コンパクトシティの計画とデザイン
内容紹介
最新動向に探る持続可能な成熟都市への道筋
中心市街地活性化や公共投資の抑制のために、コンパクトシティの実現に益々期待が高まっている。本書はその基本原則・政策・計画・デザイン・評価について、海外の最新動向から幅広い事例と教訓を整理し、日本の課題に即して考察した。総合的かつ実践的な解説書として、「量から質」に転換する成熟型都市への道筋を示した。
体 裁 A5・320頁・定価 本体3500円+税
ISBN 978-4-7615-3160-7
発行日 2007-12-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
はじめに
序章 まちづくり三法改正とコンパクトシティ
0・1 コンパクトシティ政策の登場
0・2 中心市街地活性化の従来施策の限界
0・3 三法改正とコンパクトシティの受け入れ
Ⅰ部 コンパクトシティの都市像とデザイン
1章 コンパクトシティの都市空間論
1・1 スプロールする現代都市
1・2 都市空間のコンパクトさの価値
1・3 コンパクトシティ論争
2章 コンパクトシティのデザイン
2・1 都市空間構成のデザイン原理
2・2 コンパクトシティの都市像
2・3 コンパクトシティを実現するアーバンデザイン
2・4 コンパクトシティの空間構成とアーバンデザイン
Ⅱ部 欧米の持続可能な都市づくり
3章 都市・地域を計画する文化
3・1 都市が成り立っているルール
3・2 計画プロセスへの市民参加
3・3 持続可能な計画システムへの改革
4章 欧州の持続可能な都市づくり
4・1 都市をコンパクトにする英国の手法
4・2 英国流都市再生
4・3 欧州における持続可能な都市圏計画
4・4 自動車依存の少ない住宅地開発
5章 コンパクトシティのアメリカモデル
5・1 スマートグロース政策
5・2 セントラルテキサスのスマートグロース
第Ⅲ部 日本型コンパクトシティへ
6章 まちぐらしの意味と価値
6・1 都市空間の形態とくらし
6・2 まちなか居住の時代へ
6・3 中心市街地の計画とデザイン
7章 コンパクトなまちづくりへ
7・1 都市再生と計画システム
7・2 コンパクトシティへの計画と施策
7・3 コンパクトシティの都市像
終章 成熟社会にふさわしい都市空間を
おわりに
本書は、コンパクトシティに関心を寄せる方がたの基本資料となるように、欧米の最新の潮流と我が国の取り組み事例を踏まえて、「コンパクトシティとはなにか」「どのように計画・デザインするのか」について、まとめたものである。
筆者は、2001年8月に『コンパクトシティ-持続可能な社会の都市像を求めて』を学芸出版社から著した。同書は、コンパクトシティに関して、日本語で書かれた最初のまとまった文献として、今日のコンパクトシティ指向の政策形成に、一定の役割を果たすことができた。本書はその続編であるが、前著出版後約6年経過し、「コンパクトシティ」をめぐる状況は大きく変化した。コンパクトシティという考え方が政府や自治体あるいは専門家、市民の間でも幅広く認知されてきたことである。特に、2006年5月のまちづくり三法改正によって、コンパクトシティが望ましい都市像として政策的に位置づけられた。さらに、再開発事業など中心市街地活性化の取り組みが目に見える形となってきたことや、都心部での人口回復といった再都市化現象も顕著となってきた。都市づくりも従来の郊外への都市拡大の時代から、さまざまなストックを活かしながら、都市空間も都市生活も「量から質へ」に転換する成熟型、再生型の時代を迎えている。
新たな社会経済状況、法制度や政策方向からみて、コンパクトシティを都市の目標像とすることはもはや共通の理念となりつつある。しかし、具体的な計画やデザインはこれからの大きな課題となっている。前著では、基本的な理念の整理や欧米の事例紹介を中心としたが、本書では欧米の最新動向と、我が国の多くの事例も考察してより実践的な「日本型コンパクトシティ」のあり方を提起したい。
