都市デザインの手法 改訂版
内容紹介
都市デザインを都市の公共領域のあり方をとりあつかう方法として定義し、「街区と敷地」「町並み」「商業空間」など都市空間における建築のあり方や「住民参加」など計画づくりのソフトな側面にも着目して構成。都市デザイン、環境デザインを学ぶ人のための入門書として、また実際にまちづくりに取り組んでいる人にも貴重な一冊。
イメージ写真提供 都市環境デザイン会議関西ブロック
体 裁 B5変・176頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3020-4
発行日 1998/01/01
装 丁
第1章 都市デザインの領域と基本的な考え方
大阪大学教授・鳴海邦碩
1・1都市の魅力の変遷
1・2魅力ある都市づくりの展開
1・3景観形成から都市デザインへ
1景観のまちづくりから学ぶ
2新しい都市開発が必要としている計画手法
1・4都市デザインの基本的な考え方
1・5何をデザインするのか
1・6都市デザインとセンス
1・7都市デザインは誰が担うか
第2章 都市デザインの系譜
鳴海邦碩
2・1都市をつくることとデザインする者
2・2壮大な都市造形の系譜
1ローマ改造とシクストゥス5世
2伝播した壮大なデザイン
3ブラジリアの実験
2・3ヴァナキュラーな都市形態
1市民のルールでつくられたヨーロッパ中世都市
2ルネッサンスの明快な造形
2・4日本の都市造形
1平安京から城下町へ
2お上の規制と住民のルール
3大規模な都市改造
2・5近代初期の都市デザイン
1産業の都市
2田園都市からニュータウンへ
2・6新しい都市デザインの台頭
1建築家の都市への挑戦
2アメリカにおける都市デザインの展開
2・7新しい都市デザインの時代
1アメリカの都市デザイン
2巨大化する都市のデザイン
3モダニズムをこえて
4コンテクスチュアリズム
5エコロジカル・デザイン
6新たな都市デザインへの挑戦
第3章 都市デザインと都市イメージ
大阪大学助手・久隆浩
3・1都市イメージとは何か
1イメージの形成
2イメージによる空間評価
3仮想体験でできあがるイメージ
3・2イメージの画一化からの脱却
1情報の受容とイメージ形成
2誇張としてのイメージ
3画一化する都市景観
4生活や社会の画一化
5都市イメージの時代へ
3・3居住体験と都市イメージの関係
1原風景と都市イメージ
2原風景の違いが生みだす空間評価の差異
3空間体験の違いと都市イメージ
3・4都市イメージの分析方法
1イメージを人々にたずねる
2描かれたイメージを抽出する
3動的な都市イメージ
3・5イメージを用いた都市デザイン
1リンチによる都市のイメージ
2イメージ分析をデザインにつなぐ
3イメージを用いた都市デザイン戦略
4だれにとっての都市デザイン戦略か
第4章 街路空間のデザイン
大阪産業大学教授・榊原和彦
4・1都市デザインと街路
1都市のなかの道路
2街路空間形成と交通
3街路空間の機能
4都市景観と街路空間
5街路空間と公私
4・2街路網の構成
1街路の種類と自動車系街路網の構成
2地区街路の構成
3住区街路網の構成
4そのほかの地区の街路網構成
4・3街路空間のデザイン
1街路空間デザインの基本的な考え方
2自動車とその尺度
3街路空間の横断構成
4車道部のデザイン
5インタフェース領域のデザイン
第5章 歩行者空間のデザイン
榊原和彦
5・1都市デザインと歩行者空間
1都市のなかの歩行者空間
2歩行者空間の機能
3歩行者空間の類型
4歩行者空間ネットワーク
5・2歩行者行動と歩行者空間の構成
1歩行者の基本的スケール
2歩行者の動きと歩行者空間
3歩行者空間のレベル変化と歩行者
4都市交通の手段としての歩行
5・3歩行者空間のデザイン
1歩行者空間デザインの手順
2歩行者空間の空間的枠組み
3歩行者空間の平面構成(ゾーニング)
4路面
5歩行者空間のデザイン事例
第6章 広場のデザイン
大阪大学助教授・加藤晃規
6・1広場の機能
6・2広場の形態
1建築的な構成と場所的な構成
2広場の形態デザイン
6・3都市広場の形成手法
6・4街の変遷と広場の役割
1街のスキマ
2街の付加価値
3街を長生きさせる
第7章 緑と公園のデザイン
兵庫県立人と自然の博物館・中瀬勲
7・1はじめに
7・2緑の役割とそのデザイン
1緑と人間生活
2緑の分類
3緑の機能・効果
4緑の空間デザイン
7・3人間生活と公園・庭園
1公園・庭園デザインの展開
2公園のデザイン
7・4デザインの目標と課題
第8章 水辺のデザイン
久隆浩
8・1水辺の役割
1水辺の空間的役割
2水辺の歴史的意味
8・2都市と水辺の歴史
1城下町と水辺利用
2疎遠になった水辺と都市の関係
3水辺の復権
4景観から環境へ
8・3水辺デザインにかかわるさまざまな制約
1生命の危険
2洪水の危険
3分断された管理体系
4水辺の空間利用権
8・4水辺の分類とデザインのあり方
1河川・水路
2海辺、湖沼・池・泉
8・5水辺のデザイン
1構造物や施設のデザイン
2周辺景観や人間活動のデザイン
3見せ場のデザイン
8・6都市デザインと水辺
1水辺のネットワーク
2水辺と後背地の一体的な土地利用
第9章 街区と敷地のデザイン
大阪芸術大学教授・田端修
9・1街区の構成
1街区と敷地
2街区の型
9・2街区と敷地割の略史
