学研究科単位修得退学。著書に『ありふれたまちかど図鑑―住宅地から考えるコンパクトなまちづくり』(共著、技報堂出版)、『Spatial Planning, Urban Form and Sustainable Transport』(共著、Ashgate)など。

中出文平(なかで ぶんぺい) ……………第3、19、20章

長岡技術科学大学工学部教授。工学博士1957年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院博士課程修了。東京大学工学部助手を経て、1989年に現大学に移り助教授、2001年から現職。著書に『中心市街地再生と持続可能なまちづくり』(編著、学芸出版社)など。

難波 健(なんば けん) ……………第23章

兵庫県都市計画課建築調整専門員。博士(工学・大阪大学)、一級建築士。1948年大阪生まれ。東北大学工学部建築学科卒。1973年から兵庫県職員、主に都市政策・都市計画行政に従事、2009年退職。

橋本晋輔(はしもと しんすけ) ……………第2章

(株)地域計画建築研究所研究員。修士(環境学)。1985年生まれ。2009年岡山大学大学院環境学研究科博士前期課程修了。

星 卓志(ほし たかし) ……………第22章

札幌市都市計画部長。博士(工学)、技術士。1959年生まれ。北海道大学大学院環境科学研究科修了。札幌市で総合計画、都市計画、住宅政策部門を経て、2009年より現職。著書に『緑地・公共空間と都市建築』(共著、日本建築学会)など。

松川寿也(まつかわ としや) ……………第16、17、20章

長岡技術科学大学工学部助教。博士(工学)。新潟県生まれ。長岡商工会議所、同大学助手、国土交通省国土交通政策研究所客員研究官を経て、2007年より現職。著書に『ラーバンデザイン―「都市×農村」のまちづくり』(共著、技報堂出版)。

山口邦雄(やまぐち くにお) ……………第11章

秋田県立大学システム科学技術学部准教授。博士(工学)。1956年愛知県生まれ。東京都立大学工学部建築工学科卒業。(株)地域総合計画研究所取締役、(財)練馬区都市整備公社・練馬まちづくりセンター所長を経て、2007年より現職。

地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出削減の一環として低酸素型社会への構造転換が求められている。一方、わが国は人口減少時代に入り、都市や地域で積み重ねてきた暮らしや営みを持続的に進展させる整備や維持管理の社会システムの再構築も求められている。とりわけ都市周辺部では土地利用の粗放化と混乱、優良農地の消失が依然として続き、都市の縮小による衰退、荒廃も懸念されている。いわば賢い縮小(スマートシュリンク)に向けた都市計画的対応が急務となっている。しかし、その具体的な内容となるとまだ明らかではない。郊外市街地の単純な撤退や縮小は、現実的ではなくまた適切でもない。

地球環境問題や人口減少など社会経済面での制約を考えなかった高度成長時代に基本的骨格が創設されたわが国の都市計画ではあるが、近年、これらの課題や制約に応えるために、都市計画マスタープランをはじめ、各種の都市計画の仕組みが整えられてきた。しかし、これらの仕組みを使うことが期待される自治体や地域社会の多くが効果的に活用できていないのではないか、いや、そもそも、これらの仕組みを採用し、実行する前提となる、目指すべき都市のかたち(アーバンフォーム)が描けていないのではないか、という危惧があり、そのことが本書を著す主な動機ともなった。

そこで本書は、土地利用の計画や運用に携わる自治体や地域社会を支援するために、次の2点のメッセージを伝えようとしている。

第一に、将来は見通しにくいとはいえ、それでも将来像としてアーバンフォームを描こう、というメッセージである。第二に、描いた将来像を実現するためにふさわしい手法とそれらの運営管理の仕組みを創り、それを営もうというメッセージである。