本書では、序章で2006年に改正されたまちづくり三法を軸として、コンパクトシティとは何かについて、基本的な考え方を整理した。第Ⅰ部は、近代都市の空間発展を踏まえて、都市像としてのコンパクトシティを検討し、アーバンデザインの観点から基本原則などをまとめた。第Ⅱ部は、英国、EU、アメリカにおける最新の都市政策、都市開発の潮流からコンパクトシティの具体的で幅広い事例と教訓を整理した。第Ⅲ部は、日本型コンパクトシティについて考察している。特に、中心市街地活性化とまちなか居住のあり方について論じている。終章では、日本型コンパクトシティおよびこれからの日本の都市づくりを提案する。
アメリカにおいてはスプロール開発からスマートグロース政策への転換が、地球環境問題への世界レベルでの政策合意により、さらに明確になろうとしている。従来から環境重視の都市政策を進めてきた欧州連合(EU)は、東への加盟国の拡大のなかで持続可能で多様な都市圏のあり方を追求している。都市再生の取り組みが成果をあげている英国では、ニューレーバー(新しい労働党)を旗印に掲げて、参加と経済成長の両立をめざした計画システムの改革を進めている。我が国でも、従来の都市化時代に対応した拡張・拡大型の都市計画、都市づくりから、成熟型、再生型の都市づくり、まちづくりへと転換しようとしている。しかし、我が国の都市社会に「計画文化」はまだ十分定着しておらず、成熟型の計画手法は模索中である。都市、地域の空間計画やアーバンデザインをになう人的資源と社会的ニーズは十分ではない。
コンパクトシティには原則はあるが定義がないといわれる。しかし、それは対象となる都市、都市圏の状況がさまざまであるからだ。中小都市と大都市圏ではコンパクトシティあるいはコンパクトな都市空間のあり方は異なる。都市規模だけではなく、歴史・文化、自然条件などでも、望ましいコンパクトシティの都市像、計画論に違いがある。
経済学者宮本憲一は都市経済・都市問題・都市政策の3層構造で都市を捉えているが、筆者は「都市空間・都市問題・都市計画とデザイン」という関係で課題を把握して、都市空間をより望ましい方向に改善していきたいと考えている。
経済、社会、環境、生活などさまざまな分野で、我々は時代の大きな転換点に立っている。コンパクトシティはそうした時代の新たな潮流を象徴する都市像である。原理は単純であるが、具体的な適用は多様で工夫と努力が求められるのは、これまでの都市づくりと変わらない。答えは簡単には手に入らないかも知れない。しかし、我が国におけるこの数年来の新たな都市づくり、まちづくりの潮流には大きな可能性を感じる。本書では世界と日本の最新の潮流と幅広い学問成果を取り入れて、基本的な視点や考え方についても掘り下げるように努めた。本書が、さまざまな分野や地域で真に望ましい、これからの都市のあり方を模索している市民、行政、専門家、学生・大学院生の皆さんにとって、お役に立つことができれば幸いである。
2007年12月
海道 清信
前著『コンパクトシティ』(学芸出版社、2001)は、「そもそもコンパクトシティとは何か」について、欧米の文献を中心に資料を読み解いてまとめたものだった。その後、2002年4月から、オックスフォードブルックス大学で、コンパクトシティ研究の先導者であるジェンクス教授の下に1年間、留学した。これによって、英国をはじめとする欧州の都市の成り立ちや都市政策、市民生活をより深く知ることができたことは大きな収穫だった。帰国してから研究会やシンポジウム、あるいは雑誌で「コンパクトシティ」について、書いたりしゃべったりすることが多くなった。そして、まちづくり三法の改正(2006.5)によって、スプロールの抑制と中心市街地の活性化を進めるための都市像としてコンパクトシティが位置づけられ、政策形成に一定の寄与ができたことを実感している。
今回、前著以後に書いてきた多くの文章を再構成して本書をまとめることで、この間自分が何を考え、論じてきたかを振り返り、整理することができた。コンパクトシティという言葉は、欧州と同様に日本でも強力なイメージを与えている。これまでの急速な成長社会、都市化過程に対応した都市計画、都市施策からの転換方向を誰にでもわかりやすく理解させてくれる都市像であるといえよう。しかし、わかりやすいことと実際にそれぞれの地域で具体化することとの間には大きな距離がある。全国の自治体では、新たな施策の理解と具体化が進められようとしている。「コンパクトシティ」あるいは「コンパクトなまちづくり」という言葉だけの理解にとどまっている状況も一部に見られるが、新たな都市像の実現に向けての挑戦も、各地で始まっている。本書をまとめることができたのも、そうした実践、実績の成果に多くを負っている。
