自治体都市計画の最前線
内容紹介
地方分権下の進取的試みを紹介。重要判例付
地方分権の進展とバラマキ的な補助金の縮減により、地域独自の取り組みの成否が地域の将来の浮沈を決するようになった。本書では、田園居住/線引き制度/景観/地域地区・建築基準法/都市計画の変更/条例という分野ごとに、各自治体による先進的な試みを、現場で関わる執筆陣が紹介。都市計画に関わる最新の重要判例解説付。
体 裁 A5変・344頁・定価 本体3500円+税
ISBN 978-4-7615-3149-2
発行日 2007-02-25
装 丁 前田 俊平
はじめに
第1章 田園居住
▼イントロダクション
C-まち計画室 柳沢 厚
1-1 茨城県つくば市中根・金田台地区──郊外住宅地開発を考える
現代計画研究所 済藤哲仁
1-2 神戸市「ガーデンシティ舞多聞」みついけプロジェクト──コミュニティづくりからはじまる新・田園都市の実験
神戸芸術工科大学 齊木崇人
1-3 福岡県糸島地域の農村集落再生と良質な住まいづくり──都市と農村をつなぐ“田園楽住構想”を模索
じねんプラン 糸乘貞喜
第2章 線引き制度
▼イントロダクション
C-まち計画室 柳沢 厚
2-1 香川中央都市計画区域の線引き廃止──新たな土地利用コントロール策の導入
日本都市総合研究所 加藤 源
2-2 山形県鶴岡市の線引き導入──土地利用の新たな枠組
鶴岡市建設部都市計画課 有地裕之
2-3 長野県安曇野地域の模索──市町村合併と線引き制度
C-まち計画室 柳沢 厚
2-4 長野市の二つの都市計画区域──非線引き都市計画の新しい活用
都市環境研究所 高鍋 剛
2-5 コンパクトシティ青森市──持続可能な都市をめざして
青森市都市政策課 鈴木留明
第3章 景観
▼イントロダクション
野口都市研究所 野口和雄
3-1 滋賀県近江八幡市の景観計画──住みたいまちの本当の基準とは
近江八幡市建設部都市・風景づくり課 深尾甚一郎
3-2 神奈川県真鶴町「美の条例」再生──まちづくり条例と景観計画
真鶴町まちづくり課 卜部直也
3-3 横浜市の魅力ある都市景観の形成に向けた総合的取組み──新しい都市景観形成制度の構築
横浜市都市整備局上席調査役 国吉直行
都市デザイン室 谷口智行
第4章 地域地区/建築基準法
▼イントロダクション
C-まち計画室 柳沢 厚
4-1 東京都三鷹市特別用途地区──緑と水の公園都市の創造に向けて
三鷹市都市整備部都市計画課 中村 修
4-2 福岡県春日市の既存不適格マンション対応──高度地区を用いた住環境保全と不適格対応の両立
国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部 米野史健
4-3 東京都新防火地区──新たな防火規制制度の構築
東京都建築企画課 遠藤栄治
4-4 京都市の新防火制度と3項道路の活用──歴史的町並みの保全・再生への仕組づくり
京都市都市計画局都市景観部 福島貞道
4-5 大阪市の連担建築物設計制度の適用──法善寺横丁の再生
COM計画研究所 山本英夫
4-6 神戸市近隣住環境計画制度の活用状況──建築基準法の弾力的運用をめざして
神戸市都市計画総局建築指導部建築安全課 狩野裕行
4-7 斜面地建築物条例制定への取組み──基準法50条条例による階数制限の活用
都市環境研究所 藤井祥子
第5章 都市計画の変更
▼イントロダクション
野口都市研究所 野口和雄
5-1 大規模な土地処分に即応した東京都国分寺市泉町地区計画──まちづくり条例の活用で都市計画をリセット
国分寺市都市建設部都市計画課 松本 昭
5-2 愛知県犬山市の都市計画道路変更と住民協働によるまちづくり──都市計画制度への挑戦
犬山市都市整備部庁舎建設課 梅村治男
5-3 足立区の53条地域一括地区計画──公共施設整備に合せた良好な市街地形成
足立区都市整備部都市計画課 佐々木拓
5-4 茨城県那珂市の土地区画整理事業の撤退──区画整理から地区計画の活用への転換
那珂市建設部都市計画課 小林正博
第6章 条例
▼イントロダクション
野口都市研究所 野口和雄
6-1 国分寺市まちづくり条例──「行政力×市民力×協働力」による 分権まちづくりの仕組み
国分寺市都市建設部都市計画課 松本 昭
6-2 神奈川県横須賀市における 土地利用調整関連条例の整備──まちづくり条例の体系化
横須賀市都市部都市総務課 出石 稔
6-3 練馬区まちづくり条例──23区初の土地利用に関する総合条例策定
練馬区環境まちづくり事業本部都市整備部都市計画課 室地隆彦
6-4 条例による大型店の郊外立地の抑制──中心市街地活性化三法改正後の課題
野口都市研究所 野口和雄
第7章 重要判例
▼イントロダクション
キーストーン法律事務所 日置雅晴
7-1 国立マンション事件──民事と行政、地区計画の処分性、景観利益
7-2 小田急線高架事件大法廷判決──原告適格
7-3 林試の森公園都市計画事業決定取消事件──行政裁量
7-4 伊東市道路事件──行政裁量(計画審査手法)
7-5 高知シネコン建築不許可処分取消事件──行政裁量(判断基準)
7-6 宝塚市パチンコ店規制条例を巡る紛争──国家賠償・行政と民事的手法(上乗せ規制)