特に、国による都市計画制度の抜本的改正などが検討されている中、今後の自治体を中心とする都市周辺部におけるアーバンフォームの追究とその実現やマネジメントのための方向性などを提言する。具体的には、都市周辺部における土地利用をめぐる制度的動向を整理し、それらの可能性と限界を解説する。その上で、先行的に取り組んでいる自治体について、それらの内容と特徴を解説するとともに、今後の課題を提示する。また、関連する主な制度について、それぞれ目的や内容をわかりやすく説明するとともに、今後の適用に際しての課題などを提示する。

本書の特徴は、都市計画に関わる大学研究者、行政担当者、計画系コンサルタントが著者として参加し、紹介する都市の自治体の職員や地域社会の市民とまじわりながら、最新の土地利用計画制度の意義と限界を実感しつつも、実践的に関与してきた経験から論じている点にある。都市計画に関わる行政関係者、コンサルタントなどの実務関係者、研究者、大学院生、およびまちづくりに関心をもっている議員、企業人、NPO等のリーダーなどにもぜひ読んでいただき、情報を共有あるいは交換できることを願っている。

なお、本書は、各都市の事例や問題について調査研究しているメンバーが研究会活動を進め、そこでの研究成果をもとに、先行的な取り組みを行っている自治体の担当者などから、貴重なデータの提供や問題の提起などの参加を得てとりまとめたものである。あらためて感謝したい。

2010年7月

編者

本書が扱う事例を拾い読むと、都市周辺部に位置する市街化調整区域での開発許可条例や調整区域内地区計画、線引きされていない白地地域での土地利用調整条例など、開発を容認する土地利用計画制度が紹介されており、開発圧力が弱まるにもかかわらず実際には広く薄く開発が進むことが予想される人口減少時代において、規制緩和を薦める事例集ではないのか、と印象をもたれたかもしれない。しかし、私たちの主張は、都市周辺部を、環境、経済そして社会のいずれの面からも将来にわたって持続的なものに再編するためには、土地利用を集約型に「選択と集中」する必要があると考えた上で、都市周辺部の土地利用計画制度を、「開発抑制中心」のものから、「持続可能なアーバンフォームを描き、計画し、その計画に沿って、土地が利用され、管理される」ものへ転換すること、である。

線引き制度は、市街化区域内で計画的市街地形成を図るとともに、その外部の調整区域では都市的土地利用の規制を行うために区域を区分して「選択と集中」する制度である。ただ、マイカー利用による生活圏の拡大、商圏の拡大等により、狭い都市計画区域では郊外化がうまくコントロールできないこと、市街化を抑制すべき区域として市街化を規制誘導する仕組みが弱いため、開発許可制度の立地基準を満たせばほぼどこでも立地が容認されてしまい、地域維持のための生活環境整備の計画が策定しづらい市街化調整区域など、線引き制度には問題が少なくない。

本書は、都市や農村をめぐる社会経済状況や都市や農村への期待も当時とは大きく異なることから、各自治体や地域社会が、都市計画区域外も視野に入れて、土地利用も都市的土地利用のみならず都市型農業、里山、河川湖沼などを含め、景観の観点も織りまぜながら、行政と地域社会が連携してアーバンフォームを描き、その実現に効果的な制度を組み合わせ、都市計画決定や開発許可権限をもつ県とも役割分担しながら、運営管理(コントロールとマネジメント)するという「選択と集中」を提案しているものである。

本書が、都市計画やまちづくりに関わる行政関係者のほか、研究者、大学院生、およびまちづくりに関心をもっている議員、企業人、NPO等のリーダーなどが、それぞれの地域において、創造的にアーバンフォームを描き、コントロールとマネジメントに取り組む際の導きとなれば、望外の幸せである。

末尾ではあるが、30本近い多彩な原稿の取りまとめにあたって途方に暮れる編者たちに、編集の方向性などを的確に示唆していただいた学芸出版社の前田裕資氏、並びに編集と校正に丁寧に対応いただいた森國洋行氏に、この場を借りて御礼申し上げたい。

2010年7月

編者