一方で、専門家による計画手法やアーバンデザインの提示が遅れているように思われる。都市計画研究者にも、学会向けの精緻な分析による論文作成だけではなく、市民や社会に対する、これからの都市や地域のあり方についての創造的提示がいま、求められている。
前著をまとめるときには、文献や情報の乏しさが大きな壁だったが、今回は逆に情報量の多さが苦労の種であり、ある面では贅沢な悩みでもあった。インターネットを立ち上げGoogle(グーグル)にキーワードを書き込んで、マウスをクリックすれば国内外の膨大な情報・資料をたちまちのうちに眼にし、手にすることができる。Amazon.com(アマゾン)に注文すれば外国の書籍が数週間の内に届く。新しい出版情報もメールで送られてくる。名城大学都市情報学部図書館の藤塚さんに頼めば、内外の文献を取り寄せてもらえる。私がしている情報へのアクセスは誰にでもできる簡単なこと。
世界中で、そして日本でも状況は変化発展している。本書でとりあげたテーマは幅が広く、また奥が深い。関連するいろいろな動向をすべて知ることなどできない相談だが、重要なことや出来事を見逃しているのではないだろうかと、絶えず不安になる。たくさんの情報をどのように関連づけて理解すればよいのか。何が大事なことなのか。何が真実なのか、どう評価すればよいのか。研究テーマとして探求すべきことは何か。複雑な現実を多様な価値観・評価軸で理解しながらも、自分がわかったことや提案をおそれずに述べ、多くの方に、これからも伝えたい。
コンパクトシティという魔法のような言葉を通して、日本や世界のいろいろなまちを訪問でき、たくさんのすばらしい人たちと出会えたことが最大の宝となっている。頭脳明晰で独創的な岡部明子先生(千葉大学)、明快で力強い矢作弘先生(大阪市立大学大学院)、幅広く深い問題意識を持つ簑原敬先生(都市プランナー)、交通と土地利用からコンパクトシティ研究を進めている谷口守先生(岡山大学)、大学時代の同窓の川上光彦さん(金沢大学)や間野博さん(広島県立大学)、そのほか大勢の研究者の皆さん、アーバンデザインの第一線で活動している後藤良子さん(UG都市建築)やコンサルタントの皆さん、地域振興整備公団時代に一緒に仕事をした都市機構や中小機構の皆さん、国土交通省や経済産業省など国の機関および愛知県、岐阜県、多治見市など多くの行政機関の職員の皆さん、そして各地でまちづくりに奮闘している多くの商業者、タウンマネージャーの皆さんと出会い、議論し交流できたことが、本書の成立には欠かせない経験となった。そして、日常的に研究活動をご一緒させてもらっている佐藤圭二先生(中部大学)、鶴田佳子先生(岐阜高専)をはじめとする戸数密度研究会、三宅醇先生(東海学園大学)をはじめとする都市住宅学会東海支部の皆さんや西山夘三記念文庫の仲間たちとの議論から多くの知見を得ることができた。お名前をすべては記せないが、これまでにお会いできた皆さんに、あつく感謝するものである。
本書の出版については、前著に引き続き、学芸出版社の前田裕資さんにご尽力いただくとともに章構成や内容全般について適切なアドバイスをいただいた。編集作業については編集部の井口夏実さんに担当していただいたが、図版、写真、英語の引用文献などが多く多岐にわたる内容を読みやすいようにデザインしてもらうとともに、丁寧に読んで詳細な指示をいただき、ようやく出版にこぎ着けた。ここに、あつく御礼を申し上げるものである。
なお、本書のもととなった調査研究活動に対して、筆者が所属する名城大学の一般研究費の他、科学研究費補助金(「居住地の持続可能性からみた人口減少過程での都市空間発展モデルの検討」2005-07)、大林都市研究振興財団(2001-03)そのほかの研究助成を得た。
最後に、日常生活で支えてくれた妻昭恵に改めて感謝する。
2007年12月
海道 清信