7-7 60年以上の都市計画制限と損失補償の要否──国家賠償
7-8 地下室マンション建築確認取消事件──法規解釈の限界
地方分権一括法の制定とそれに続く都市計画法や建築基準法等の土地利用関連法の改正による地方自治体への権限の委譲、地方自治体による主体的活用と運用を前提とした景観法の制定により、都市計画やまちづくりの分野で地方自治体による新しい試みが相次いでいる。
また、無秩序な土地利用、市街地の外延的拡大、建築物の高層化、中心市街地の衰退化が進むとともに、地球温暖化対策、都市環境や景観保全と形成に対する市民からの要請、コンパクトシティへの政策転換、公共事業の見直し等、地方自治体に課せられた課題が多い中、これらの課題に対して積極的に対応する地方自治体の試みも増えてきている。
一方、行政手続法の制定、行政事件訴訟法の改正等により、地方自治体の都市計画やまちづくりの分野は、常に合理性、公平性、透明性が問われる時代となっている。
地方分権下では、都市計画やまちづくりの分野においても正解は一つではない。地域によって、行政や市民等が置かれている状況、まちづくりの主体の成熟度によって回答は異なる。そこで、地方自治体による新しいチャレンジを紹介し、そこから学ぶことが重要であると私たちは考えた。
ここでは、できるだけ多分野にわたり多くの事例を集め、紹介することに専念した。地方自治体の職員、研究者、市民が、より深く事例に学びたい場合の案内になれば幸いである。
なお、ここで取り上げた事例は一部である。今後、できるだけ定期的に新しい事例を紹介したい。また、単行本という性格からタイムリーに事例を紹介できない。あわせて学芸出版社が発行する『季刊まちづくり』誌を参照されたい。
編著者一同
平成19年1月
本書に誤りがございました。
p.130、p.132、p.134の1行目がそれぞれ前の頁と重複し、末尾の1行が欠落しておりました。
以下のリンクにて正しい内容を掲載いたしますとともに、著者および読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
2007年3月
学芸出版社
『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2007.8
地方分権の進展や三位一体改革等により、地域独自の取り組みの成否が地域の将来の浮沈を決するようになっている。本書では、田園居住、線引き制度、景観、地域地区・建築基準法、都市計画の変更、条例という分野ごとに、各自治体による先進的な試み26例を紹介している。
全体で約340頁の大作であり、通読するのは相当に骨が折れる。しかし、全34本のレポートは、業務に直接携わっている自治体職員や、深く関わっているコンサルタント・専門家が執筆しており、平均9頁程度のボリュームの中に、具体的な制度やプロジェクトの概要、問題点・課題、得られる知見等がコンパクトに盛り込まれている。実務者ならではの視点、そして、物事に関する深い真理や、知る人ぞ知るのツボ、秘伝中の秘伝?が惜しげもなく披露されているような印象を受ける。
都市計画の諸制度は、一般論として抽象的に説明されてもその内容や意義を理解することは難しいが、実例を通じて論じられると迫力があるし、よく分かる。また、幾つかの制度が組み合わせて使われたときの相乗効果も、実例に基づいて紹介されるとよくわかる。
このように、同様の問題に関わっている者や関心を持つ者には非常に参考になる。自分たちのところでどうやって取り組もうかと思い悩んでいる自治体にとっては、玉手箱のような本ではないだろうか。
通読・精読した方は、わが国の都市計画の最前線の動向と課題をハイレベルで修得したことになりそうだ。また、自分に関係のあるレポートだけをピックアップしてじっくり読む方法も有効だと思われる。そういう意味で、この本は実践都市計画の実例に関する優れたデータベースである。
(村主英明)
『地方自治職員研修』(公職研) 2007.7
地方分権一括法の制定、都市計画法、建築基準法の改正と自治体都市計画をめぐる状況はここ数年で大きく変化し、地方自治体による主体的な活用・運用が求められるようになった。本書では、田園居住、線引き制度、景観、地区計画・建築基準法、都市計画の変更、条例の6つの項目について、都市計画・まちづくり分野の新しい試みを現場から紹介する。巻末には近年の都市計画関連重要判例もおさめている。事例が示す「課題」・「方策」・「今後へのとりくみ」は大きなヒントとなるはずだ。
『ガバナンス』(㈱ぎょうせい) 2007.6
地方分権一括法の制定と、それに続く土地利用関連法の改正による権限移譲、自治体の主体的運用を前提とする景観法の制定など、都市計画の分野における「分権」が進んでいる。
無秩序な土地利用、建築物の高層化、中心市街地の衰退、コンパクトシティへの政策転換、景観保全への要請など、地域が多くの課題を抱える中、自治体の「力量」が問われる場面が増えてきている。
本書では、「田園居住」「線引き制度」「景観」など6分野、計26の先進事例を紹介。執筆したのは、担当自治体職員を中心に、現場を知り尽くした人々だ。地域事情を踏まえた、通り一遍ではない深い内容は、実務家にとって大いに参考になる。