1平安京
2城下町以降
9・3都市建築の類型―敷地と建築の対応型
1町家型
2長屋型
3中庭型
4建ぺい率・容積率
9・4近代以降の都市建築
1新しい建築種
2ビル型建築
3戸建型建築
9・5現代における街区と都市建築の課題
1都市建築の敷地事情
2街区に照応する都市建築
3街区の修復と日本流都市建築の創出
第10章 町並みのデザイン
田端修
10・1都市における町並み
1都市の地域区分
2街区から町並みへ
10・2町並みの型
1接道型・めかくし型・オープン型
2近景・中景・遠景
10・3町並み整備の課題
1異なる町並み型の入り込みと混在
2町並みと都市計画制度
3建物高さのコントロール
4壁面線のデザイン
5オモテと敷際のデザイン誘導
6都市の改造と都市デザインの課題
第11章 商業空間のデザイン
武庫川女子大学教授・角野幸彦
11・1はじめに
11・2ものを売る場の変遷
1商業空間の原始的形態としての市
2商業空間の変貌
11・3商業空間のデザインエレメント
1商品
2SPツール
3看板広告(屋外広告物)
4ストリートファニチュア、植栽
5シェルター
6建築物
7街路
11・4商業空間の代表的事例
1商店街
2ショッピングモール
3地下街
4複合商業空間
11・5商業空間の事業計画と計画体制
第12章 歴史的環境の保存
金沢工業大学教授・土屋敦夫
12・1現代における歴史的環境の保存の意味
1高度成長による都市空間の変化と価値観の転換
2都市計画の転換
12・2民家の保存
1民家の文化財指定
2民家の公開展示
12・3近代洋風建築の保存
1近代洋風建築の文化財指定
2近代洋風建築の再利用保存
3近代洋風建築の移築保存
12・4町並みの保存
1歴史的環境の保存
2歴史的町並み保存の試み
3伝統的建造物群の保存
12・5世界遺産と文化財登録制度
1世界遺産登録
2文化財登録制度
第13章 まちづくりと住民参加
近畿大学教授・安藤元夫
13・1まちづくりと住民参加
1再開発、まちづくりと住民
2住民運動から住民参加へ
3問題市街地の整備からアメニティ、景観のまちづくりへ
13・2行政主導の都市計画における住民参加
13・3住環境整備をめざす総合的なまちづくり運動\f\g
1真野地区のまちづくり運動
2庄内地区のまちづくり
13・4地区計画・建築協定によるまちづくり
1地区計画制度
2建築協定
13・5景観形成をめざすまちづくり
13・6コーポラティブ住宅によるすまい・まちづくり
13・7阪神・淡路大震災と住民参加のまちづくり
1都市計画事業地区での住民参加のまちづくり
2灰色・白地地域での住民参加のまちづくり
13・8おわりに
第14章 環境共生と都市デザイン
兵庫県立人と自然の博物館・澤木昌典
14・1環境共生の時代へ
14・2環境共生時代の都市デザイン
14・3環境負荷の軽減―サステイナブル・デザイン
1省エネルギー・温室効果ガスの抑制
2省資源・不用物の排出抑制
14・4自然との共生―エコロジカル・デザイン
1緑の活用
2水の活用
3土の活用
14・5次世代への都市デザイン
1環境共生へのハードル
2環境共生とアメニティを結ぶデザイン
3都市住民とのインターフェイス
4持続可能な都市へ
索引
あとがき
本書は1990年に出版された『都市デザインの手法-魅力あるまちづくりへの展開』の改訂版である。その前には、わたくしがまとめ役となって、『都市デザイン:理論と方法』を1981年に出版しているから、これが三代目ということになる。
前書が出版された同じ年に、本書の中でも触れているが、都市環境デザイン会議が設立された。この会議は、「建築」「土木」「ランドスケープ」「インダストリアル・デザイン」「アート」「都市計画」の分野の会員によって構成されており、結成後、さまざまな形の活動が積極的に展開されてきている。このことは、都市のデザインに関する課題が、社会的にもますます重要視されてきていることを反映している。
本書の構成は基本的に前書を受け継いだもので、その後の制度の改正や都市デザインをめぐる社会的な関心を勘案して改訂を加えている。もっとも大きな改訂部分は、「イベントと都市デザイン」の章を削除し、新たに「環境共生と都市デザイン」を加えたことである。その理由は、前書を作成していた時期にいわばブーム化していたイベント型のまちづくりが沈静化し、代わって環境をめぐる課題を都市デザインの領域に取り組むことの必要性がますます重要視されてきたからである。
改訂のもう一つの背景として、1995年1月、大地震が兵庫県南部地域を襲ったことがある。震災復興への努力が現在も被災地において進められているが、その中で、協働のまちづくりの重要性がこれまでにも増して、強く認識されてきている。このことを踏まえ、「まちづくりと住民参加」の章を大幅に改訂している。
本書は都市デザイン、環境デザインを学ぶ者のための入門書として編まれているが、実際にまちづくりに取り組んでおられる方々の参考にもなる。デザインというと「美的あるいは奇抜に装うこと」と思われがちである。しかし、デザインは、「美しい」「わくわくする」「温かさがある」「ほっとする」「なごむ」などといった、人間の感覚的な評価を重視した創造行為である。デザインをそのように理解し、本書に親しんでもらえれば幸いである。
1998年3月
編者を代表して 鳴海邦碩